異世界ライフは前途洋々

くるくる

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30.予想外

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 レオンさんに教わった通りケルピーは川の近くで次々見付かり、気が付けば10体も討伐していた。中にはバズーカみたいに水魔法で攻撃してきたり、歯を剥いて咬みつこうとしたヤツもいたが距離を取っていたので無事倒せた。

  時刻は12時を回った。そろそろ引き返さないと日が暮れるまでに森を出られないかもしれない。私は川沿いから林道へ戻って早足に歩き出した。

  歩き出して間もなく、まだ付いてきていたブラウニーが『ケキョォッ!?』と悲鳴(?)を上げた。茂みから走ってきたブラウニーは、自分と似たような大きさの何かに追いかけられている。

 「えっ!」

  それを見て思わず声が出た。追ってきていたのが木の根っこだったのだ。焦げ茶色の根っこの先が足になっている。これもしかして…マンドレイク?そうだとしたら薬の素材になるかもしれないから斬らないで倒したい。どこかコミカルな追いかけっこを目で追いながら考える。

  …そうだ!これでいってみよう!

 「【ストーンウォール!】」

  ストーンウォールで行く手を防ぎ、ぶつかってボテッと倒れたところで…

「【乾燥】」

  水分を根刮ぎ奪う。

 「ギャ……」

  特有の叫び声を上げようとするが瞬く間に干からびた。やった、成功!植物系だから枯らせば倒せると思ったんだよね。解析解析…あれ、マンドレイクじゃない?


 【解析結果】

【名前】アルラウネ
【レベル】25
【体力】0/268
【魔力】472
【攻撃力】45
【防御力】21
【素早さ】32

【スキル】断末魔(D)
【備考】薬の素材


  アルラウネ?マンドレイクの亜種だと前の世界の何かで読んだ気がするけど…。

  と考え込んでいると、ブラウニーが飛び跳ねながら茂みへ走って行き…またアルラウネを連れて戻ってきた。今度は一直線にこちらへ向かってくる。

  …これはもしかして退治しろ、という事だろうか?

  私はため息を吐きつつ、乾燥アルラウネを作った。











 今私の目の前には、5個の乾燥アルラウネがある。ブラウニーは嬉しそうに飛び跳ねてから1個手に取り、私を見上げた。

  初めて間近で見たその顔はつぶらな瞳が可愛い人形のよう。そうして数秒間視線を交わすと、アルラウネを引きずりながら去っていった。

 「…何だったの」

  暫し呆気にとられるが、良い素材が手に入ったのだから良いかと考えインベントリにしまった。

  そして再び歩き出そうとした時、危機察知が反応した。素早く周囲を見渡すと、アルラウネがいたのとは反対側から誰かが走ってくる。その後を追ってくるのは―――

 トロール!!

  何故一目で分かったか、それはハリー◯ッターに登場したトロールにそっくりだったから。4、5mはありそうな巨体と揺らし、ドスドスこちらへ向かってくる。逃げてくるのは若い冒険者3人、1人は足を引きずっていて早く走れないようだ。他の2人も剣と弓を持ってはいるが戦う気は無いように見える。剣を持った男が私に気付いた。

 「あ!た、助けてください!!トロールが…!」

  その言葉を聞いた私は手を掲げながら一瞬考える。トロールには再生能力があって傷がすぐに塞がってしまうとギルドから借りた本にあった。ならば首を落とすのが一番確実だろう。

 「【エアカッター!】」

  的はかなり大きい。出来る、出来る、出来る!!自己暗示をかけるように繰り返しながら、首を目掛けて2発3発と続けざまに風魔法を放つ。

  バシュッ!バシュッ!バシュッ!!

 「ウガアァァ……ッ!!」

  次々斬りつけられたトロールの首はガバッ、と開き…頭が背後に転がる。司令塔を失った躰は動きを止め、木を倒しながら地面に倒れた。

  他の冒険者が魔物相手に苦戦していても、明確に助けを求められるまで手を出してはいけない。これは冒険者同士のルール。経験値や換金の事で揉めるのを防止する目的がある。

 「大丈夫?」
 「…は、はい…」
 「…ありがとうございます」

  見て驚いた。彼らは顔も背格好もソックリの三つ子で、まだ14、5才くらいに見える。まあ元日本人の感覚だから実際はもう少し上だろうが。

  話しながらトロールを回収した瞬間、背筋を何かが駆け抜けた。危機察知が反応した、それは分かったが今までとは違う緊張感をビンビン感じる。

  バッ、と顔を上げた私の目に飛び込んできたものは。

 「ウソ、でしょ…?」

  思わず漏れた声が震えていたのは仕方がないことだと思う。

 「キ、キングトロール…」

  誰かが呟いた。

  いつの間に…あんなに大きいのに今まで全く気が付かなかった。でも確かに本にも載ってた、デルタの森の奥には低確率でキングトロールが現れると。2つの頭、体長7m~10m、驚異的な再生能力を持ち、腕力が強く腕の一振りで冒険者を葬る。ここは奥じゃないけど、それは今どうでも良い。

  敵はすでに私たちを見つけ、地響きのような足音を立てて一歩、また一歩と近づいてくる。

  どうする!?本当は考えるまでもなく逃げるべき、それは分かってる。でも、足が竦んで逃げられる気がしない。何か方法…

 その時、キングトロールが腕を横に振りかぶる。

 「――ッ!伏せて!!」

  咄嗟に叫んで地面に伏せた、次の瞬間。巨大な腕が邪魔な木々を取っ払うように横に払われ、突風が起こる。折れた木の破片や石、土などが巻き上げられて私たちに襲いかかった。

  成功するか分からないが一応考えはある。

  私は匍匐前進で移動し始めた。











 少し時間を戻し、キラが乾燥アルラウネを作っていた頃。デルタの森、中央の湖のほとりには4人の男がいた。馬に水を飲ませ、自分たちもコーヒーなど出して一服している。

 「いやぁ、今回は良い鉱石が出たなぁ!」
 「んだんだ。ここまで大した魔物にも会わねえし」
 「オマケにウマイ食事とコーヒー付き!エヴァ様様だな!」
 「…」

  そう、この4人の内の1人はエヴァント、後の3人は鍛冶屋や採掘師。彼らの指名依頼で護衛としてやってきたのだ。

 「どうしたエヴァ、怖え顔して」

  声をかけられ、ハッと顔を上げるエヴァント。

 「いえ、ちょっと。魔物が少な過ぎる気がして」
 「まあ、確かにな…」
 「ああ…そう思うとなんか不気味な感じだな」
 「さっさと森出るべ」
 「そうしましょう」

  彼が気になっていたことを告げると皆同意し、休憩を終えた。




  馬を走らせて数分でエヴァントが異変に気がついた。キングトロールがいたのだ。湖より手前は中木が多く、キングトロールは頭一つ飛び出ているからすぐに分かった。こちらには気がついていないがおそらく林道の方へ向かっている。

 「あれは…何であんな場所に」
 「ありゃあキングトロールじゃねえか!」
 「おいおいおい!あの辺り林道じゃねえか!?」

  鍛冶屋たちも気がついて慌てるが、誰かの叫び声が聞こえて顔を見合わせる。

 「今声がしたよな?誰かが襲われてんのか?」
 「いや、冒険者かもしれねえぞ?どうする?」

  馬を止めて1人がエヴァを見ると、その顔は驚愕に染まっていた。

 「お、おい、どうした?」
 「おいエヴァ」
 「…今…の声…まさか…」

  彼に鍛冶屋たちの声は聞こえていないようで突然馬を飛び降りる。

 「どのみちこのままでは進めない。少し戻って隠れててくれませんか?」
 「あ、ああ、そうだな。分かった」
 「気をつけろ、エヴァ」
 「はい」

  返事を聞くや否や、エヴァントは声の方へと駆け出した。

 
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