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31.キングトロール
しおりを挟む匍匐前進でキングトロールの斜め前まで移動した私は、逃げられる体勢をとってから足首めがけて2発魔法を放った。
「【エアカッター!】」
両足首を狙ったが片方がハズレてしまい、当たった方もすでに塞がろうとしている。キングトロールはぐらついたが倒れる事はなく、岩のような握り拳を私目掛けて振り下ろす。
ドォン!!
「ッ!」
ギリギリで避けたが強烈な風圧に煽られ、吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
「――ぐ!!っう…」
全身に衝撃が走って一瞬息が詰まる。大きな外傷が無いのは装備のおかげという他ないが、起き上がろうとしても頭がクラクラして力が入らない。そうしているうちにまたキングトロールが振り被る気配が。
何とかしなきゃ…そうだ、回復魔法…自らにヒールをかけようとした時、辺りに凛々しい声が響いた。
「【サンダーショット!】」
雷が命中したキングトロールは感電したように巨体を震わせ、ドスンッ!と膝をついた。
「キラ!!」
そして私を呼ぶ声。その主が分かり、まさかと思いながら振り向く。
「エヴァさん…」
ヒーローのようなタイミングで現れたのはやはりエヴァさんだった。顔を見ただけでホッとして、緊張や怖さが無くなる。駆け寄ってきた彼が慌てて聞く。
「キラ!怪我を!?」
「大丈夫、です…今回復を…【ヒール】…」
唱えると暖かな光が身体を包み、楽になる。が、動けないでいたキングトロールが立ち上がる。
「やはり効き目は薄いか。キラ、君は下がっ…」
「エヴァさん。あいつを倒すには頭を破壊するしかないですか?」
「…うん、そうでもしないとすぐ再生する。何か考えが?」
「はい、もう一度膝を付かせる事が出来たら私が頭を攻撃します」
下がってて。そう言われる前に遮って提案する。奴はもう立ち直ってしまったのだから話し合ってる暇はない。
後から思えば私はこの時でしゃばり過ぎた。もっと冷静に考えれば、Aランク冒険者のエヴァさんには対策や攻撃方法があるだろうという事くらい分かった筈なのに。
「…キラ…」
「私、魔力は高いんです。思いっきり打ちますから」
「…よし、やってみよう」
「はい!」
ウゴオォ!!
キングトロールの咆哮が響き、辺りの木々までが揺れる。だがエヴァさんは全く怯まず、すぐさま雷を落とす。
「【サンダーショット!】」
両手を振り上げて激怒していたキングトロールは、またもや電撃を浴びて膝を折った。
今だ!
やっと全貌が見えた頭に両手を向け、力一杯火魔法を放つ。
「【フレイムキャノン!】」
スイカ大の火球を大砲のようにドカンドカン撃ち込むと、次々と着弾した炎が大爆発を引き起こす。
ドガーン!ドガーン!……ドドォン!!
頭は爆発して粉々になり、辺りに飛び散った。
グラリ…
首から上を焼失した巨体は大きく傾ぎ…やがて地響きを立てて倒れる。
倒せた…の?
完全に動かなくなったのを確かめると急に力が抜ける。ヘナヘナ座り込みそうな私の元へエヴァさんが駆け寄り、その腕の中に抱きとめた。
「凄い魔力だった、驚いたよ。それに…無事で良かった…キラ…」
「エヴァさん…」
広い胸と優しい腕に抱きしめられ、安心して息を吐く。彼の切なげな声が心に染み込み、きゅん、と胸を締め付けた。
■
「「「すみませんでした」」」
「…とりあえず、訳を聞こうか?」
「は、はい…」
頭を下げた若い冒険者に対して、薄い笑みを浮かべたエヴァさんが問う。
あれから足を痛めていた子にヒールをかけ、エヴァさんと一緒だった鍛冶屋さんたちと合流してそれぞれ馬に乗せてもらいながら森を出た。時刻はもう17時過ぎ。エヴァさんも森の外で野営する予定だったそうなのでご一緒させてもらう事になったのだ。
暗くなる前に準備を済ませ、今話を聞く事に。
3人のうち、リーダーらしき男の子が話し始めた。
彼らはサム、リム、トム、という名の三つ子。16才の時からヴェスタで冒険者をしているが、中級ランクに上がれるのは18才以上という決まりがあるため今まで下級で燻っていたのだとか。それがつい最近18才になり、早く昇級しようと意気込んでこの森までやって来た。
デルタの森の入口付近は下級冒険者の良いレベル上げになる場所。最初は入口付近で討伐していたのだが、すぐに物足りなくなって奥へ進んだ。そして2体のトロールと遭遇して逃げていた時に私と会った。キングトロールには全く気がつかなかったらしい。
私は1体しかトロールを倒していない。もう1体はどこへ行ったのか、そしてキングトロールはなぜ急に現れたのか。これについてはエヴァさんが考えを聞かせてくれた。
トロールは条件を満たすとキングトロールに変化する場合があるという。そうなる確率は低いのだが、今回は追ってきていたもう1体があの場でキングトロールに変わったのかもしれない。
彼は、推測だけどね、と最後に付け加えた。三つ子は目を見開いて驚いている。
「はぁ~…」
エヴァさんは腕組みしていた右手を額に当て、大きなため息を吐く。
「…オレも15から冒険者をしてるから気持ちは分からなくもない。でもな、2年もヴェスタで冒険者をしてるなら、この森は奥へ行くほど危険な事も当然知っているはずだ。攻撃が上手く決まって調子の良い日もあるだろうが、それを全て自分の実力だと過信していては駄目だ。そういう油断が命取りになる。今日も、もしキラに会えなかったらお前らは死んでただろう。…誰もが助けてくれる訳じゃない、分かってるだろう?」
エヴァさんに諭され項垂れる三つ子。
「「「はい…」」」
「最悪、キラも巻き込むところだったんだ。…良かったな?キラに何かあったら…オレはお前らを許さなかったよ」
「「「―――ッ!!」」」
最後に怒気を込めた声色で威圧され、ビシッ!と背筋伸ばして真っ青になる。
「「「すす、すみませんでしたぁ!!」」」
真っ暗になった辺り一帯に三つ子の声が響き渡った…。
■
食事を終え、鍛冶屋さんたちはすでにテントで眠っている。私とエヴァさんは先に見張りをする事になり、毛皮の上で休んでいた。魔除け香も焚いてあるからこの辺りでの野営なら見張りは必要ないのだが、護衛なので念のため深い時間まで起きているのだとか。私たちの後は三つ子がやる事になっていた。
彼がコーヒーを淹れてカップを手渡してくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます…ふぅ…美味しい…」
レオンさんの部屋に泊まった時に自分でも淹れてみたが、彼の味には及ばずこのコーヒーが恋しかった。
「詳しく聞かせてくれる?」
「はい」
私はここに来る事になった経緯を話した。するとエヴァさんはフフ、と笑う。
「なるほどね、レオンの組んだスケジュールにはオレも含まれてたって訳だ」
「えっ?」
「指名依頼だって伝言したでしょ?この指名依頼はもう何度も受けてるからね、だいたいのスケジュールは決まってるんだ。通る時間によっては林道で会う可能性も高いし、オレもいつもここで野営するから十中八九一緒になるだろうと踏んでたのさ」
ほぁ~…まさかそこまで計算されていたとは。
「そうだったんですか。でも、会えて良かった、嬉しいです。私あんなの相手にするの初めてで、エヴァさんが来てくれなかったらどうなってたか…あっ、もちろんそれだけが理由じゃないですけど」
「分かってるよ、コーヒーだろう?」
「えっ…」
その答えに目をパチクリさせると彼の口角が上がる。
「ふふ、否定してくれないの?」
「もしかして揶揄ってます?もう…違いますよ」
否定した途端、肩を抱き寄せられた。身体が密着して顔が熱くなる。
「そう?良かった…オレも会えて嬉しいよ、キラ。キングトロールの方から君の叫び声がした時、心臓が止まるかと思った。本当に…無事で良かった…」
彼を見上げると熱の篭った瞳で見つめられて心臓が高鳴る。彼を愛おしく想う気持ちを、最早否定できない。
…こんな短期間で2人も好きな人が出来るなんて。心の片隅にあるのは前世の常識からくる僅かな罪悪感。でも、こうして見つめ合っているとそれも萎んでいく。彼らがそう望んでくれていて、私も同じ気持ちなのに何を悩む必要があるのか。
「キラ…」
「エヴァさん…」
甘い空気が私たちを包みこみ、彼の顔が近付いて…後数センチ、という時。
「「「エヴァさん!キラさん!交代します!」」」
三つ子が雰囲気をぶち壊した。
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