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閑話.エヴァント視点
しおりを挟む一目惚れをした。
今まで何人もの女性と付き合ったしモテる自覚もある。付き合っているうちに愛情も湧いたし、確かに好きだった。でも、自分から声をかけたことは一度もなかった。
そんなオレの前にキラちゃんが現れた。見た瞬間、この子だ、と思った。何故そんな風に思ったのか自分でも分からないが、この際そんな事はどうでもいい。
レオンに連れられて来た彼女はとても美しく、不思議な雰囲気を持った女性だった。顔や身体はもちろん、仕草や話し方に至るまで全てが美しい。控えめな子だと思ったがレオンの話を聞くと一概にそうとは言えず、強さまで兼ね備えているらしい。
驚く事にこれまで女っ気のなかったレオンも今やキラちゃんに夢中だ。初めて女性にレオンと呼ばせ、初めて女性をクレーブスに紹介し、部屋へ迎えにまで行くという。
彼女はコーヒーがとても好きなようで、オレの淹れたコーヒーを飲んで顔を綻ばせた。遠慮するのを上手く誘って市場通りを案内する事になったが、そこで大事件が起こる。あっさり1人で帰ろうとするのを半ば強引に引き止めて教会へ寄った時、なんと神様に会ったのだ。
そして、キラちゃんが別世界から来た転移人だという衝撃の事実が判明する。転移人が稀に現れるのは知っていたし話も聞いたことがあるが、まさか彼女がそうだとは夢にも思わなかった。
その後聞いた話はオレたちの想像を超えたものだった。何も知らず急に異世界へ飛ばされ、まさに身一つで魔物と戦いながらひとりでここまで来た。そんな体験からか、それとも元々の性格なのか、何でもひとりで頑張る彼女に惹かれ、助けになりたいと思った。もっと知りたい、もっと近づきたいと願った。
キラちゃんはずっと沈んだ表情だったが、オレたちの気持ちを伝えると漸く笑った。言葉の中の好意を感じ取り、赤くなって俯く。美しい彼女の可愛らしい反応にますます愛しさが募り、暫くレオンと2人でその状況を満喫した。
そして夜、彼女が高熱で倒れた。とにかくベッドへ寝かせて解熱薬を飲ませる。オレには分からなかったが、レオンは違和感を感じていたらしくその感覚を流してしまった事を悔やんでいた。
その日、オレたちは夜中まで腹を割って話し合った。レオンとはもう10年以上の付き合いで、性格は違えど互いに足りない部分を補って今までやって来た。だから同じ女性を好きになったからといって仲違いだけはしたくなかった。するとレオンも同じ気持ちだと言う。そこで辿り着いた結論が一妻多夫だ。彼女がどんな答えを出してもそれを受け入れるという意見で一致し、運命は彼女に委ねられた。
翌日、目覚めた彼女に倒れた理由を尋ねる。すると、嫌われたくないと思っていたから受け入れてもらえてホッとし、気が抜けてしまったのだという。ここまでずっと気を張り続け、疲れが溜まっていたのだろう。彼女が熱を出したのに些か不謹慎だが、オレはこの理由を嬉しく思った。それはレオンも同じだったらしく、ここぞとばかりに愛を告白したのでもちろんオレも乗った。キラちゃんはかなり慌てていたものの、自分の気持ちや希望を素直に言ってくれた。その答えはオレたちを喜ばせたが、それだけではなかった。翌朝、オレにとってはすごく嬉しい事があったのだ。
それはキラちゃんが朝食を作ると言い出した事。2人に食べて欲しい、そう言われて感激した。料理スキルを持つオレはいつも作る側。恋人に食事を作ってもらうという青くさい夢を密かに持っていたが、今まで叶ったことはなかった。そんな事を知る由も無い彼女が自ら進んで作ってくれる。レオンに聞いた通り料理はとても美味しく、オレは二重の喜びを味わった。
その後、パーティー作成や同棲について話し合ってからオレはいつもの指名依頼で街を出た。
■
デルタ山で採掘する鍛冶屋の親父さん達の護衛、1日目移動、2日目、3日目採掘、4日目移動、5日目帰還。これがいつもの指名依頼でいつものスケジュール。移動は馬だ。
4日目の昼、中央の湖で休憩しながら何故こんなに魔物が少ないのか思案していた。いつもと違う時は何かしらアクシデントに見舞われる事が多い。嫌な予感しかしないので早く森を抜けようと提案し、早々に休憩を終えた。
再び馬を走らせて間も無く、行く手にとびっきり大きなアクシデントを発見した。キングトロールが出たのだ。しかも奥地ではなくこんな場所に現れるなんて運が悪いとしか言いようが無い。避けて通りたいがあいつは意外と視野が広く見つかる可能性が高い。
どうしようか…馬を止めて相談しようとした時、その叫び声が聞こえた。
まさか、こんなところに居るはずがない。違っていて欲しい。自分の五感を信じたくない。そう思いながらも、彼女の声を聞き間違うなんて有り得ないということも分かっていた。
必死に走った先に見えたのは―――地面に倒れこんだ彼女の姿だった。
それを目にした瞬間、サァッと血の気が引いた。腕を振り上げたキングトロールに雷を落とし、僅かな間動きを封じて彼女に駆け寄る。
「キラ!」
こっちを見たキラは強張っていた表情を緩めてオレの名を呼んだ。大きな外傷はないようだったが、目眩がするのか片手で顔を覆う。回復魔法を使った時はビックリしたがのんびりしている暇はない。
下がってて。そう言おうとしたのに遮られ、彼女の提案に驚きつつそれに賭ける事にした。逃げるには手遅れ、更には戦力が足りなくて長引くほどこちらが不利だ。それを理解しての作戦だろう。この状況下で取り乱さず冷静な判断が出来るとは…やはり彼女はレオンの言った通り強い女性だ。Cランクに上がる日も近いだろう。
そしてオレは、キラの魔力の高さに驚嘆する事になった。
ヤツが倒れたのを確認して座り込みそうになったキラを抱きとめ、腕の中に閉じ籠める。
「凄い魔力だった、驚いたよ。それに…無事で良かった…キラ…」
「エヴァさん…」
オレは少しの間、この胸に身体を預ける彼女の温もりを確かるのだった。
■
その後、野営地を整えてから三つ子の話を聞き、少しばかり脅しておく。これで大人しくなるだろう。
夜はキラと見張りをする事になり、コーヒーを淹れて渡すと嬉しそうに飲む。この顔が堪らなく可愛い。抱きしめたいのを堪えてこの森に居た訳を聞くと、大体想像通りの答え。会えて嬉しい、なんてオレを喜ばせる事を言う彼女を揶揄うと、ちょっと眉を寄せる。この表情も可愛い。
気がついているだろうか?オレが君を呼び捨てにしている事を。駆けつけた時自然と口から出たが、実は女性を呼び捨てにしたのは初めてだ。何だかガキに戻ったみたいに新鮮で…照れる。
我慢出来なくなって華奢な肩を抱き寄せ、正直に今の気持ちを伝えると照れた顔をしたキラがオレを見上げる。甘い空気が漂い、彼女の可愛く艶っぽい唇に触れたくて顔を寄せ……後数センチ、というところで……
「「「エヴァさん!キラさん!交代します!」」」
三つ子の声が邪魔をした。
…あいつら、脅し方が足りなかったか?…まあいい。野営地なんかじゃなく、もっと気の利いた場所でやり直しだ。
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