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32.帰還
しおりを挟む翌朝。夜明けと共に起床して朝食を済ませ、手早く片付けて野営地を発った。昨日と同じく私はエヴァさんの馬に、三つ子は鍛冶屋さんたちの馬にそれぞれ乗せてもらう事になった。
夜中に三つ子の声で起こされたにも関わらず、男の2人乗りで帰ってくれるというのだからとっても優しい方達だと思います。
昨夜は一応気を使ったのか、交代時間より早くテントから出て来た三つ子君。でもタイミングがちょっとね…それに3人揃って大声上げたもんだから、鍛冶屋さんたちを起こしてしまってまたエヴァさんに叱られたのです。
だからすっかり意気消沈…してるかと思いきや、朝食をガツガツ平らげていました。
「キラ、疲れたらちゃんと言うんだよ?休憩は取るけど乗り慣れないうちは疲れやすいから」
「はい、ありがとうございます」
今私は馬上で彼の腕の中にすっぽり収まっている。馬に乗ったのはだいぶ前の乗馬体験以来、しかも1回だけだったので初めてのようなものだ。でもお尻がちょっと痛いだけで衝撃は少ない。
「冒険者は馬に乗れた方が良い。今度教えてあげるよ」
「はい」
優しく話すエヴァさんの息が耳にかかってくすぐったい。そういえば昨日から呼ぶ時のちゃん付けが無くなった。あまりに自然だったから気がつくのが遅れたけど、正直グッと距離が縮まった感じがして嬉しい。
「フフ…きっとレオンが門の所で待ってるよ」
「え、でも着く時間までは分からないですよね?」
「おおよその見当はつくよ」
「そうなんですか?」
「うん」
馬上で仲睦まじく話す2人を、鍛冶屋たちと三つ子が羨ましそうに眺めるのだった。
■
昼下がり。ヴェスタに到着した私たちが兵士のチェックを終えて中へ入ると、そこにはエヴァさんの言った通りレオンさんが待っていた。
エヴァさんが馬を止めて降りるとレオンさんがそばに来て私を降ろしてくれる。すると鍛冶屋さんたちがエヴァさんに声を掛けた。
「エヴァ、ギルドに言っとくから後で金受け取れよ?」
「はい、ありがとうございます。今回は色々予定外が多くてすみませんでした」
「良いってことよ、護衛はいつも通りしてくれたんだしな。次も頼むぜ」
「はい」
会話終わりを見計らって私もお礼を言っておく。
「あの、ご一緒させていただいてありがとうございました」
頭を下げるとニコニコ顔で返事してくれる。
「キラちゃんみたいなべっぴんさんだったらいつでも大歓迎だべ。なあ?」
「「うんうん」」
「ありがとうございます」
彼らは三つ子を降ろし、エヴァさんの乗っていた馬を連れて帰っていった。
「キラ」
呼ばれて振り返るとレオンさんの手が腰に回ってちゅっ、と小さくキスされる。
「お帰り」
「…た、ただいまです」
「依頼は熟せたか?」
「…はい」
「そうか。無事エヴァとも会えたみてえだな。…で?そこのガキどもは何だ?」
「それについてはオレが説明するよ。ここじゃ目立つからあっちへ行こうか」
エヴァさんが説明を請け負い、隅に移動してから話を始めた。
ひと通り聞き終えたレオンさんは、まさに鬼の形相で三つ子を睨んでいた。三つ子は蛇に睨まれたカエルのように3人同じ姿勢で硬直している。
「貴様ら…よくもキラを危ない目に遭わせてくれたな…覚悟はできてるな?」
「「「ヒイッ!!」」」
迫力満点の脅しに分かりやすく怯える三つ子の目の前に立ち…
ビシッ!「イデッ!」
ビシッ!「イデッ!」
ビシッ!「イデッ!」
…デコピンをお見舞いした。たかがデコピンと侮るなかれ、レオンさんの指から繰り出された衝撃でオデコはそこだけ真っ赤になり、3人は未だに呻いている。…脳ミソが無事だと良いのですが。
「無事だったからこれで許してやる。だが…また同じような事しやがったらタダじゃおかねえぞ」
「「「ハイィ!スミマセンデシタァ!」」」
ビシッと気を付けをして大声で謝り、声がデケエとまた睨まれました。
「それにしても、奴の頭を爆破するとはな…魔法だけでやりあったら俺でもキラに負けるな」
「オレもだよ。魔力は結構高いんだけどキラには敵わないな」
「…」
タクシー馬車の中で2人に挟まれ、見つめられながら言われるが恥ずかしくて内容がイマイチ頭に入ってきません。だってすっごく近いし、両肩抱かれてるし、三つ子が一緒だし。
「昇級も目の前だな」
「そうだね、待ち遠しいな。ねぇキラ?」
「は、はい…」
機嫌の良い2人、照れる私、空気になろうと努力する三つ子。早く着かないかな…。
■
三つ子を連れてギルドへ戻って来た私たちはカウンターへ向かった。今は暇な時間帯なので然程待たずに済む。先にエヴァさんが護衛の報酬を受け取り、次は私。依頼書とケルピーの耳5つを出し、報酬5,000ギルを貰ってから倉庫へ。
別棟になっている倉庫はとても広くて真ん中は大きくスペースが空けてある。道具も多種多様な物が揃っているようで、奥の方では作業員と思われる数人の男性が休んでいる。私たちがゾロゾロ入っていくとその中の1人が近づいて来た。
「よぉ、レオンにエヴァ、女連れなんて珍しいじゃねえか。しかも超美人」
「キラ、このおっさんはヤングル。こんなでも解体の腕はピカイチだ」
「おっさんじゃねえし!…よろしくな、キラちゃん」
ヤングルと呼ばれた男性がスッと手を差し出した。
「キラです、よろしくお願…」
ここでも握手があるんだな、などと思いながら私も手を差し出し…かけたけど途中でレオンさんに止められた。
「何すんだよレオン~!」
「うるせえ、人の女の手握ろうとするんじゃねえよ」
「いつもしないのに、握手なんかしようとするからだよ」
「バレたか。ってか、レオンに女が出来たっつー噂はマジだったんだな」
「もう噂になってるんだ?」
「ああ。それにしても、あのレオンが遂に女作ったかぁ」
ひ、人の女…。手も握られたままなので顔が熱いです。ベッタベタのセリフに嬉し恥かし的な反応をしてしまっていますよ。
そんな事を考えながら俯いていたら、いつの間にか話が終わっていてレオンさんに呼びかけられた。
「キラ、魔物はここに収まるか?」
「えぇと…たぶん大丈夫だと思います」
「オイオイ、何だよ。そんなデカブツがあるのか?」
会話を聞いていたヤングルさんが驚くと他の作業員も寄ってくる。
「見てのお楽しみ。キラちゃん出して良いよ」
「はい」
エヴァさんの言葉を受け、インベントリから買い取ってほしい魔物を出す。その数全部で24体。シルバーウルフ2体、ホーンラビット3体、コボルト4体、オーク3体、ケルピー10体、トロール、そして…キングトロール。シルバーウルフは乗り合い馬車での移動中、襲撃を受けた時の物だ。
広いスペースにデデン!と出現した魔物の山に私以外のみんなが目を見開いている。
…あれ?何でレオンさんとエヴァさんまで?
「…この数を1人で、しかも半日でか…Cどころか上級入りも近いな」
「だね…半日でこれは凄いよ」
「「「「「…」」」」」
トロールやケルピーの事を知っていたレオンさんとエヴァさんは、ちょっとビックリしたもののすぐに感心したように話し始める。三つ子とヤングルさん、作業員たちは驚愕した表情のままだ。
「…コレ、全部キラちゃんが?」
「えぇと、キングトロールは「そうだよ」…」
やっと呟いたヤングルさんに返事しようとしたらエヴァさんが割り込む。
「1人でケルピー討伐に行ってたキラちゃんが、トロールに追われてた三つ子に助けを求められて倒した。その直後にキングトロールが現れて、オレは途中から合流して加勢したんだ。…だよね?三つ子君」
「「「その通りです!」」」
「マジか…」
ヤングルさんは説明を受けてもまだ呆然としていた。
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