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8. 初出勤、初トラブル
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この酒場の営業時間は昼12時から午前0時までの12時間。ホールは11時~19時、18時~1時の2交代制で、調理はもう少し早くかららしい。休憩が1時間あり、その間に賄いを頂ける。
マスターが私を今日一緒に働く先輩たちに紹介すると、ボリューム抑え気味の歓声が上がる。簡単に挨拶をして、連絡事項などが伝えられると開店準備が始まった。
「ルイ、こちらへ」
マスターが1人の青年を呼ぶ。何だか全体的に色素が薄い印象を受ける。薄い茶色…いや、ベージュの髪は短めでさらっとしていて、肌も白い。優しい雰囲気が漂う人だ。
「彼がフロアリーダーのルイです。見習い期間はルイに教わってください」
「はい。よろしくお願いします。ルイさん」
「こちらこそよろしくね。ソニアちゃん、でいいかな?」
「はい」
後ろの方では、羨まし気にルイさんを見ているスタッフたちをマスターが促していた。
◇
「ソニアちゃん!ビール2つおかわり!」
「ソニアちゃん、こっちは3つ!」
「ソニアちゃんつき合って!」
基本的な事と注意事項を教わり、後は習うより慣れよ、という事でホールに出た。初日なのにすっかり名前が知れ渡ってしまった。まあ、女が私1人だから仕方ないか。
「1番と5番テーブルさん了解です!」
「8番テーブルさんはお断りで~す!」
接客の基本は笑顔!軽~く誘われたので軽~く返しておく。
「おい!みんなのソニアちゃんに何て事言うんだ!」
そんなのいつ決まった。
「そうだぞ!ソニアちゃんはみんなの癒しだ!」
おぉう…何て恥ずかしい事を。
「いいじゃねえか、ちょっと誘うくらい!」
ちょっと?もう5回目ですが。
「何だと!」
「何だよ!」
「やるかコラ!」
始まってしまった…。
「やるなら表でどうぞ~!」
お客様の方を向いてにっこり笑って言う。
「「「・・・・」」」
うん、静かになった。
カウンターでビールを受けとると、マスターが私に言う。
「ソニアさん、それ配ったら休憩してください」
「はい」
ルイさんと一緒に休憩に入って賄いを頂き、調理場の人達に挨拶してから休憩スペースに向かう。歩いていると一瞬立ち眩みする。
…おかしいな。このくらいでへばるはずないんだけど。
「どうしたの?…体調悪い?」
前を歩いていたルイさんが立ち止まって振り返る。
「いえ、大丈夫です」
「そう?まあ、初日であんなに人気が出たら疲れもするよね。無理しないで言ってね」
にっこり笑う。爽やかな人だ。
「ありがとうございます」
体調管理も仕事の内。気を引き締めなきゃ。
だが休憩後も体調は戻らない。それどころか段々身体の中が変に熱くなってきている。不思議と汗が出ないので、他の人にはバレていないと思う。…たぶん。でも、さっきから何故か2階席で私を見ているオーナーには見透かされている気がした。
…初日だし、働きぶりでも見てるのかな?早速体調なんか崩したら首になったりとか…それは避けたい。
何とか店は閉店時間を迎える。私に手を振りながら帰るお客さんたちに小さく手を振り返し、清掃を始める。
後もう少し、という所で強い眩暈に襲われて立っていられず、座り込んでしまう。
「ソニアちゃん!」
ルイさんが私に駆け寄って肩に手を掛けた時、低くイイ声が耳に届く。
「ルイ、どけ」
オーナー?あ、マズイ。叱られるかも。
「オーナー、すみま…ふぁ!?」
手が伸びてきたと思ったらぶわっと抱き上げられて変な声が出た。
え、コレって・・・もしかしてお姫様抱っこってやつですか!?ちょっと待て!何故に!?
「オ、オーナー!」
「黙ってろ」
有無を言わさぬ声色に抗議を断念する。
「はぃ…」
私は消え入りそうな声で返事した。
◇
私は今日面接した部屋の更に奥へ連れて行かれた。
そこはオーナーの私室のようでとても広く、上質で品の良い家具が揃っていた。抱き上げたままベッドルームに入る。
えええ!!
ぎょっとしてさすがに黙っていられなくなった。
「オーナー、は、放してください!」
「黙れ」
「ッ!!」
またそれ!?何なの!
「黙りません!」
言い返すと目を見開く。
「し、仕事中に倒れたりして申し訳ありませんでした!」
とにかく謝らなきゃ、と思って必死に言う。とても反省しているとは思えない体勢だが、降ろしてくれないのだから仕方がない。
「今後気を付けますので!あの…ここで何をするのか…知りませんが、その…ゆ、許してもらえませんか」
ミスしておいて気を付けるから許して、なんて甘い。それは分かっているが…。最初の勢いはどこへやら、段々声が小さくなる。後はオーナーの心の広さに期待……え?
私が審判を待っているとオーナーが震えだす。何事かと思って見上げると―――
オーナーは笑いを堪えていました・・・。
「オーナー…」
そんなに面白い事言いました?
一頻り笑った後、私をベッドに降ろして隣に座る。そしていつもの表情に戻って口を開いた。
「お前、魔人と白兎のハーフだな?」
マスターが私を今日一緒に働く先輩たちに紹介すると、ボリューム抑え気味の歓声が上がる。簡単に挨拶をして、連絡事項などが伝えられると開店準備が始まった。
「ルイ、こちらへ」
マスターが1人の青年を呼ぶ。何だか全体的に色素が薄い印象を受ける。薄い茶色…いや、ベージュの髪は短めでさらっとしていて、肌も白い。優しい雰囲気が漂う人だ。
「彼がフロアリーダーのルイです。見習い期間はルイに教わってください」
「はい。よろしくお願いします。ルイさん」
「こちらこそよろしくね。ソニアちゃん、でいいかな?」
「はい」
後ろの方では、羨まし気にルイさんを見ているスタッフたちをマスターが促していた。
◇
「ソニアちゃん!ビール2つおかわり!」
「ソニアちゃん、こっちは3つ!」
「ソニアちゃんつき合って!」
基本的な事と注意事項を教わり、後は習うより慣れよ、という事でホールに出た。初日なのにすっかり名前が知れ渡ってしまった。まあ、女が私1人だから仕方ないか。
「1番と5番テーブルさん了解です!」
「8番テーブルさんはお断りで~す!」
接客の基本は笑顔!軽~く誘われたので軽~く返しておく。
「おい!みんなのソニアちゃんに何て事言うんだ!」
そんなのいつ決まった。
「そうだぞ!ソニアちゃんはみんなの癒しだ!」
おぉう…何て恥ずかしい事を。
「いいじゃねえか、ちょっと誘うくらい!」
ちょっと?もう5回目ですが。
「何だと!」
「何だよ!」
「やるかコラ!」
始まってしまった…。
「やるなら表でどうぞ~!」
お客様の方を向いてにっこり笑って言う。
「「「・・・・」」」
うん、静かになった。
カウンターでビールを受けとると、マスターが私に言う。
「ソニアさん、それ配ったら休憩してください」
「はい」
ルイさんと一緒に休憩に入って賄いを頂き、調理場の人達に挨拶してから休憩スペースに向かう。歩いていると一瞬立ち眩みする。
…おかしいな。このくらいでへばるはずないんだけど。
「どうしたの?…体調悪い?」
前を歩いていたルイさんが立ち止まって振り返る。
「いえ、大丈夫です」
「そう?まあ、初日であんなに人気が出たら疲れもするよね。無理しないで言ってね」
にっこり笑う。爽やかな人だ。
「ありがとうございます」
体調管理も仕事の内。気を引き締めなきゃ。
だが休憩後も体調は戻らない。それどころか段々身体の中が変に熱くなってきている。不思議と汗が出ないので、他の人にはバレていないと思う。…たぶん。でも、さっきから何故か2階席で私を見ているオーナーには見透かされている気がした。
…初日だし、働きぶりでも見てるのかな?早速体調なんか崩したら首になったりとか…それは避けたい。
何とか店は閉店時間を迎える。私に手を振りながら帰るお客さんたちに小さく手を振り返し、清掃を始める。
後もう少し、という所で強い眩暈に襲われて立っていられず、座り込んでしまう。
「ソニアちゃん!」
ルイさんが私に駆け寄って肩に手を掛けた時、低くイイ声が耳に届く。
「ルイ、どけ」
オーナー?あ、マズイ。叱られるかも。
「オーナー、すみま…ふぁ!?」
手が伸びてきたと思ったらぶわっと抱き上げられて変な声が出た。
え、コレって・・・もしかしてお姫様抱っこってやつですか!?ちょっと待て!何故に!?
「オ、オーナー!」
「黙ってろ」
有無を言わさぬ声色に抗議を断念する。
「はぃ…」
私は消え入りそうな声で返事した。
◇
私は今日面接した部屋の更に奥へ連れて行かれた。
そこはオーナーの私室のようでとても広く、上質で品の良い家具が揃っていた。抱き上げたままベッドルームに入る。
えええ!!
ぎょっとしてさすがに黙っていられなくなった。
「オーナー、は、放してください!」
「黙れ」
「ッ!!」
またそれ!?何なの!
「黙りません!」
言い返すと目を見開く。
「し、仕事中に倒れたりして申し訳ありませんでした!」
とにかく謝らなきゃ、と思って必死に言う。とても反省しているとは思えない体勢だが、降ろしてくれないのだから仕方がない。
「今後気を付けますので!あの…ここで何をするのか…知りませんが、その…ゆ、許してもらえませんか」
ミスしておいて気を付けるから許して、なんて甘い。それは分かっているが…。最初の勢いはどこへやら、段々声が小さくなる。後はオーナーの心の広さに期待……え?
私が審判を待っているとオーナーが震えだす。何事かと思って見上げると―――
オーナーは笑いを堪えていました・・・。
「オーナー…」
そんなに面白い事言いました?
一頻り笑った後、私をベッドに降ろして隣に座る。そしていつもの表情に戻って口を開いた。
「お前、魔人と白兎のハーフだな?」
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