50 / 113
47.真夜中の出発
しおりを挟むルイとビスタは夜が明ける前にミクサの街に着いた。少し離れた場所に馬を隠し、気配を消して物陰に隠れながら街の入り口を窺う。そこには若い門番がひとり。
2人は眉を寄せる。門番は怪しいヤツを止めなければならない為、普通は中堅のある程度強い者が立つ。だがあの若い保安官はいかにも新入りで頼りない。キョロキョロと落ち着かなく、何かに怯えているようにも見えた。・・・シェストは何を考えているのか?
ルイとビスタは顔を見合わせて頷き合う。偵察方法は相談済みだ。二手に分かれて予定通り開始した。
20分後、2人は馬を繋いだ場所で落ち合っていた。
「街人はいつもと変わらなかったけど、保安官を1人も見なかった…。そっちはどうだったビスタ」
「はい。保安局ももぬけの殻。シェストの家に行ってみましたが…居たのはサンドラでした」
「なっ…サンドラ!?何であの女がここに…?」
「それだけじゃないですよ、どっかの富豪の令嬢みたいな大人しい感じの…ワンピース?ってのを着てました。別人みたいでしたよ」
「……サンドラの事は後回しだね。それよりも…まさか…もうアジトへ向かったのか?」
「…早過ぎませんか?俺らみたいに計画を立ててた訳でもないのに…ここからだってどんなに急いでも2日はかかります」
「……」
ルイは必死に頭を巡らせる。サンドラがどうしてここにいるか分からないが、今はシェストをはじめとする保安官達が居ない事が重要だ。恐らく事態は最悪の方向へ向かっている。街人に話を聞いて大至急ボスに知らせなければ。
「街人に話を聞こう。そして…」
「はい、ボスの元へ知らせに走ります」
「ああ、僕はここに残る」
◇
午前2時。わたしたちは私室のリビングにいた。ルイさんとビスタさんが発ってからお酒は控えている。いつ知らせが来ても動けるように。
そろそろ休もうとしていた時、私室の玄関を叩く音。
来た!
レドがドアの前まで行って相手を確かめ、ビスタを中へ入れた。
コンゴさんや奇襲に行く筈だったメンバーがオーナー部屋に集められた。
「シェストはシャハールから帰ってすぐ、部下を連れてアジトへ出発した模様です。保安官は若いのが街の入り口に1人だけ残されていました。後、シェストの家にサンドラが居ました」
「ええぇっ!」
ビスタさんが口にした事実にわたしは驚いて声を上げてしまった。レドとルーカスが頭を抱える。他の皆も騒めく。
「またサンドラですか…それに…レド、これは…」
「…ああ…あの女よりシェストだ。…何の準備もせずに奇襲など成功するはずが無い。死にに行くようなものだ…!あのクソ野郎が!!」
ドゴォン!!
バガァン!!
レドが怒りにまかせて拳をローテーブルに叩きつけ、真っ二つに割ってしまった。
わたしが思わずビクッ!と跳ねると、隣にいたルーカスが手を握ってくれた。
場は暫し静寂に包まれた。
盗賊のアジトを潰すのは至難の技だ。だからこういう時レドモンドは、強く、戦闘に慣れていて、何があっても臨機応変に対処出来る者しか連れて行かない。作戦も、メンバーも、犠牲者が出ないよう熟考されたものなのだ。
シェストはレドモンド達の作戦も覗いたのだろうが、それは選ばれたメンバーだからこそ実現できるものだ。何の準備もなしにこれをそのまま実践したところで上手くいく訳がない。シェスト自身はある程度強い魔人だから逃げ帰ってくる事も可能だろうが、部下達はそうもいかない。最悪の場合部下は皆殺され、彼のみが逃げ帰ってくるだろう。
やがてレドがルーカスと顔を見合わせてから口を開いた。
「すぐに発つ。メンツは奇襲メンバーに加えて…ソニア、お前もだ」
「え…わたし…?」
「ああ、お前の力が必要だ。一緒に行ってくれるな?」
「…はい」
「皆も聞け。行き先はアジトではなくミクサだ。…おそらくシェストはデッカーを仕留められずに逃げ帰ってくる。一方でデッカーの頭の中身は至極単純にできてる。逃げたら追い、やられたらやり返す。このまま放っておいたらミクサは壊滅だ。…だが、まだ手はある。ミクサを守り、デッカーを仕留める手がな。詳細はミクサに着いてからだ。各自大至急準備にかかれ。コンゴ、荷の最終確認を頼む」
「「「「「はい!」」」」」
皆、各自の支度へ向かった。
「ルーカス、ソニアの準備を頼む。俺も支度する」
「分かりました」
レドはオーナー部屋で支度すると言って残ったので、わたしとルーカスは2人でベッドルームへ来た。動きやすい服装に着替え、髪も邪魔にならないよう纏める事にした。その間にルーカスが荷物を準備してくれる。
ドレッサーに座って髪を纏めているとウォークインクローゼットからルーカスが出てきた。
「いいですかソニア、ちゃんとレドの言う事を聞いて下さいね。ひとりでの行動は禁止ですよ。必ず誰かと一緒に居て下さい。何かあったらレドかルイにきちんと言わなきゃダメですよ?」
彼の声に振り返ったわたしはその表情を見て驚く。エメラルドグリーンの瞳は心配と淋しさが入り混じって揺れ、潤んでいるように見えた。
「ルーカス…わたしは大丈夫。きちんと言いつけ守るよ?…ちゃんとルーカスのところに帰ってくる」
彼の傍へ行き、その胸に両手を置いて見上げる。
「ソニア…必ずですよ?約束しましたからね?」
「…うん。約束」
わたしは笑顔で答え、伸び上がって小さくキスした。彼はわたしを抱き締めて優しく頭を撫でた。
もしかしてレドはわざと2人きりにしてくれたのかもしれない。そんな気がした。
午前3時、わたしたちはシャハールを発ち、一路ミクサの街を目指した。
105
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる