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62.思いがけない来客
しおりを挟む翌日、王都の本局から保安官がやって来た。
本局の人は何だか細っこくて気の弱そうな中年の男性で、レドとルーカスは初対面ではないようだった。質問の中には、わたしでさえそれは失礼でしょう?と思う内容のものも幾つかあった。だがそれは聞いてこいと命令を受けているものらしく、彼自身はレドの顔色を窺いながら恐る恐るという感じだった。
胃に穴が空いていそうな中間管理職。それがわたしの受けた印象。一通り聞き終えると何度も頭を下げていた。
それから数日後にシェストは王都へ移送され、本局の人も帰っていった。
◇
乾期に入ってひと月以上が経過し、夏真っ盛り。毎日暑い日が続いている。
ソニアが正式にレドモンドとルーカスの妻になったというニュースは、ジュエリーショップ来店以降瞬く間に街全体に広まった。当然、彼女がハーフだという事も。他の街のグラベット幹部などにも知らせが走った。まあ、電話などが無いので行き渡るには相応の期間を必要とするが。
午後3時過ぎ、ソニアはホールに出ていた。酒場はこれからがピークでこの時間は暇なはずなのだが、今は満席。それは例のニュースが流れてからというもの、レドモンドとルーカスを虜にした彼女を一目見ようと来るお客が後を絶たないからだ。
酒場が混乱状態になるかと思いきや、皆大人しく観察に徹していた。彼女に暴言を吐いてレドモンドを怒らせ、自滅したあの女の話を知らない者は殆ど居ない。二の舞は嫌だ、でもソニアは見たい、というわけで混んでいるのに何だか静かな不思議空間が出来上がっていた。
涼やかで愛らしい容姿、抜群のスタイル、明るく元気でよく動き、彼女の綺麗な声が響くとホールが華やかになる。噂に違わぬ女性だと評判を呼び、ファンは増える一方だ。
ソニア自身、魔眼全開でレドモンドとルーカスに叱られた時からある程度自覚はある。でもファンが増えたからといってやる事は変わらない。もちろん注意は必要だが、いつも通り仕事をこなした。
「ソニア、ちょっとここを手伝ってもらえませんか?」
「はい、今行きます!」
ルーカスに呼ばれてカウンター内に入る。最近カウンターの仕事を手伝わせてもらえるようになった。ここで仕事を始めて半年、漸く初心者マークが取れた感じだ。
「ごちそうさん」
レジの方から声が掛かって会計に行く。
「4,700リムになります。…はい、5,000リムお預かりしましたので300リムのお返しです。ありがとうございました」
笑顔のお客さんに笑顔を返して挨拶すると、お釣りを受け取ったポーズで固まっている。こういうお客さん、最近多いね。
「お客さま?どうかしました?」
「…ハッ、い、いや、何でもないです!ま、また来ます!」
お客さんは我に返って店を出ていった。わたしはルーカスの元へ戻る。
「これお願いしますね」
「はい」
彼の隣で作業を始める。
「・・・」
「・・・」
何か言いたげな顔をしている。でも店ではマスターとスタッフというスタンスを崩さないと一緒に決めたので黙って仕事を進めた。
今、カウンターにお客さんは座っているが中に他のスタッフはいない。ルーカスが注文を受けてお酒を取りにわたしの後ろを通った時。
ぺろん。
さりげなくおしりを撫でる。帰りにもう一度。
むにゅん。
僅かに掴みまで織り交ぜて通り過ぎた。微かに腰が跳ね、ぽんっ、としっぽが出る。うさ耳は出ていない。
ルーカスは、わたしがカウンター内で仕事をするようになってからたまにこういう事をする。一番最初は驚いてうさ耳としっぽが出てしまったが、人目につかない場所だったので助かった。彼に抗議すると、うさ耳を出さないように気をつけないと他人に見られますよ?と、反省どころか逆に注意された。理不尽な気がしてならないが、本当に出てしまったら一大事なので気をつけていた。そうしているうちに驚くとしっぽだけが出るという特殊技能を身につけた。中々出ないところまではいかないのが悩みのひとつだ。
睨みたいのを我慢して言われた仕事を終わらせる。
「マスター、終わりました」
満足そうに微笑むルーカスに報告した時、酒場の扉が開いて新たなお客さんが入って来た。彼がその男性客の顔を見た瞬間、目を丸くする。不思議に思ってわたしも振り返ってそちらを見た。
・・・はぁ!?何でここに居るの!?
見覚えのあり過ぎる顔に一瞬唖然としてしまうが、仕事中だった事を思い出して平静に戻る。
「ビールちょうだい」
男性客が空いたばかりのカウンター席に座って言った。
「・・・」
ルーカスが男性客を黙って見据える。
「…アイスコーヒーお願いします」
「かしこまりました。…報告にしては時期が早いですね?」
「報告はついでだよ、本当の目的は別。それをボスに言ったらすごく睨まれたけどね」
「でしょうね。…ソニア、ホールへ戻って良いですよ」
「はい」
ホールへ戻る時、一応目礼だけしておいた。
「…彼女、オレの事知ってるんですか?」
「いいえ、でも私たちの会話であなたがグラベットメンバーだと分かったのでしょう。聡い人ですから」
「へえ…」
興味深そうにソニアを見る男性。ルーカスがそっとため息をついた。
・・・何で彼がここに。
乙女ゲームに複数いる攻略キャラは大抵色々なタイプが揃っている。王道の爽やか王子様タイプ、クールなツンデレタイプ、やんちゃな友だちタイプ、可愛い年下弟タイプ、コワモテのワイルドタイプ、遊び人タイプ、などなど。当然プレイするこちらにも好みがあり、ワクワクしながら進める相手と何となく進める相手、または攻略さえしない相手もわたしの場合は存在した。
わたしの好みは、ワイルドタイプか落ち着いた年上タイプ。まさにレドとルーカスである。逆に興味がないのが王道の王子様タイプや年下弟タイプ、遊び人。
件のゲームにも色々なタイプがいて、気が進まなくてもレドに行き着くには全て攻略しなくてはいけなかった。中で最も嫌気がさしたのは、王子で遊び人、全ての女が自分に靡くと思っているような男。オマケに自覚ありのトラブルメーカー。髪型は速水も○みち風の金髪、目は金と青のオッドアイで若干タレ目。体格はルーカスとレドの中間。
名はエドガー、魔人。それがあの男性客である。
彼は王子だからもちろん王都に住んでいた。シナリオの最後でグラベット入りしたが、シャハールとは縁のない人だったから余計に驚いてしまった。でもさっきの感じだと新人じゃないし…。ゲーム内と全く同じ見た目だけど、人柄も全く同じだと決めつけてはいけない。
とは思うものの・・・何だか気が重い。どうかトラブルメーカーではありませんように。
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