99 / 113
93.寒冷期に向けて
しおりを挟む
もうすぐ寒冷期、陽が沈むのが早くなって夜は冷える日も出てきた。
という事で今夜はカニ鍋、そして熱燗です!
ここでは米酒を温めて飲むことはしないそうで、レドもルーカスも驚いていた。当たり前だけどカニ鍋も初めてで、出来上がるにつれて興味深そうにしている。豆腐がないのは寂しいけど出汁はカニで取れるし、鶏肉も入れたのでその旨味も出る。野菜もたっぷり食べられ、体も温まってヘルシー。
わたしが得意満面で説明するのを微笑みながら聞いてくれる優しい旦那さまたち。
2人には最近和食ブームが来ているようで、何が食べたいか尋ねると「和食!」と返ってくる。故郷の料理を好きになってくれてわたしも凄く嬉しい。
お鍋が出来上がり熱燗も準備OK、お鍋を取り分けてテーブルに置く。
「どうぞ、食べてみて」
声を掛けて反応を待つ。
「あっさりしてるが美味いな。…熱燗に合う」
「これは体が温まりますね。熱燗も初めてですが寒い日は良いですねぇ」
「ふふ、ありがとう」
似ている所も多い2人だが、食べ物に関しては多少好みの差がある。どちらかといえば、レドは魚好き、ルーカスは肉好き。カニ鍋はレドの方が好きだろう。今度は肉料理にしよう、と考えながらお鍋を楽しんだ。
◇
カニ鍋と熱燗を堪能した翌日、わたしはもうすぐ訪れる寒冷期のステージに備えての練習をした。お祭りで思わぬ形で披露したギターを取り入れた曲も準備中だ。
お祭り後、街で話題となっているのはわたしたちのステージだけではない。リラと歌った最後の曲でギターを弾いた彼も注目を集めていて、シトロンに関した問い合わせも店やユニオンに届いていた。早々と出演依頼もあったのだが、彼はこの酒場のステージしか出ないと断った。そのキッパリとした態度がまた酒場のスタッフに好印象を与えたのは言うまでもない。
そのシトロンと同じくお祭りでデビューした唐揚げのほうも順調にファンが増えていた。店で注文するお客さんはもちろん、持って帰りたいと言われる事も多い。どうやら家で奥さんやお子さんに頼まれるらしく、お土産に持って帰っても喜ぶと評判だ。この酒場では今までお持ち帰りはなかったのだが、多数要望があった為唐揚げ限定で始めた。
このショーユの消費具合を考慮し、ショーユ造りが間に合わなくなる前に手を打とうという事で職人探しを始めた。元いた職人に来てもらえれば一番良いのだが、王都からの移住などそう簡単にはいかない。米酒やショーユ造りは難しいし大変な仕事な上、レドにも認められなければいけない。職人探しは難航しそうだった。
◇
休日、わたしはルーカスと2人でドレスショップに来ていた。披露パーティーのドレスを頼んでから半月は経った。その間暇をみてはレドと来たりルーカスと来たりしてデザインなどを決めている。
「やはり白が似合うと思うのですが…ソニアも白を1着選んだんですよね?どんなデザインです?」
「わたしが選んだのはこれ」
目の前にあったデザイン画を見せる。
「あぁ、綺麗なデザインですねぇ…真っ白というのも貴女らしい。なら私は色を入れるか…いやピンクも捨てがたい」
もの凄く真剣に考えてくれるルーカス。
ドレスは6着、3人で2着ずつ好きなデザインを決めている。本当はもっと増やしたかったと2人から聞いてわたしが驚いたのは仕方がないですよね?思いとどまってくれて良かったです、これ以上は無理ですよ。だって、お色直し5回って・・・何時間パーティーを続けるつもりなのか分からないけど、凄く忙しいと思うんです。
ショップを出るともう夕方。
吹きつける風が冷たくて思わず自分の腕を摩ると、ふわっと肩にショールが掛けられた。柔らかで暖かいカシミヤに似た手触り。
「もうすぐ寒冷期ですよ、この時間になれば羽織るものがないと寒いでしょう?」
「ありがとう」
いつもは馬車だが今日は少し食材を買って帰ろうと思い歩く事にしたのだ。急に決めたのに、こういう物がサッと出てくるルーカスに感心してしまう。
「さあ、行きましょう」
「うん」
差し出された手を握り、2人で歩き始めた。
「今夜のメニューは決まってるんですか?」
「うん、豚の生姜焼きにしようかと思って」
「良いですねぇ、生姜焼き好きです。付け合わせにソニアのポテトサラダが食べたいです」
「良いよ。ふふ、ルーカスならそう言うと思ってた」
彼はわたしの作ったポテトサラダが好きだ。自分で作ったのとは何か違いがあるらしく、肉料理の時は決まって頼まれる。なぜ肉料理の時なのかは分からないけど。
わたしたちが通るとすれ違う人、買い物をしてる人、皆がこちらを見る。夕食の買い物をするごく普通の夫婦だと思うんだけど、どこに行っても注目を集めてしまう。最初の頃は見られて緊張したし恥ずかしさもあったけどさすがに慣れた。ボスとNo.2の妻がコソコソ隠れてばかりじゃ良くないし、適度な緊張感を保ちつつも気にし過ぎないようにしている。
「おつまみ、エビのアヒージョにしようかな…」
肉屋で豚肉を買った後、隣の魚介屋に並んでいた良いエビが目に入って呟く。エビのアヒージョはレドの好きなおつまみだ。
「レドの好物ですね、喜びますよ」
「じゃあ、エビ買っていこうかな。あ、そうだ、ミルクも欲しい」
「はい。何処でもお供しますよ、奥さん」
ルーカスが笑いながら言った。
いつも食材は店の物とまとめて購入して保存しておく。貯蔵庫も冷蔵庫も組み込まれた魔石によって時間経過がないので腐る心配もない。だから普段はあるもので作るが、今日は出掛けたついでにこうして好きな食材を買い歩いている。
たまには自分で見て買い物しないとね。
わたしはルーカスと思う存分買い物をして、レドが待つ家へと帰った。
という事で今夜はカニ鍋、そして熱燗です!
ここでは米酒を温めて飲むことはしないそうで、レドもルーカスも驚いていた。当たり前だけどカニ鍋も初めてで、出来上がるにつれて興味深そうにしている。豆腐がないのは寂しいけど出汁はカニで取れるし、鶏肉も入れたのでその旨味も出る。野菜もたっぷり食べられ、体も温まってヘルシー。
わたしが得意満面で説明するのを微笑みながら聞いてくれる優しい旦那さまたち。
2人には最近和食ブームが来ているようで、何が食べたいか尋ねると「和食!」と返ってくる。故郷の料理を好きになってくれてわたしも凄く嬉しい。
お鍋が出来上がり熱燗も準備OK、お鍋を取り分けてテーブルに置く。
「どうぞ、食べてみて」
声を掛けて反応を待つ。
「あっさりしてるが美味いな。…熱燗に合う」
「これは体が温まりますね。熱燗も初めてですが寒い日は良いですねぇ」
「ふふ、ありがとう」
似ている所も多い2人だが、食べ物に関しては多少好みの差がある。どちらかといえば、レドは魚好き、ルーカスは肉好き。カニ鍋はレドの方が好きだろう。今度は肉料理にしよう、と考えながらお鍋を楽しんだ。
◇
カニ鍋と熱燗を堪能した翌日、わたしはもうすぐ訪れる寒冷期のステージに備えての練習をした。お祭りで思わぬ形で披露したギターを取り入れた曲も準備中だ。
お祭り後、街で話題となっているのはわたしたちのステージだけではない。リラと歌った最後の曲でギターを弾いた彼も注目を集めていて、シトロンに関した問い合わせも店やユニオンに届いていた。早々と出演依頼もあったのだが、彼はこの酒場のステージしか出ないと断った。そのキッパリとした態度がまた酒場のスタッフに好印象を与えたのは言うまでもない。
そのシトロンと同じくお祭りでデビューした唐揚げのほうも順調にファンが増えていた。店で注文するお客さんはもちろん、持って帰りたいと言われる事も多い。どうやら家で奥さんやお子さんに頼まれるらしく、お土産に持って帰っても喜ぶと評判だ。この酒場では今までお持ち帰りはなかったのだが、多数要望があった為唐揚げ限定で始めた。
このショーユの消費具合を考慮し、ショーユ造りが間に合わなくなる前に手を打とうという事で職人探しを始めた。元いた職人に来てもらえれば一番良いのだが、王都からの移住などそう簡単にはいかない。米酒やショーユ造りは難しいし大変な仕事な上、レドにも認められなければいけない。職人探しは難航しそうだった。
◇
休日、わたしはルーカスと2人でドレスショップに来ていた。披露パーティーのドレスを頼んでから半月は経った。その間暇をみてはレドと来たりルーカスと来たりしてデザインなどを決めている。
「やはり白が似合うと思うのですが…ソニアも白を1着選んだんですよね?どんなデザインです?」
「わたしが選んだのはこれ」
目の前にあったデザイン画を見せる。
「あぁ、綺麗なデザインですねぇ…真っ白というのも貴女らしい。なら私は色を入れるか…いやピンクも捨てがたい」
もの凄く真剣に考えてくれるルーカス。
ドレスは6着、3人で2着ずつ好きなデザインを決めている。本当はもっと増やしたかったと2人から聞いてわたしが驚いたのは仕方がないですよね?思いとどまってくれて良かったです、これ以上は無理ですよ。だって、お色直し5回って・・・何時間パーティーを続けるつもりなのか分からないけど、凄く忙しいと思うんです。
ショップを出るともう夕方。
吹きつける風が冷たくて思わず自分の腕を摩ると、ふわっと肩にショールが掛けられた。柔らかで暖かいカシミヤに似た手触り。
「もうすぐ寒冷期ですよ、この時間になれば羽織るものがないと寒いでしょう?」
「ありがとう」
いつもは馬車だが今日は少し食材を買って帰ろうと思い歩く事にしたのだ。急に決めたのに、こういう物がサッと出てくるルーカスに感心してしまう。
「さあ、行きましょう」
「うん」
差し出された手を握り、2人で歩き始めた。
「今夜のメニューは決まってるんですか?」
「うん、豚の生姜焼きにしようかと思って」
「良いですねぇ、生姜焼き好きです。付け合わせにソニアのポテトサラダが食べたいです」
「良いよ。ふふ、ルーカスならそう言うと思ってた」
彼はわたしの作ったポテトサラダが好きだ。自分で作ったのとは何か違いがあるらしく、肉料理の時は決まって頼まれる。なぜ肉料理の時なのかは分からないけど。
わたしたちが通るとすれ違う人、買い物をしてる人、皆がこちらを見る。夕食の買い物をするごく普通の夫婦だと思うんだけど、どこに行っても注目を集めてしまう。最初の頃は見られて緊張したし恥ずかしさもあったけどさすがに慣れた。ボスとNo.2の妻がコソコソ隠れてばかりじゃ良くないし、適度な緊張感を保ちつつも気にし過ぎないようにしている。
「おつまみ、エビのアヒージョにしようかな…」
肉屋で豚肉を買った後、隣の魚介屋に並んでいた良いエビが目に入って呟く。エビのアヒージョはレドの好きなおつまみだ。
「レドの好物ですね、喜びますよ」
「じゃあ、エビ買っていこうかな。あ、そうだ、ミルクも欲しい」
「はい。何処でもお供しますよ、奥さん」
ルーカスが笑いながら言った。
いつも食材は店の物とまとめて購入して保存しておく。貯蔵庫も冷蔵庫も組み込まれた魔石によって時間経過がないので腐る心配もない。だから普段はあるもので作るが、今日は出掛けたついでにこうして好きな食材を買い歩いている。
たまには自分で見て買い物しないとね。
わたしはルーカスと思う存分買い物をして、レドが待つ家へと帰った。
84
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる