R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる

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98.年末

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 年の瀬も押し迫り、今年も残すところ数日となった。だがここでは前世のように大掃除や初詣があるわけでは無い。ただ年末年始はどの店も休みになり、家族や仲間と過ごすのが一般的で酒場も休みになる。

  そして今日は年内営業最終日で22時閉店。いつもならステージに立った後は裏へ引っ込むソニアも今夜はお客さんを見送っていた。

 「ソニアちゃんまた来年!」
 「来年までソニアちゃんに会えないなんて…」
 「それを言うな!会えない時間が思いを育てるんだぞ!」
 「ソニアちゃん、年始は歌うでしょ?絶対来るよ!」
 「来年まで唐揚げもお預けか…」

  皆次々に声を掛けるが一人一人に返事はできない。そこでソニアは店を後にする皆に向かって最高の笑顔で挨拶する。

 「皆さん、今年はありがとうございました。来年もよろしくお願いします」

  お客たちは優美に一礼する姿に見惚れる。彼女が顔を上げてもう一度微笑むとまた声を掛けようとするが・・・その真後ろに笑顔で立っているルーカスを見て諦め、帰っていった。











 閉店後オーナー部屋には、いつものメンバーに加えてリラと彼女の父、兄までが揃っていた。

 「「…え?」」

  話がある、と呼ばれて来た父と兄は緊張の面持ちでソファーに座っていたが、レドの言葉に目を丸くした。もちろんリラも。

 「こ、米酒とショーユ造り…」
 「ああ、そうだ」

  惚けたまま呟く父親に頷いてみせるレド。

  そう、話とはリラの父と兄を酒杜氏としてピアニーの酒屋に迎え入れる事だった。すでにピアニーも了解していて、彼らが受け入れればすぐに顔合わせをする予定になっている。

 「呑んでみろ」

  わたしはレドの目配せを受けてピアニーの米酒を出した。

  親子は顔を見合わせてから米酒を口に含む。味を確かめるその表情は、先程とは打って変わった職人の顔だ。

  やがて父親が口を開く。

 「旨い…儂等が造っていた米酒よりもずっと…」
 「…親父、オレはこの旨い米酒造りに関わりたい」
 「ああ…儂もだ。…レドモンド様、このお話、喜んでお引き受け致します。いえ、ぜひこちらからお願いしたい」

  こうして、難航すると思われていた職人探しは思わぬ者の出現によって急速に進んだ。

  やはり米酒造りに情熱を燃やす酒杜氏同士、顔合わせも上手くいってリラの一家は年明け早々にも酒場裏に越してくる事になった。

  ・・・ここの裏にはいったい幾つの空き家があるのだろうか。聞いてもきっと驚くだけなので止めておきました。










 大晦日、夕食もお風呂も済ませて熱燗を飲みながら年が明けるのを待っていた。

  考えてみればここに来てまだ一年も経っていないが、不思議ともう何年も過ごしているような気がする。

  それだけ濃密な時だった。

  2人の愛しい人と結ばれ、歌い手としてステージに立ち、グラベットの初仕事も経験した。年が明ければ披露パーティーが待っている。

  感慨に耽っていると左右から2人がわたしを覗き込む。

 「どうした?」
 「ん、ここに来て一年も経ってないのに色々経験したな、と思って」
 「そういえば、ソニアが来たのは温暖期の始め頃でしたね。よく覚えてますよ。男女も年令も問わずスタッフ募集してましたが採用されるのはいつも男でしたから」
 「そうだな。たまに女が来ても俺とルーカスに色目を使う奴ばかりだからな。だが…ソニアは最初俺の顔見てドア閉めただろ、あんな反応初めてだった」

  思い出したのか、可笑しそうに笑うレド。

 「ふふ、その初日にレドがグイグイ迫ってソニアを気絶させたんでしたね。何だか随分前の事のように感じます」

  笑うレドの失態を掘り返すルーカス。

 「あの時は痛いし苦しいし怖いしで大変だったよ?」
 「あれは俺が悪かったが…それだけソニアがイイ女なんだから仕方ないだろう」
 「そうですね、ソニアが素晴らしい女性だという点は激しく同意します」

  仕方ない・・・?それはチョットオカシイ気がしますよ。それに激しく同意って・・・。まあ、今更何を言っても暖簾に腕押し、ぬかに釘、効き目などある訳がない。

 「そろそろ明けますよ」

  話しているうちに0時が近くなった。

  ここでもあけましておめでとう、とか言うのかな?なんて考えていたら、明けた瞬間・・・

「「ソニア、愛してる」」

  2人の夫から、愛の囁きと優しいキス。なんて素敵な新年の迎え方。

 「レド…ルーカス…わたしも愛してる」

  もちろんわたしも愛を込めたキスを返した。

  その後、姫始めに突入したのは言うまでもありません・・・。 


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