【完結保証】婚約破棄されましたが、私は勘違いをしていたようです。

りーふぃあ

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酒場2

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 さっきまで冷静だったはずのレンバート殿下は、氷よりも冷たい目をしていた。その迫力に、酔っ払いたちは一気に震え上がる。

 手つきだけは優しく私を後ろに押しやりながら、レンバート殿下は絶対零度の声音で告げる。

「もう一度言うが、彼女は僕にとって誰よりも大切な人だ。お前たちごときが触れていい存在じゃない」
「……っ」
「次に僕たちの前に現れてみろ。市中引き回しの後死ぬまで牢獄に放り込んでやる」
「「「す、すみませんでしたあああああああああ!?」」」

 酔っ払いたちは絶叫を上げながら逃げていく三人組。

 フン、とレンバート殿下は鼻を鳴らすと、即座に代金をテーブルに置いて私の腕を引いて歩き出す。

「あ、あの」
「……」

 向かった先は酒場の上の宿泊スペースだ。その廊下で足を止めると、レンバート殿下が勢いよく振り向いてくる。

「リオナ、腕は平気か? 痛みはないか!?」
「は、はい。大丈夫です」
「よかった……君に怪我でもあったらと思うと気が気じゃなかったよ」

 心から安堵したように息を吐くレンバート殿下。

 その姿を見て私はふと思い出した。

「そういえば、昔にもこんなことがありましたね」
「なにかあったっけ?」
「子供のころ、お茶会で私がかどわかされかけたことを覚えていますか?」

 社交界に出る前の、いわば練習のようなお茶会が貴族社会ではよく開かれる。

 当然ながら私やレンバート殿下もそう言った催しに参加した。

 私が事件に遭ったのはそのときだ。

 そして使用人に変装した誘拐犯にさらわれ、屋敷の外に連れていかれそうになった私を救ったのは――当時まだ幼かったレンバート殿下だった。

「……覚えているよ。忘れられるわけがない」
「あのときはレンバート殿下が大声を出して人を呼んでくれましたね」
「さすがに大人相手に殴りかかっても勝てるとは思えなかったからね」

 肩をすくめるレンバート殿下。

 そうた、この人はそういう人格だった。

 聡明で、勇気がある。だからこそ私はこの人と喜んで婚約した。

「さっきの会話の続きをしようか、リオナ」
「え?」
「君は僕が変わったと思っているようだけど、それは違う」

 レンバート殿下は静かにこう告げた。

「『君と一緒にこの国を世界一幸せな国にしたい』」
「……!」
「子供の頃、君と交わした約束だ。それは今でも変わっていない」

 まっすぐにこちらを見てくるレンバート殿下に、私の心臓がどきりと跳ねる。

 それは十年近くも前に二人で誓った約束だ。

 もう忘れられたと思っていたのに、今さら聞くことになるなんて。
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