14 / 26
酒場2
しおりを挟む
さっきまで冷静だったはずのレンバート殿下は、氷よりも冷たい目をしていた。その迫力に、酔っ払いたちは一気に震え上がる。
手つきだけは優しく私を後ろに押しやりながら、レンバート殿下は絶対零度の声音で告げる。
「もう一度言うが、彼女は僕にとって誰よりも大切な人だ。お前たちごときが触れていい存在じゃない」
「……っ」
「次に僕たちの前に現れてみろ。市中引き回しの後死ぬまで牢獄に放り込んでやる」
「「「す、すみませんでしたあああああああああ!?」」」
酔っ払いたちは絶叫を上げながら逃げていく三人組。
フン、とレンバート殿下は鼻を鳴らすと、即座に代金をテーブルに置いて私の腕を引いて歩き出す。
「あ、あの」
「……」
向かった先は酒場の上の宿泊スペースだ。その廊下で足を止めると、レンバート殿下が勢いよく振り向いてくる。
「リオナ、腕は平気か? 痛みはないか!?」
「は、はい。大丈夫です」
「よかった……君に怪我でもあったらと思うと気が気じゃなかったよ」
心から安堵したように息を吐くレンバート殿下。
その姿を見て私はふと思い出した。
「そういえば、昔にもこんなことがありましたね」
「なにかあったっけ?」
「子供のころ、お茶会で私がかどわかされかけたことを覚えていますか?」
社交界に出る前の、いわば練習のようなお茶会が貴族社会ではよく開かれる。
当然ながら私やレンバート殿下もそう言った催しに参加した。
私が事件に遭ったのはそのときだ。
そして使用人に変装した誘拐犯にさらわれ、屋敷の外に連れていかれそうになった私を救ったのは――当時まだ幼かったレンバート殿下だった。
「……覚えているよ。忘れられるわけがない」
「あのときはレンバート殿下が大声を出して人を呼んでくれましたね」
「さすがに大人相手に殴りかかっても勝てるとは思えなかったからね」
肩をすくめるレンバート殿下。
そうた、この人はそういう人格だった。
聡明で、勇気がある。だからこそ私はこの人と喜んで婚約した。
「さっきの会話の続きをしようか、リオナ」
「え?」
「君は僕が変わったと思っているようだけど、それは違う」
レンバート殿下は静かにこう告げた。
「『君と一緒にこの国を世界一幸せな国にしたい』」
「……!」
「子供の頃、君と交わした約束だ。それは今でも変わっていない」
まっすぐにこちらを見てくるレンバート殿下に、私の心臓がどきりと跳ねる。
それは十年近くも前に二人で誓った約束だ。
もう忘れられたと思っていたのに、今さら聞くことになるなんて。
手つきだけは優しく私を後ろに押しやりながら、レンバート殿下は絶対零度の声音で告げる。
「もう一度言うが、彼女は僕にとって誰よりも大切な人だ。お前たちごときが触れていい存在じゃない」
「……っ」
「次に僕たちの前に現れてみろ。市中引き回しの後死ぬまで牢獄に放り込んでやる」
「「「す、すみませんでしたあああああああああ!?」」」
酔っ払いたちは絶叫を上げながら逃げていく三人組。
フン、とレンバート殿下は鼻を鳴らすと、即座に代金をテーブルに置いて私の腕を引いて歩き出す。
「あ、あの」
「……」
向かった先は酒場の上の宿泊スペースだ。その廊下で足を止めると、レンバート殿下が勢いよく振り向いてくる。
「リオナ、腕は平気か? 痛みはないか!?」
「は、はい。大丈夫です」
「よかった……君に怪我でもあったらと思うと気が気じゃなかったよ」
心から安堵したように息を吐くレンバート殿下。
その姿を見て私はふと思い出した。
「そういえば、昔にもこんなことがありましたね」
「なにかあったっけ?」
「子供のころ、お茶会で私がかどわかされかけたことを覚えていますか?」
社交界に出る前の、いわば練習のようなお茶会が貴族社会ではよく開かれる。
当然ながら私やレンバート殿下もそう言った催しに参加した。
私が事件に遭ったのはそのときだ。
そして使用人に変装した誘拐犯にさらわれ、屋敷の外に連れていかれそうになった私を救ったのは――当時まだ幼かったレンバート殿下だった。
「……覚えているよ。忘れられるわけがない」
「あのときはレンバート殿下が大声を出して人を呼んでくれましたね」
「さすがに大人相手に殴りかかっても勝てるとは思えなかったからね」
肩をすくめるレンバート殿下。
そうた、この人はそういう人格だった。
聡明で、勇気がある。だからこそ私はこの人と喜んで婚約した。
「さっきの会話の続きをしようか、リオナ」
「え?」
「君は僕が変わったと思っているようだけど、それは違う」
レンバート殿下は静かにこう告げた。
「『君と一緒にこの国を世界一幸せな国にしたい』」
「……!」
「子供の頃、君と交わした約束だ。それは今でも変わっていない」
まっすぐにこちらを見てくるレンバート殿下に、私の心臓がどきりと跳ねる。
それは十年近くも前に二人で誓った約束だ。
もう忘れられたと思っていたのに、今さら聞くことになるなんて。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
平民ですが何か?私、貴族の令嬢ではありません…
クロユキ
恋愛
「イライザお前と婚約破棄をする」
学園の朝の登校時間にルーカス・ロアン子息子爵から婚約破棄を言われたイライザ。
彼の側には彼女のロザンヌ男爵令嬢がいた。
ルーカスから一方的に婚約破棄を言われたイライザ、彼とは婚約はしていないのに「先に言っておく」と婚約破棄を言われたイライザ、その理由がルーカスの母親が腹痛で動けない時イライザと出会いイライザは持っていた自分の薬をルーカスの母親に渡し名前も言わずにその場を離れた。
ルーカスの母親は、イライザの優しさに感動して息子のルーカスに婚約を考えていた。
誤字脱字があります更新が不定期です。
よろしくお願いします。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる