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勧誘

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 近くに見つけた泉のほとりに腰を下ろし、クレスト様からマントを預かる。

 魔法陣の刺繍を確認。

 ……うん、ほつれ一つない。耐久性にも問題なさそうだ。

 不意にクレスト様が尋ねてくる。

「お前は公爵令嬢だったな、ルミア」
「え? は、はい」
「長子か? 誰か家を継ぐ者は他にいるか?」
「姉がすでに結婚していて、家の跡継ぎも生まれています」

 サンドラ姉様が伯爵家の令息を婿に取り、すでに三歳になる息子も生んでいる。婚約破棄の家族会議の際は、サンドラ姉様の旦那様が子どもの面倒を見ていたっけ。

「あの、それがなにか……?」

 私が聞くと、クレスト様は私の目をまっすぐ見た。

 その力強い視線に思わずたじろぐけれど、そんな私に構わずクレスト様は告げた。

「お前の魔法服を作る技術は素晴らしい。我が国に来ないか? 宮廷に魔道具作り専門の部署がある。長らく魔法服を作れる職人不足に悩まされていたが……お前がいれば新たに魔法服の部門を作れる」
「宮廷魔道具職人!? 私がですか!?」
「ああ」

 宮廷に勤める魔法使いや剣士はそれぞれ宮廷魔法士、騎士として尊敬される。

 宮廷魔道具職人はそれらと肩を並べる立ち位置だ。

 しかも新たな部署を作るということは……私がその長になるのと同じこと。

 つまり私は騎士団の幹部並みのポジションとして勧誘されている。

「お前は自覚がないようだが、魔法服というのは作れるものが限られている。その素晴らしい腕前を帝国で生かさないか?」
「それは、帝国の発展のためですか?」
「それもある。だが、俺も見てみたい。お前の魔法服がどれだけ多くの人間の生活を変えるのか」

 クレスト様の言葉に心を動かされる。

 たくさんの人を幸せにする喜びを、私はダンカンさんの店で働いてから知ってしまった。

 それが宮廷魔道具職人になんてなったら、もっともっと味わえる。

 けれど、私は首を横に振った。

「……光栄ですが、辞退させていただきます」
「理由を教えてもらえるか?」
「私は公爵令嬢ですから、やっぱり最後はどこかの名家と結婚して、家の発展に役立たないといけません。職人のまま過ごすことはできないんです」

 今はダンカンさんの店でお世話になっているけど、いずれはそれも辞めることになるだろう。

 それは仕方がないことだ。

「……そうか。急に勧誘してすまなかったな」
「いえ、気持ちは嬉しかったですから」
「女にフラれたのは人生で初めてだ」
「なぜ急に自慢したんですか?」
「冗談だ」

 まあクレスト様はモテそうではあるけど。

 ――と。

「探したよルミア。まさかこんなところにいるなんてね」

 騎士たちをぞろぞろと連れて、フロッグ殿下がやってきた。
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