上 下
32 / 88

ファルジオン邸5

しおりを挟む
「……本当に似合っているんでしょうか」
「私が選んだんだから間違いないわよ」
「服に負けていませんかね……」
「卑屈になるのもそこまでにしなさい。まったく、もう少し自信持ちなさいってのに」

 ミリネア様にばっちりコーディネートされた私は、中庭へと戻っているところだ。

 廊下を歩くとファルジオン家の使用人とすれ違う。


「おい……お嬢様の隣にいたのって……」
「ああ、元がいいのはわかっていたがあそこまで……」


 なにやらひそひそと会話する使用人たちに、私は居心地が悪くて仕方なかった。

 何を言っているか聞こえなかったけど、悪意がないことを祈りたい。

 中庭に戻る。

「やあ、随分とじっくり選んで……たん、だね」

 そこで待っていたフィリエル殿下が、私を見た途端に動きを止めた。

 じっと信じがたいものを見るような目で私を見ている。

 あああ、もしかして反応に困るほどに合っていないんだろうか。

「あーあ、わかりやすいリアクションしちゃってまあ」

 ミリネア様が呆れたように隣で何か言っているけど、全然頭に入ってこない。

「ほら、フィリエル。レイナを見てなにか言うことはないの?」
「……はっ、今僕はなにを」
「動揺し過ぎでしょあなた……それで、なにか言うことは?」

 フィリエル殿下は、ごほんと咳ばらいをしてから私の元まで歩いてくる。

 それから、どこか赤い顔をして告げた。

「綺麗だよ、レイナ。黙ってしまったことはすまなかった。あまりにドレス姿が美しすぎて言葉が出てこなかったんだ」
「な、な、な」
「本当に綺麗だ。一緒に歩くことが緊張してたまらないくらいに」
「あ、ありがとうございます」

 ストレートに褒められて頭が真っ白になってしまう。

 ……いや、この人は昔から装った女性を褒めてくれる人ではあるけれど!

 私はやっぱりこういう褒め言葉にはいつまでたっても慣れることができない。

「やはりミリネアはさすがだよ。磨けば光る宝石だって、職人の技術がなければ光りようがない」
「ふふん、そうでしょう? 私にかかればこんなものよ」
「もちろんレイナの魅力が前提だけどね」
「結局そこに行きつくわけね。別に否定しないけど」

 フィリエル殿下とミリネア様の会話が聞こえてきて、より落ち着かなくなってくる。

 こ、このまま褒められ続けるのは耐えられない。

「え、ええと、これからお店に行くんですよね?」
「ああ、そうだった。そろそろ待ち合わせの時間なんだ。ミリネア、それじゃあまた」
「ええ」

 そんなやり取りのもとお茶会はお開きとなった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

天才過ぎるという理由で婚約破棄されました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,960

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,053pt お気に入り:3,089

【完結】私の可愛い騎士さま(付き合ってます)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:49

【完結】貴族の矜持

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:1,916

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:9,606pt お気に入り:258

たとえあなたに選ばれなくても【本編完結 / 番外編更新中】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,570pt お気に入り:2,745

公爵様と行き遅れ~婚期を逃した令嬢が幸せになるまで~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:390pt お気に入り:24

処理中です...