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ファルジオン邸4

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「……ミリネア様」
「どうしたのよ、改まって」
「私、あのドレスを着ることができませんでした。いえ、正確には着てパーティーに参加することができなかったんです」
「……どういうことよ?」

 私はロージア家のカントリーハウスであった出来事をミリネア様に伝えた。

「本当にごめんなさい。せっかくあのドレスは、ミリネア様が私のために贈ってくださったのに……!」

 言いながら涙をこぼしてしまう。

 こんなにもミリネア様は私のことを大切にしてくれているのに、私はそれに報いることができなかった。

 なんて情けないんだろう。
 自分が嫌になる。

「レイナ、落ち着きなさい」

 ぎゅう、とミリネア様に後ろから抱きしめられた。

「み、ミリネア様?」
「レイナ、あなたが気にすることなんてないわ。悪いのはどう考えてもそのマリーとかいう小娘や、ロージア家の人間だもの。むしろあなたの大一番に、私の贈ったドレスを着ようとしてくれたってだけで私は嬉しいわ」
「……ですが、結局はそれもできませんでした」
「いいのよ、そのくらい」
「そ、そのくらい?」

 私が思わず顔を上げると、ミリネア様はにっこり微笑んで言った。

「ドレスが奪われたなら、また作ればいいのよ。そうね、明日また同じ店に行きましょう。もっと似合うものを買ってあげるわ」
「さ、さすがにそれは」
「さっきも言ったでしょう? 私はあなたを着飾らせるのが趣味なのよ。だからあなたが心苦しく思うことなんてないわ」
「ミリネア様……」

 明らかに私を気遣って言ってくれていることだ。

 けれど私はあまりの嬉しさにまた涙がこみあげてきてしまう。

 ミリネア様は苦笑を浮かべた。

「ほら、泣かないの」
「で、でも、私はミリネア様に何もお返しできません」
「うーん……どうもレイナは自分のことを過小評価していないかしらね」
「え?」
「フィリエルに対してもだけど、レイナは私たちに接するときに縮こまり過ぎな気がするわ。別に友人にプレゼントを贈るくらい普通のことなのに」

 ミリネア様はなにをいっているんだろう。そんなの当たり前のことだ。

「だ、だって私はただの男爵令嬢で……」
「そうね。けど、私もフィリエルも、あなたがその立場で収まる人間なんかじゃないと思ってるのよ? 学院で一緒だった頃からね」
「え?」

 私は目を瞬かせた。一体どういう意味だろう?

「まあその話は置いておいて。気を取り直して、ドレスアップを続けるわよ!」

 ミリネア様はそう言って話を打ち切り、化粧品選びを再開するのだった。
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