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破滅の足音(マリー視点)
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私――マリー・ロージアは美少女だ。
子爵の中でもトップクラスに有力なロージア家に生まれ、ルックスもよく、みんなからはいつもちやほやされていた。
そんなには兄がいる。
ちょっと素行が悪いけど、見た目的には悪くない。私には優しいしね。
そんな兄に婚約者ができた。
これがまあ……地味な女だった。
レイナ・ミドルダム。
ミドルダム男爵家とかいう田舎貴族の令嬢で、服装にもセンスがないし、顔立ちもぱっとしない。
全体的に暗いっていうか。
こんなのが義姉かぁ、とがっかりした記憶がある。
そんな冴えない義姉がある日突然いなくなった。
兄の誕生日パーティーの日に、屋敷から逃げ出したのだ。
両親はカンカンに怒っていた。パーティーの片づけをしなきゃいけないのに、レイナがいなくなったせいで人手が足りなくなった。
おかげで臨時の使用人を雇わなくちゃならなくなって、出費がかさんだからだ。
『無駄な金をかけさせるなんて、役立たずな婚約者め!』と父が言っていた。
……まあ私にはどうでもいいんだけど。
重要なのはレイナがくれたドレスだ。
あの義姉にしてはいいものを持っていたので、そのまま自分のものにした。
あんな地味な義姉にはもったいないドレスだったしね。
私はさっさと王都に帰り、レイナのドレスを着てお茶会に参加した。
するとまあ、盛り上がる盛り上がる。
「マリーさん、そのドレスはまさか『ヘルメス』の作品では?」
「本当だわ! すごい、間近で見るとこんなに素敵なのね!」
「そ、そう? えへ、えへへへへへ」
令嬢たちに褒められて最高に気分がよかった。
初めて見たときは気付かなかったけど、これは超有名ブランドの『ヘルメス』のドレスだったのだ。お茶会に参加している中でヘルメスのドレスを着ている子なんて一人もいない。
私が有頂天になっていると、不意に声をかけられた。
「あなた、『ヘルメス』のドレスを持っているの? すごいわね」
「そ、ソニア様!?」
声をかけてきたのはソニア・バーリング侯爵令嬢。
お茶会の主催であり、貿易で莫大な利益を上げるバーリング家のお嬢様だ。
「よく似合っているわ。あなた、名前は?」
「ま、マリーです」
「そう、よろしくね、マリー。それにしても本当に素敵なドレスだわ」
私は感動した。お茶会には誘われているものの、実際にソニア様とまともに話してもらったのは初めてだ。
「ソニア様もヘルメスの作品が好きなんですか?」
「ええ。けど、どうしても買えないの」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。あの店はファルジオン家が出資しているんだけど……うちはあの家とは違う派閥だから、紹介状が手に入らなくて」
「そうなんですか……」
あれ? これっていい情報じゃない?
バーリング家はロージア家なんて比べ物にならないほどの家柄。
仲良くなれれば美味しい思いができる!
その一心で私はソニア様にこう提案した。
「それなら、あたしがソニア様にヘルメスのドレスをプレゼントします!」
「本当!?」
「はい!」
紹介状のことはよく知らないけど、まあレイナが持ってるくらいだからなんとかなるでしょ。
「ありがとう、マリー! 私、楽しみにしているわ!」
にっこり笑ってソニア様は私にそう声をかけてくれた。
私は内心で大喜びをした。
やった! これでソニア様とお近づきになれるわ!
「紹介状のない方は当店をご利用いただけません」
「なんでよ! あたしはロージア家の娘よ!?」
「そう言われても……当店は質のいいサービスのため、完全紹介制となっておりますので」
意味がわからない!
なんで私が門前払いなんてされないといけないの!?
今までこんなことはなかった。
私が頼んだら、お父様もお母様もお兄様も、みんななんでもいうことを聞いてくれたのに!
なんて失礼な店なんだろう。
両親にも相談してみた。
けれど「諦めなさい」と言われるばかり。
諦められるわけがないでしょう!? もうソニア様にドレスをプレゼントするって言っちゃったのに!
このままドレスが手に入らなかったら私は嘘つきになってしまうじゃない!
それは困るので何度もヘルメスに行き続けていたら――なんと救世主が現れた。
ミリネア・ファルジオン様。
王国きっての名家の長女で、彼女の前ではソニア様すらかすんでしまうほどだ。
そんな彼女は私のためにドレスを用意するよう掛け合ってくれた。
するとあれだけ頑固だった店主もドレスを作ると言ってくれた。
「ありがとうございます、ミリネア様!」
「いいのよ、このくらい」
ミリネア様はにっこり微笑んで言ってくれた。
ああ、素晴らしい人だわ!
もうソニア様に尻尾を振るのはやめて、ミリネア様に鞍替えしようかしら?
そんなふうに思ってしまうほどだ。
やっぱり私はお願いするだけでなんでも叶ってしまうのね!
ばしゃっ。
「……え?」
意味がわからない。
私は今日、一か月前に注文した私とソニア様のドレスを受け取りにヘルメスへとやってきていた。
そこにはミリネア様もいて、ドレスの完成を喜んでくれた。
このままドレスを持ってソニア様のもとに向かう予定だった。
そしてそのままバーリング家のお茶会でドレスをプレゼントし、一気にソニア様と距離を縮めるつもりだったのだ。
しかしプレゼントにするはずだったドレスはお茶で汚され、とても人に贈れる状態ではなくなってしまっていた。
「な、なんで!? どういうことなの!?」
混乱する私に、ミリネア様は冷ややかな態度だった。
私のことを罵倒してくる。
さらに隠れていたレイナが出てきた。
なんでこの女がここに!?
「レイナはあたしから見ても尊敬に値する人間よ。あなたごときが『レイナ』と呼び捨てにしていいような相手じゃない。次にそう呼んでいるのを見かけたら――潰すわよ」
私は膝から崩れ落ちそうだった。
ミリネア様はレイナの味方だったのだ。
そんな彼女に私は何を言った?
年上のレイナを呼び捨てにし、馬鹿にしたような発言を繰り返した。
しかもミリネア様は、私がレイナからドレスを奪ったことを知っていた。
きっとレイナが話したんだ。
私は逃げるようにその場を後にした。
……その後に続く、破滅の足音が少しずつ聞こえていた。
子爵の中でもトップクラスに有力なロージア家に生まれ、ルックスもよく、みんなからはいつもちやほやされていた。
そんなには兄がいる。
ちょっと素行が悪いけど、見た目的には悪くない。私には優しいしね。
そんな兄に婚約者ができた。
これがまあ……地味な女だった。
レイナ・ミドルダム。
ミドルダム男爵家とかいう田舎貴族の令嬢で、服装にもセンスがないし、顔立ちもぱっとしない。
全体的に暗いっていうか。
こんなのが義姉かぁ、とがっかりした記憶がある。
そんな冴えない義姉がある日突然いなくなった。
兄の誕生日パーティーの日に、屋敷から逃げ出したのだ。
両親はカンカンに怒っていた。パーティーの片づけをしなきゃいけないのに、レイナがいなくなったせいで人手が足りなくなった。
おかげで臨時の使用人を雇わなくちゃならなくなって、出費がかさんだからだ。
『無駄な金をかけさせるなんて、役立たずな婚約者め!』と父が言っていた。
……まあ私にはどうでもいいんだけど。
重要なのはレイナがくれたドレスだ。
あの義姉にしてはいいものを持っていたので、そのまま自分のものにした。
あんな地味な義姉にはもったいないドレスだったしね。
私はさっさと王都に帰り、レイナのドレスを着てお茶会に参加した。
するとまあ、盛り上がる盛り上がる。
「マリーさん、そのドレスはまさか『ヘルメス』の作品では?」
「本当だわ! すごい、間近で見るとこんなに素敵なのね!」
「そ、そう? えへ、えへへへへへ」
令嬢たちに褒められて最高に気分がよかった。
初めて見たときは気付かなかったけど、これは超有名ブランドの『ヘルメス』のドレスだったのだ。お茶会に参加している中でヘルメスのドレスを着ている子なんて一人もいない。
私が有頂天になっていると、不意に声をかけられた。
「あなた、『ヘルメス』のドレスを持っているの? すごいわね」
「そ、ソニア様!?」
声をかけてきたのはソニア・バーリング侯爵令嬢。
お茶会の主催であり、貿易で莫大な利益を上げるバーリング家のお嬢様だ。
「よく似合っているわ。あなた、名前は?」
「ま、マリーです」
「そう、よろしくね、マリー。それにしても本当に素敵なドレスだわ」
私は感動した。お茶会には誘われているものの、実際にソニア様とまともに話してもらったのは初めてだ。
「ソニア様もヘルメスの作品が好きなんですか?」
「ええ。けど、どうしても買えないの」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。あの店はファルジオン家が出資しているんだけど……うちはあの家とは違う派閥だから、紹介状が手に入らなくて」
「そうなんですか……」
あれ? これっていい情報じゃない?
バーリング家はロージア家なんて比べ物にならないほどの家柄。
仲良くなれれば美味しい思いができる!
その一心で私はソニア様にこう提案した。
「それなら、あたしがソニア様にヘルメスのドレスをプレゼントします!」
「本当!?」
「はい!」
紹介状のことはよく知らないけど、まあレイナが持ってるくらいだからなんとかなるでしょ。
「ありがとう、マリー! 私、楽しみにしているわ!」
にっこり笑ってソニア様は私にそう声をかけてくれた。
私は内心で大喜びをした。
やった! これでソニア様とお近づきになれるわ!
「紹介状のない方は当店をご利用いただけません」
「なんでよ! あたしはロージア家の娘よ!?」
「そう言われても……当店は質のいいサービスのため、完全紹介制となっておりますので」
意味がわからない!
なんで私が門前払いなんてされないといけないの!?
今までこんなことはなかった。
私が頼んだら、お父様もお母様もお兄様も、みんななんでもいうことを聞いてくれたのに!
なんて失礼な店なんだろう。
両親にも相談してみた。
けれど「諦めなさい」と言われるばかり。
諦められるわけがないでしょう!? もうソニア様にドレスをプレゼントするって言っちゃったのに!
このままドレスが手に入らなかったら私は嘘つきになってしまうじゃない!
それは困るので何度もヘルメスに行き続けていたら――なんと救世主が現れた。
ミリネア・ファルジオン様。
王国きっての名家の長女で、彼女の前ではソニア様すらかすんでしまうほどだ。
そんな彼女は私のためにドレスを用意するよう掛け合ってくれた。
するとあれだけ頑固だった店主もドレスを作ると言ってくれた。
「ありがとうございます、ミリネア様!」
「いいのよ、このくらい」
ミリネア様はにっこり微笑んで言ってくれた。
ああ、素晴らしい人だわ!
もうソニア様に尻尾を振るのはやめて、ミリネア様に鞍替えしようかしら?
そんなふうに思ってしまうほどだ。
やっぱり私はお願いするだけでなんでも叶ってしまうのね!
ばしゃっ。
「……え?」
意味がわからない。
私は今日、一か月前に注文した私とソニア様のドレスを受け取りにヘルメスへとやってきていた。
そこにはミリネア様もいて、ドレスの完成を喜んでくれた。
このままドレスを持ってソニア様のもとに向かう予定だった。
そしてそのままバーリング家のお茶会でドレスをプレゼントし、一気にソニア様と距離を縮めるつもりだったのだ。
しかしプレゼントにするはずだったドレスはお茶で汚され、とても人に贈れる状態ではなくなってしまっていた。
「な、なんで!? どういうことなの!?」
混乱する私に、ミリネア様は冷ややかな態度だった。
私のことを罵倒してくる。
さらに隠れていたレイナが出てきた。
なんでこの女がここに!?
「レイナはあたしから見ても尊敬に値する人間よ。あなたごときが『レイナ』と呼び捨てにしていいような相手じゃない。次にそう呼んでいるのを見かけたら――潰すわよ」
私は膝から崩れ落ちそうだった。
ミリネア様はレイナの味方だったのだ。
そんな彼女に私は何を言った?
年上のレイナを呼び捨てにし、馬鹿にしたような発言を繰り返した。
しかもミリネア様は、私がレイナからドレスを奪ったことを知っていた。
きっとレイナが話したんだ。
私は逃げるようにその場を後にした。
……その後に続く、破滅の足音が少しずつ聞こえていた。
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