愛ゆえに～幼馴染は三角関係に悩む～

17．久しぶりの訪問

レオポルティーナは、次にフェルディナントと会った時、さっそく観劇に誘ってみた。

「フェル兄様、王立劇場で今、上演されている『ロベルトとジュリエッタ』っていう美しい悲劇を知ってますか？敵対する家に生まれた2人が許されない愛に殉じるお話なの。令嬢達に今、すごい人気なのよ」
「いや、私は知らないな」
「侯爵家のボックス席でフェル兄様と一緒に観劇できませんか？」
「うーん…そうだなぁ…」
「お嬢様、悲劇はおふたりにお似合いにならないですよ。不吉です」

フェルディナントは演劇に興味がない上にレオポルティーナと恋人同士のようなデートをしたくなくて観劇に気が進まない。それを見てヨハンが口を挟んだ。レオポルティーナの侍女ベッティーナはその様子を不快に思ったが、またヨハンと喧嘩になるといけないので何も言わなかった。

ヨハンは子供の頃、他人のいない時にはレオポルティーナを『ティーナ』と呼んでいたのにいつの頃からか『お嬢様』としか呼ばなくなった。でもレオポルティーナは、もしかしたらフェルディナントが嫉妬してそう呼ばせることにしたのかもと前向きに考えていた――いや、そう考えたかったのかもしれない。

「でもヨハン…今、上演しているのはこれだけなのよ」
「それでは縁起のよい劇が上演されるまで待てばよいではないですか。そうですよね、フェルディナント様？」
「あ、いや…そうだな…」
「えっ、そんな…」
「お嬢様、またにしましょうね。劇場は逃げて行きませんから」

普通は使用人が主に意見することなどないのだが、幼馴染ポジションのヨハンは別格だ。フェルディナントが言いくるめられてしまってレオポルティーナは不満を覚え、一計を案じることにした。

翌週、レオポルティーナは久しぶりにフェルディナントのロプコヴィッツ侯爵家に来てフェルディナントと彼の母の3人でティータイムを楽しんでいた。幼い頃、レオポルティーナは母と共に侯爵家をしょっちゅう訪れてフェルディナントの両親とも親交を温めたものだった。でも最近はフェルディナントが最近ヨハンと出掛けることが多くなり、レオポルティーナが侯爵家に行く機会が激減した。

「ティーナ、いらっしゃい。久しぶりね。夫が仕事で来られなくて残念がっていたの。また前のようにしょっちゅう来てくれるようになったらうれしいわ。うちは息子しかいないからティーナが来ると明るくなるのよ」
「母上、息子だって家を明るくしますよ」
「でもお買い物とかお茶したり、観劇したりって殿方はあまり好きじゃないでしょう？」
「まあ、そうですね。私には今、ご婦人達に人気のものなんて分かりませんし」
「それなら『ロベルトとジュリエッタ』っていう悲劇が今、王立劇場で上演されているのをご存知ですか？私の友達も観劇して最後は号泣したって聞きました」
「それなら私もこの間お茶会で聞いたわ。今、人気なんですってね。フェルディナント、うちのボックス席でティーナと観てらっしゃいよ」

ロプコヴィッツ侯爵夫人レティシアの提案にフェルディナントの後ろに立っているヨハンは顔をかすかに歪めた。だが隣同士に座っているフェルディナントとレオポルティーナも2人の向かい側に座っているレティシアもその表情に気付かなかった。レオポルティーナの背後に控えている彼女の侍女ベッティーナだけは、その表情に気付いて怒りを覚えたが、よその貴族宅で喧嘩を始めるわけにいかないので黙っているしかなく、ヨハンの態度にどんどん不満が募っていく。

「えっ、おば様、いいんですか？！」
「年間ボックス席をあってもめったに使わないんですもの。せっかくだから有効活用してほしいわ」
「母上もまだ観てないんでしょう？父上と4人でどうですか？」
「あら、いやだわ。若い2人のお邪魔をするなんてバチが当たっちゃう」

『若い2人』と聞いてヨハンはまた胸が苦しくなったが、それがまた表情に出てないかどうか自信が持てなかった。