命のその先で、また会いましょう

春野 安芸

文字の大きさ
10 / 43
第1章

009.ふれあい

しおりを挟む
 死後の世界。そこで魂だけの存在となってしまった俺。
 最初は混乱して見知らぬ少女に掴みかかったりもしてしまったが案外人は慣れを得意とする生き物のようでだんだんと順応してきているのを感じる。
 魂だけ、人によっては幽霊とも呼称される存在となり過ごしていくことで、殆ど死んでいるといっても過言ではないこんな身体でもいくつかメリット・デメリットが存在することに気がついた。

 まずデメリット。それは五感のうち3つが感じられないことだ。
 神様によると視界や聴覚自体は魂が見て聞いているとのことで問題なく機能しているが、その他に付いては全く無い。つまり嗅覚、触覚、味覚である。
 そもそもこの世界のものに触れられないのだから口にすることができないという味覚以前の問題。一度向こうの世界でパンを作って食べてみたが、まるで紙を食べているような感覚だった。
 単に俺の力不足なのかも知れないが少なくとも現時点において味覚が働いたことはない。
 そして嗅覚は絶賛停止中だ。この街に降り立ってから何一つとして臭いというものを感じていない。触覚も同様、さっき蒼月に引っ張られたが身体が動くだけで腕の感覚は一切なかった。

 更にデメリットとして誰の目にも入らないことが挙げられるだろう。
 さすがは幽霊というべきか、これまで蒼月以外に話しかけられたことはおろか、視線を向けられたことさえない。しかしこれは一方で潜入調査にうってつけという見方ができるかも知れない。

 次にメリット。これはいくつか考えられるが身体の感覚がない分疲れも感じなくなったことが大きいだろう。
 どれだけ没頭しても変な体勢でいようともそれによる不具合が起きることはない。創造をする時は何故か気力が持っていかれるが、それ以外の作業ならば気力が続く限り何でも永遠に続けられるようにも思えた。

 そして暑さ寒さを気にしなくて良くなったのもメリットかも知れない。
 今の季節は春。まだ暑い寒いの両側に属さないどっちつかずな季節だが、それでも日の照っている海というものは暑さや紫外線が気になるところだろう。
 そういったものとは無縁になったのはいいこと……いいことなのだが……

「なぁ……これは一体何の冗談だ?」
「えっ?膝枕だけど?」

 そんなもんはわかってる。
 問題はなんでこうなったのかということだ。

 (ほぼ)死んで魂だけとなった俺は、海辺の堤防にて生まれて初めて女の子の膝枕をされていた。
 一体……一体なんなのだこれは。彼女に促されるまま堤防に登ったらすぐここで寝ろって言われて。
 何か裏があるかと思ったらそうではないし彼女は一体何の目的で膝枕をしろと言ったのだ。
 幸いなのはこんなところで寝ても苦痛じゃないことだろう。硬いコンクリでできた堤防の上でも痛みはないし直射日光を浴びても暑さや不快感すらない。強いて残念な点を挙げるなら頭に当たっているハズの柔らかさすら感じ取れないことだろうか。

「そうじゃなくって、なんで突然膝枕?」
「だって煌司君、ここ1週間くらいずっとぶっ通しで色々創ってたじゃん。ちょっとは休まないと!」
「でもこの身体、疲れも貯まらないし休む必要あるのか?」
「無いけど……。それでも大事なの!ほら、いざ現実で目を覚ました時加減忘れちゃって大変なことになっちゃうよ!」

 それは……否定できない。
 正直この一週間は初めてゲームを買ってもらったかのような、初めて与えられたスマホに夢中になったときのような、そんな初めてかつ唯一の暇つぶしを見つけて舞い上がっていた。
 それに集中していたら他のことは考えなくて済む。この目で見たとはいえ未だ完全には信じられない自身の現状から目を逸らしたい部分もあったのだ。

 しかしまさかまたも現世に行けるとは思いもしなかった。
 自分が知っている土地ではないが既視感を覚える日本の風景。そして遠く遠く広がる水平線を見ていると俺の思いさえもちっぽけなものにさえ思えてしまう。

「……まぁ、それもそうかもな」
「でしょう?こうやって潮風に当たってリラックスするのもいいものだよ」
「風の感覚なんて一切無いけどな」
「あっ、それは禁止~!」

 軽口を叩き合い笑った後は互いに口を開くことなく遠くの海へと視線を向ける。
 死んだとはいえ海の偉大さは変わらない。ただただそこに鎮座し幾千幾万もの命を育んでいく。
 今の身体ならその深淵、深海の奥深くまで潜って秘密を見つけられるかも知れない。はたまたここから飛び立って宇宙の謎を解明できるかも知れない。
 そんな壮大な夢をちっぽけな妄想を織り交ぜながら広がる景色に思いを馳せていると、ふと視界の端に何か影が差したような気がして横を向いていた視線を上に移動させる。

「……なんだ。蒼月の胸か」
「あっ!こっち見るの禁止~!」

 何かと思ったら前かがみになった影響で目の端に胸の影が見えただけらしい。
 正体の分かった俺は興味なく呟くと眉を吊り上げた彼女が俺の顔を無理やり横へと向けてくる。

「はっ!確かにスタイルはいいけど誰がお前のをわざわざ見るかっての!」
「膝枕してるのにその言い方は酷いよ~!そんな事いう煌司君は落ちちゃえっ!!」
「ばっ!!落ちる!マジで落ちる!!」

 彼女の怒りを鼻で笑うと、まさかの実力行使として横になっている俺を堤防から落とそうとしてくる。
 ここは堤防。反対側なら1~2メートル下の道路に落ちるだけで済むが、押してる方向は明らかに逆側、3メートルは下の消波ブロックの群れだ。さすがにこっちは不味いって!死ぬ!もう死んでるけど!!

「だったら私に言う事あるよね~?」
「くっ……。蒼月さんは可愛くて美人でスタイル抜群な女の子のです!」
「なんだかわざとらしい~!もう一回!」

 嘘ぉ!?
 俺の必死の説明にも目もくれずまさかのおかわり。
 そうしている間にも俺の頭は膝から落ち、ズルズルズルズルと端に向かってゆっくり動く。
 他に何か蒼月が喜びそうな言葉は……

「……蒼月さんの接近にドキドキして誤魔化しました!!」
「なら許すっ!」

 破れかぶれ。
 意地もプライドもなく今度こそ思ったことを口にするとパッと押していた手を離してくれる。

「死ぬかと思った……」
「まったく、女の子は繊細なんだから丁重に扱わないと壊れちゃうんだよ!」
「それは死んでいてもか?」
「死んでても!女心は永久不滅なんだから!」

 何その不死身。強すぎない?
 しかし本当にドキドキした……別の意味で。
 どうやら魂だけになっても感情というものは絶賛稼働中みたいだ。

 しかし一方で性欲というものは無いこともわかった。さっき彼女の胸が近くてもそういったイヤラシイ思いが一切浮かばなかったのはそういうことだろう。どうやら人間の三大欲求がすっぽり抜け落ちているようだ。

 そんな胸を張る彼女に生暖かい目を向けていると、彼女の大きな目がふと海や俺とは別の方向に向いたのに気がついた。

「あれ……?」
「どうした?不意打ちで落とそうっていったってそうはいかないぞ。」
「そんな事しないよ! アレ見てアレ!」
「あれ?……海釣りの人たちか?」

 そう言って彼女が指さしたのは少し遠くにある防波堤。
 ここから見た感じ少人数ではあるが釣りをしている人が見えている。別に普通の光景。なにもないように見えるが。

「うん。そこに女の子が見えない?膝抱えてる!」
「女の子?……あぁ。確かに見えるけど、それがどうした?」

 よくよく見れば釣りをしている人たちの中心付近で一人の女性が膝を抱えて座っているのが見て取れた。
 珍しくはあるが、わざわざ口に出すほどか?

 眉間にシワを寄せながら頭の中で浮かんだその問いを口にするより早く、彼女は口を開く。

「あの人、私達とおんな魂だけの存在なんじゃないかな?」
「……はぁ?なんでそうなる?」

 突然そんな事言い出す蒼月に俺は呆れ顔。
 何の根拠があってそんなこと。もしかしたら特別なオーラか何か発しているかと思って目を凝らして見るも、やっぱり他の人と大差ない。
 泣いているのはなんとなくわかるが、やっぱり勘違いだろう。

「おおかた彼氏と喧嘩したか、釣れなくて泣いてるとかじゃないか?」」
「ううん、明らかに格好が変……っていうか普通に私服すぎる。それになんだか他の人と違う感じ……煌司君!ちょっと行ってみよう!」
「あ、おいっ!」

 遠くから防波堤を見ていた蒼月だったがブツブツと何か呟いたかと思ったら突然立ち上がって駆け出してしまった。
 少し離れた位置で「早く~!」と声を張りながら俺を待つ蒼月。これ、俺も行く流れなの?

「……しょうがねえなぁ」

 ここで待っていようか、それとも先に戻っていようかとも考えたが、正直俺一人だと向こうの世界への戻り方も何もわからない。
 なんであれ彼女に付いていくしか無いんだ。そう腹をくくった俺は起き上がって彼女の元へ駆けていき、揃って膝を抱える女性の元へ向かうのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

処理中です...