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第1章
002.濡れ鼠
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「そんな…………私の事を知らない人が居るなんて……」
「えっと……ごめん?」
豪雨が降り続ける中、雷にも負けないような公園中に響き渡る叫び声を発した彼女はヘナヘナと膝から崩れ落ちる。
そんな彼女に俺は謝ることしかできなかった。
自信満々に胸を張っていた少女。しかし今は見る影もない。
誰だろう……本当にわからない。
ここらで名の知れた人物なのだろうか。いや、ありえない。この辺りは俺の近所だ。これほど目を惹きつける容姿をした人が居たのなら忘れることなどありえない。
「…………いいのよ。まだまだ私も頑張らなくちゃいけないわね」
膝に手を当てながらそれを支えになんとか立ち上がる彼女を見て手伝おうと思ったものの手で制されて俺の動きが止まる。
「ありがと、平気よ。 ……それより、なんだか雨弱まってないかしら?」
「うん? 確かに……ちょっとずつ弱くなっていってるような……?」
その声に揃って空を見上げるとその言葉の通り勢いよく打ち付けていた雨は段々と衰えていき、5分もたたないうちにシトシトといった雨に変貌していた。
まだ止んではいないがさっきとは雲泥の差。これならバッグの中身が濡れる心配はゼロに等しいだろう。
「これくらいなら行けそうね……ねぇ!キミの家ってここからどのくらい!?」
「えっと、5分くらいかな?」
「そう…………それなら走るわよ!」
「えっ……!? ちょ……!!」
彼女は俺の返事も待たずその小さくて細い腕を伸ばして俺の手を掴む。そしてそのまま彼女は靴が汚れるのも厭わず泥に足を踏み入れ、公園の出口へと走っていく。
「ねぇっ! ちょっとまって!」
「なによ!雨が止んだ今がチャンスなのよ! これを逃すと二人とも濡れ鼠確定よ!!」
「それはわかってる!行くのもわかったからちょっとまって!!」
「なによっ!!」
俺の言葉に従って急ブレーキをかけるものの今度は俺がその突然の動きに驚いて衝突しかける。危なかった……
「それで、なにかあったの?」
「いや……その……俺の家、逆方向……」
「…………へ?」
彼女が走ったのは俺がさっき公園に入ってきた入り口。
しかし目的地は反対だ。いくつもあるこの公園の出入り口から正反対を選ぶとは天才か。
「そ……それを早く言いなさいよ!ほらっ、早く行くわよ!」
「あ、うん」
そう言い捨てて来た道を引き返す彼女に黙ってついていく。
初対面にも関わらず、そんな彼女の振り回すような行動に俺は久しぶりに人のぬくもりを感じていた。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「はぁ……はぁ……久しぶりにこんなに走った……」
「なによ、だらしないわねぇ。このくらい大した距離も速度も無いでしょう」
何度も迷いかけた彼女をなんとか誘導し、無事自宅――――マンションの玄関にたどり着いた俺は全力ダッシュの反動で満身創痍となっていた。対して先導して走っていた彼女は何事もないように余裕の表情。解せぬ。
「俺のシャツを頭に被った不審者のクセに……」
「不審者? いいえ、違うわね。見てこれ、ウェディングドレスのベールみたいでしょ」
そう俺に見せつけるようにクルンと一回転する不審者。確かにすごく綺麗だがそれを言うのもシャクなのでひねくれた回答を模索する。
「ブーケにはまだ10年以上先でしょ。小学生」
「……なにか言った?」
「いいや、なにも?」
その問いにとぼける俺。彼女は怪訝な表情を見せたがすぐに元に戻りエントランスへと進んでいく。
「あら、ここオートロックなのね。開けられる?」
「はいはい。ちょっとまってて」
その言葉に俺はバッグから自宅の鍵を取り出してロックを解除する。それを見た彼女はズンズンと先行するように更に奥へ。
「それにしてもギリギリだったわね」
「何が?」
「雨よ雨。ほら、段々と強くなってきてるでしょう?」
「あぁ」
エレベーターを待っている間にも雨脚は随分と強くなっている。どうやらジャストのタイミングで帰り着いたようだ。
「っと、来たわね。 何階?」
「7階。というか俺が先導しないと」
「いいのよ。私に任せて頂戴」
何がいいのだろうか。それで道中何度も迷ったのに。
「…………いいの?こんな単純に着いてきて」
「なんのこと?」
エレベーター内でふと俺は彼女に問いかける。当の本人は何のことか察しがついていないようだ。
「ほら、俺たち初対面だし、それなのに家に来るだなんて……」
「あぁ、そのことね。 私、人を見る目には自信があるから大丈夫よ」
どこからその自信がくるのか。けれど信頼してくれて悪い気はしない。
「それとも、なにか問題を起こすつもりだったの?」
「まさか。お金渡してそのコートの泥を落としたらすぐ出ていってもらうよ」
俺は余裕を見せるように肩をすくめる。
けれど内心はかなり緊張していた。かなりの年下とは言え家族以外を上げるなんて初めてのことだ。部屋汚れたりしていなかったっけ。
「そうだったわ……コート、これ落ちるかしら……」
「洗濯すれば……多分……」
俺たちは一抹の不安を覚えながら7階にたどり着いたエレベーターを降りていった。
「ここ?」
「うん。鍵開けるから待ってて」
「ふぅん……前坂って言うのねぇ」
扉の前でようやく彼女の前に立った俺は鍵を錠に突き刺す。そう言えば名前を伝えていなかったっけ。
「そう、前坂 慎也。ようこそ俺の家へ」
「前坂……慎也…………うん、覚えたわ。私は神代 愛玲菜よ。エレナでいいわ。よろしくね、慎也」
「っ……!」
そんな彼女の堂々としたウインクに少し顔が赤くなるのを感じてしまう。それにしても下の名前とは、海外の人は下の名で呼び合うのが主流なのだろうか。
「よ、よろしく。それじゃあ入って。お茶くらいは入れるよ」
「ありがと。遠慮なくお邪魔するわ」
さっきとは打って変わって大人しく俺に続いて入ってくるエレナ。何でもかんでも振り回すかと思ったが案外わきまえているのだろうか。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「はい、冷たいのでよかった?」
「えぇ、助かるわ。それにしてもすごい雨ね」
場所は変わってリビング。
エレナは受け取ったお茶をすすりながらベランダへの窓から見える空を見ながらアンニュイな様子で呟くのを横目に、向かい側に腰を下ろす。
今は彼女が汚した泥まみれのコートの洗濯待ちだ。
そのコートの下はどんな不審者的な風貌かと若干楽しみだったが案外普通の服だった。ミント色のティーシャツに黒の短パンと、正直奇抜なものじゃなくてがっかりした面もある。
「そうだな。なんだか段々と風が強くなってきてる気もするし」
「そうね……あの子達大丈夫かしら……?」
「ん?」
「何でもないわ。気にしないで」
なにか呟いたような気もしたが俺の耳までは届かなかった。それにしてもさっきの豪雨に比べて風まで強くなって締め切っているのにゴウゴウと音が聞こえてくる。ここ最近の台風にしては相当強いものだ。
「ホテルまで行けそう?」
「まぁなんとかしてみせるわ。お金もありがとね。ちゃんと返すから」
「……期待せずに待ってるよ」
人にお金を貸す時はあげるつもりで。よく聞く言葉だ。
額は痛いが小学生が宿無しになるくらいなら安いもの。今回もそれに習って返還は期待していない。
「いえ、必ず返すわ。家も覚えたし、乗り込んででもね」
「う……うん……」
彼女はテーブルを乗り越える勢いで上半身を乗り出して俺と向き合う。そんな彼女の碧い瞳が俺の心の底まで見透かすような気がしてつい目を逸してしまった。
「よしっ!そろそろ洗濯も終わる頃ね。乾燥はいいから」
「えっ、いいの?」
「えぇ。シミにならないくらい泥を落とせれば十分。残りはクリーニングでどうにかするわ」
その言葉と同時に洗面所から洗濯の終わりを知らせる電子音が聞こえてくる。
「……終わったみたいね」
「……うん」
「それじゃあ私は行くわ。楽しかったわよ」
彼女は席を立ち残ったお茶を一気飲みする。そんな様子に俺はほんの少しの寂しさを覚え、認めてたまるかと振り払う。
「…………はい。コートは袋に入れておいたからクリーニングも忘れないでね」
「もちろんよ。帽子は……いいわ。どうせ外には誰も居ないんだもの」
俺は洗濯機からコートを取り出して半乾きのそれをビニール袋に突っ込んでから渡す。
そう言えば帽子はあの時吹き飛ばされたままだった。台風が過ぎたら探してみるのもいいかもしれない。
「……それじゃ、行くわね。またお金返す時に」
「期待はしてないけどね」
「だから絶対……まぁいいわ。それじゃまたね」
その言葉を最後に玄関への扉を開いて彼女は去っていった――――――ことはなく、扉を開けようとしない。
5秒、10秒と待つものの彼女はドアノブをひねったままフリーズしてしまっていた。どうしたのかと一歩前に出る。
「……どうしたの?」
「い……いや…………おかしいわね。鍵も開いてるし、扉が開かないのよ!」
彼女と位置を入れ替わって扉を確認するも確かに鍵は開いている。けれどドアノブを回してもその扉が開かれることはない。
まるで反対側から誰かが押さえつけているみたいだ。……なんだか嫌な予感がする。
「おかしいね……こんなこと初めてだ……」
「ちょっと退いて!力ずくで行くわ……………んっ!!」
扉前から俺を引き剥がしたエレナは肩を扉に当て力づくで開けようとする。すると段々とその扉は動いていき…………
「やった!開いたわ!…………ぶっ!!」
喜んだのも束の間。扉が開いて彼女を出迎えたのは暴風と豪雨だった。
熱烈な歓迎を受けてすぐに扉を閉じたものの時既に遅し。たった一瞬でもあるが大自然のシャワーを一身に受けたその姿は、さながら濡れ鼠のように変貌していた。
「…………ごめん、無理」
「シャワー……浴びてく?」
俺の言葉に小さく頷くエレナ。どうやら彼女との付き合いはもう少し続きそうだ。
「えっと……ごめん?」
豪雨が降り続ける中、雷にも負けないような公園中に響き渡る叫び声を発した彼女はヘナヘナと膝から崩れ落ちる。
そんな彼女に俺は謝ることしかできなかった。
自信満々に胸を張っていた少女。しかし今は見る影もない。
誰だろう……本当にわからない。
ここらで名の知れた人物なのだろうか。いや、ありえない。この辺りは俺の近所だ。これほど目を惹きつける容姿をした人が居たのなら忘れることなどありえない。
「…………いいのよ。まだまだ私も頑張らなくちゃいけないわね」
膝に手を当てながらそれを支えになんとか立ち上がる彼女を見て手伝おうと思ったものの手で制されて俺の動きが止まる。
「ありがと、平気よ。 ……それより、なんだか雨弱まってないかしら?」
「うん? 確かに……ちょっとずつ弱くなっていってるような……?」
その声に揃って空を見上げるとその言葉の通り勢いよく打ち付けていた雨は段々と衰えていき、5分もたたないうちにシトシトといった雨に変貌していた。
まだ止んではいないがさっきとは雲泥の差。これならバッグの中身が濡れる心配はゼロに等しいだろう。
「これくらいなら行けそうね……ねぇ!キミの家ってここからどのくらい!?」
「えっと、5分くらいかな?」
「そう…………それなら走るわよ!」
「えっ……!? ちょ……!!」
彼女は俺の返事も待たずその小さくて細い腕を伸ばして俺の手を掴む。そしてそのまま彼女は靴が汚れるのも厭わず泥に足を踏み入れ、公園の出口へと走っていく。
「ねぇっ! ちょっとまって!」
「なによ!雨が止んだ今がチャンスなのよ! これを逃すと二人とも濡れ鼠確定よ!!」
「それはわかってる!行くのもわかったからちょっとまって!!」
「なによっ!!」
俺の言葉に従って急ブレーキをかけるものの今度は俺がその突然の動きに驚いて衝突しかける。危なかった……
「それで、なにかあったの?」
「いや……その……俺の家、逆方向……」
「…………へ?」
彼女が走ったのは俺がさっき公園に入ってきた入り口。
しかし目的地は反対だ。いくつもあるこの公園の出入り口から正反対を選ぶとは天才か。
「そ……それを早く言いなさいよ!ほらっ、早く行くわよ!」
「あ、うん」
そう言い捨てて来た道を引き返す彼女に黙ってついていく。
初対面にも関わらず、そんな彼女の振り回すような行動に俺は久しぶりに人のぬくもりを感じていた。
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「はぁ……はぁ……久しぶりにこんなに走った……」
「なによ、だらしないわねぇ。このくらい大した距離も速度も無いでしょう」
何度も迷いかけた彼女をなんとか誘導し、無事自宅――――マンションの玄関にたどり着いた俺は全力ダッシュの反動で満身創痍となっていた。対して先導して走っていた彼女は何事もないように余裕の表情。解せぬ。
「俺のシャツを頭に被った不審者のクセに……」
「不審者? いいえ、違うわね。見てこれ、ウェディングドレスのベールみたいでしょ」
そう俺に見せつけるようにクルンと一回転する不審者。確かにすごく綺麗だがそれを言うのもシャクなのでひねくれた回答を模索する。
「ブーケにはまだ10年以上先でしょ。小学生」
「……なにか言った?」
「いいや、なにも?」
その問いにとぼける俺。彼女は怪訝な表情を見せたがすぐに元に戻りエントランスへと進んでいく。
「あら、ここオートロックなのね。開けられる?」
「はいはい。ちょっとまってて」
その言葉に俺はバッグから自宅の鍵を取り出してロックを解除する。それを見た彼女はズンズンと先行するように更に奥へ。
「それにしてもギリギリだったわね」
「何が?」
「雨よ雨。ほら、段々と強くなってきてるでしょう?」
「あぁ」
エレベーターを待っている間にも雨脚は随分と強くなっている。どうやらジャストのタイミングで帰り着いたようだ。
「っと、来たわね。 何階?」
「7階。というか俺が先導しないと」
「いいのよ。私に任せて頂戴」
何がいいのだろうか。それで道中何度も迷ったのに。
「…………いいの?こんな単純に着いてきて」
「なんのこと?」
エレベーター内でふと俺は彼女に問いかける。当の本人は何のことか察しがついていないようだ。
「ほら、俺たち初対面だし、それなのに家に来るだなんて……」
「あぁ、そのことね。 私、人を見る目には自信があるから大丈夫よ」
どこからその自信がくるのか。けれど信頼してくれて悪い気はしない。
「それとも、なにか問題を起こすつもりだったの?」
「まさか。お金渡してそのコートの泥を落としたらすぐ出ていってもらうよ」
俺は余裕を見せるように肩をすくめる。
けれど内心はかなり緊張していた。かなりの年下とは言え家族以外を上げるなんて初めてのことだ。部屋汚れたりしていなかったっけ。
「そうだったわ……コート、これ落ちるかしら……」
「洗濯すれば……多分……」
俺たちは一抹の不安を覚えながら7階にたどり着いたエレベーターを降りていった。
「ここ?」
「うん。鍵開けるから待ってて」
「ふぅん……前坂って言うのねぇ」
扉の前でようやく彼女の前に立った俺は鍵を錠に突き刺す。そう言えば名前を伝えていなかったっけ。
「そう、前坂 慎也。ようこそ俺の家へ」
「前坂……慎也…………うん、覚えたわ。私は神代 愛玲菜よ。エレナでいいわ。よろしくね、慎也」
「っ……!」
そんな彼女の堂々としたウインクに少し顔が赤くなるのを感じてしまう。それにしても下の名前とは、海外の人は下の名で呼び合うのが主流なのだろうか。
「よ、よろしく。それじゃあ入って。お茶くらいは入れるよ」
「ありがと。遠慮なくお邪魔するわ」
さっきとは打って変わって大人しく俺に続いて入ってくるエレナ。何でもかんでも振り回すかと思ったが案外わきまえているのだろうか。
―――――――――――――――――
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「はい、冷たいのでよかった?」
「えぇ、助かるわ。それにしてもすごい雨ね」
場所は変わってリビング。
エレナは受け取ったお茶をすすりながらベランダへの窓から見える空を見ながらアンニュイな様子で呟くのを横目に、向かい側に腰を下ろす。
今は彼女が汚した泥まみれのコートの洗濯待ちだ。
そのコートの下はどんな不審者的な風貌かと若干楽しみだったが案外普通の服だった。ミント色のティーシャツに黒の短パンと、正直奇抜なものじゃなくてがっかりした面もある。
「そうだな。なんだか段々と風が強くなってきてる気もするし」
「そうね……あの子達大丈夫かしら……?」
「ん?」
「何でもないわ。気にしないで」
なにか呟いたような気もしたが俺の耳までは届かなかった。それにしてもさっきの豪雨に比べて風まで強くなって締め切っているのにゴウゴウと音が聞こえてくる。ここ最近の台風にしては相当強いものだ。
「ホテルまで行けそう?」
「まぁなんとかしてみせるわ。お金もありがとね。ちゃんと返すから」
「……期待せずに待ってるよ」
人にお金を貸す時はあげるつもりで。よく聞く言葉だ。
額は痛いが小学生が宿無しになるくらいなら安いもの。今回もそれに習って返還は期待していない。
「いえ、必ず返すわ。家も覚えたし、乗り込んででもね」
「う……うん……」
彼女はテーブルを乗り越える勢いで上半身を乗り出して俺と向き合う。そんな彼女の碧い瞳が俺の心の底まで見透かすような気がしてつい目を逸してしまった。
「よしっ!そろそろ洗濯も終わる頃ね。乾燥はいいから」
「えっ、いいの?」
「えぇ。シミにならないくらい泥を落とせれば十分。残りはクリーニングでどうにかするわ」
その言葉と同時に洗面所から洗濯の終わりを知らせる電子音が聞こえてくる。
「……終わったみたいね」
「……うん」
「それじゃあ私は行くわ。楽しかったわよ」
彼女は席を立ち残ったお茶を一気飲みする。そんな様子に俺はほんの少しの寂しさを覚え、認めてたまるかと振り払う。
「…………はい。コートは袋に入れておいたからクリーニングも忘れないでね」
「もちろんよ。帽子は……いいわ。どうせ外には誰も居ないんだもの」
俺は洗濯機からコートを取り出して半乾きのそれをビニール袋に突っ込んでから渡す。
そう言えば帽子はあの時吹き飛ばされたままだった。台風が過ぎたら探してみるのもいいかもしれない。
「……それじゃ、行くわね。またお金返す時に」
「期待はしてないけどね」
「だから絶対……まぁいいわ。それじゃまたね」
その言葉を最後に玄関への扉を開いて彼女は去っていった――――――ことはなく、扉を開けようとしない。
5秒、10秒と待つものの彼女はドアノブをひねったままフリーズしてしまっていた。どうしたのかと一歩前に出る。
「……どうしたの?」
「い……いや…………おかしいわね。鍵も開いてるし、扉が開かないのよ!」
彼女と位置を入れ替わって扉を確認するも確かに鍵は開いている。けれどドアノブを回してもその扉が開かれることはない。
まるで反対側から誰かが押さえつけているみたいだ。……なんだか嫌な予感がする。
「おかしいね……こんなこと初めてだ……」
「ちょっと退いて!力ずくで行くわ……………んっ!!」
扉前から俺を引き剥がしたエレナは肩を扉に当て力づくで開けようとする。すると段々とその扉は動いていき…………
「やった!開いたわ!…………ぶっ!!」
喜んだのも束の間。扉が開いて彼女を出迎えたのは暴風と豪雨だった。
熱烈な歓迎を受けてすぐに扉を閉じたものの時既に遅し。たった一瞬でもあるが大自然のシャワーを一身に受けたその姿は、さながら濡れ鼠のように変貌していた。
「…………ごめん、無理」
「シャワー……浴びてく?」
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