不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第1章

003.妹?姉?

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『台風は現在猛烈な勢力を保ったまま南の海上を北進し、今夜遅くにでも上陸―――――――』

 なんとなくソファーに座ってテレビを見ていた俺は、ピッと電源を落とす。
 数あるチャンネルでニュースが数多く流れる時間帯。そのどれもが今回の台風について解説していた。
 どこも言うことは口を揃えて『これから酷くなる』の一点張り。予報によると今はまだ強風域、まだ暴風域という名の魔王が待ち構えているらしい。。

「外……出れるの?これ…………」

 真っ暗になったテレビからベランダへと視線を移す。
 外に置いていた危険なものは既に退避済みだから問題ない。しかし風が吹き荒れる音と共に窓は揺れ、空を飛ぶように袋やら紙やら様々なものが舞っていた。
 ここ数年で一番の台風。ここまで酷いとなるとこれからの予定にも一考し直さなければならない。

「戻ったわ。お風呂ありがとね」

 窓から外の様子を眺めていると、懸念事項がシャワーから戻ってきた。
 振り返ると二つ結んだ美しい髪を解いて後ろに流し、フェイスタオルを肩に掛けたエレナが指で弄りながら立っているのが目に入る。

「お帰り。サイズも合っていたみたいでなにより」
「えぇ。ピッタリ……とは言えないけど十分よ。助かったわ」

 自然界のシャワーを浴びて瞬く間に濡れ鼠になった彼女。
 さっきびしょ濡れになった服は洗濯した。今回はコートと一緒に乾燥もする。
 今着ている服は俺が渡したものだ。多少サイズが大きくボタついているが十分許容範囲内だろう。

「それにしても都合よく私に近いサイズの服があったわね…………!! もしかして……私を連れ込むことを見越して!?」
「そんな予知能力持ってたら雨宿りなんてしてないから……。 二つ下の妹の服だよ」
「ぶぅ。 冗談なんだから乗ってくれてもいいじゃない」

 そんな彼女の小言を聞き流す。
 妹の事を思い出したら会いたくなってくるじゃないか。

「それにしても妹さんが居たのね……ご両親も居ないみたいだし、外出中?帰ってこられるの?」
「いや……それは……」

 その疑問は当然のことだろう。
 俺がどう説明しようか考えていると彼女の方から気まずそうな言葉が続く。

「あっ……ごめんなさい。もしかして聞いちゃいけないことだった?」
「ううん、亡くなったとかそういうことじゃなくって……ここしばらくは親も妹も帰ってこないから」
「……?詳しく聞いても?」
「えっと……父さんが仕事で海外に行っちゃってね。二人はそれに付いていって俺だけここに残ったってことなんだ」

 ここまで説明すれば理解してくれるだろう。現に彼女はしばらく思案し、すぐに手を叩いて理解を示す。

「なるほど!つまり一人置いていかれちゃったわけね!」
「言い方! 置いていかれたんじゃなくて俺が残りたいって志願したの!」

 その表現と事実には天と地ほどの違いがある。事実、俺は生まれ育ったこの街が大好きだし友人も居るからと何度も交渉して一人残ったのだ。その際この家に居続けるための条件も提示されてしまったが。

 行き先は海外。国が離れることに随分と心配されたが、最終的に俺の熱量を認めて折れてくれた。
 ……決して日本語以外話せないわけではない。

「ふぅん……つまり一人暮らしなのね。大変じゃない?掃除とか」
「そんなことないよ。汚れが綺麗になってくのを見るのは好きだし、身体を動かすのも好きだしね」
「そう……」
「でも――――」

 つまらなさそうに返事をする彼女に俺は言葉を重ねる。

「でも……部活やってたらそうもいかなかったかな。 きっと疲れて寝るだけの生活を続けて家事どころじゃなかったと思う」
「……っ! そうよねっ!!」
「わっ!?」

 彼女はソファーの背もたれに手を掛けて俺との距離を詰めてくる。その勢いに気圧されて座ったまま距離を取るもの彼女の髪が垂れ、俺の肘に当たるくらいまで近寄られる。その顔同士の距離は約10センチ。

「やっぱりキミも忙しいと家事が手につかないって思うわよね!?」
「ま……まぁそうでしょ。疲れ切ったら宿題すらやる気起きないんだし」

 何が琴線に触れたのかわからないがエレナは興奮した様子で俺と目を合わせる。元から大きかった目が更に開かれてその碧い瞳に吸い込まれてしまうような錯覚に陥る。

「でしょっ! 私のところなんてやれ帰ってきたら掃除しろだの、やれ簡単な料理くらい覚えなさいだの事あるごとに言われるのよ! 酷いと思わない?」
「あ、あはは…………」

 きっと母親が厳しい人なのだろう。でも簡単な料理くらいは覚えておいて損は無いと思うのだが。

「キミからも言ってほしいわ!疲れてる時に鞭打つな!って、あ…………ご、ごめん!近かったわね!」

 ようやく俺との距離に気がついたのか彼女は慌てた様子で離れていく。急いでソファーから離れ床に座った彼女は手のひらで顔を扇ぎ始めた。

「ううん、エレナも大変なんだね」
「ぶう……なんかあやすような言い方~!」

 実際あやすつもりで言ってるのだから仕方ない。
 小学生の時って特にあるよね「宿題やろうと思ったけど親に言われて萎えた案件」。忙しいと言ってもそれに近いものだろう。

 手をパタパタさせて熱を冷ます少女。
 そんな彼女を微笑ましく見つめていると、ふと窓を揺らす音が大きくなり、目を向けると先程より一層雨風が強くなって横殴りとなった雨粒が窓を叩きつけていた。

「ねぇ……エレナ」
「…………何を聞きたいのかわかるけど一応聞くわ。何?」
「これから暴風域入るって言ってたけど、外歩ける?」
「…………」

 その問いに彼女は答えない……というより言い出せないと言ったほうが正しいか。ふと彼女を見ると何度もこちらを伺っており俺から切り出すのを待っているかのように感じられた。

「あ~……じゃあ、今晩泊まる?部屋余ってるし……」
「いいの!? ……じゃなくって、そんなに懇願するなら聞き入れてあげないことも無いわ!」

 なんと都合の良い耳か。俺はただ苦笑いを浮かべることしかできない。

「まぁ、うん。俺はいいけど…………そんな簡単に人の家に泊まってくなんて言っていいの?」
「あら、なぜ?」
「危ないとか思わない?」
「あぁ、さっきも言ったじゃない、人を見る目には自信があるって。 それに簡単じゃないわ。家族以外で人の家に泊まるのはこれが初めてだもの」

 その事実に俺は信頼されていると嬉しくなると同時に恥ずかしくなって背に汗を感じ始める。
 それでも随分見切り発車だった気もするが、今指摘してもどうにもならないだろう。

「それに、最低限の護身用具は持ってるしね」
「?」
「ほら、これよ」
「…………うわぁ」

 どこに隠し持っていたのか、彼女が懐から取り出したのはハンディタイプのスタンガン。本物かはわからないがこんなものを喰らったらひとたまりもないだろう。

「ね、平気でしょ? それにキミはなんていうか……弟って感じがするのよね」
「弟? なんで?」

 どう考えても俺が兄だろう。彼女はノリでしか行動してない雰囲気だし年齢的にも。

「…………今何考えてるか当ててみせようか?」
「えっと、聞かせて?」
「このちんちくりんが姉なわけ無い。でしょ?」
「……正解」

 そこまで顔に出ていただろうか。けれどどう見たってそうなのだから仕方ない。

「そうだろうと思ったわ。ほら、これ」
「? これは…………なぁっ!?」 

 彼女がバッグからなにかカード状のものを取り出し俺へ突き出してきた。
 何事かとそれを受け取って見ると保険証のようだ。カードに記載されている生年月日をみて俺は驚愕してしまう。

「17歳……俺より一つ年上!? 先輩!?」
「やっぱり年下だったのね。だと思ったわ」

 驚きで震える俺の手から保険証をそっと抜くエレナ。こんなちんちくりんが!?先輩!?

「その……今まで失礼しました。先輩」
「うぇ……何よその態度、気持ち悪いわね」

 頭を下げる俺に気持ち悪がるエレナ。背格好的になんとも奇妙な図が出来上がってしまう。

「気持ち悪いって……」
「いいのよ、そんな上だとか下だとか気にしなくって。今まで通りキミは私の弟なんだから」
「うん。ありが――――ちょっとまって」

 いつから俺が弟になった。
 そもそも弟になるなら本当の妹の弟になりたい。……混乱してきた。

「……なによ?」
「だれが、だれの弟だって?」
「それはもちろん。ユーが、ミーの」
「なんで英語……」

 彼女の突飛な言動に頭を抱えてしまう。もう深く考えずにいたほうがいいのかも知れない。弟だの姉だのはどうせその場のノリだろう。

「……それより、はい」
「なにこれ?」

 俺が彼女との会話の仕方を把握し、顔を上げたところに差し出されたのは5千円札と千円札2枚の計7千円が。

「……ほら、泊めてもらうんだから返却と、残りはせめてものというか……残りの千円は勘弁して!電車すら乗れなくなっちゃうから!」
「あぁ、なるほど。でも大丈夫」

 俺はその意図を理解して彼女の手から貸した5千円札だけを受け取る。

「えっ……どういうことよ。あと2千円は……」
「俺も、最近家に一人は退屈だったから。その暇つぶしと考えたらお金は取れないよ」

 建前でもあるがそれは俺の本音の一つだ。家族がみんな海外行ってしまって家ではずっと一人。
 俺以外の人が来たことなんて一人暮らしを開始してから初めてのこと。なによりただ泊めるだけのことにお金をもらう気はサラサラ無い。

「でも……」
「ん~……じゃあ、今から夕飯作るから手伝ってくれない?簡単なお手伝いだけだからさ」

 なおも食い下がろうとするエレナに、交換条件とばかりに手伝いを要求する。ずっと一人だと心が死ぬというのは本当なのだろう。今日の俺は久しぶりに一人の夜じゃないからか少しテンションが高いことが自分でも感じ取れる。

「……わかったわ! 私の実力を見せて上げるから覚悟しなさい!」
「うん、楽しみにしてる」

 俺は彼女と一緒にキッチンへと足を運ぶ。


 けれど今日俺は自らの言動をこれから心底後悔する。
 自信満々に告げられた”彼女の実力”をこの目で見た俺は、またもや頭を抱えることになるなど、この時は思いもしなかった―――――――
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