不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第4章

080.狂喜乱舞

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「……ふぅ」
「だ……誰だったの?」

 下との通話を終えた俺は一息つく。
 すると客人から震えた声で問いかけがあり、なんてことなく肩を竦める。

「エレナだったよ。エレベーター上がればここに来るから」
「おぉぉぉぉぉ!!」

 どこから声を出したのか、クレッシェンドが効いた魂の叫びが聞こえてきた。
 いつの間にか彼女は俺の横に張り付いているものだからその声も耳元で響いて若干耳鳴りがする。
 けどまぁ、ここまで喜んでくれると俺としては悪い気がしない。俺の力など何一つ無く完全にエレナの善意によるものなのだが、この笑みだけは自分事のように見てもバチは当たらないだろう。

「でもどうしよう!?学校終わりで身だしなみ何にもしてない!前坂君!ちょっと今からお風呂入らせて!!」
「5分もせずに来るんだよ?お風呂入る余裕ないでしょ!」
「『臭いわね。おととい来なさい』なんて言われたらどうしようぉ……あぁ、でもそれはそれで嬉しいかもぉ……」

 喜びを越えて混乱の真っ只中にいる小北さん。
 この夏からの付き合いだが、絶対にそんな事は言わないので安心してほしい。
 それに『臭い』なんて俺が言われたら悲しみに泣いてしまうが、彼女にとってはプラスに思えるものらしい。憧れとは時にここまで感情を際立たせるものなのか。

 クラスメイトの思わぬ一面に驚いているとピンポーン――――と、来客を告げるチャイムがまたも鳴り響いた。

 今度は……玄関だ。
 エレナがたどり着いたのだろう。

「小北さん」
「ひゅぁういっ!!」

 なんて返事?

「……俺は玄関まで迎えに行ってくるから、ソファーに座って待っててもらえる?」
「ま……待って!」

 真横に付く彼女にお願いをして一人廊下へ繰り出そうとすると腕が彼女によって引っ張られる。どうやら袖の部分を掴んでいるようだった。立ち止まって振り返る。

「私も……行っていい? お願いしたいんだし、最初から挨拶……したいから」
「それも、そうだね。 じゃあ玄関までお願い」
「うんっ!」

 今まで不安そうにしていた表情が一転、花が咲いたようにぱっと明るくなる。

 その顔を見て思い出してきた。1学期に接してきた彼女について。

 男女問わず人気のある彼女。
 彼女の魅力といえばここだ。どんな人にでも分け隔てない性格に太陽のような明るい笑顔。
 噂によると何人にも告白されてきたらしいが付き合ったとかそういった話は聞こえてこない。
 もし付き合っている人がいるのなら俺の家に来ること自体……いや、さっき初めて入ったとか言ってたし本当にいないのだろう。

 まるで親鳥についていく小鳥のようにピョコピョコと歩く彼女を見て笑みをこぼしながら、玄関の扉を開け放つ。



「――――ちょっとぶり。早く着いて心配だったけど助かったわ。相変わらず元気そうね。慎也」
「おかげさまでね。エレナ」

 扉の前で立っていたのはエレナただ一人だった。
 彼女は腕組みをしながら7階からの景色を眺め、此方を振り向くと同時に微笑を浮かべてくる。
 タクシーで来たのかその姿に変装は無く、金色の髪が風にたなびかされながら、夕焼けにはまだ遠い光によってキラキラと輝いていた。

「そういえばここに上がってくるのに変装しなくていいの?」
「今更?私、パニックはともかく噂とか気にしないもの。ここの奥様方とよくエレベーターを一緒するけどみんな気さくに話しかけてくれるわよ?買い物帰りだとたまにお菓子くれるし」

 あっけらかんと語る彼女に思わず乾いた笑いが出た。

 ……もはやエレナはマンション周知の存在だったのか。
 通りで最近アイさんも含め変装姿を見ないわけだ。リオは何故か必要ないのが凄い。

「それで、その子かしら? 会いたいって言ってた子は」
「……あぁ、ごめん小北さん、今紹介するから。 エレナ、この人は小北 美代さん。クラスメイトでエレナの大ファンみたい」
「そうなの。よろしく小北さん。……あら?」

 エレナが小北さんに笑いかけるもすぐ頭に疑問符が浮かんでいく。
 それにつられて俺も彼女に目をやると、小北さんはボーッと。自らの足で立ってはいるがその身体は脱力し、瞳は焦点があっていないのか虚空を見つめているようだった。


「小北さん!……ねぇ、エレナ来てるよ!」
「はっ!!エレナ様!!」

 肩を揺らすことによってようやく意識を取り戻してくれた。
 今度こそ小北さんの目はエレナを捉えると、エレナはスッと右手を差し出して握手を促す。

「よろしく、小北さん」
「は……はい! その…………」
「なぁに?」

 けれどまだ身体が硬いのか差し出された手を握ろうとしない小北さん。
 どこを見ているのだろう。何を認識しているのだろう。思わず俺が指摘しようとしたその瞬間、彼女は目をきゅっと瞑り、まるで告白するかのように勢い任せに言い放つ。

「その……『臭い』って言ってください!!!」
「…………へっ?」

 彼女が口走った言葉は、どこからどう見ても変態の所業だった。

 思わぬ……誰も予想していなかったお願いにエレナも、俺も動きが止まってしまう。
 爆発した本人は目をギュッと瞑りながら次の言葉を待つものの、何の返答が無かったことを不思議に思ったのかゆっくりと目を開き、それがら先程の自身の発言を理解してどんどんと顔が紅く、紅から青にと変貌していく。

「えっ……あ……私……エレナ様になんてことを…………」

 ようやく自ら言ったことの意味を理解したのだろう。
 サァっと瞬く間に顔面蒼白になりながら発言を後悔する小北さんに、フリーズの解かれたエレナが笑いながら励ますのであった――――。


 ―――――――――――――――――
 ―――――――――――
 ―――――――


「いやぁ、慎也の友達は面白い子が多いのね! はい、美代さん。できたわよ」
「いやエレナ、多いって他の友達知らないでしょ…………」

 小北さんが正気を取り戻してからリビング。
 エレナは俺が入れたアイスコーヒーを片手に机に向かって書いていたものが出来上がったようだ。片手で器用にペンのキャップをはめながら小北さんを呼ぶ。

「あ……ありがとうございます!家宝にします!!」
「大げさね。けど喜んでくれて嬉しいわ」

 エレナが書いたものは小北さんが用意したサイン。玄関前の爆弾発言を訂正し、真っ先にしたお願いといえばそれだった。
 彼女は快く受け入れ出来上がったものを手渡す。ちらりと見えたそれはサインのようだが崩しすぎていてよく読めない。けれど可愛いデザイン性のものということは理解できた。夏祭りのアイさんの例もあるし、アイドルともなればそういったスキルが不可欠なのだろう。

「それと、さっきは変なこと言っちゃってすみませんでした……」
「いいのよ。ちょっと面食らっちゃったけど可愛いじゃない。男の子はそういうちょっとドジな部分に惹かれるのよ?」

 まぁ……たしかにあれから恥ずかしがる小北さんは可愛かったけど真っ青になったときはどうフォローすればいいか迷ったものだ。
 サインを抱きしめる表情は満足そうなもので。よかった、立ち直ってくれて。

「私はその……モテるとかそういうのは……」
「あら、そう? 可愛いじゃない。人当たりもよさそうだしモテるでしょ?そういうドジなところを気になる人に見せたらきっとその子も振り向いてくれるわ。ねぇ、慎也?」
「え……?あ、あぁ……うん。そう、だね?」

 なんだか、同意を求めてくる目が怖かった。
 『ねぇ、慎也?』の部分だけあまりにも声が低い。何か怒らせるようなことしたっけ?

「そんな……。エレナ様に比べたら私なんて全然ですし……それに気になる人なんて…………」
「まぁ、そういう子もいつかは現れるわよ。ゆっくり待ちなさい。あと、エレナ様はちょっと……」
「すみません!しかしエレナ様がダメならなんて呼べば……」

 やっぱりエレナは様付けが苦手なようだ。
 後でもう一度言おうと思ってたけど今度こそ殴られるだろうし自重しておく。

「普通にエレナでいいわよ」
「じゃあ……エレナさんで」
「エ・レ・ナ。いいわね? 私も美代って呼ぶから」
「そんな……光栄ですぅ」

 震える小北さんの肩にそっと手を乗せるさまは、まるでお嬢様系の少女漫画に出てくるお姉さまのようだった。
 萎縮する後輩に寛大な心で受け入れてくれるお姉さま。そこから発展するであろう禁断の…………おっと、あまり考えに浸っていたらまた睨まれそうだ。

 俺としては見ていて悪くない。悪くないけど話題の切れたであろうエレナから『何か出せ』との視線が来ていることに気づき、コホンと小さく咳払いをする。

「そういえば……エレナって今レコーディングしてるんだったよね?新曲の」
「あら、よく知ってるわね。 今日もその帰りなんだけどどうかしたの?」
「小北さんが夏祭りのときの新曲を聴けなかったみたいでさ。気になってるみたいで、今持って無い?」

 レコーディングのことはリオに聞いていた。
 もしかしたら音源かなにか持ってるかもしれない。

「そういうことね。まだ調整しきれてないけどスマホに音は入ってるわよ。 どう?美代、聴いてみる?」
「いいんですか!? ぜひっ!!」

 その言葉を受けてエレナはバッグからスマホを取り出して操作する。
 小北さんも凄く満足そうだしよかったよかった。俺何もしてないけど。

「それじゃ、いくわね」

 エレナの合図と同時にスマホから音楽が流れ始める。
 これは…………一学期のライブで聴いた最後の曲だ。ここから流すのか。
 俺たちはスマホから流れるきれいな歌声に耳を傾けるのであった――――。
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