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第5章
122.男装の麗人
しおりを挟む彼女たちが出ていってからどれくらい経っただろう。
一時間も経っちゃいないが、そこそこの時間待った気がする。
先生も施錠だけを託されて帰ってしまった。
俺は一人、本当に寂しく無為な時間を過ごしていた。
課題をやろうにも今日に限ってなにも出ていない。スマホだってそこまで深くやるタイプじゃないからそこそこの操作ですぐ暇に。
もういっそ一眠りしてやろうかと、大きく伸びをして机に思い切り寝そべったタイミングでガラガラと扉の開く音が聞こえてきた。
「リオ! 小北さ…………」
呼びかけた俺の言葉はそこで止まる。
入ってきたのはその二人で間違いなかった。人違いなんてことはない。
けれど、さっきと明らかに様相が違う。小北さんはファン故に、三人を様付けして神格化しているフシもあったが、入ってきた二人は仲良く手を繋ぎ、肩を並べていたのだ。
当然様変わりする二人の様子に俺は困惑する。入ってきた両者は俺の様子に気づく気配はなく、談笑しながらこちらに近づいてきた。
「やぁやぁ慎也クン。またせたね」
「ううん……全然…………」
向かい合って話すも離れない二人の手。
むしろ仲良くなったと見せつけるように立ち止まったまま手を前後に動かしている。
「ん? どうしたんだい慎也クン。そんな私達の手ばっか見て」
ニヤニヤと問いかけるリオを見て確信した。
まるで聞いてくれと催促するように問いかけて来るのを見て、これはリオの策略だなと理解する。
「そうだね。 リオ、随分と仲良くなったみたいだけど……今日会ったばかりだよね?」
「むっふっふ……よくぞ聞いてくれました!」
「えっ……きゃっ!」
待ってましたと言わんばかりの気合を入れるリオ。
彼女は俺が問いかけたと同時に繋いでいた手を離し、今度は小北さんの肩へと回して彼女の身体を抱き寄せる。
「慎也ク~ン。こんないい子とお知り合いだなんて聞いてないなぁ。悪いけどこの子、私が貰ってっちゃうね!」
「…………」
「えっ…………えぇ!?」
「また不思議なことを言い出したぞ」と半開きでリオを見る俺と、突然の宣言にパニックになる小北さん。
彼女の突拍子もないことは今に始まったことではない。俺だって耐性が付くんだ。
(リオちゃん!そんなこと聞いてないよ!)
(大丈夫大丈夫。私に任せてよ。美代ちゃん)
すぐ近くにいるためにヒソヒソ声での話し合いも筒抜けになってしまっている今日このごろ。
またバカな計画立て始めたなと思いつつも、さっき泣いて出ていったのとは一転して仲睦まじい光景に仲直りしたんだとホッと安堵の息が出る。
それはそれとして、リオの得意げな笑みには乗っかってみる。
「えと、貰ってくとはどういうこと?」
「ん~……そうねぇ……。 私のカノジョにしちゃうとか?」
「か……かかかか…………カノジョぉ!?」
リオの隣で抱き寄せられている小北さんは目を丸くしてわかりやすくあたふたしている。
どこかネットの海で見たことがある。ホラー映画を見てもともに見てる誰かがオーバーリアクションだとかえって冷静になる現象。
今まさに俺はそんな状況だった。百面相のようにコロコロ変わる小北さんとリオのやり取りをじっと眺めていく。
「リ……リリ……リオちゃん!」
「なんだい? ハニー?」
「ハニー!?ふぇぇ……私がハニー……うふふ……」
小北さんの呼びかけにクルンとリオの首が回って数センチの距離になる二人。
まるで男装の麗人のように堂の入った声色で、一瞬の内に小北さんをメロメロにしてしまった。
まるで目の前で繰り広げられている舞台を見ているような感覚。
そんな二人のやり寄りを見ていると、ふと不思議そうな顔でリオがこちらに顔を向けた。
「……おりょ?慎也クンってば、クラスメイトのカワイイ女の子が奪われそうだっていうのにあんまり動揺してないね」
「そりゃあ今まで散々リオの行動には驚かされたからね。耐性がついたのかも」
「ふむ……計画失敗かぁ」
どうやら何らかの計画だったみたいだと今更ながらの気づく。
被害状況と言えば小北さんがグルグル目になったくらいだ。俺としては百面相が見れて大満足である。
「それにしても慎也クンってばズルいよ。こんなに優しくっていい子とお知り合いだったなんて」
小北さんを伴ったリオは責めるようにこちらに近づいてくる。
そんなこと言われても、紹介する機会も暇もなかったから仕方ないじゃないかと首を振る。
「確かに小北さんはいい子だけど、仲良くなったみたいだね」
「この子が優しかったからね……。それでどう?慎也クンてば嫉妬しちゃった?」
「……嫉妬?」
メロメロになってトリップしている小北さんを一層強く抱くリオ。
嫉妬とは一体……今の感情とは真逆の言葉が出てきて思わず首を傾げる。
「え~?しないの~? ほら、慎也クンのことを好きな私が他の子に靡きそうなのを見て嫉妬して、私への愛を再認識すること期待してたんだけど……」
そんなことを考えていたのか。
空気感とか、リオが明らかに本気っぽくなかったし。それに……
「明らかに冗談の口調だったからね。……でも、小北さんじゃなく男の人だったら嫉妬してたかも……」
「ほんとっ!?」
「!?」
「ホントに嫉妬するの!?」
正直な心を呟くと前のめりになって聞いてくるリオ。
突然の動きに少し驚いたものの、誤魔化すように軽く咳払いして自らの心を伝える。
「まぁ……うん……嫉妬は、するかな」
「むふふ……そかそか。なら今はそれで許してやろう」
あの日俺は決めたことの一つ。それは彼女らには自らの心を偽らないこと。
率直に実直に、今の俺の思いを伝えると満面の笑みでリオは頷いてギュッと小北さんを抱きしめる。
「随分と気に入ったみたいだね」
「うん。学校でもいい子じゃない?この子」
「……そうだね」
リオの問いに素直に同意する。
あのボウリングの日も、俺が思い悩んでいたら彼女は持ち前の明るさで俺を励ましてくれた。
いい子だ。都合のいい子ではなく、優しい子。
肩に回していた手をほどき、うしろから抱きしめる形で小北さんを支えたリオは視線を彼女へと向ける。
「ちょっと話しただけでわかったよ。この子、人のことばっかりで自分のことは後回しで……慎也クンも知ってるよね?」
「うん……」
それくらいは。
彼女の明るさの原点はみんなを笑顔にすることだろう。
みんなの幸せが私の幸せ。まるでそれを体現したかのような性格で、誰に対しても分け隔てなく誰からも好かれる人気者。
容姿も十分以上に整っているからか告白も絶えないと聞いている。受けたという話は聞かないが。
「そんないい子だからこの子にも幸せになる権利…………いや、チャンスくらいはあって然るべきかなぁって思ってさ」
「?」
「慎也クンはわからなくていいよ。美代ちゃん本人もまだわからないだろうし。…………まだ、ね」
チャンス?幸せ?
よくわからない。でも、きっと女の子しかわからない複雑な感情なのだろう。
俺が不躾に入り込んで良い領域ではない。
「ほら、美代ちゃ~ん。 そろそろ起きて~!」
「ふぇぇ…………はっ!! リ、リオちゃん!」
「おはよ、美代ちゃん。 そろそろ帰ろっか」
「は……はい……」
起きて早々だが、大人しく言葉に従うように変える準備をし始める。
そういえば痛い痛い言ってた筋肉痛は引いたのかな?さっきからまったく聞かないけれど。
「小北さん、痛みは平気?」
「へ……? あ!ホントだ!いつの間にか治ってる!!」
「走った時にいい感じに身体伸びたんじゃない?予想だけど」
案外リオの予想が正解かも。
またはアドレナリンか。何にせよ痛みが引いてよかった。
「結局、リオは学校まで何しに来たの?」
「ん~? 慎也クンと遊ぼうかなぁって思ったけど、美代ちゃんと知り合えたからいいかなぁって。あ、そうそう美代ちゃん、連絡先交換しよっか」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
彼女たちはそれぞれのスマホを持ち寄って連絡先を交換する。
小北さんもきっと、自由なリオに振り回されつつ良好な関係を築いていけるだろう。
その根拠もない予感が、俺の心の中を優しく包み込んでいた――――。
「前坂クンも! 連絡先教えて!!」
「え?あぁ、うん」
「へ?慎也クン、今まで美代ちゃんの知らなかったんだ。 そっか……えへへ…………」
「?」
俺は何故か小さく笑っているリオを横目に、小北さんと連絡先を交換した――――。
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