不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第6章

147.実の親子

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「実家なのにレッスンよりつかれたわ……」

 エレナの実家を後にした道中。
 娘であるエレナは歩きながら疲労困憊といった様子でうなだれてつぶやく。

 あれからおしるこを食べて少しの雑談を終えた俺たちは、次の挨拶に行くためアイさんの家へと向かっていた。
 家を出る時、本当に息子が欲しかったのか、最後まで俺の手をママさんは離してくれなかった。
 未だに残る抱きしめられた時の感覚。あの包容力と暖かさは永遠に受け入れてしまいそうだった。

「ジー」
「な、なに……? エレナ……?」

 つい数分前のことを思い出しながら歩いていると、ふとエレナの視線がこちらに向けられていることに気づいた。
 その目は睨みつけるようなジト目。どうしたのだと一筋の汗を流しながら彼女に問いかける。

「今、ママのこと考えてたでしょ」
「っ――! いや……そんなことは……」

 図星。
 これが女の勘というやつなのだろうか。
 慌ててごまかそうとしても動揺しっぱなしだ。そんな俺の様子で彼女は察しただろうが、それ以上追求することもなく。

「べっつに~。いいけど。 慎也がスタイルの良い女の子が好きでも私が矯正してあげるんだから」

 そう言って彼女は恋人繋ぎをするように手を絡ませてこちらを見上げてくる。
 帽子を家に置いてきた彼女はチラチラと前髪ごしにこちらの様子を伺い、俺の手を引っ張って立ち止まらせたかと思いきやジャンプしてその唇を俺の頬へとそっと触れてくる。

「いい、慎也。女は身体だけじゃないのよ!こうやって引っ張っていくお姉ちゃんが最高なんだから!!」
「エレナ……」

 ここに来てからずっとハイテンションのエレナは手を持ち上げて俺の手の甲へとそっとキスをする。
 それはまるで逆転した王子様のようで、俺が女の子ならば一瞬のうちに落とされていただろう。
 フッと笑うエレナを見て愛おしくなった俺は、彼女の頭にそっと手を乗せる。

「……えぇ。それでいいのよ。撫でられて気持ちいい――――じゃなくって!ここは欲情して襲いかかるところじゃない!!」

 何か目の前の少女がとんでもないことを言っているが気にしない。
 欲情なんて、人が少ないとはいえここは外。日中に言わないでほしいものだが。

「そうだよねぇ。慎也クンが奥手なのは困ったものだよねぇ……」
「でしょうリオ! 慎也もちょっとは私たちを襲うくらいの気概を見せないと!」

 うんうんと深く頷くように話に入ってくるリオ。

 しかしそんなことできるわけがない。
 明らかに見え見えな罠。襲ったが最後俺はもちろん彼女たちの自由はなくなる。
 仕事のこともあるから鉄の意思で耐えているというのに。

「でも仕方ない。慎也クンがもっと積極的だったら、早々私の誘いに乗ってくれてエレナが好きになる前に独り占めできたのに……」
「そんな前からアピールしてたのリオ!? いつから!?」
「ん?エレナの誕生日パーティーの日だよん?」
「リオは初対面の日じゃない!!」

 正確には再会の日らしいのだが。

「私は慎也さんが奥手でよかったなって思ってますよ?」
「アイさん……」

 いつの間にかエレナとは反対側、空いた俺の手を絡めてくるアイさん。
 彼女は俺の腕を取って自ら抱きしめるように引き寄せる。

「きっと積極的だと怖くて近寄れませんでした。 グイグイくることもなく、優しかったから私も恐怖を感じずこうやって抱きしめる事ができるようになったんです」
「……そっか。嬉しいな」

 自らの行動を認めてくれるというのは随分と嬉しいものだ。
 自分は間違っていないんだと、認めてくれているような気がして、寒い冬だというのに胸の内が暖かくなる。

 ついつい繋いでいるてを持ち上げて頬をかいていると、アイさんはもう一方の手を自らの胸元へと持ってきて……。

「そんな消極的な慎也さんも好きですけど、あんまりにも消極的なら私の方から襲っちゃいますよ?」
「っ――――!」

 手にかけたファスナーを勢いよく下ろし、ロングコートの前を開いて肩から膝下まで、一枚の朱色ニットワンピースを露出させる。
 思わずその豊満な胸部に目が奪われてしまっていると、絡めた手を動かした彼女は俺の腕の部分をその谷間に収めていく。

「ねっ?慎也さん。私はいつでもどこでも……慎也さんだったらいいんですよ?」
「アイ……さん…………」

 腕伝いに感じる柔らかな感触。
 それは抱きしめられたときにも感じた、これ以上とない温もりと優しさだった。
 あとは自由にしていいと言わんばかりに絡めていた手が開放される。俺は見つめられる琥珀の目に魅了されたように、そのフリーになった手を動かし始め――――

「ちょっとアイ! それは禁止よ!NG技よ!!」

 俺の手が彼女に触れゆくその直前、慌てて伸びたエレナの手が俺の手首を押さえつけ引き寄せる。
 同時に魅了からも解けた俺は、驚きの中でアイさんとエレナを交互に見やった。

「まったく、アイったら油断も隙も無いわね……ホント、気を抜いたらこうなんだから」
「私は三人一緒も大歓迎だけど、慎也さんと二人きりの世界もいいと思ってるよ?」
「落ち着いたとは言えあの日から変わらないわね。いっそ実家のベッドに手錠かけて置いて帰ろうかしら」

 仕事に支障が出るからやめてあげて。
 エレナの繋がれていた手が離れ、二人言い合いながら歩くのを付いていくと、背中に少し前のめりになるような衝撃が。
 数歩つまづきながら顔だけ後ろにやるとその犯人は直ぐにわかった。リオだ。彼女はまるでおんぶをするように背中から俺に抱きついている。

「むぅ~……」
「リオ……どうしたの?」
「お兄ちゃん、ずっとママやアイにデレデレしてたから。思い出しも含めてなんかムカムカしてきた」
「えっと、ごめん?」

 むくれる彼女は顔を押し付けるように背中へと圧力がかかる。
 言い訳かもしれないが不可抗力の部分が大きかったと説明したい。まぁ、さっきのは確かにデレデレしちゃったけど……

「いいけど~。私だってお兄ちゃんに振り向いてもらえるため成長してきたんだからね!」

 もちろん、色々と成長してくれたのはわかってるし嬉しい。
 現に背中に押し付けているのか、柔らかな感覚が伝わってきている。
 ママさんの前で抱きしめられた時も思ったけど彼女も、アイさんほどじゃないがスタイルはいいのだろう。それが如何ほどかはわからないが平均以上だというのは確実だ。

「ありがと。リオにはいつも助けてばかりだからね。もちろんスタイル関係なく好きだよ」
「うむ!そう言ってくれるとくるしゅうないぞ! ……えへへ」

 軽い身体を片手でおんぶし、もう一方の手でその頬を撫でると、今度は甘えたようにゴロゴロと擦りつけてくる。
 可愛い。こう素直に甘えてくれると俺としても嬉しいし純粋に可愛いと思える。愛らしいという意味かもしれないが、それでも好きの気持ちの上に来ていることは間違いない。

 そうだ。丁度今はエレナとアイさんは会話に夢中だし、これは聞けるかな?

「ねぇリオ。エレナのことで聞きたいんだけどさ」
「ん~? あ、そこ。耳のあたりいい。もっとやって」
「本人の前じゃ聞けなかったけど、実子だよね?あの二人の」

 要望に応えるよう耳の付け根に指を当てながら、気になっていることを尋ねてみる。
 するとリオは気持ちいいのか目を細めながら、納得したように「あ~」と声を吐く。

「やっぱり気になるよねぇ。私もアイも気になって聞いたんだけど、間違いなく実の親子だよ」
「あ、そうなんだ。 じゃあエレナももしかしたら数年後アレくらいのスタイルに……?」

 小学生のエレナがアイさんみたいな体型に……ダメだ。母親というイメージ対象があるのに絵が想像ができない。

「どうだろ。難しいと思うよ。今があんなんだし」
「そっか……エレナも大変だね」
「でもそんなエレナを好いてくれる人がいるから大丈夫だと思うよ」
「……そっか」
「うん。昔エレナママ聞いた時、『私が愛するのは後にも先にもパパただ一人』って言っててさ。羨ましいよねぇ……ウチの旦那様はただ一人とはいえない状況だけど」
「…………」

 思わぬパンチにぐうの音も出なくなってしまった。
 そりゃあね、俺だって一人に絞ろうと考えたけどやっぱり無理だったよ。三人同時にこられちゃ選びようがない。

「ま、そんなお兄ちゃんも好きだけどね~!ぎゅ~!」
「ちょっ!リオ! 苦しいっ!!」
「我慢我慢! ギュ~!!」

 力いっぱい抱きしめる彼女に為す術もない俺はただ締められる首を耐え忍ぶ。
 呼吸は十分できるし、ただただ柔らかい感触で幸せなのだが。

「何してるの二人共」
「あ、エレナ……いつの間に」

 おんぶしながら二人でじゃれ合っていると、いつの間にやらこちらを振り返ったエレナがジト目でこちらを見つめていた。
 リオも彼女に声を掛けられたことで締められていた力を解き、自らの足で立つ。

「慎也がリオに実の親子か聞いてたくらいからね。ほら、あそこがアイの家よ」

 聞かれてたか。それ異常言及されないということはよく聞かれるのだろう。

 実の親子の話題はそこそこに、3人が視線を向けた先にはアイさんの家と思しき一軒家が。
 そこも、エレナの家と同じくよくある普通のお宅だった。

 2階建てで、ひさしすらない真四角型の白い家。
 今度は誰が出るだろうと身構えたのも束の間、アイさんはインターホンを押すこと無く素通りし、玄関の扉に手をかける。

「あれ? 人呼ばないの?」
「鍵開いてるから勝手に入ってリビングへって言われてるんです。 慎也さんも、どうぞ」
「そっか……それは……怖いね」

 俺は手招きするアイさんに従って扉前に立つ。
 彼女は緊張する俺を気遣ってか、手を優しく握った後、その扉をゆっくりと開いた――――。
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