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第6章
158.線引き
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「ただいま~。 あ~つっかれたぁ。 慎也~。コーヒー淹れてぇ」
遠くからダルそうに俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
時刻は太陽がてっぺんを越えたばかりのお昼時。
小北さんの母親との通話が終わり、無為な時間を消化するようにゲームしたり本を読んだり二人の時間を過ごしていると、ふとお昼ごはんを食べ終わったタイミングでそんな声が聞こえてきた。
まるで年甲斐もなく全力疾走を終えたかのような疲労困憊の声。廊下から聞こえる声にしばらく待つと、買い物袋片手にフラフラと歩いてくる母さんが入ってきた。
リビングにつくなり買い物袋を落としフラフラとソファーに倒れ込むさまはまるでゾンビのよう。『ヴァー』と本当のゾンビさながらのうめき声を上げながら顔を上げると、母さんの視界に1人の少女が目に入る。
「お、お邪魔してます……」
それは今朝ウチにやってきたお客人、小北さん。彼女を目にするやいなや、目尻が下がったゾンビが突然活発になり勢いよくベッドから飛び上がる。
「あらあらぁ~!美代ちゃんじゃない~!もう来てたのね!変なとこ見せちゃってごめんなさいね!」
「い、いえ……お買い物お疲れ様です」
「お母様から話は聞いてるわよ~! ウチにしばらく居るんですってね!」
瞬く間にゾンビから人間に復活した母さんはマシンガントークの如く小北さんを抱きしめる。
よかった、ちゃんと話は通っていたようだ。
母さんならいきなり言っても問題ないと思うのだが、こっちのほうが話が早くて助かる。
「はい……。 迷惑じゃ、ないでしょうか?」
「まったく!ウチも賑やかになって嬉しいわぁ。中旬には私たちも日本を発っちゃうけど、いつまでもいていいからねぇ!」
「ありがとうございま…………えっ!?」
勢いよく小北さんの視線がこちらに向けられるが「知らなかった」と首を横に振る。
海外に戻る時期は初耳だが時期的にそろそろだろう。新年ボーナスもまた終わり。中旬から家事に追われる日々が始まる。
「さっき買い物中に決まってね。また向こうで一稼ぎしてくるわ」
「そうなんだ……。それで父さんは?一緒に出てたよね?」
そういえば母さんと父さんは一緒に出ていった筈なのに、一人で帰ってくるとは何かあったのだろうか。
切羽詰まった様子でもないし大したことは無いと思うのだが。
「お父さんは……遠くに旅立ったわ」
「遠く?」
小北さんを胸に収めながらどこか遠くを見つめる母さん。
一足先に日本を発ったのだろうか。
「ちょっと呼び出しがかかってね。今頃……恵那さんと二人でよろしくやってるんじゃないかしらね?」
「なるほど恵那さんとか――――神鳥さんと!?」
驚愕の事実に思わず声を荒らげてしまう。
父さんと神鳥さんの関係。母さんも色々警戒色を強めていたのに今となっては穏やかな様子だ。何か心変わりがあったのだろうか。
「別に大したことじゃないわよ。ランチに行くだけだし」
「ランチか……間違いがあったらどうするの?」
「その時はその時よ。子どもたちに迷惑は掛けないから安心なさい」
小北さんへのハグもそこそこに、買ってきた荷物を拾ってキッチンへ向かう母さん。
それは信頼の表れか、もしくは諦めか。
「……あら。慎也、もうお昼食べちゃったの?」
「え? あぁうん。 もしかしてダメだった?」
その穏やかな様子の変化に少しばかり驚いていると、ふと問われた言葉に首を傾げる。
母さんが帰ってくるタイミングなんて知らなかった。もしかしたら一緒に食べるつもりだったのだろうか。
「いや、お母さんも食べてきたしいいんだけどね。でも、いくら美代ちゃんでもお客様が来てるのにインスタント麺ってのはどうかと思うのよ」
そう言いながらヒラヒラと捨て忘れてたパッケージを見せつけてきて言葉が詰まる。
ごもっともだ。食材も限られていて手軽に食べられるものとくればそれしか無かったともいえるが。
「あ~……それは――――」
「それは私が食べたいって言ったんです!」
しかしお客さんに適当なものを出したのも事実。なんて言い訳しようかと悩み始めると、俺の言葉を遮るように小北さんは前に立つ。
「私が食べたいから慎也君に無理言って作ってもらったんです! それにお邪魔してる身なのであまり良い物だと逆に困っちゃいます!」
「そ……そう? もしかして美代ちゃん、デートとかでもあんまり気にしないタイプ?」
「えっ? はい。好きな人とのデートだったらどんなお店でも嬉しいですけど……」
親子間でのちょっとしたお小言程度の話がまさかの参戦。
まさか彼女が出てくるとは思っても見なかったのか母さんも少し驚いている。
しかしその言葉は色々と誤解を招きかねない。もはや『好きな人』だなんて隠す気もなにもあったものではない。
母さんもその言葉を受けて更に驚きを見せたのだがそれも一瞬のこと、フッと笑みを浮かべて彼女の身体を優しく抱きしめる。
「いい子ね~! 慎也!こんないい子めったに居ないわよ!!」
「……それくらい、俺が一番よくわかってるよ」
「えっ!? えっ!?」
普通に会話する俺たちに、突然抱きしめられて混乱を示す小北さん。
「美代ちゃん!」
「は、はいっ!!」
「私のこと、是非お義母さんって呼んで!」
「はぁ……。お母……さん?」
母さんの言ったニュアンスがちょっと違う気がしたのは気のせいだろうか。
音だけじゃわからないから困りものだ。何にしても気が早すぎる。
「いや~。あの子達三人もいい子だし美代ちゃんもすっごくいい子だし、慎也!!アンタすっごく恵まれてるってことを自覚しなさいっ!!」
「……それくらい、当然わかってるよ」
俺になんの魅力があるのかもわからないのに、こんな素敵な女の子たちが周りに居るなんてきっと世界一恵まれてる。
俺も努力してふさわしくならないと。
「え~っと……お母さんは何の話を?」
「気にしなくていいのよ美代ちゃん! この先ずっと慎也と一緒に暮らすかも知れないんだから、いつまでだってウチに居てくれて構わないのよ!!」
「えっ、ずっと……慎也君と!?ふぇぇぇぇ!!」
「……ごゆっくり」
熱情的になる母さんと、その腕に抱かれて顔を熱する小北さん。
俺はそんな二人を尻目に、二人の間をすり抜けてコーヒーを淹れにいった。
遠くからダルそうに俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
時刻は太陽がてっぺんを越えたばかりのお昼時。
小北さんの母親との通話が終わり、無為な時間を消化するようにゲームしたり本を読んだり二人の時間を過ごしていると、ふとお昼ごはんを食べ終わったタイミングでそんな声が聞こえてきた。
まるで年甲斐もなく全力疾走を終えたかのような疲労困憊の声。廊下から聞こえる声にしばらく待つと、買い物袋片手にフラフラと歩いてくる母さんが入ってきた。
リビングにつくなり買い物袋を落としフラフラとソファーに倒れ込むさまはまるでゾンビのよう。『ヴァー』と本当のゾンビさながらのうめき声を上げながら顔を上げると、母さんの視界に1人の少女が目に入る。
「お、お邪魔してます……」
それは今朝ウチにやってきたお客人、小北さん。彼女を目にするやいなや、目尻が下がったゾンビが突然活発になり勢いよくベッドから飛び上がる。
「あらあらぁ~!美代ちゃんじゃない~!もう来てたのね!変なとこ見せちゃってごめんなさいね!」
「い、いえ……お買い物お疲れ様です」
「お母様から話は聞いてるわよ~! ウチにしばらく居るんですってね!」
瞬く間にゾンビから人間に復活した母さんはマシンガントークの如く小北さんを抱きしめる。
よかった、ちゃんと話は通っていたようだ。
母さんならいきなり言っても問題ないと思うのだが、こっちのほうが話が早くて助かる。
「はい……。 迷惑じゃ、ないでしょうか?」
「まったく!ウチも賑やかになって嬉しいわぁ。中旬には私たちも日本を発っちゃうけど、いつまでもいていいからねぇ!」
「ありがとうございま…………えっ!?」
勢いよく小北さんの視線がこちらに向けられるが「知らなかった」と首を横に振る。
海外に戻る時期は初耳だが時期的にそろそろだろう。新年ボーナスもまた終わり。中旬から家事に追われる日々が始まる。
「さっき買い物中に決まってね。また向こうで一稼ぎしてくるわ」
「そうなんだ……。それで父さんは?一緒に出てたよね?」
そういえば母さんと父さんは一緒に出ていった筈なのに、一人で帰ってくるとは何かあったのだろうか。
切羽詰まった様子でもないし大したことは無いと思うのだが。
「お父さんは……遠くに旅立ったわ」
「遠く?」
小北さんを胸に収めながらどこか遠くを見つめる母さん。
一足先に日本を発ったのだろうか。
「ちょっと呼び出しがかかってね。今頃……恵那さんと二人でよろしくやってるんじゃないかしらね?」
「なるほど恵那さんとか――――神鳥さんと!?」
驚愕の事実に思わず声を荒らげてしまう。
父さんと神鳥さんの関係。母さんも色々警戒色を強めていたのに今となっては穏やかな様子だ。何か心変わりがあったのだろうか。
「別に大したことじゃないわよ。ランチに行くだけだし」
「ランチか……間違いがあったらどうするの?」
「その時はその時よ。子どもたちに迷惑は掛けないから安心なさい」
小北さんへのハグもそこそこに、買ってきた荷物を拾ってキッチンへ向かう母さん。
それは信頼の表れか、もしくは諦めか。
「……あら。慎也、もうお昼食べちゃったの?」
「え? あぁうん。 もしかしてダメだった?」
その穏やかな様子の変化に少しばかり驚いていると、ふと問われた言葉に首を傾げる。
母さんが帰ってくるタイミングなんて知らなかった。もしかしたら一緒に食べるつもりだったのだろうか。
「いや、お母さんも食べてきたしいいんだけどね。でも、いくら美代ちゃんでもお客様が来てるのにインスタント麺ってのはどうかと思うのよ」
そう言いながらヒラヒラと捨て忘れてたパッケージを見せつけてきて言葉が詰まる。
ごもっともだ。食材も限られていて手軽に食べられるものとくればそれしか無かったともいえるが。
「あ~……それは――――」
「それは私が食べたいって言ったんです!」
しかしお客さんに適当なものを出したのも事実。なんて言い訳しようかと悩み始めると、俺の言葉を遮るように小北さんは前に立つ。
「私が食べたいから慎也君に無理言って作ってもらったんです! それにお邪魔してる身なのであまり良い物だと逆に困っちゃいます!」
「そ……そう? もしかして美代ちゃん、デートとかでもあんまり気にしないタイプ?」
「えっ? はい。好きな人とのデートだったらどんなお店でも嬉しいですけど……」
親子間でのちょっとしたお小言程度の話がまさかの参戦。
まさか彼女が出てくるとは思っても見なかったのか母さんも少し驚いている。
しかしその言葉は色々と誤解を招きかねない。もはや『好きな人』だなんて隠す気もなにもあったものではない。
母さんもその言葉を受けて更に驚きを見せたのだがそれも一瞬のこと、フッと笑みを浮かべて彼女の身体を優しく抱きしめる。
「いい子ね~! 慎也!こんないい子めったに居ないわよ!!」
「……それくらい、俺が一番よくわかってるよ」
「えっ!? えっ!?」
普通に会話する俺たちに、突然抱きしめられて混乱を示す小北さん。
「美代ちゃん!」
「は、はいっ!!」
「私のこと、是非お義母さんって呼んで!」
「はぁ……。お母……さん?」
母さんの言ったニュアンスがちょっと違う気がしたのは気のせいだろうか。
音だけじゃわからないから困りものだ。何にしても気が早すぎる。
「いや~。あの子達三人もいい子だし美代ちゃんもすっごくいい子だし、慎也!!アンタすっごく恵まれてるってことを自覚しなさいっ!!」
「……それくらい、当然わかってるよ」
俺になんの魅力があるのかもわからないのに、こんな素敵な女の子たちが周りに居るなんてきっと世界一恵まれてる。
俺も努力してふさわしくならないと。
「え~っと……お母さんは何の話を?」
「気にしなくていいのよ美代ちゃん! この先ずっと慎也と一緒に暮らすかも知れないんだから、いつまでだってウチに居てくれて構わないのよ!!」
「えっ、ずっと……慎也君と!?ふぇぇぇぇ!!」
「……ごゆっくり」
熱情的になる母さんと、その腕に抱かれて顔を熱する小北さん。
俺はそんな二人を尻目に、二人の間をすり抜けてコーヒーを淹れにいった。
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