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『ルナと、初めての一晩』
「ミルクって……どれくらいの量、飲ませるんだ?」
スマホ片手に、キッチンで哺乳瓶とにらめっこする悠真は、軽くため息をついた。
いくつかの育児サイトを開いてみたものの、「月齢に応じて」という表現が多く、今目の前にいる赤ん坊が何ヶ月なのかすら分からない。
(たぶん、生まれて間もないよな……首もすわってないし)
昨夜拾った捨て子の赤ん坊、仮名ルナ。
森の湖畔で泣いていた彼女を連れ帰り、沐浴、授乳、寝床の準備までを済ませたのが、昨日のうちの話。
あれから一晩──ようやく朝日が昇ったところだった。
「お湯は70度で溶かして、40度くらいまで冷まして……って、温度計ねぇじゃん」
思い出して即座に通販アプリを立ち上げる。
「赤ちゃん 温度計」で検索をかけると、液晶表示付きの便利なやつが見つかった。ついでに哺乳瓶用の保温ポーチもポチる。
(即達でこの世界の玄関前に届くって、ほんと意味分かんねぇけど……ありがたい)
配達音も無く、さっき注文した商品がいつの間にか玄関横の宅配マットの上に置かれている。
包みを開けると、説明書と保証書まできちんと日本語で入っていた。
悠真は温度計をカップに差し込みながら、ミルクを調整する。
慎重に哺乳瓶へ移してから、ルナを抱き上げ、少し恐る恐る口元に当てた。
「……ほら、飲んでみ?」
ぐずり気味だったルナの小さな口が、ちゅっと吸いついた。
(おっ……おお……ちゃんと飲んでる)
小さな口から、ちゅぱ、ちゅぱと控えめな音がする。
細い腕が微かに動き、満足げに表情がゆるんでいく。
「あー、よかった……俺でもちゃんと飲ませられるんだな……」
思わず、口に出していた。
不安と緊張が、少しずつほどけていく感覚。
ルナの体温は、思っていたよりもしっかりと温かい。
⸻
午前中は、通販で届いたアイテムを使って、ひたすら「ルナ仕様の家づくり」に勤しんだ。
リビングの一角に赤ちゃん用マットを敷き、通販で頼んだ簡易ベビーベッドを設置。
コンセント近くに電動ゆりかごを固定し、音量を最小にして動かすと、ルナは目を閉じたまま微かにうごめいた。
「おお……効いてる?」
しばらく観察していたが、泣く気配はない。
やがて、くぅ、と小さな寝息を立て始めた。
(赤ん坊って、案外機械に強いんだな……)
完全に主観だけど、うれしかった。
ついでに、夜中に慌てないようにミルクやオムツ類の予備も追加注文しておく。
哺乳瓶の洗浄セットや、湯温管理できるケトル、赤ちゃん用の防水エプロンなどなど──。
気づけばキッチンの一角が「育児コーナー」みたいになっていた。
⸻
午後は、静かだった。
ルナが眠っている間に掃除をすませ、冷凍チャーハンで軽く昼食を取り、洗濯機を回す。
「育児って、時間の隙間を見つけて家事やるもんなんだな……」
ちょっと動けばすぐ泣く。
ようやく落ち着いたと思えばオムツ。
それがひと段落すれば次はミルク──。
自分のペースなんてものは通用しない。
でも、だからこそ、ほんの一瞬の静寂がありがたく感じるのだろう。
……いや、感じるしかないのかもしれない。
(それでも……なんか、悪くない)
⸻
夜。
「……なあ、ルナ。もう寝てもよくないか?」
抱っこ紐に収めたルナは、すでに3度目の夜泣き中。
静かに揺れながら歩き回るリビングで、悠真は眠気と疲労の波に揺られていた。
(こんなに泣くもんなんだな……俺、昨日まで完全に他人事だった)
オムツも替えた、ミルクも飲んだ、風呂も入れた。体温も問題なし。
それでも泣く理由が分からない──赤ちゃんとはそういうものだと、さっき調べたサイトに書いてあった。
「頼むから、今日はこの辺で勘弁してくれ……」
ぽんぽんと背中を軽く叩いてやると、やっとルナの泣き声が弱まっていった。
目を閉じる。静かになる。
ようやく、ソファに身を沈める。
「ふぁ……はぁ……」
身体中が重い。背中と腰が痛い。眠気が、限界だった。
けれど、ルナが胸元で安らかに呼吸しているのを感じながら──
悠真は、ソファの上でそのまま眠りに落ちた。
⸻
翌朝。
目を覚ました悠真は、まだ腕の中にいるルナを見下ろしながら、ぽつりとつぶやく。
「……なんだかんだで、生きていけるもんだな」
異世界?魔物?
正直、今はそれどころじゃない。
通販が通じる。家は無事。水も電気もある。
それに──今はこの小さな命を守るのが、最優先だ。
(まずは、ルナをちゃんと育ててやる。それから……考えよう)
そう思いながら、悠真はスマホを手に取った。
次に必要そうなものを、メモ帳に書き出す。
「ミルクって……どれくらいの量、飲ませるんだ?」
スマホ片手に、キッチンで哺乳瓶とにらめっこする悠真は、軽くため息をついた。
いくつかの育児サイトを開いてみたものの、「月齢に応じて」という表現が多く、今目の前にいる赤ん坊が何ヶ月なのかすら分からない。
(たぶん、生まれて間もないよな……首もすわってないし)
昨夜拾った捨て子の赤ん坊、仮名ルナ。
森の湖畔で泣いていた彼女を連れ帰り、沐浴、授乳、寝床の準備までを済ませたのが、昨日のうちの話。
あれから一晩──ようやく朝日が昇ったところだった。
「お湯は70度で溶かして、40度くらいまで冷まして……って、温度計ねぇじゃん」
思い出して即座に通販アプリを立ち上げる。
「赤ちゃん 温度計」で検索をかけると、液晶表示付きの便利なやつが見つかった。ついでに哺乳瓶用の保温ポーチもポチる。
(即達でこの世界の玄関前に届くって、ほんと意味分かんねぇけど……ありがたい)
配達音も無く、さっき注文した商品がいつの間にか玄関横の宅配マットの上に置かれている。
包みを開けると、説明書と保証書まできちんと日本語で入っていた。
悠真は温度計をカップに差し込みながら、ミルクを調整する。
慎重に哺乳瓶へ移してから、ルナを抱き上げ、少し恐る恐る口元に当てた。
「……ほら、飲んでみ?」
ぐずり気味だったルナの小さな口が、ちゅっと吸いついた。
(おっ……おお……ちゃんと飲んでる)
小さな口から、ちゅぱ、ちゅぱと控えめな音がする。
細い腕が微かに動き、満足げに表情がゆるんでいく。
「あー、よかった……俺でもちゃんと飲ませられるんだな……」
思わず、口に出していた。
不安と緊張が、少しずつほどけていく感覚。
ルナの体温は、思っていたよりもしっかりと温かい。
⸻
午前中は、通販で届いたアイテムを使って、ひたすら「ルナ仕様の家づくり」に勤しんだ。
リビングの一角に赤ちゃん用マットを敷き、通販で頼んだ簡易ベビーベッドを設置。
コンセント近くに電動ゆりかごを固定し、音量を最小にして動かすと、ルナは目を閉じたまま微かにうごめいた。
「おお……効いてる?」
しばらく観察していたが、泣く気配はない。
やがて、くぅ、と小さな寝息を立て始めた。
(赤ん坊って、案外機械に強いんだな……)
完全に主観だけど、うれしかった。
ついでに、夜中に慌てないようにミルクやオムツ類の予備も追加注文しておく。
哺乳瓶の洗浄セットや、湯温管理できるケトル、赤ちゃん用の防水エプロンなどなど──。
気づけばキッチンの一角が「育児コーナー」みたいになっていた。
⸻
午後は、静かだった。
ルナが眠っている間に掃除をすませ、冷凍チャーハンで軽く昼食を取り、洗濯機を回す。
「育児って、時間の隙間を見つけて家事やるもんなんだな……」
ちょっと動けばすぐ泣く。
ようやく落ち着いたと思えばオムツ。
それがひと段落すれば次はミルク──。
自分のペースなんてものは通用しない。
でも、だからこそ、ほんの一瞬の静寂がありがたく感じるのだろう。
……いや、感じるしかないのかもしれない。
(それでも……なんか、悪くない)
⸻
夜。
「……なあ、ルナ。もう寝てもよくないか?」
抱っこ紐に収めたルナは、すでに3度目の夜泣き中。
静かに揺れながら歩き回るリビングで、悠真は眠気と疲労の波に揺られていた。
(こんなに泣くもんなんだな……俺、昨日まで完全に他人事だった)
オムツも替えた、ミルクも飲んだ、風呂も入れた。体温も問題なし。
それでも泣く理由が分からない──赤ちゃんとはそういうものだと、さっき調べたサイトに書いてあった。
「頼むから、今日はこの辺で勘弁してくれ……」
ぽんぽんと背中を軽く叩いてやると、やっとルナの泣き声が弱まっていった。
目を閉じる。静かになる。
ようやく、ソファに身を沈める。
「ふぁ……はぁ……」
身体中が重い。背中と腰が痛い。眠気が、限界だった。
けれど、ルナが胸元で安らかに呼吸しているのを感じながら──
悠真は、ソファの上でそのまま眠りに落ちた。
⸻
翌朝。
目を覚ました悠真は、まだ腕の中にいるルナを見下ろしながら、ぽつりとつぶやく。
「……なんだかんだで、生きていけるもんだな」
異世界?魔物?
正直、今はそれどころじゃない。
通販が通じる。家は無事。水も電気もある。
それに──今はこの小さな命を守るのが、最優先だ。
(まずは、ルナをちゃんと育ててやる。それから……考えよう)
そう思いながら、悠真はスマホを手に取った。
次に必要そうなものを、メモ帳に書き出す。
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