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『生活は回る。少しずつ、確かに』
朝。
ソファで目を覚ました悠真は、まず腕の中を確認した。
そこには小さく丸まった赤ん坊──ルナが眠っていた。
「……おはよう」
寝起きの声に反応して、ルナの眉がひくっと動く。
眠っているような、半分起きているような微妙な反応だった。
夜は、まあまあ大変だった。
夜泣き、オムツ、授乳のフルコンボ。けれど、不思議と嫌な感じは残っていない。
(眠いけど……やるしかないか)
悠真はルナをそっと毛布にくるみ、ベビーベッドへ移す。
それからキッチンに立ち、ミルク用のお湯を沸かしはじめた。
⸻
「はい、おまたせ。熱くないからゆっくり飲んでな」
今日で授乳は4回目。最初の頃に比べて、だいぶ手際が良くなった。
ルナは哺乳瓶に吸い付きながら、時折くいっと眉を寄せて、懸命に飲んでいる。
(毎回これだけ集中して飲むの、すごいな……)
ふと、哺乳瓶の残量を見ながら、今後の備えを考える。
ミルクは3袋残っている。オムツはまだあるが、減りは早い。
おしりふきや清潔用品も含めて、そろそろ補充しておきたい。
悠真はスマホを取り出し、通販アプリを立ち上げる。
(とりあえず、ミルクを5袋。オムツもひとまとめ……あ、育児本もいくつか探してみるか)
昨日まではその場しのぎで対応してきたが、これから先は“知識”が必要になる。
アプリ内の「電子書籍」カテゴリで、「はじめての赤ちゃん育児」「ワンオペ育児でも大丈夫」など、初心者向けの本をいくつか購入。
すぐにタブレットにダウンロードされ、いつでも読めるようになった。
⸻
午前中は、家の掃除と簡単な模様替えに費やした。
ルナのスペースを広げるためにソファの位置をずらし、赤ちゃん用マットを追加。
赤ん坊が手を伸ばしても危なくないように、家具の角には緩衝材を取り付けた。
「……ん、これで少しは安全かな」
ふと気づいて、通販アプリの「換金」機能を開いてみた。
これまでは注文する一方だったが、実はこのアプリ、手持ちの物を現地通貨に換金することができるという裏機能がある。
(とりあえず、庭にあったあの実……スキャンしてみるか)
試しに、昨日拾った木の実を一つ、スキャン範囲に置いて「換金」ボタンを押してみた。
ピッ。
【換金完了:現地通貨でチャージ済み】
【分類:現地植物・野生実(一般)】
「おお、本当に換金できるんだ……」
次に、昨日拾った金属っぽい破片──湖畔近くで見つけた黒ずんだ石のかけらを試してみる。
見た目はただの鉱石かゴミにしか見えないが──
【換金完了:現地通貨でチャージ済み】
【分類:未鑑定鉱石類/魔道具の破片?】
画面には、金額の具体的な表示はなかったが、チャージ残高に明らかに変化が出ていた。
しかも、けっこうな額。思った以上に“高額”だったらしい。
(これ、石ころ一つで……? うわ、換金レート高めに設定されてるっぽいな)
しかも、このチャージ残高は通販時に自動で差し引かれるほか、必要に応じて「現金として取り出す」ことも可能だった。
操作すると、リビングの壁際にある引き出し式の小さな機器から、コトン、と異世界硬貨が出てきた。
(普通に通貨として使えるってことか。なんだこれ……マジで何者だよこのアプリ)
便利すぎて逆に怖くなるが、今のところ害はない。
だが、さすがにこの機能は、軽々しく他人に教えるべきものじゃないと感じる。
(信用できる相手にだけ……だな。下手に知られたら、変な奴に目をつけられかねない)
魔道具が換金できる時点で、たとえば冒険者や商人が知ったら騒ぎになるに決まっている。
⸻
昼過ぎ。
ルナはベビーベッドの上で、タオルを握りしめながら寝息を立てていた。
部屋の中は静かで、窓から差し込む日差しがカーテン越しに揺れている。
悠真はキッチンに立ち、カップラーメンをお湯で作りながら、スマホの通知をチェックする。
「追加ミルク、到着っと。……ホント便利だな、これ」
注文から1分もしないうちに、玄関の定位置に箱が現れる。
中身を確認すると、商品に混ざって「ご購入ありがとうございます」のメッセージカードまで入っていた。
(現金チャージもできるし、支払い方法も一元化。便利すぎて意味がわからん)
けれど、今はそのありがたさに甘えておくしかない。
ルナの世話をしながら、手作業で何もかもを賄うのは、どう考えても無理だった。
⸻
夕方。
ルナがふにゃっと目を覚まし、小さくぐずり始めた。
「はいはい、すぐ行く」
オムツの交換もミルクも、もう何度目か分からないほどだが、動きは格段にスムーズになっていた。
そして、作業を終えて抱っこしていると──
ふと、ルナがこっちを見上げてきた。
ちいさな黒目と、わずかに開いた口。
そのまま、ほわっとした顔で、少しだけ笑ったように見えた。
「……笑った、か?」
勘違いかもしれない。でも、確かに「何かしらの感情」が返ってきたような気がした。
(……やっぱ、ちゃんと育てていくって決めて、正解だったかもな)
外の世界がどうなっていようと──今はこの子との生活が中心だ。
⸻
夜。
今日も夜泣きは続くだろう。
けれど、悠真の動きは、昨日より確実に慣れている。
「やるべきこと」が、身体に少しずつ染みついてきていた。
(明日、天気が良かったら……庭の先でも散歩してみるか)
そろそろ、外の空気を吸いに行ってもいい頃かもしれない。
この世界に来て、まだ家の周囲以外には足を踏み出していない。
「ちょっとくらい、歩いてみるか……ルナの散歩にもなるしな」
翌日、初めての“外への一歩”が、静かに始まろうとしていた。
朝。
ソファで目を覚ました悠真は、まず腕の中を確認した。
そこには小さく丸まった赤ん坊──ルナが眠っていた。
「……おはよう」
寝起きの声に反応して、ルナの眉がひくっと動く。
眠っているような、半分起きているような微妙な反応だった。
夜は、まあまあ大変だった。
夜泣き、オムツ、授乳のフルコンボ。けれど、不思議と嫌な感じは残っていない。
(眠いけど……やるしかないか)
悠真はルナをそっと毛布にくるみ、ベビーベッドへ移す。
それからキッチンに立ち、ミルク用のお湯を沸かしはじめた。
⸻
「はい、おまたせ。熱くないからゆっくり飲んでな」
今日で授乳は4回目。最初の頃に比べて、だいぶ手際が良くなった。
ルナは哺乳瓶に吸い付きながら、時折くいっと眉を寄せて、懸命に飲んでいる。
(毎回これだけ集中して飲むの、すごいな……)
ふと、哺乳瓶の残量を見ながら、今後の備えを考える。
ミルクは3袋残っている。オムツはまだあるが、減りは早い。
おしりふきや清潔用品も含めて、そろそろ補充しておきたい。
悠真はスマホを取り出し、通販アプリを立ち上げる。
(とりあえず、ミルクを5袋。オムツもひとまとめ……あ、育児本もいくつか探してみるか)
昨日まではその場しのぎで対応してきたが、これから先は“知識”が必要になる。
アプリ内の「電子書籍」カテゴリで、「はじめての赤ちゃん育児」「ワンオペ育児でも大丈夫」など、初心者向けの本をいくつか購入。
すぐにタブレットにダウンロードされ、いつでも読めるようになった。
⸻
午前中は、家の掃除と簡単な模様替えに費やした。
ルナのスペースを広げるためにソファの位置をずらし、赤ちゃん用マットを追加。
赤ん坊が手を伸ばしても危なくないように、家具の角には緩衝材を取り付けた。
「……ん、これで少しは安全かな」
ふと気づいて、通販アプリの「換金」機能を開いてみた。
これまでは注文する一方だったが、実はこのアプリ、手持ちの物を現地通貨に換金することができるという裏機能がある。
(とりあえず、庭にあったあの実……スキャンしてみるか)
試しに、昨日拾った木の実を一つ、スキャン範囲に置いて「換金」ボタンを押してみた。
ピッ。
【換金完了:現地通貨でチャージ済み】
【分類:現地植物・野生実(一般)】
「おお、本当に換金できるんだ……」
次に、昨日拾った金属っぽい破片──湖畔近くで見つけた黒ずんだ石のかけらを試してみる。
見た目はただの鉱石かゴミにしか見えないが──
【換金完了:現地通貨でチャージ済み】
【分類:未鑑定鉱石類/魔道具の破片?】
画面には、金額の具体的な表示はなかったが、チャージ残高に明らかに変化が出ていた。
しかも、けっこうな額。思った以上に“高額”だったらしい。
(これ、石ころ一つで……? うわ、換金レート高めに設定されてるっぽいな)
しかも、このチャージ残高は通販時に自動で差し引かれるほか、必要に応じて「現金として取り出す」ことも可能だった。
操作すると、リビングの壁際にある引き出し式の小さな機器から、コトン、と異世界硬貨が出てきた。
(普通に通貨として使えるってことか。なんだこれ……マジで何者だよこのアプリ)
便利すぎて逆に怖くなるが、今のところ害はない。
だが、さすがにこの機能は、軽々しく他人に教えるべきものじゃないと感じる。
(信用できる相手にだけ……だな。下手に知られたら、変な奴に目をつけられかねない)
魔道具が換金できる時点で、たとえば冒険者や商人が知ったら騒ぎになるに決まっている。
⸻
昼過ぎ。
ルナはベビーベッドの上で、タオルを握りしめながら寝息を立てていた。
部屋の中は静かで、窓から差し込む日差しがカーテン越しに揺れている。
悠真はキッチンに立ち、カップラーメンをお湯で作りながら、スマホの通知をチェックする。
「追加ミルク、到着っと。……ホント便利だな、これ」
注文から1分もしないうちに、玄関の定位置に箱が現れる。
中身を確認すると、商品に混ざって「ご購入ありがとうございます」のメッセージカードまで入っていた。
(現金チャージもできるし、支払い方法も一元化。便利すぎて意味がわからん)
けれど、今はそのありがたさに甘えておくしかない。
ルナの世話をしながら、手作業で何もかもを賄うのは、どう考えても無理だった。
⸻
夕方。
ルナがふにゃっと目を覚まし、小さくぐずり始めた。
「はいはい、すぐ行く」
オムツの交換もミルクも、もう何度目か分からないほどだが、動きは格段にスムーズになっていた。
そして、作業を終えて抱っこしていると──
ふと、ルナがこっちを見上げてきた。
ちいさな黒目と、わずかに開いた口。
そのまま、ほわっとした顔で、少しだけ笑ったように見えた。
「……笑った、か?」
勘違いかもしれない。でも、確かに「何かしらの感情」が返ってきたような気がした。
(……やっぱ、ちゃんと育てていくって決めて、正解だったかもな)
外の世界がどうなっていようと──今はこの子との生活が中心だ。
⸻
夜。
今日も夜泣きは続くだろう。
けれど、悠真の動きは、昨日より確実に慣れている。
「やるべきこと」が、身体に少しずつ染みついてきていた。
(明日、天気が良かったら……庭の先でも散歩してみるか)
そろそろ、外の空気を吸いに行ってもいい頃かもしれない。
この世界に来て、まだ家の周囲以外には足を踏み出していない。
「ちょっとくらい、歩いてみるか……ルナの散歩にもなるしな」
翌日、初めての“外への一歩”が、静かに始まろうとしていた。
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