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『木の実と、保存食と、ちょっとした発見』
湖畔の朝は、想像以上に静かだ。
風が葉を揺らす音と、時折聞こえる水鳥の鳴き声以外は、まるで時間が止まったような気さえする。
悠真はいつもより少し早く目を覚まし、キッチンに立っていた。
ルナはまだ眠っている。昨晩は夜泣きが少なく、久しぶりに少しまとまった睡眠が取れた気がする。
「とりあえず、朝飯は簡単にすませて……今日は庭のほうも見てみるか」
ルナの朝の準備を整えたあと、悠真はスニーカーを履いて外に出た。
家のすぐ裏手には湖があるが、今日は玄関側──つまり庭の端にある草むらを覗いてみることにした。
⸻
庭と呼べるほど整備されてはいない。
ただ、自宅の敷地の一部が、森との境目のように少し開けているだけだ。
そこに、淡い黄色の花を咲かせた見慣れない低木が生えていた。
葉の形はどこか柚子に似ているが、枝先には丸い実が鈴なりになっている。
手で触れてみると、柔らかく、強い柑橘系の香りがした。
「これ、食べられるのか……?」
スマホを取り出し、通販アプリの“調査”モードを起動。
対象物にカメラをかざすと、すぐに反応が返ってきた。
【対象:セフィナの実】
【分類:野生果樹(可食・加熱推奨)】
【薬効:疲労回復、軽度の防腐作用あり】
【利用可能:食用・調味・保存食加工】
「おぉ……ちゃんとした果実だったんだな、これ」
生で食べるより、加熱したり干したりしたほうが使いやすいとの記載。
保存食にできると分かれば、今後の食糧事情にもプラスになる。
枝からいくつかの実を摘んで、キッチンへ戻る。
⸻
「まずは、試しにコンポート風に煮てみるか……」
皮を剥いて、果肉を適当に切り分け、砂糖と水で軽く煮込む。
爽やかな酸味と独特の渋みがあり、どことなくライムに近い味だった。
(これ、ヨーグルトにかけたら合いそうだな)
食後に少しだけ試してみると、ルナの顔がきゅっとすぼまり、小さく咳き込んだ。
どうやら赤ん坊にはまだ早すぎたらしい。
「すまん、ちょっと酸っぱかったな……」
それでも食べたがる様子が少しあったのは、果実の香りが気に入ったのかもしれない。
⸻
その日の午後。
悠真は家の中のゴミを片付けながら、ふと考えた。
(これ、捨てるにしても処理に困るな……)
現代日本で暮らしていれば、ゴミの分別や収集があるが、この異世界ではそんなシステムはない。
しかも、ゴミ袋そのものがいつまでも家の中にあるのはストレスになる。
試しに、通販アプリの「換金」モードに、空の牛乳パックやペットボトル、使い終えたティッシュなどを順にスキャンしてみると──
【チャージ可能:生活廃棄物(再資源対象)】
【分類:プラスチック・紙類・有機物】
【エコボーナス付与:自動チャージ済み】
「……マジかよ。ゴミすらチャージになるのか」
環境配慮というか、生活者向けというか──妙に至れり尽くせりな仕様に驚いた。
ただし、有害物や分解不能な物は対象外との注記もあった。
それでも、日々出る生活ゴミがそのままチャージになるのは助かる。
(なんか、文明としての格差がすごいな……)
たった一軒だけ、インフラのある現代の家。
まるで、自分だけが“未来”に取り残されたような不思議な気分になる。
⸻
「それにしても、チャージ残高……増えてきたな」
さっきの銀貨と、ちょこちょこ換金していた自然素材のおかげで、通販アプリのチャージは安定してきた。
必要なものを買っても減らないどころか、むしろちょっと増えている。
これなら保存食や生活用品のストックも、少し多めに備えておけそうだ。
悠真はそのまま、通販で以下の物を注文する:
• 小型の食品乾燥機
• ガラス瓶と密封容器セット
• 日本製の非常食セット(レトルト・乾麺・缶詰など)
• ついでにおやつも数点(チョコや米菓)
「……まるで防災オタクだな、俺」
苦笑しながらも、今は何が起きても不思議ではない異世界。
備えておくに越したことはない。
玄関先にはすぐに荷物が届き、荷解きしながら保存棚の整理に入った。
(そのうち、誰かに食べさせる機会も来るかもしれないしな)
とはいえ、まだ人との接触はない。
でも、外に出たとき感じたあの空気──誰かがここを通ったことがあるような、微かな気配。
(交流が始まるのは、もう少し先……か)
まずは、この暮らしを軌道に乗せていこう。
そう思いながら、悠真は煮詰めたセフィナの果実を瓶に詰め、ラベル代わりのマスキングテープに日付を書いた。
「よし、これで“うちの一品目”ってことで」
まだ誰も知らない異世界の湖畔で、自分だけの暮らしが、また少し形になっていく。
湖畔の朝は、想像以上に静かだ。
風が葉を揺らす音と、時折聞こえる水鳥の鳴き声以外は、まるで時間が止まったような気さえする。
悠真はいつもより少し早く目を覚まし、キッチンに立っていた。
ルナはまだ眠っている。昨晩は夜泣きが少なく、久しぶりに少しまとまった睡眠が取れた気がする。
「とりあえず、朝飯は簡単にすませて……今日は庭のほうも見てみるか」
ルナの朝の準備を整えたあと、悠真はスニーカーを履いて外に出た。
家のすぐ裏手には湖があるが、今日は玄関側──つまり庭の端にある草むらを覗いてみることにした。
⸻
庭と呼べるほど整備されてはいない。
ただ、自宅の敷地の一部が、森との境目のように少し開けているだけだ。
そこに、淡い黄色の花を咲かせた見慣れない低木が生えていた。
葉の形はどこか柚子に似ているが、枝先には丸い実が鈴なりになっている。
手で触れてみると、柔らかく、強い柑橘系の香りがした。
「これ、食べられるのか……?」
スマホを取り出し、通販アプリの“調査”モードを起動。
対象物にカメラをかざすと、すぐに反応が返ってきた。
【対象:セフィナの実】
【分類:野生果樹(可食・加熱推奨)】
【薬効:疲労回復、軽度の防腐作用あり】
【利用可能:食用・調味・保存食加工】
「おぉ……ちゃんとした果実だったんだな、これ」
生で食べるより、加熱したり干したりしたほうが使いやすいとの記載。
保存食にできると分かれば、今後の食糧事情にもプラスになる。
枝からいくつかの実を摘んで、キッチンへ戻る。
⸻
「まずは、試しにコンポート風に煮てみるか……」
皮を剥いて、果肉を適当に切り分け、砂糖と水で軽く煮込む。
爽やかな酸味と独特の渋みがあり、どことなくライムに近い味だった。
(これ、ヨーグルトにかけたら合いそうだな)
食後に少しだけ試してみると、ルナの顔がきゅっとすぼまり、小さく咳き込んだ。
どうやら赤ん坊にはまだ早すぎたらしい。
「すまん、ちょっと酸っぱかったな……」
それでも食べたがる様子が少しあったのは、果実の香りが気に入ったのかもしれない。
⸻
その日の午後。
悠真は家の中のゴミを片付けながら、ふと考えた。
(これ、捨てるにしても処理に困るな……)
現代日本で暮らしていれば、ゴミの分別や収集があるが、この異世界ではそんなシステムはない。
しかも、ゴミ袋そのものがいつまでも家の中にあるのはストレスになる。
試しに、通販アプリの「換金」モードに、空の牛乳パックやペットボトル、使い終えたティッシュなどを順にスキャンしてみると──
【チャージ可能:生活廃棄物(再資源対象)】
【分類:プラスチック・紙類・有機物】
【エコボーナス付与:自動チャージ済み】
「……マジかよ。ゴミすらチャージになるのか」
環境配慮というか、生活者向けというか──妙に至れり尽くせりな仕様に驚いた。
ただし、有害物や分解不能な物は対象外との注記もあった。
それでも、日々出る生活ゴミがそのままチャージになるのは助かる。
(なんか、文明としての格差がすごいな……)
たった一軒だけ、インフラのある現代の家。
まるで、自分だけが“未来”に取り残されたような不思議な気分になる。
⸻
「それにしても、チャージ残高……増えてきたな」
さっきの銀貨と、ちょこちょこ換金していた自然素材のおかげで、通販アプリのチャージは安定してきた。
必要なものを買っても減らないどころか、むしろちょっと増えている。
これなら保存食や生活用品のストックも、少し多めに備えておけそうだ。
悠真はそのまま、通販で以下の物を注文する:
• 小型の食品乾燥機
• ガラス瓶と密封容器セット
• 日本製の非常食セット(レトルト・乾麺・缶詰など)
• ついでにおやつも数点(チョコや米菓)
「……まるで防災オタクだな、俺」
苦笑しながらも、今は何が起きても不思議ではない異世界。
備えておくに越したことはない。
玄関先にはすぐに荷物が届き、荷解きしながら保存棚の整理に入った。
(そのうち、誰かに食べさせる機会も来るかもしれないしな)
とはいえ、まだ人との接触はない。
でも、外に出たとき感じたあの空気──誰かがここを通ったことがあるような、微かな気配。
(交流が始まるのは、もう少し先……か)
まずは、この暮らしを軌道に乗せていこう。
そう思いながら、悠真は煮詰めたセフィナの果実を瓶に詰め、ラベル代わりのマスキングテープに日付を書いた。
「よし、これで“うちの一品目”ってことで」
まだ誰も知らない異世界の湖畔で、自分だけの暮らしが、また少し形になっていく。
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