10 / 28
第10話『ふたりで選ぶ、はじめてのラッピング』
しおりを挟む翌朝。
トーストに手作りクッキーを添えた朝食を前に、陽菜はむふふと笑いながら顔をほころばせていた。
「ねえママ、昨日つくったクッキー……ほんとにおいしかった!」
「でしょ? うまく焼けたよね」
「今日、あやちゃんにわけたいな。ちゃんと箱に入れてあげたい!」
「じゃあ……今度は、ラッピングの部屋に行ってみようか」
「うんっ!」
ランドセルの横に小さなクッキー缶を持たせ、
「学校のあとは、いっしょに“ひみつの時間”ね」と小声でささやくと、陽菜は得意げにうなずいて家を出ていった。
⸻
午後。
宿題を終えた陽菜が「終わったよ~!」と元気にキッチンへやってきた。
テーブルには、小さく丸めたクッキーがラップで包まれて並んでいる。
「じゃあ、今日はその子たちの“おふく”を選びに行こうか」
「クッキーに服着せるの?」
「うん。ラッピングっていうのはね、食べものにとっての“おしゃれ”みたいなものなの」
「すごーい、たのしそうっ!」
結月は白い本を開き、指を一緒に添えて「ラッピングのお部屋へ」と思い浮かべた。
⸻
ほんのり甘い風がふたりを包み、次に目を開けたとき――
そこは、柔らかな光に包まれた雑貨のアトリエだった。
壁には、小瓶に入ったリボンやタグ、
棚には缶や紙箱、ガラス瓶、布巾着までずらりと並んでいる。
「わあ……ここ、まるでお店みたい!」
「ふふ、“秘密の材料屋さん”みたいでしょ?」
陽菜は真っ先に、小さな紙箱のコーナーに駆け寄る。
「この白い箱、かわいい~。でも、ピンクのリボンも捨てがたい……!」
「じゃあ、どっちも使ってみようか。中に敷く紙も選んで」
「これ、音符柄だよ! ひなの曲とおそろい!」
「いいね。じゃあ、音符のワックスペーパーにクッキーを並べて……」
ふたりで相談しながら作業を進める。
陽菜がリボンを持ち、結月がハサミを取り出し、タグには一緒に「ありがとう」と書いた。
「字、うまく書けてる?」
「うん。ひなの“ありがとう”は、ちゃんと伝わるよ」
ラッピングが完成したとき、陽菜は満足そうに目を輝かせた。
「すごい……売ってるやつみたいになった……!」
「売ってないよ、これは“世界にひとつ”の包みだもん」
⸻
現実に戻ると、すでに外は夕方。
ほんの数十分だったはずなのに、陽菜にとってはずっと長く感じたらしい。
「ママ……なんか、“旅行”したみたいだったね」
「そうだね。ふたりで“秘密の国”に行ったみたい」
陽菜は紙袋の中のラッピングを何度ものぞいては、顔をほころばせた。
「明日、わたすの、ちょっとドキドキするなあ」
「大丈夫。“ありがとう”はね、言われると、きっと嬉しいものよ」
「じゃあ、ひなも言える人になる!」
⸻
翌日。
登校前、陽菜は紙袋を大事そうに胸に抱えて、
「ありがとう、って気持ち、ちゃんと届けてくるね」と一言。
結月は、娘の背中を見送りながらそっと本を撫でた。
ほんの小さな、でも確かな一歩。
“つくること”が、誰かの心に届くこと。
あの本がくれた世界は、母と娘の日常に、静かであたたかな光を灯していた。
⸻
その日の夜。
学校から帰った陽菜が、照れくさそうに話してくれた。
「あやちゃん、“すごくかわいい~!”って言ってくれて、ゆりちゃんママが“こんなのどこで買ったの?”って聞いてた!」
「なんて言ったの?」
「“ないしょのキッチンで作ったの!”って」
「そっか。……ふたりだけの秘密、ちゃんと守ってるね」
「うんっ!」
そして陽菜は、また言った。
「ママ、また作ろうね。“つぎはもっとすごいやつ”!」
(ふふ、楽しみだな)
結月は笑いながら頷いた。
次は何を作ろう。どんなページをめくろう。
本の中には、まだまだたくさんの「はじめて」が待っている。
母と娘の、ちいさな魔法の物語は――
これからも、そっと、やさしく続いていく。
⸻
22
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
勇者パーティーの保父になりました
阿井雪
ファンタジー
保父として転生して子供たちの世話をすることになりましたが、その子供たちはSSRの勇者パーティーで
世話したり振り回されたり戦闘したり大変な日常のお話です
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる