愛を知らない少女

とうふ

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11 学園の女王様

学園の女王様2

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 そんなある日、わたしは麗華に、改まって話したいことがあると言われて、放課後に、待ち合わせ場所に指定された生徒会室に向かった。
 たまたまその日は、放課後のSクラスの授業のない日だった。もっとも、Sクラスが無くても、男子生徒たちには例のカラオケボックスに呼び出されるから、あまり長居をするような時間はなかったのだが。

 「失礼します」

 他の教室と違い、生徒会室の入口は窓ガラスがない重厚そうな鉄扉で、室内の様子は窺い知れないようになっていた。
 ドアノブを回して、生徒会室の中に入る。部屋の中にいたのは、麗華1人だけだった。窓の外から差し込む夕日が、綺麗に整頓された室内の戸棚やソファ、机などを赤く色づかせていた。

 「待ってたわ、有梨香さん。来てくれてありがとう」
 「いえ、構いませんけど・・・でも、いきなり改まってわたしにお話があるっていうから、びっくりしました」

 普段、麗華とは廊下で会ったりした時に挨拶する程度だ。
 だが、正直言って、彼女がわたしを見る視線は最初から気にはなっていた。生徒会長である彼女は、学年や男女関係なく、誰に対しても毅然としつつ慈しみのある表情で接している。ただ、わたしと挨拶を交わす時だけは、何故か熱っぽい雰囲気で、切れ長の美しい瞳には何とも言えない艶めかしささえ感じるのだ。
 それに彼女は、初めて生徒玄関前で会ったときも、なぜかわたしの名前を知っていたのだ。いくら生徒会長だとは言っても、興味のない人間の名前をいちいち覚えるだろうか。
 これまでなら、単にわたしの考えすぎだろうと思うこともできた。しかし、こうして1対1で呼び出されたからには、もはやわたしの感じていた違和感は、確信に変わっていた。

 「そうよね。単刀直入に言うわ、有梨香さん・・・」
 わたしは、息をのんで彼女の次の言葉を待った。だが、麗華の言葉は、わたしの予想のはるか斜め上を行くようなものだった。

 「良ければ、私とお付き合いをしてほしいの」
 「え・・・?お付き合い、って」
 「言葉通りの意味よ。私、有梨香さんを一目見た時から、好きになってしまったの。女の子同士なんて、変だって思うかもしれないけど」
 「え・・・ええっ・・・?」

 突然呼び出されて、只事ではあるまいとは思っていたけれど、あまりにもストレートな麗華の告白に、わたしは思わず返事に詰まってしまう。

 「駄目かしら。有梨香さんは、私のことどう思ってる?」

 麗華は、生徒会長専用の大きめの机に片手をつけたまま、にこやかな表情を崩さなかった。夕日の柔らかなオレンジ色に照らされて、元々モデルのような彼女の姿が、より美しく妖艶に映る。

 「えっと・・・あの、とても綺麗で、素敵な方だって、思ってます・・・けど・・・でも、お付き合いって・・・」
 「ありがとう、素直に嬉しいわ。でも、やっぱり・・・そうよね、私が女だから・・・有梨香さんは、やっぱり男の子の方が良いのよね?」

 麗華の言葉に、それは当然、と言いたいところだが、それが本心という訳でもなかった。これまで、女の子同士の経験がわたしになかっただけなのだ。今では、わたしにはちえりという友人ができ、学園の性奴隷として男子たちの性処理をさせられる傍らで、2人だけで体を交えるようにもなっている。
 結局のところ、男とか女とかいう以前に、わたしには誰かを愛するという感覚がまだよく分からないというのが、本音だった。ちえりのことも、今では本人に向かってでも大好きだと言えるが、それがわたしの考えているような愛かと言われると、やはり違うと思うのだ。

 それに、麗華は理事長の娘だ。彼女の態度を見ている限り、今のところは、わたしや理事長の関係に気づいている素ぶりはない。しかし、わたしが学園の性奴隷で、彼女の父親にも散々犯されていることを、絶対に知らないという保証もない。そんな状況でいきなり彼女の方から交際を持ちかけられたのだ。どう返事をするのがいいのか、わたしはすっかり動揺してしまった。

 「そういう訳では・・・でも、わたし突然で・・・」

 わたしの混乱を見透かしていた訳ではないだろうが、突然こんな話題を持ちかけて、すんなりと了承を得られないであろうことも想定の内なのだろう。麗華は落ち着いた態度を崩さず、言葉を続ける。

 「そうよね。挨拶くらいしかしたことのない相手に、いきなり告白されても困るわよね・・・じゃあ、お試しで付き合ってみるのはどうかしら?」
 「お試し、ですか?」
 「ええ。まあ、ちょっと仲の良いお友達、くらいから始められたらと思うの。どう?」

 麗華の言う事の先には、普通の女友達以上の性愛があると分かっていたが、彼女のような綺麗で聡明な女性から好意を寄せられること自体は、悪い気がすることではない。
 まして、わたしのことを気遣って、遠慮がちに付き合いを申し出てこられては、わたしも無碍に断ることはできなかった。

 「仲の良い友達ですか・・・それなら、まあ・・・」

 曖昧ながらに返事をし、わたしが頷くと、麗華はわたしの手を取った。

 「ありがとう!嬉しいわ。私が、有梨香さんに、女の子同士の良さを教えてあげるわ」

 麗華は、飾り気はないのに上品さを漂わせる笑顔を見せる。華麗な美貌も相まって、女のわたしでもドキッとしてしまう美しさだ。
 それに、彼女の内面から黙っていても滲み出てくる知性と気品が、大人の色気を漂わせていた。

 「は、はい・・・よろしくお願いします」
 「ふふっ・・・これで今から私たち、仮だけど恋人同士ね」

 近づいた彼女の体からほのかに摘みたてのバラのような良い香りが漂ってくる。何だか、とんでもないことを簡単に了承してしまった気がするが、今さら気づいてももう遅い。
 それに、少し戸惑いもあるが、嬉しそうな表情をしている麗華を見ていると、ものすごく気品があるのに可愛らしい一面があって、女のわたしでも、ドキドキしてしまう。

 「じゃあ、私たち恋人なわけだし・・・少しだけ、いいかしら」

 麗華の真っ白で細い指先が、わたしの頬に優しく触れる。
 わたしの顔に、目を細めた綺麗な麗華の顔が近づいて、アップになる。少しだけ悪戯っぽく、それでいて淫らな微笑みを浮かべている。

 「あ」

 わたしの唇を、麗華の柔らかい唇が奪う。

 「んっ・・・」

 麗華にキスされて、わたしは反射的に、舌を差し出していた。麗華は少しだけ驚いたように目を開いたが、すぐにうっとりと瞼を閉じてわたしの舌に、自分の舌を絡めてきた。
 柔らかな舌をうねうねと絡ませ合い、狭い口腔内で求めあった。弾力のある唇をひとつに繋げ合ったまま、ぴちゃぴちゃと音を立ててお互いの口を吸いあう。

 「ん、ぷはっ」

 息をするのも忘れて唇を求め合った後、息継ぎをするように、お互いに唇を離す。
 上気した頬を赤らめる麗華の唇からもわたしの唇からも、唾液が糸を引いていた。

 「ご、ごめんなさい。私、つい夢中になっちゃって」

 わたしに謝る麗華は恥ずかしそうに目を伏せるが、それでもわたしの頬に手のひらを当てたまま、切なそうな上目遣いで見上げていた。生徒会長の端正な美貌に、たっぷりと艶めかしい女の色香が浮かぶ。そんな麗華の表情から、わたしは目が離せず、吸い込まれるようにわたしたちはもう一度唇を重ねていく。

 「んっ・・・」

 今度はわたしからもより積極的に舌を伸ばして、麗華の口の中に舌を入れていく。麗華の舌の根や、歯茎にも舌を這わせていくと、麗華からも、お返しとばかりにわたしの口内のあちこちを舐め回し、まるでわたしの味を確かめるかのようにキスしてくる。

 「んちゅ、ちゅっ、んっ・・・」

 わたしは麗華の背に手を回し、麗華はわたしの艶やかな黒髪を撫でながら、次第にわたしたちは濃密に舌を絡ませた。麗華の体を包む香りが口の中にも広がって、唾液さえ甘く感じられる。
 長い女の子同士のディープキスだけで、わたしは頭の中まで蕩かされそうだった。

 「んっ、ん・・・ああっ、有梨香さん、好きよ・・・」
 「はぁ、はぁ・・・麗華先輩っ」
 「嫌。麗華って呼んで」
 「んっ、ああ・・・麗華、さんっ・・・」

 それからしばらくの間、わたしと麗華はお互いの唇や舌を貪りあった。
 何分くらい、お互いに口づけを繰り返したか分からない。やがて、ようやく満足したのか、麗華はわたしから離れる。
 淫らな感情を掻き立てられたわたしは、少し息が上がっていて、上気した頬も赤くなっていた。そしてそれは麗華も同じだった。

 「はぁ、すごく良かったわ・・・有梨香さん」

 そう言って満ち足りた笑みを浮かべる麗華は、いつもの気品のある雰囲気とは違って、どこか妖艶に感じられた。
 わたしはそんな麗華が凄絶なほど美しく、可愛らしいと思ってしまった。

 「じゃあ、続きは明日ね・・・私のこと嫌じゃなければ、お昼休み、またここへ来てちょうだい」
 「は・・・はい・・・麗華さん」
 「次は、もっといいことしましょうね」

 そう言って、嬉しそうに微笑む麗華。彼女の身にまとう大人っぽい雰囲気と女の色香は、わたしをも圧倒しそうなほどだった。白い肌はほんのりと紅潮し、艶やかな瞳で見つめる姿は妖しげな魅力を放つ。わたしは、思わず息をのみ、言葉を詰まらせてしまっていた。

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 翌日以降も、わたしは多少の迷いを抱きながらも、麗華の呼び出しに応じて、昼休みや放課後の僅かな時間を縫って、生徒会室を訪れるようになった。
 行けば、また口説かれて、彼女のペースに巻き込まれてしまうのだが、彼女を拒絶することはできなかった。理事長の娘でもあり、生徒会長も務める麗華の持つカリスマ性は伊達ではなかった。わたしとはまた異質な、自然と人を惹きつける知性的な魅力を備えていた。

 それに、わたしも心のどこかで、自分へ思いを寄せてくれる麗華に悪い気がしていなかったのも事実だろう。ちえりの時もそうだったが、これまで男性たちの欲情に晒され続けてきたわたしには、女同士の友情のようなものに飢えているのかもしれない。

 それに、麗華はわたしをいつも温かく歓迎してくれた。放課後にはSクラスの授業があるため、あまり長い時間会うことができないにも関わらず、それに文句を言うこともなかった。おしゃべりの最中、時々、手のひらを重ねてきたり、キスしてきたりと、スキンシップを求めてくることもあったが、わたしが僅かでも抵抗する素振りを見せると、決して無理強いすることもない。
 会うたびに2人の距離は近くなり、麗華がわたしに抱く恋慕の情は伝わってきたが、同時にわたしへの心遣いも十分感じられた。

 やがて、わたしも麗華に対して警戒心を持つこともなく、すっかり信頼するようになっていた。

 「失礼します・・・」

 昼休みになり、わたしはいつものように生徒会室のドアをノックし、入口の扉を開けていた。
 室内には、先に来ていた麗華が1人で椅子に座り、わたしを待ってくれているのも、見慣れた光景になっていた。

 「嬉しいわ。いつも来てくれてありがとう、有梨香さん」
 「いえ、こっちこそ・・・」

 屈託なく嬉しそうな笑顔を浮かべて麗華は席を立つと、わたしをソファへ座るようにと促した。そして、彼女自身は戸棚に並べられた応接用のティーセットを取り出し、電気ポットのお湯を注いでいく。

 「有梨香さんは、いつもの紅茶でいいかしら?」
 「あ、はい。ありがとうございます」

 麗しの生徒会長自らが、2つのティーカップをトレイにのせ、わたしの座るソファの前の低いテーブルに並べてくれる。麗華の淹れてくれた、温かい湯気を立ち上らせる紅茶を口にしながら、何気ない日常の会話を楽しむ。品がありながら、柔らかな口調で話す彼女との話題はいつも途切れることがない。コミュニケーションに長け、話し上手なところも、生徒会長に相応しい資質のひとつなのだろう。

 (あ、あれ・・・?)

 話をしているうちに、急に瞼が重くなるのを感じる。不意に、強烈な眠気が襲ってきたのだ。
 今までに、こんな眠気を感じたことがないほど、頭が朦朧としてきて、意識を保っていられない。

 「有梨香さん、どうしたの?大丈夫?」

 わたしを見つめる麗華は、ルージュの唇に小悪魔的な微笑みを浮かべている。

 「分からない、わたし、・・急に、眠くて・・・」
 「いいのよ、有梨香さん。眠たいなら、少し横になっても」
 「で、でも・・・授業が・・・」
 「心配ないわ。私が、代わりに先生に伝えておいてあげるから。有梨香さんは、ちょっと体調が優れないので、午後の授業はお休みします、ってね・・・」

 次第に眠気が強まり、目の前が暗く、麗華の声が遠くなっていく。わたしの意識は、そこで途切れた。
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