愛を知らない少女

とうふ

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16 ちえりの家で

ちえりとの街デート1

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 数日後の休日の繁華街。多くの店が立ち並ぶ駅前の交差点の前へ、わたしはやってきた。休日に普通に外出するなんて、いつぶりだろう。

 「あ、有梨香!こっちだよ」

 今日のわたしは、スカートがプリーツ仕立てになった紺系のロングワンピースだ。リボンのようなベルトが可愛らしいが、全体的には露出も少なく大人しめのデザインだ。それでも、駅前の人通りの多い中であるにも関わらず、ちえりは遠くから目ざとくわたしを発見して大きく手を振る。
 今日のちえりは、レース付きの白いプリーツスカートに、少し胸元の開いた可愛らしいブラウスを着て、気合は十分といった様子だった。ただでさえ巨乳と言えるほどの大きな胸の谷間が強調されている。わたしとのデートの約束をしてから、彼女は何日も前から楽しみにしていたことが、服装だけでも伝わってきた。

 「待たせてごめんね、ちえり。今日もすごく可愛いよ」

 わたしは元子役女優らしく、柔らかな笑顔で微笑んだ。ちえりは心底嬉しそうに笑顔を返し、わたしの腕に抱きついてくる。わたしにとって、誰かに優しくすることや、相手に期待されている役割を演じることはそう難しい話ではない。けれど、腕に押し付けられるちえりの柔らかな感触や、自分に向けられる熱い視線を受けても、わたしの胸の奥にはどこか空虚な風が吹いている。

 (わたし、ちえりのことを好きなのかな・・・?わたしには、まだよく分からない・・・)

 ちえりに求められることは嬉しいし、愛されている実感もある。わたしも、基本明るく前向きで、人を疑うこともしない純真な彼女のことは嫌いじゃない。だが、それが愛しているということなのかと言われると、答えられなくなってしまう。

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 心の中に引っかかった棘のような気持ちを抱きながらも、わたしはちえりと駅ビルのセレクトショップに入った。ちえりが以前から2人で行ってみたいと言っていた店だった。

 「あ、ねえねえ。有梨香。これなんか可愛いんじゃない?」

 お互いに似合いそうな服を考え、何枚かの商品を比べてみる。何気ない会話だが、楽しそうなちえりをみていると、わたしも楽しくなってくる。こうしていると、わたしもごく普通の女子高生であるような気になってくる。

 (たまには、こんな時間があったっていいよね・・・?わたしにだって)

 男の人たちの性奴隷になったことに後悔はしていないが、ちえりと一緒にいる間は、そのことを忘れさせてくれた。
 そんな時だった。わたしの背後から、鈴の鳴るような透き通った声が聞こえてきたのは。

  「あら、こんなところで奇遇ね。有梨香さん、それに、ちえりさんも」

 振り返ると、そこには襟付きの黒いブラウスに、丈の長いチュールのロングスカートを着た、モデルのような美しいスタイルを誇る麗華が立っていた。私服姿でも隠しきれない気品と、生徒会長としてのオーラが漂っている。

 「麗華さん・・・!どうしてここに?」
 「ふふ、有梨香さんが可愛い子とデートしているって噂を聞いたから、少し様子を見に来たの。ねえ、有梨香さん?私を差し置いて楽しそうじゃない」

 麗華は、驚いて固まっているちえりを無視するように、わたしの背後に回り込む。そして、わたしの耳元で2人だけの秘密を囁く。

 「お父さまが、また私と貴女と、3人で会いたいとおっしゃっていたわよ」

 麗華の言葉に、彼女が理事長に告白した日のことを思い出して、わたしは思わず顔を赤らめてしまう。ちえりに悟られてはまずいと、わたしは慌てて麗華を睨んだ。

 「麗華さん、今はちえりと遊んでいる最中ですから・・・」
 「分かっているわ。だから、私も混ぜてちょうだい。3人の方が、もっと刺激的で楽しいわよ?」

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 押しの強い麗華の勢いに圧倒され、わたしもちえりも、強く麗華を拒むことができず、なし崩し的に3人で服を選ぶことになってしまった。 

 「ふふ、そんな子供っぽいパステルカラーのワンピース、有梨香さんには少し退屈だと思わない?」

 麗華は、ちえりが選んだ淡いピンクの服を一瞥し、挑発的に微笑んだ。最初の店から移動し、わたしたちは、学生が気軽に入るには少し敷居の高そうな、インポートブランドのセレクトショップにやってきていた。もちろん、麗華の主導でだ。

 「なっ・・・! 有梨香は、こういう可愛いのが一番似合うんです! 麗華さんのみたいな、そんな・・・背中が空いたドレスなんて、有梨香には似合わないです!」

 ちえりは、抱えていたワンピースをぎゅっと抱きしめて麗華を見上げた。しかし、麗華は余裕の笑みを崩さず、手に持っていた一着のシュミーズドレス広げて見せる。それは、薄いシルクでできた、体のラインを露骨に強調する深い真紅のドレスだった。

 「有梨香さんは、可憐な美少女という仮面の下に、もっと毒のある美しさを隠しているのよ・・・ねえ、そうでしょう?」

 麗華は、ドレスを腕にかけると、わたしの顎を指先でクイと持ち上げ、その潤んだ瞳を覗き込むように見つめる。わたしはただ、困ったような、照れたような笑みを浮かべるしかない。

 「さあ、有梨香さん。これを着てみて。私が手伝ってあげるわ」
 「あ、あの!あたしも手伝います!」

 慌てたちえりを、麗華は冷ややかな、けれど艶然とした物言いで制する。

 「ちえりさん。貴女はここで、自分の選んだ服がいかに有梨香さんに不釣り合いか、待っている間によく考えておくことね・・・お入りなさい、有梨香さん」

 麗華はわたしの背中を押し、強引に試着室の扉の奥へと一緒に入ってくる。扉の外に残されたちえりは、素早い麗華の動きに言い返すタイミングを逃してしまったようだった。試着室の扉の向こうから聞こえてくる衣擦れの音に、やきもきしながらも待つことしかできない。

 狭い試着室の中は、2人で入るとかなり窮屈だ。麗華の身につけている薔薇のような香水の香りでいっぱいになる。

 「麗華さん、少し強引ですよ・・・っ」
 「いいじゃない・・・あら、このホック、少し固いわね」

 麗華の手が、わたしの白い背中に触れる。麗華の指先は冷たく感じられたが、彼女の指はいつまでもわたしの背中を這い回っている。それは明らかにホックを外すための動きではない。もはや愛撫と言ってもいい、艶かしい動きだった。
 麗華は背後からわたしの耳元に唇を寄せ、低い声で囁く。

 「お父さまもね・・・言っていたわ。貴女は、自分から望んで汚されるのを待っている。空っぽの器を、男の人の欲望で埋めて欲しがっているみたいだって」
 「理事長が・・・?そんなことを・・・」
 「まあ、それはお父さまの感想じゃなくて・・・お父さまと仲の良いおじさまから言われたことらしいけれどね」

 麗華の指先の愛撫と、耳元への吐息とを感じながら、わたしは頭の中に1人の男性が思い浮かんだ。わたしのことを、そんな風に品評できるのは、きっとわたしのご主人様である、竜崎さんしかいない。わたしの空虚さを、埋められる男性がいるとしたら・・・わたしに男女の愛を教えてくれる男性がいるとしたら・・・今は竜崎さんしか考えられない。だが、高校に進学してからは事務所を出て1人暮らしを始めたこともあり、忙しい彼と会える機会もめっきり減ってしまっている。
 思い悩むような表情を浮かべるわたしを見つめて、麗華は艶っぽく微笑む。心に寂しさを抱えるわたしの姿が、麗華の征服欲をより一層掻き立てるのかもしれなかった。
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