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美容室【シャンベルタン】
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美容院【シャンベルタン】の青い扉を開けると、〈いらっしゃい〉と扉が挨拶をしてくれた。
ひょうきんな中年男の声は、まるで遊園地のアトラクションの口上のようで、髪を切るのを楽しみにしている客をますます心躍らせ、緊張している初めての客の不安をやわらげる。
「こんにちは」
〈おうおう来やがったな、ケヒヒッ〉
店長が腰に巻いているシザーケースから、ハサミが声を上げた。
老いてはいないが子どもでもない、嫌味ったらしくはないが悪巧みが趣味のような男の声。
「こらこら、お客様にはいらっしゃいませでしょ」
〈いいじゃねえか、あいつとはちんちくりんのガキん頃からの付き合いだぜ〉
「だからこそ、あたしら失礼な態度をしちゃだめなんだよ」
店長のつかさが人さし指でハサミの柄をつんつん、とつつく。
「次に刃を研ぐの、私がやろっかなあ」
〈やめろ!〉
「ピッカピカにしてあげてるのに、失礼だなあ」
〈お前の研ぎ方なんか怖ぇーんだよ!〉
つかさが愛用のハサミをたしなめるのも、ハサミがちっとも反省しないのも、それこそ瑠衣がちんちくりんのガキの頃から変わらない。
〈またやってるわ〉
カットコームが呆れたように言った。妙齢の女性の声だが、しっとりと艶やかだ。
〈もう飽き飽き、瑠衣もそう思わない?〉
「そうかな」
むしろ瑠衣はむしろ二人のやりとりを聞いてこそ、扉に出迎えらてこそ、店に来たと実感する。
天井に設置されたスピーカーから有線放送が流れているが、聞こえないくらい賑やかだ。
「ごめんね、いらっしゃい、瑠衣ちゃん」
シンプルなカットソーにジーパンはつかさにとって仕事着だ。アッシュグレーの髪に、宝石のようなネイル。彼女は美容師であり、瑠衣にとって魔女の先輩でもある。
つかさは瑠衣の帽子と上着を預かり、瑠衣をスタイリングチェアに座らせた。
「久しぶり」
〈うふふ、貴方も、みんな元気そうね〉
つかさが黒い三角帽子に話しかけると、返事がきた。おっとりとした口調の、老婆のやわらかな声。つかさだけでなく道具たちも、こぞって帽子に声をかけたそうにそわそわしていた。
店長が両手のひらを打った。
「はいみんな、仕事です!」
声こそ出さなかったが、道具たちは〈はい、マスター〉と告げた。
ひょうきんな中年男の声は、まるで遊園地のアトラクションの口上のようで、髪を切るのを楽しみにしている客をますます心躍らせ、緊張している初めての客の不安をやわらげる。
「こんにちは」
〈おうおう来やがったな、ケヒヒッ〉
店長が腰に巻いているシザーケースから、ハサミが声を上げた。
老いてはいないが子どもでもない、嫌味ったらしくはないが悪巧みが趣味のような男の声。
「こらこら、お客様にはいらっしゃいませでしょ」
〈いいじゃねえか、あいつとはちんちくりんのガキん頃からの付き合いだぜ〉
「だからこそ、あたしら失礼な態度をしちゃだめなんだよ」
店長のつかさが人さし指でハサミの柄をつんつん、とつつく。
「次に刃を研ぐの、私がやろっかなあ」
〈やめろ!〉
「ピッカピカにしてあげてるのに、失礼だなあ」
〈お前の研ぎ方なんか怖ぇーんだよ!〉
つかさが愛用のハサミをたしなめるのも、ハサミがちっとも反省しないのも、それこそ瑠衣がちんちくりんのガキの頃から変わらない。
〈またやってるわ〉
カットコームが呆れたように言った。妙齢の女性の声だが、しっとりと艶やかだ。
〈もう飽き飽き、瑠衣もそう思わない?〉
「そうかな」
むしろ瑠衣はむしろ二人のやりとりを聞いてこそ、扉に出迎えらてこそ、店に来たと実感する。
天井に設置されたスピーカーから有線放送が流れているが、聞こえないくらい賑やかだ。
「ごめんね、いらっしゃい、瑠衣ちゃん」
シンプルなカットソーにジーパンはつかさにとって仕事着だ。アッシュグレーの髪に、宝石のようなネイル。彼女は美容師であり、瑠衣にとって魔女の先輩でもある。
つかさは瑠衣の帽子と上着を預かり、瑠衣をスタイリングチェアに座らせた。
「久しぶり」
〈うふふ、貴方も、みんな元気そうね〉
つかさが黒い三角帽子に話しかけると、返事がきた。おっとりとした口調の、老婆のやわらかな声。つかさだけでなく道具たちも、こぞって帽子に声をかけたそうにそわそわしていた。
店長が両手のひらを打った。
「はいみんな、仕事です!」
声こそ出さなかったが、道具たちは〈はい、マスター〉と告げた。
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