森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
127 / 418
誘拐計画

閉まる水門

しおりを挟む
 エウロペとデルデロッテが猛烈に距離を詰めようと、漕ぎ始めた時。
先のボートもそれに気づき、速度を上げ始め、とうとう水門を潜り、小川へと漕ぎ出す。

その時、舳先に張り付くエルデリオンが水門が下がり始めるのを見、エウロペとデルデロッテに叫ぶ。

「水門が閉じる!!!」

「!!!」

エウロペは猛烈にオールを回し、デルデロッテは降り始めた水門を見つめた。

円形の石作りの水路に、大きなくし状の木柵が降り始め、デルデロッテはそれが、地上で操作されてると知っていた。

だから舳先に、王子エルデリオンが居たとしても。
操作してる召使いは知らず、止める事をしない。

大抵は一人が、水路の横の通路に立ち、出口の様子を確認し、不都合があれば地上に続く、鐘を鳴らす。

が、今その確認役は見当たらない。

デルデロッテは一瞬迷った。
が、遮二無二漕ぐ、エウロペに合わせ、オールを漕ぎ始めた。

水門が落ちきる前に、潜れると。
エウロペですら思った。
が、真ん中までゆっくり降りていた水門は、突然
ガガン!!!
と大きな音を立て一気に落ちきり、進路を阻む。

「!!!」

凄いスピードで進んでいたボートは、止まる事など不可能。
エルデリオンは必死に舳先にしがみつき、エウロペは握っていたオールを捨てると、エルデリオンの背を掴んだ。

ドォン!!!

凄まじい勢いで、ボートは水門に激突。
デルデロッテはつま先を横板にひっかけ、オールを掴んだまま跳ね上がるボートから、落ちまいと踏ん張った。

ボートはひっくり返りそうなぐらい、飛び上がった。
エウロペも同様つま先を横板に付け、飛びかけるエルデリオンの背の衣服を引っぱる。

ドゥゥン!!!

飛び上がったのと同じ位の衝撃で、ボートは水面に叩きつけられた。

エルデリオンは背からエウロペに抱き止められ、衝撃を凌いだ事を感じ、背に当たるエウロペの広い胸の、安心感と頼もしさに、安堵してる自分に気づいた。

デルデロッテはもう水路の横の、石の通路へと漕ぎ始め、エウロペは気づいて、背後のデルデロッテに振り向く。

「外への通路がある!!!」

デルデロッテが叫んだ途端、エウロペはエルデリオンの背を軽く前に押して退かし、手にした一本のオールで、デルデロッテを助けた。

エルデリオンは舳先の横板にやんわり押しやられ、思わずエウロペに振り向く。
感謝を告げる間もなく、エウロペは決死の表情で、デルデロッテ同様、ボートを通路に寄せていた。

ガン!

ボートが通路の石の床にぶつかると同時。
デルデロッテは立ち上がり、揺れるボートの中、見事にバランス取って、一気に石の通路へ飛び乗ると、通路を駆け出す。

エウロペも直ぐ通路に飛び移り、エルデリオンは揺れるボートに戸惑いながら、なんとか通路の石の床へと、足を付いた。

デルデロッテは通路の横壁の、上に続くはしごを登り始めてる。
エウロペも直ぐはしごを掴み、登りながら、出た先の足の確保を思案した。

地上に上がるデルデロッテが、横に避けると。
エウロペも直ぐ、地上に足を付ける。
その時、城の方向から怒濤の如く、数騎の騎馬が駆けて来た。

「飛び乗れデルデロッテ!!!」

先頭のラステルが叫ぶ。
デルデロッテは直ぐ、速度も落とさず横を過ぎようとする馬に駆け寄り、差し出されたラステルの腕を掴んで、一気にラステルの後ろに飛び乗った。

「エウロペ!」
直ぐ後から来ていたテリュスに叫ばれ、エウロペも直ぐ横を走り、鞍を掴んで一気に飛び上がる。

テリュスは背後に跨がるエウロペを確認すると、更に速度を上げた。

先の木門は直ぐ開き、ラステルが一気に駆け抜ける。
飛び出した先は川の横の土手に続き、ラステルの直ぐ後に潜り抜けたテリュスは川のかなり先にボートを見つけると、体を低く倒し、一気にラステルの馬を追い抜いて行った。

矢のように駆けるテリュスの乗馬に、ラステルは目を見開き
「…やりますね…!」
と一声唸ると、一気に速度を上げた。

デルデロッテは振り落ちまいと、鞍を掴んで足を馬の腹にピタリと付け、歯を食い縛って耐えていた。
が、あまりの速さにそれでは凌げず、プライドを押しやって、仕方無くラステルの腰にしがみついた。


「エルデリオン!」
地上に這い出たエルデリオンがその声に振り向くと、ロットバルトが身を低く倒し、腕を差し出すのを見、その腕に捕まって馬上に引き上げられ、飛んで背後に跨がる。
その間に単騎のエリューンが、横を駆け抜けて行った。


先頭のテリュスは遮二無二川を滑るボートに追いつこうと、速度を上げ続け、ラステルも決死でその後を追う。

…そしてとうとう、テリュスの馬は川を走るボートを抜き去った。

エウロペが十分な距離を確認し、馬から飛び降りようとした矢先。

前方から黒装束の、盗賊一団がこちらに向かって突き進んで来るのが見えた。
その一団の背後。
続々と黒装束の男を乗せた馬は土手を駆け上がり、向かい来る賊の数は増えて行く。

敵の多さにエウロペは一瞬、躊躇した。
が、テリュスは叫ぶ。

「俺を気にせず、飛べ!!!」

その言葉が終わらぬ内に、エウロペはもう馬上から飛んで去った。

ラステルも背後のデルデロッテに振り向く。
「行け!!!」

デルデロッテは向かい来る賊の、数の多さを目にし、ラステルを気遣い躊躇ったものの。
背後からエリューンがとっくに剣を抜き、駆けつけて来るのを目にした途端、飛んでエウロペの背を追った。

エウロペは一気に飛んで川に飛び込み、進み来るボートに振り向く。
エウロペを避けようとしたボートの、舳先をエウロペは強引に掴むと、飛び乗ろうと川から身を乗り上げる。

が、ボートの誘拐犯の一人が、乗ろうとするエウロペを突き落とそうとし、両者は争い始めた。

その隙にデルデロッテも、ボートの縁を掴む。
が、漕いでた一人がオールを投げ出し駆けつけ、落とそうとするので、争いが始まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...