森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

二人の『金の蝶』と一人のハーフ

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 先頭で馬をかっ飛ばしてるオーガスタスは、脳裏に緑の光が点滅するのを見て、心の中で囁く。
「(…ワーキュラス?)」

光は頷くように点滅し、その後神聖騎士の長、ダンザインの姿が透けて見えて、びっくりした。

白金に近い真っ直ぐの髪、青い瞳。
神々しい白金の光纏ったアースルーリンド一の能力者が、話しかけて来る。

“君の探してるル・シャレファ金の蝶は、死にかけてる。
早急に対処しないと…間もなく息を引き取る”

オーガスタスはがくん!と顔を揺らした。
問う間もなく、ダンザインの声が響く。
“幸いワーキュラス殿の御力を借り、君の居る場所との通路は確保出来る。
それで…”
“貴方がこちらに?”
問うと、ダンザインは躊躇った後、言葉を返した。

“いや…。
幾ら確保出来たとはいえ、アースルーリンドよりも更に光薄い地では、空間移動した程度で私の光は尽きる。
ル・シャレファ金の蝶が今、西の聖地に三人いる。
その三人を送る。
内一人はル・シャレファ金の蝶と我らのハーフ。
そこそこ能力が使える”

そう告げた途端。
オーガスタスは背後が暖かく、その後人の腕が自分の腰に巻き付くのを感じ、振り向く。
金髪の細かく縮れた巻き毛の、10才そこそこの美少年か美少女が後ろに座り、にっこり微笑んでいて呆れた。

「(連中、心話でいつも仲間内ではツーカーだから。
突然わいて出たら、人間はふつう驚く。
ってのを、完全無視してるな…)」

がその時、通話の大元、左将軍ディアヴォロスの声がする。
“オーガスタス…私の中のワーキュラスとダンザインは繋がっているから、君の心の呟きは全部彼らに…”

警告されて、オーガスタスは顔を下げた。
間もなくダンザインの
“警告すべきだった。
すまない。
急いでいたので…”
と謝罪が聞こえ、オーガスタスはつくづく、心の中ですら愚痴垂れられなくて、項垂れた。

ラステルはオーガスタスの馬の背に、突然金の光に包まれた金髪縮れ毛の美少年が現れたのを見、目を見開いたけど。
自分の背も暖かくなった後、腰に腕が回るのを感じ、後ろに振り向く。

金の真っ直ぐの髪の、やはり10才前後の利発そうな美少年が、にこりともせず見つめ返し
「…………………」
と、呆けた。

最後尾のロットバルトは、オーガスタスの背後。
そしてラステル背後に、金の光に包まれた美少年が現れた後。
自分の背後も金に光ってる気がし、恐る恐る振り向く。
16くらいの、緩いウェーブのかかった金髪の美少年が、にっこり笑ってる。

ロットバルトは思わず顔を前に戻し、暫く事態に対応出来ず沈黙した後。
振り向いて背に張り付く美少年に、少し引き吊った笑顔を浮かべ、会釈した。

ギュンターがぶんむくれて
「なんで俺を避ける?!
順番からしたら、俺らだろう?!」
と、斜め横のローフィスをチラ見し、怒鳴った。

ローフィスはため息交じりに
「連中には連中の、思惑がある。
そんな所で文句付けてもな…」
と、ぼやいた。

デルデロッテもチラ…と自分の背後を見たが、誰も居なかった。

けれど三人の美少年らは、何か心話で話してるらしく、耳には聞こえない声でぼそぼそ早口で喋ってる声が、皆の脳裏に響き渡る。

オーガスタスはその中に、神聖騎士の長、ダンザインの声まで混じり、しきりに打ち合わせしてると気づいた。

間もなく、皆の脳裏にはっきりとした、耳には聞こえない声が響く。
“無理に移動させられたのは二人。
二人の内の一人を、この地にさらわれたシャーレと呼ばれる我々の仲間は、良く見知ってる…。
彼は今、敵の手から逃れ始めてる。
けれどシャーレの意識が途切れがちで…行く先までは読めない。
一緒に移動させられた王子は、シャーレにとても良く似ていて…。
シャーレの意識が混濁しているので、彼と自分を同一視し…。
現在シャーレの意識は、彼の中に居座ってる。
それで…意識の抜けたシャーレの体はとても弱ってしまい、このままでは呼吸を止めてしまう。
そうなれば…シャーレは王子の体から出たら死んでしまうので…。
王子の体から、出られなくなってしまう”

説明されても、そんな不可思議なことに全員理解が及ばず、デルデロッテだけがかろうじて
「えー…と…。
つまりシャーレは、エルデリオンをよく知ってたって事?
どうして?」
と聞いた。

全員が、利発なデルデロッテの問いかけに
“ナイス!”
とエールを送った。

“シャーレの囚われたいた場所で、彼の肖像画が飾られていたから。
シャーレが意識を無くす前、肖像画のエルデ…リオン?王子の姿が強く刻み込まれ、誰の意識を伝ってかは良く分からないけれど…。
意識を次々辿って居場所を探し、王城まで意識を飛ばし、やっとエルデリオンを見つけて嬉しくて…縋り付くように彼を呼び寄せた。
けれど…近くに自分そっくりの王子が居たので、自分だと思い込んでしまい…。
無意識にレジィリアンス王子をも、同時に運んだ。
シャーレにそれが出来たのは、自分でしようと思ったのでは無くて…出来るとも思って無くて。
無意識でとんでもない能力を使い、限界を超えてしまったので、死にかけている”

デルデロッテだけがまた、問うた。
「そこが…分からないんだけど。
限界超えて能力使ったら、死にかけるものなの?」

けどその時、自分が持ちきれないほど大きな大岩を抱え、岩に押し潰される映像が浮かび、皆無意識に納得した。

デルデロッテは頷きながら、尚も問う。
「…なるほど。
そんな大岩、普通はツブされる危険があるから、持とうなんて思わないけど…。
シャーレって言う君の仲間は、その危険が分かってなかったって事?」

三人のル・シャレファ金の蝶達は、一斉に併走する馬上のデルデロッテに振り向き、頷く。

ラステルの後ろに跨がってる、真っ直ぐの髪のル・シャレファ金の蝶が、口を開かず説明する。

“ロットバルト殿の背後に居るシュアンは、一番年下だけれど、ハーフなので私達より能力が使える。
光竜ワーキュラス殿とダンザイン殿の御力を借り、人も飛ばせる”

みんな、またびっくりしてロットバルトの背後の、一番年上の16には見える、緩いウェーブの金髪の美少年を見た。

ローフィスだけは、分かってるみたいに頷く。

オーガスタスの背後の、金の細かな縮れ毛の美少年はローフィスの頷きを見、心話で呟いた。
“シュアンはまだ九つです。
私と彼は11”

全員が一斉に“シュアン”と呼ばれた、16才に見える美少年を見る。
彼は無邪気ににこにこしていた。

その時、ローフィスが口を挟み、皆に説明し始めた。
「シュアンは『光の民』の血が、半分入ってる。
『光の民』は普通皆が皆、とても背が高い。
けれどル・シャレファ金の蝶は、外見は人間と同じ。
それほど背が伸びない」

デルデロッテが、先頭とその斜めで馬を駆って走ってるオーガスタスとギュンター、そしてローフィスに視線を振る。

「…『光の民』?
ってホントにそんな、背が高いの?」

オーガスタスとローフィスは同時に頷き、オーガスタスが呻いた。
「成人は俺より、20センチほど高い」

この中で一番長身で、2mは超える長身のオーガスタスを、皆が驚いて見つめた。

けれど真っ直ぐの金の髪のル・シャレファ金の蝶は、また心話で囁く。
“失礼。
私はエドウィン。
彼は双子の兄、ラフィーレ”

オーガスタスの背に張り付く、縮れた金髪のラフィーレが、振り向いてにっこり微笑んだ。

エドウィンはまた話しかける。
“本当は、直ぐシャーレの元に飛びたい。
けれど意識が混濁し、居場所が正確に分からない。
更に我々は、敵のまっただ中に飛んでも、戦う事は出来ない。
敵を蹴散らす能力を使えば、シャーレを救う光が足りなくなるから。
ですから、居場所を探り当てられ、更に戦える人を現地近くに送りたい”

その時、ラステルもロットバルトも、デルデロッテもが。
エウロペを思い浮かべた。


次の瞬間、地下洞窟を馬上で駆けていたエウロペの姿が突然金の光に包まれて消え、テリュスとエリューンは目を見開いて固まった。

代わってそこに、長身赤毛の男が姿を現し、馬に跨がってる。

「……………………」

ラステル配下の二人も、声も無くオーガスタスを見つめる中。
オーガスタスはぼやいた。
「荒技だな…。
エウロペはファントール大公の地下道へと飛ばされた。
俺は全部見えるから、説明入れるのでこのまま進んでくれ」

テリュスもエリューンも固まりきってる中。
かろうじてラステル配下の一人が、頷いた。


先頭走るオーガスタスが突然消え、背後に座ってたラフィーレが困り切って皆に振り向く。
「僕、乗馬出来ないんだけど…」

ローフィスが馬を横に寄せ、鞍の上に立ち上がると、一気にオーガスタスの座っていた場所へと飛び移る。

ラステルもロットバルトもデルデロッテも、その見事な曲芸に目を見開いた。
ローフィスは手綱を握ると
「ギュンター!!!
オーデを頼む!」
と叫ぶので、ギュンターは馬からうんと身を乗り出し、ローフィスの馬の手綱を、幾度か掴みかけては逃し、やっとがっし!と掴んで身を起こし、振り向いてオーデに、付いて来るよう視線を送った。
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