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超接近戦

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 スフォルツァは正直、体がざわめいて仕方無かった。
“だからだ…!
アイリスと過ごす時、あれほど甘く特別に感じられるのは…!”
こっちが彼の、本性だから。

腹に突き出されるアイリスの剣を、がスフォルツァは
『もう後ろに飛んで避けるのはごめんだ!』
とばかり、大きな振りで叩き落とす。

剣が、ぶつかる瞬間アイリスは力を抜く。

手に伝わる振動を、最小にするため。
全身に付けた金綺羅鎧きんきらよろいが重すぎて、長く剣を合わせての力比べは、圧倒的に不利で消耗が激しい。

正直息が切れて、死にそうだった。

腕も腿も、重しを付けた筋肉が、悲鳴を上げまくっていた。
が…。

“まだだ。
まだ、やれる………!”

アイリスは手から滑り落ちて行きそうな剣を握り止め、息を弾ませ胸を開け、後ろに下がる。

スフォルツァがとどめ!とばかり、身を屈め突っ込んで来る。
アイリスは微笑った。

スフォルツァのグリングレーの瞳は鋭く自分を見据えていた。
“俺のこれを止められなければ、学年一を名乗る資格は無い”と言うように。

スフォルツァは突っ込みながら、一瞬目を見開いた。
一瞬…何かが動いた。
“どっちだ?
剣は確か、左手に握られていたはず…!”

が………。
アイリスの手元に視線が吸い付く。
スフォルツァの、表情は歪む。
アイリスの剣は今や右手に握られ、彼は甘やかな微笑をたたえ、待ち構えていた。

“罠…!”

スフォルツァは迷った。
自分も剣を持ち替え、奇襲をかけるか?
だがもう、間に合わない。
アイリスが頭上から剣を振り下ろす。

“身を屈める俺の、肩と背を先に、ばっさりる気だ!”

スフォルツァは内心叫んでいた。

“例えアイリスが先に俺を斬ったとしても!
確実に仕留めなければ、俺がアイリスを斬る!!!
傷は負おうが、俺は剣を振れる!
アイリスをばっさり、れるのに…!

実戦なら自分の身を危険に晒す、ほぼ相打ちで勝ちを取るだなんてマネは!
決して出来ないはずだ!!!”

が練習試合は間違いなく、先に剣の、届いた方が勝者。
計算し尽くしたアイリスの戦法に、スフォルツァは舌打った。

“このままだとアイリスの剣が、間違いなく先に届く!”

激突する二人を見、リーラスが後ろ席から、オーガスタスとローフィスの肩に左右の腕を乗せ。
交互に顔を覗き込んで、問う。

「お前らなら、どうするよ?」
ローフィスが唸る。
「俺なら真横にかっ飛ぶな」
リーラスが顔を揺らす。
「間に合うか?」
ローフィスは肩を竦める。
「それか、転がる」
リーラスが早口で聞き返す。
「床に?無様に?
全校生徒の前で?
最終決戦なのに?」

ローフィスは憮然とし、やはり早口で言い返す。
「実戦なら、無様なんてほざいてられるか。
アイリスは本気だ。
あいつの剣には毎度、殺気がある。
あの美麗な顔にダマされると、命落とすぞ?」

二人が重なり合う瞬間、オーガスタスは声を落としつぶやく。
「スフォルツァは、逃げる気が無い」

咄嗟、スフォルツァは牽制かけるように剣を、下から上へ大きく弧を描いて振る。

アイリスの微笑は消えない。
難なく避けると、振り下ろした瞬間体を捻るスフォルツァに避けられた剣を、さっと引いて胸の前で。
一瞬で交差させて、左に持ち替え、その切っ先をスフォルツァ目がけ、一瞬で突き刺す。

アイリスの懐目前。
が、スフォルツァは右足をぐっ!と止めて軸足にし、身を真横に大きく開き、突き出す剣を避けて直ぐ。
強く柄を握り込み、アイリスに向かって真っ直ぐ、突き返した。

がっっ!

スフォルツァはとどめの剣をめられ、が口元を緩める。

“解ってた。
アイリスは間に合うだろうと。
自分の剣を、止めるのに”

アイリスは突いた剣を一瞬で戻し、咄嗟剣を真っ直ぐ上に突き立て。
腹へと突き刺す剣を、横に弾き避けていた。

剣は一瞬十字を描き、意地が激突したようにかち合う。
講堂内は、決着が今だ付かず、息を飲む。

押し合う剣を先にするりと外したのは、アイリスの方。
切れた息をぐっ!と飲み込み、“気”を溜めて直ぐ間近の、体勢の崩れたスフォルツァへと剣を振る。
スフォルツァは背を後ろに泳がせ、姿勢を崩しながらも。
剣を、合わせ止める。

がちっ!

直ぐ、アイリスは剣を外す。
息を止めたまま、鋭く振り込む。
間近の接近戦。
殺気を帯びた相手と戦うには、余程の度胸が要る。

がっ!
だがそれも、スフォルツァは体勢を立て直せないまま、剣をぶつけ止める。

一歩も引かぬ気合いを込めて。

がアイリスは短く息を吸う。
振り上げようとする腕も。
踏みとどまる腿も。
最早、激しい筋肉痛で震え始めていた。
が“気”を引き戻し、三度みたびアイリスは剣を振り入れかけ、が咄嗟剣を下げ、下から剣を気合いを込めて振った。

「…うわ…!
今俺、られた…!」
「なんであんな早く、剣の軌道変えられる…?!」
「隙、突くなんてもんじゃないぜ…」

講堂内で、驚愕の声が漏れる。

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