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学年無差別剣の練習試合一学年 決着

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 スフォルツァは突然下から襲い来る剣に目を見開き、上体を真横になる程倒し、避け、それでも剣を合わせ、止めた。

がっっっ!

おおっ!!!
「スフォルツァのヤツ、引く気無しか?」
「どんだけ強気だ!」
「俺なら、間を取って体勢戻すぜ…」
「当然、俺も」

が合わさったのは一瞬。
アイリスは剣を引く。

「突き刺す気か?!」

声が飛び、ヤッケルも。
フィンスですら、アイリスの速い剣で
“スフォルツァは斬られた!”
と思った。

今度はスフォルツァが、咄嗟剣を手元に戻すと、下から真上に剣を突き上げる。
腹へ真っ直ぐ突き刺す剣に、十字に剣を合わせ、弾き退ける。

がっっっ!

講堂内は、超接近戦の殺し合いに詰めた息を吐き出せず、とうとうぼやきが漏れまくる。
「頼むから、いい加減間を取ってくれ!」
「なんであれだけ接近して、立て続けに剣を繰り出せる!」
「正気の沙汰じゃ無いぞ!」

戦う当の本人らより。
講堂内のほぼ全員が、はらはらしていた。

「また…!」

アイリスはすらりと直ぐ剣を外す。
悲鳴を上げる筋肉を、息を吸い込み気合いで黙らせ、切れる息を飲み込んで、剣を最速で振り上げると、真上から一気に振り下ろす…!

「頭蓋骨、真っ二つか…?!」
ヤッケルが怖気おぞけてつぶやく。
が、スフォルツァは歯を食い縛り、低い姿勢から一気に剣を持ち上げ、がっっっ!
と当て、止めた。

講堂内に、一斉に安堵の大きなため息が、そこら中から漏れた。

が…!
アイリスは直ぐ剣を外す。
今度は斜め横から、早い振りで剣を振り入れる。

ギラリと光る銀の切っ先は確かに、殺気を帯びて輝いた。
講堂内の誰もが。
一瞬背筋に、ぞっ…と震えが走るのを感じた。

スフォルツァは血相変えて身を屈め、間合いから転がり出る…!
誰もがそう、予想した。
と言うより、もうこんなひやひやから解放されたい、講堂中の猛者らの願望。

だが、がっ!
折れぬ、グリングレーの瞳で飛び来る剣を見据え、剣を同じほど早く、ぶつけ止める。

がっっっ!

がアイリスは直ぐ、交差した剣を後ろに引く。
スフォルツァへ、振るために。

けれどその時だった。

からんっ!

後ろに振られたアイリスの剣の、剣先が…。
背後に引いた拍子に、転がり落ちたのは。

アイリスは、ピタ!と振る剣を止める。
振り入れようとする、体勢のまま。

スフォルツァは苦しげな表情の中、苦笑してみせた。

アイリスは少し憮然とした表情で。
けれど首を傾げ…そしてゆっくり、剣を下げた。

色白の、美肌に映える艶やかな濃い栗毛の波打つ髪。
理知的な濃紺の瞳の輝く、美麗なおもてをスフォルツァに向けたまま。

誰もが、負けたはずのアイリスの、その危険な美麗さに一瞬見惚れた。

どっ!

息詰まる攻防から解放されるように、やっと観衆が一斉に声を上げる。
全員がそれぞれの意見を大声で、叫び怒鳴っていた。

「まさか…スフォルツァの奴まさか、剣折る隙、狙い続けてたのか?!」
「な訳、あるか!!!
スフォルツァの幸運ラッキーだ!」
「あんな危険な接近戦で、あいつマジで剣、狙ってたのか?!」
「出来る訳無い!
スフォルツァは幸運の女神に愛されてるのさ!」

それが耳に届いた時、アイリスは顔を下げた。
最後の最後。
スフォルツァは標的を、自分で無く剣に変えた。
ほんの、僅かな間で。
こちらが、折らせまいと剣の角度を変える間も、与えぬ隙に。

剣を下げた途端。
アイリスは限界超えた、腕や腿、重しを付けた全身の筋肉が震え始め、呼吸が荒くなるのを感じた。

“まずい…。
ヘタすると、酸欠でぶっ倒れる”

ずっと、筋肉の痛みを耐えるため。
息を、詰めていた。
目の前が暗くなり、剣が手から、滑り落ちるのを感じた。

スフォルツァの慌てる顔が。
暗くなる視界の中心に見え、めまいに目を開けていられず、目を閉じる。

足から力が抜け、背が宙に落ちる。

“背から後ろの床に、ぶっ倒れる…”

そう感じた途端、宙へと落ちて行く背を。
がしっ!と抱き留める、頼もしい腕と腹の感触がして…。

アイリスはスフォルツァに、抱き止められたのかな?と消え行く意識の底で、思った。

が実際は。

スフォルツァは抱き止めようと、両手を広げアイリスの背後に回った。
けれど目前で。
突然現れた誰かに、すくい上げられるように一気にアイリスを抱き上げられ、呆然とする。

両腕広げたまま、気絶したアイリスを抱き上げる男を見上げる。

キリリと引き締まった表情の、長身の美男。
アイリスの従者、シェイム!

シェイムは気絶して目を閉じるアイリスをお姫様抱っこしたまま、駆け寄る講師に振り向き、叫ぶ。

「試合中の乱入、お詫び申し上げます!
ですが主人は今朝から微熱があり、あまり体調良く、ありませんでしたので。
でしゃばる無礼、ご容赦願います!」

きっぱりと、大人の口調でそう叫ばれ。
スフォルツァは広げた空虚な両腕を、顔を下げて見つめたのち、ため息とともに、下げた。

「熱が…?!」
一年の講師が慌てて横に駆けつける。
がシェイムが素早く告げる。
「私は医者としての知識もございます。
この後の事は、私にお任せ頂けますか?」
「彼の容態はいつも君が?」
シェイムが、頷く。

試合終了直後。
倒れたアイリスに、皆が心配げな視線を注ぐ中。

とうとうオーガスタスは笑い出す。

“あんな鎧を着けて試合。
しかも、ぶっ倒れるまでやり切る。

…どこまで馬鹿なんだ?
大貴族の、何不自由しない、お坊ちゃんの癖に”

講堂中が、アイリスの容態を心配する中。
オーガスタスだけは、くっくっくっ…。
と声を立てて笑い、倒れるアイリスを眺めてたローフィスは、笑う親友に振り向き、呆れた。

「どうして、ここで笑う?」

が返答無く、愉快そうな親友の、笑い声が返って来るばかり。
ローフィスは笑い続ける大柄なともの身が、小刻みに揺れるのを見、思い切り両手広げて、肩を竦めた。

従者シェイムの腕に抱かれる、気絶した美少年は可憐、そのもの。
講堂中の、同情を集めた。

「…体が弱い…って、本当だったんだ…」
「ああ…。あんな凄い、使い手なのにな…」

講師が頷き、シェイムがアイリスを抱いたまま講堂出口に歩み始めると、拍手が沸いた。

さざめくように。
良く、戦ったと。
たたええるように。

シェイルは横のヤッケルが。
敬意を込めて拍手するのを見たし、その向こうのフィンスもが。
両手を持ち上げ、拍手に加わり、更にローランデまでもが。
とても優しい表情で、気絶したアイリスを見つめ、熱のこもった拍手をするさまを見て。
両手を上げると、打ち合わせ始めた。

周囲は拍手に加わる、小柄で可憐で妖精のような、長くふわりとした銀髪とエメラルドの瞳のシェイルに、こっそり見惚れた。

シェイムは腕の中の、酸欠で真っ青な顔色で。
それでも微笑を浮かべ、気絶する主人を見、表情も変えず呆れた口調でささやきかけた。

「まるで拍手が、聞こえておいでのようだ………」

それは皮肉だったが、やはり気絶してる彼の主人は、返事をしなかった。

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