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ディングレーと過ごす一夜

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 間近で聞こえるディングレーの吐息…。
黒髪が、唇が…首筋を滑って行く。

その逞しい体の感触はぞくり…と身を戦慄かせ…。
ディングレーに股間を探られると、慣らされた体は直ぐ熱を帯びる。
なのにディングレーは時折…彼を見つめてる僕を、見つめ返す。

猛々しい顔をしたその瞳はでも…女の代わりなんかじゃない。
ちゃんと男の…僕を、見つめていた。
だから僕は心の中で囁いた。

“いいんだ…。
ちゃんと、僕を見てくれる。
だからディングレーには何をされたって………”

初めてだった。
ディングレーは僕の衣服にそっと手を掛け…だから僕は進んで衣服を脱ぎ捨てた。

彼は俯きながらそれでも、自分の上着を肩から滑らせる。

脱いだ彼は…やっぱり、思った通りの素晴らしい体で…。
肩幅は広く、筋肉で盛り上がった胸に長い黒髪が垂れ。
その整った顔に間近で見つめられると、胸がどきどきし…。
その癖どこか気品を感じさせ…やっぱり彼は、特別なんだと感じる。

男の体が自分を覆い…その筋肉質な固い体に下敷きにされるたび、嫌悪感を押さえつけるのにいつも苦労してたけど…。
ディングレーがその身を自分に倒して来ると…間近に感じる彼の気配と逞しいその身の感触にどぎまぎした。

不思議だった。
ぴったりとくっつくほど身を寄せ、彼の温もりを感じた時。
ふ…と子供の頃、下働きの農家の子と、じゃれあった事を思い出す。

藁の中で…夏で。
二人とも裸だった。
藁はちくちくして、僕らは藁を掛け合い、しまいに取っ組み合って転がった…。
無邪気に笑って、互いの腕を、肩を掴み合いながら、藁の上を転がった。

でもディングレーが顔を裸の僕の胸に下げ…唇を這わせた時。
突然現実に引き戻され…それとは違う行為なのだと、思い出す。

途端身が固まると、ディングレーは咄嗟に顔を上げ、伺うように…僕を見つめる。
男らしい眉を寄せ…けどその瞳が優しい青い色をしてるのに、とても安堵する。

彼の手がそっと再び…僕の股間に触れ、欲望を掻き立てようと…けれど優しく動く。

が、その手がマーグレットの細い指先なんかじゃなくて…。
ごつく力強い男のものだと感じると、また…。

身を竦めると、ディングレーはその都度行為を止め…僕を見つめる。

あんまり…見つめる彼が気遣わしげで、泣き出したくなる程ほっとしている自分を見つける。

彼は…僕の意志を無視しない。
無理強いも強要も、したりはしない。

そう…解ると、全身の緊張が緩み、開放感に包まれた。

けどまた彼の手が…動く度…思い出す過去の醜悪な行為に。
身が、竦む。

けどディングレーはその度に
“相手は俺だ…”
そんな風に顔を上げ…見つめてくれる。

深い、青の瞳で。

そして…緊張を解く僕を確認し、そっ…と、双丘の奥に触れる。
だけど…その感触に、初めて触れた叔父を思い出し、縛られて無理矢理受け入れさせられた過去の屈辱を思い返して、恐怖と怒りに身が勝手に震え出すと…。
ディングレーはその手の動きを止める…。

過去に引き戻される僕に、ディングレーは顔を寄せ…。
間近で見つめられ、その素晴らしい整った気品ある顔に気づきそしてやっと…思い出す。

あいつじゃ、無いんだと………。

辱め…惨めにさせ…支配し。
僕を、這いつくばらせる為に…ディングレーは行為をしたりはしないと…。
思い返すだけで瞳が涙で潤む。

そっと…優しい口づけと共に…挿入された指が、動く。

その指で探られると…かっ!と興奮に包まれ体が熱くなって…首を振って身を捩る。

けど正面の顔に視線を戻すと、そこには…下卑た、相手を支配出来る弱点を掴んだ、勝利に輝く醜い叔父の顔なんかじゃなく………。

ディングレーの男らしく気品溢れた顔がある。

…なんて…素晴らしいんだろう?
なのに彼は…とても身近で…親しみさえ感じさせ、気遣う表情を崩さなくて…。
だから…僕の唇はまだ、震えていたけど、彼に感謝の口づけをする。

近寄りがたく、力強い立派な王族の男が。
…僕の所まで降りてきてくれて…気遣ってくれる事への……。

指が動く度、吐息が漏れる。
甘い…掠れ声が耳をくすぐり…自分の声だ。
と突然気づく。

ディングレーにしがみつき、首に両腕巻き付け抱きつきながら…。
彼の頬に頬を寄せ、いつの間にかうっとりとした気分で、彼に身を、任せてたんだと、気づく。

相手が違うとどうして…こんなに甘い気分に、なるんだろう…?
時折ずらす膝が、彼の股間の猛ってものに触れる。なのに………。

ディングレーは決して、身を強引に進めようとはしない。
今までの男は自分の欲望を吐き出す道具にしか、僕を使わなかった。
なのにディングレーは………。

けど…二度目、膝が彼の股間のものに触れた時。
指で探られる蕾に…その猛り始めたものを受け入れさせられるんだ。と気づいた途端。
びくん!と体が勝手に竦み上がる。

ディングレーは気づくと直ぐ、身を引こうとしたから…。
彼の逞しい首筋に回した腕で、きつくしがみついて…そして彼の瞳を、見つめた。

いいんだ。と。

それでも…ディングレーは、躊躇ってくれた。
それが快感を共有する行為で無く、ただ辛い事なら…。

よそう。
そんな風に。

でもだからこそ彼が、欲しかった。
夢中で…ディングレーに、しがみついて耳元で囁いた。
「お…願い…だ。僕を貴方のものにして…。
出来れば…出来るんなら、貴方だけのものに………」

でも彼は動かないから…どうしてなんだろう?
…そう思い、耳元から顔を離し、ディングレーの表情を見た。

…泣き出しそうな表情だった。

問う瞳で見つめ続けた。
ディングレーは男らしい眉を寄せ、それでも今にも泣きそうだったから。

彼は言った。

「お前はお前のもので…誰の物でもない」

掠れた…震えた…けれど、はっきりとした声で。

彼の瞳は潤んでいたけど…でも真っ直ぐ見つめ、それでも僕に、言い聞かせる様に…囁き続けた。

「誰もお前を本当に…傷つけたりは出来はしない。
だってお前は、お前だけのものだから………」

僕は…僕は、衝撃を受けた。
深い衝撃が心に広がり夢中で…そう言った彼に抱きついて口づけし、彼は…抱き留めて口づけを返してくれた。

彼との口づけは甘い…。

けど………。

正直、怖かった…。
猛った男のものなんか、吐き気しか感じない。

だけど…再び膝が、彼のそれに触れた時、ディングレーは顔を傾け優しく口づけてくれ…。

それがまるで…大切な…大切な相手にするような口づけで…。
猛った彼に触れたまま、その唇が吐息が…あんまり…甘くて。
抱き合った体があんまり…暖かくって…。
触れあう肌が心地よいと感じ、そして…。

解った。
ディングレーのその猛ったものは、僕を辱め、傷つけるものなんかじゃなく…。
ディングレーの一部でだから…。
それは当たり前の青年が欲望を感じた時、起こる反応でそして…。
彼のものなんだから、決して気持ち悪いものなんかじゃ、無いのだと。

ディングレーが体勢を取るように、膝を僕の脇の横に引き上げ…。
でもつい…身を捩った。
恐怖は去らず…条件反射が勝った。

けどディングレーはその時顔を傾け…。
せがむような甘い口づけをし…鼻先が鼻に触れ、唇は唇の上を滑り…。
そして深く、口付けられて彼がどれだけ熱いかを、教えられる。

でも決して強引なんかじゃなく、やっぱり労る様な口づけで…。
だから、僕は思った。

ディングレーにそんな風に口付けられて乞われ、断る相手なんか今まで決して、いなかったんだろう。
だって彼は、熱い情熱を持っているのに…ちゃんと行為をしてる相手と…愛し合いたいと思っているから。

唇が離れ間近で…潤んだ青の瞳で見つめられると…。
彼が好きで、愛おしくって、思い切り抱きつき、囁く。
「貴方が…欲しい」
けど僕のその声は…まだ、震っていた。

僕の過去の体験が邪魔をする。
もし今まで道理強引に奪われ、相手の欲望処理の道具として扱われていたら、否応無し。

でもディングレーは…しよう。
と言ってる。

僕が…マーグレットとしたように、互いが相手を求める行為を。

ちゃんと相手が存在し、快感を分け合う行為を…。
これだけ男に慣らされた体の僕なのに、今まで一度だって、男相手に体験した事の無い行為を…。

ディングレーは一瞬気づいたように、顔を揺らす。

「…無理は…しなくていい」

その声は掠れていて…僕は見つめる彼に、囁き返す。
本当は、怖かった。

けど気づいた。
叔父との行為は僕に、選択権なんて無かった。

けど僕は今、それが嫌ならそう言えばいい。
“嫌だ”
と。
それを言って、聞いてくれる相手。

けれど突然。
惨めで悲惨な…快感を思い出す。
身が心底震え出し、その記憶をどうしても消し去りたくて…。
たまらなくなって、ディングレーにしがみつく。

温かい心を持ち、労り、気遣ってくれる唯一人の男。

「…貴方が欲しい」

ディングレーの、真剣に見つめる青の瞳。
その整った男らしい顔立ちがあんまり素晴らしくて…僕は彼の深い青の瞳に、見惚れ続けた。

ディングレーが深く抱いて来る。
その途端、惨めさが消える。

温かい…マーグレットとの体験が蘇る。
相手は、男だったけど…僕はその時、心のどこかで感じてた。

あの時に…僕は戻れる。
悲惨な記憶は消えなくても…でも僕は、戻る事が出来るんだと…。

今まで一度だって、惨めな気持ちに、成らなかった事の無い行為。

けれど相手がディングレーならそれは…互いに触れ合う行為に変わるはず…。

ディングレーは小さな僕を、身事抱きしめ…くるむように抱いて口づけ…。
そして…そっと離し、さっと身を起こすと、肘を付いて寝台を、突然出て行った。

僕は一瞬、ディングレーの体温が離れ、冷たい空気を感じ、戸惑った。
でも不思議だったのは…離れたのにディングレーの僕を包む心は寄り添っていた。

だから僕は遠ざかる彼の、均整の取れた身事な背中を…。
引き締まって形のいい尻…そして長い足を。
不安を感じること無く、見つめられた。

箪笥の引き出しを開けて何かを取り出し…。
戻って来た彼は、身軽に寝台に滑り込んで、再び腕に僕を抱きしめた。

突然彼の顔と見つめるその青い瞳が間近で、胸がどきん!と高鳴った。

まるで…秘密を共有する共犯者みたいな気持ち。
誰も…知らない。
こんな彼を。

そう…思っただけで、胸がどきどき、高鳴り続けた。

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