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マレーの回想

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 …ディングレーは箪笥から持ち帰った塗り薬を、そっと手を下げ、受け入れさせる僕のその場所に優しく塗り込む。
僕は彼の青い瞳に見つめられたまま、その指の感触を感じた。

冷んやりと…けど次第に熱くなって…。
そして僕は…こんな事は今まで一度も無い事だと、はっきり解った。

腕の中に包まれるように抱きしめられ、男らしく整った…熱い青い瞳で見つめられたまま…探られるのは。

けど指が抜き差しを始めると途端…。
今まで幾度も無理矢理受け入れさせられ…中で容赦無く蠢く、男の固く太いものを連想し、つい…眉が寄り、必死でディングレーにしがみつく。

ディングレーはそれに気づくと、辛そうに眉を寄せて囁く。
「一度も…良かった事は、無かったのか?」

問われて…叔父との行為を思い出す度、身が竦み、震え出す。
逆らい、殴られ…血にまみれ、無理矢理犯される。
そんな痛みと屈辱よりはずっとマシ。

そう…自分にいい聞かせ、あの教義と称した吐き気を催す行為の醜悪さに…耐え続けた。

どうして…どういう理由でそんな罰を僕の人生の中に用意されたのかは、知るすべが無い。

父を捨てた母の、血が半分流れてる。
それが…理由なんだろうか…?

共に見捨てられた筈の同士の、父にまで見捨てられ…。
悪戯を教義と称し行う卑しい行為を、叔父の欲しいまま応えなくてはならなかったのは。

きっと…泣き出しそうな表情を僕が…したのだろう。
ディングレーは労るように僕を抱き、そして囁いた。

「家に引き取った遠い親戚の男の子は、君のようにとても色白で華奢で…可愛かった。
だから…兄は俺の目を盗んでその子に、悪戯した。
とても…ひどいやり用で。

俺は…抱いてその子を慰めたがそれでも…。
その子は、君よりうんと…快楽を他人と分け合う方法を、知っていた」

髪を…そっと梳くディングレーの指先。
そして見つめながら、青の瞳が微笑む。

「互いに触れあう肌は温かく、俺は……。
その子を兄から自分に引き戻せた事が、誇らしかった。
そんな体験は…好きな相手と肌を触れ合う体験は、本当に今まで一度も無いのか?」

そのディングレーの問いに答えようとして…声が、うわずるのを感じる。

「男相手では…一度も」

でもディングレーは僕の返答に、ほっとしたように表情を緩める。
「女相手では、あったんだな?」

こくん。と頷くとディングレーはまた、微笑む。
「ひどい。と思える事でも、本当に大切な相手に出会えたら、何でも無くなる」

その時…。
『それは貴方との出会いだ』
そんな瞳で…すがるような眼差まなざしで…。
多分僕は、ディングレーを見つめてしまったんだろう…。

ディングレーは言葉を喉に、詰まらせた。
そしてあんまり…ディングレーが切なげに見つめるから…。
僕はその時とうとう彼の首に腕を回し、すがりついて…耳元で囁く。

「貴方が欲しい…」

彼は微かに頭を頷くように揺らし直ぐ、応えてくれた。
そっ…と両腿の下から、彼の膝が入り腿を持ち上げられ…。
そして広げられた股間へ、彼の熱いものが当てられる。

もう…恐怖は無かった。
それに…彼が挿入はいって来る感覚は…今までとは全く違ってた。

こんなに確かに…めり込む感触を感じたのは初めてで、けど今までのような吐き気に代わって、熱い…とても熱い、確かにディングレーだと解る…固いそれを意識する。

まるで彼がそのまま、流れ込んで来るような感触。
見つめる青の瞳がとても愛おしく感じられ…彼の青年らしい若々しさをダイレクトに感じた…。
それは叔父のすれて汚れ、下卑た欲望とは全く違ってた。

吐息が甘く、触れ合う肌が温かく…一瞬マーグレットの肌に、初めて触れた親密感と温かさを思い出す。

肌の体温の温かさだけじゃない…。
心の底に灯りがともるような…温かさ。

ディングレーは僕を伺い続け…それでも少しずつ…僕の反応を見つめながら身を進める。
慣れた体だったから、僕は平気…。
そう思ってたけど…こんなにはっきり感触を感じ、奥の…敏感な場所まで挿入された時。
感じすぎてどうにかなりそうで。
息を詰まらせ、身が震え出した。

頬に彼の唇が触れ…労る様に全身で抱きしめられて腰を進められると…もう…惨めさだとか悔しさだとか、冷たさだとか悲しさがどこかに消え去って行く。

その時僕にはようやく…“犯される”事と、抱き合う事は全然違うんだと、確かに感じられた。

もうあそこに、戻りたくは無い。
そんな気持ちで、惨めな居場所から連れ去ってくれるディングレーに必死で…しがみつく。

彼が腰を揺すると、かっ!と身が火照った。
正直、今までただの、反応でしか無かったのに。
その時は、ディングレーのものが僕のそこを、刺激してるんだと解った途端。
恥ずかしくて頬が真っ赤に染まった。

ディングレーは二度、揺すって気づき、顔をそっと離し囁く。
「そんな風に恥ずかしがられてると、俺がその…。
幼気いたいけな子にうんと、悪さしてる気分になる」

僕は一瞬呆け…そして吹き出した。
おかしかった。

尊大な…王族の男がそんな風に僕のように、取るに足りない相手に…恐縮きょうしゅくするさまは。

ディングレーはやっぱり、困っていて。
けど挿入して切羽せっぱ詰まってたから、くすくす笑い出す僕に囁きかけた。

「動いて…いいのか?」
同じ…男だから、その気持ちは凄く、解った。

マーグレットの時の…僕もそうだった。

初めてで…彼女が辛そうで…けど細く華奢な指はきつく、しがみついたまま。

進退きわまって…だから、本当に困った。
でもその時の彼女も…耳元で囁いてくれた。

「いいの…。貴方の好きに動いて」

涙が出る程嬉しくて…だから出来るだけ…彼女が辛くない様、必死に気遣って動いた。

やがてあんまり気持ち良くって…もう夢中で………。
しがみつく彼女が愛おしくて…。
大切で…。

世界に一つしかない、宝物を見つけた様に嬉しくて…。
彼女の為なら、何だって出来る。

…そんな…気分だった。

ディングレーが僕に…そんな気持ちに成ってくれるかどうかは、解らなかった。
でもどうしても…ディングレーを僕が、困らせてると解ったらおかしくて…。

けど彼が動き始めると彼があんまり…若々しくてまだ少年っぽさを残した未熟な青年で。
…それがとても親しみを感じ、好感が持てて…。

けどやっぱり黒髪を散らす彼はとても、男っぽくて。
…もう…彼の虜にされて自分の全てを持って行かれそうで、少し…怖かった。

叔父もドラーケンも。
僕を見たりはしない。
だから身を揺すられたってそれは…彼らだけの問題。

彼らが勝手に快感を得、勝手に上り詰めて欲望を吐き出し。
僕は置いて行かれ、ただ、それに付き合ってるだけ。

けど…ディングレーの場合は違う…。
吐息も触れ合う肌もが甘く感じ、彼の黒髪の一本ですら…彼のもので愛おしい。

こんな気持ちは初めてで、力強く揺すられる度、四肢が震え、かっ!と体が熱く火照り。
自分の全てをさらけ出された気分で…恥ずかしくて逃げ出したい気持ちと。

同時にとてつもない安堵あんど感が入り交じり、必死で、ディングレーにしがみついた。

ディングレーはけれどとても華奢きゃしゃな、壊してはいけない物を抱くように僕を抱きしめ、気遣いながら動いてくれていたから………。

絶頂を迎えた時、僕ですら泣き出しそうな吐息を吐いたけど、ディングレーも同様で………。

その時、解った。
自分を全部、さらけ出してるのは僕だけで無く。

彼も、そうなのだと………。

ディングレーの息づかいを耳に…脳が白く…とろけ出す。
…解け合うような快感を共有し…そして思った。

ディングレーは。
彼は、王族でも年上の男でも、男として僕を惨めにさせる相手でも無い。

ただの…一人の人間で、僕と同じ…。
触れあえる暖かさを求めるただの同じ…一人の、人間なんだと………。


どれだけ…暖かかったろう…。
欲望を吐き出して、頬が触れあい…互いの頬に唇を、擦り寄せた。

そして見つめ合い…口づけを交わした。

…彼の男らしくてとても綺麗な鼻筋が視界に映り…唇が幾度も触れあった時。
…泣き出したくなる程、安堵した。

その時初めて…自分がどれ程孤独で…人の暖かさから見放されていたのか、気づいて彼に、しがみついたまま号泣した。

明け方で…空はセルリアン・ブルーにいろどられ…。
それでも僕は、裸の身を裸のディングレーに抱かれたその温もりがあんまり暖かくて…彼にしがみついて…泣き続けた。


………だから…ディングレーはうんと、睡眠不足のはずだ。
なのに…今一人の騎士として、自分の価値を、はかる戦いに身を投じようとしている。

剣を握る彼のどこにも。
睡眠不足だとか、昨夜の疲労だとかは見て取れない。

厳しい顔付きで、けれど何気なく下げた剣に力は入らず。
なのに肩を、少し揺すっただけで。

まるで野生の狼が、牙を剥くような迫力を醸し出していた…。
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