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どさくさ紛れの決勝戦開始

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 だが、二人の斬り合いは熾烈しれつを極め、どっちも剣をがんがん振り入れながら怒鳴り続け、間に入る隙もない。

ドロッティが叫ぶ。
「嘘付け!
ちゃんと良かったと!
言葉でそう言って貰ったぞ!!!」
「そっちが嘘に、決まってるだろう?!」

「…お前だから複数なんだ!
お前には惚れてるけど、へたくそだから!」

アイリスもスフォルツァも、二年席前で言い含めていた講師が、今度は一年席にやって来て
「お前ら、耳を塞げ。
奴らの問題だ。絶対聞くんじゃない。
間違っても
『どういう意味』かなんて質問は、問題外だ!」

と凄く怖い顔で告げるのを、聞いた。

リーラスが尚も食い下がるドロッティの剣を、断固として弾き返し怒鳴りつける。
「…だってお前、一回きりで次は無かったんだろう!
それが何よりの返事じゃないか!!!

第一、お前ともしたならお前の子の可能性だって有るし、子が居ること自体がもう怪しいぞ!
俺ももう卒業だから、家柄のいい男を捕まえときたいだけの口実で!
遊んでる俺には面と向かって言えないから、お前をきつけたんだろう!
利用されてるって、いい加減気付け!」

途端、オーガスタスが怒鳴る。
「アリアンネとは俺も寝たぞ!」

ディングレーはぎょっ!としてオーガスタスに振り向く。
が横のローフィスまでもが。
腕組みし、顔を下げたまま怒鳴った。
「俺もだ!」

四年席のオーガスタス友人達はじっ…。とオーガスタスに見つめられ、一人…また一人が声を上げ始める。
「俺も寝た!」
「俺もしたぞ!!」

「俺もだ!」
「俺も!」

講堂中が、次々に叫ぶ四年を見つめ、ざわめき渡った。

リーラスが剣を構えたまま頭を、ほれ!と言うように四年席に振って示す。

ドロッティはチラ…!と叫ぶ友人達と、筆頭で叫んだオーガスタスを見た。
そしてとうとう、オーガスタスに思い切り振り向いて、怒鳴った。
「だってお前はどう考えたって、リーラスを庇って言ってんだろう?!」

オーガスタスは叫び返す。
「ローフィスもそうか?!」

ドロッティはチラ…!とローフィスを盗み見る。
リーラスはもう、かかって来ないドロッティに首を横向け
『どうするんだ!』
とばかりその場で身を、揺すった。

ドロッティは四年席にも顔を向ける。
内の一人が叫んだ。
「俺はリーラスを庇ってないぞ!」

ドロッティがリーラスを見ると、リーラスは剣を持ったまま両手広げ
『…だろう?』と言うように、肩を竦めていた。

とうとうドロッティが大声で叫んだ。
「…つまり俺が!
アリアンネにダマされてこいつにつっかかってると!
全員そう思ってるのか?!」

「…ぉう!」
「そう思うぜ」

全校生徒は四年席の男達が次々に、相槌あいづち打つのを見守る。

「…お前、女に夢見過ぎてないか?」
「ありゃ、アリアンネだからマズかっただけだろう?」
「…お前の入れ込んでる女も二股掛けてるぞ?」
「…ふざけるな!!!」

オーガスタスがついに試合中断する、ドロッティに叫ぶ。
「とっととリーラスと決着付けちまえ!
後がつっかえてるんだぞ!」

ドロッティがリーラスに向き直る。
がリーラスは、すっかり戦意喪失そうしつした、以前ほど強く無いドロッティの剣に剣を合わせ、囁く。
「…もっといい女ちゃんと紹介してやるから…!
アリアンネだけは、止めとけ!」

ドロッティは意気消沈しょうちんしてたが、顔を上げて怒鳴り返す。
「お前だったら『ハイそうですか!』って、別の女にホイホイ乗り換えられるのか!」
「…痛い教訓だと思って、別と遊ぶさ!
簡単には忘れられなくてもな!」

オーガスタスが腕組んだまま、また怒鳴った。
「…いいからリーラス!
今度お呼びがかかったら、ドロッティをこっそり後から紛れ込ませろ!
現場に居合わせれば、一発で恋心もめる!」

学校中が御大の言葉にざわめき渡る。
三年は意味がすっかり分かっていたから、それについての議論が一気に沸騰し。
中央試合より、口々に騒ぐ見物人達のおしゃべりの方が、うるさくなった。

二年で訳知りの者達が周囲の疑問に声高に答え、一年は皆、首を左右に振って。
どこを辿れば知りたい事が解るのか。と、それぞれ上級の席を見やった。

とうとう講師達は一斉に顔を下げ、もうこんな騒ぎは抑えたくない。と言うように、首を横に、振りまくった。

カン…!
リーラスがドロッティの剣を弾き、ドロッティの腹に寸止めで突き付けた。
が、ドロッティは顔を下げたまま、剣も下げて判定を待った。

リーラスは横に付く講師に顔を向け、講師は力のない小声で
「それまで」
を告げた。

オーガスタスが、やっと出番だ。と言うように中央に出、まだ顔を下げて立ちすくむドロッティの肩を掴み、やんわり押し退け、言った。
「…良くある事だ」

ドロッティは頷き、オーガスタスに場を、譲る。
リーラスは剣を肩に担ぎ吐息吐き、正面にオーガスタスを迎え、背けていた顔をオーガスタスに向ける。
「庇って貰ったのとこれとは!
別だからな!」

オーガスタスも微笑う。
「手抜きなんてしたら、後でぶっ飛ばすぞ!」

講師はまだ、前の試合で脱力し、力の無い声で
「始め」
を告げた。

カン…!

ローフィスはドロッティが顔を下げたまま、横に来て呟くのを聞いた。
「…どうしてお前の義弟みたいに、姿も綺麗で性格も大層可愛らしい、男も居るってのに…。
よりによって俺の惚れる女は皆、一見清楚せいそ、実はアバズレなんだ?」

ローフィスは言いよどみ、声を落として忠告を口にした。
「………………今度から、惚れたら隠さず評判を周囲に、聞いて回れ」

ローフィスの提言に、ドロッティは顔を下げたまま頷いた。

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