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三年監督生選抜と顔合わせ

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 ディングレーが一年、三人美少年らを送り届けた後、自室に戻る途中の、大貴族の食卓の背後を通りかかった時。
突然皆は、ピタリと喋るのを止める。

不審には思った。
が、ディングレーは講義の準備をしようと、足早に部屋へ戻った。

間もなく、ギュンターが階段を駆け上がってくる。
食卓の背後を凄い勢いで駆け抜け、真っ直ぐディングレーの部屋へ。
ノックもそこそこ、扉を開け、駆け込んだ。

フォークを、口に運ぶ寸前で止めてたデルアンダーは、横に座る取り巻きで一番の美形。
明るい栗色巻き毛で、鳶色の瞳。
女顔のモーリアスに、囁かれた。
「…オーガスタスと出かけた、言い訳する気かな?」

クールないい男で、ほぼ黒の、毛先に少し癖のある長髪を背に垂らす、長身のオルスリードが。
ブルーグレーの瞳をきらりと光らせ、背を屈め声をひそめる。
「…ディングレーの機嫌も、取る気かも」

「…やっぱ、二股か?」
細いグレーの目に長方形の顔の、朴訥な顔立ち。
真っ直ぐのたっぷりな栗毛。
長身で体格良く、一見落ち着いた風情。
が、実は性格がかなりチャラめのラッセンスが、不用意に口を挟むと。

テーブルの皆が、揃って彼を睨んだ。

ラッセンスは睨まれても少しも動じず、ぼやく。
「俺を睨んだ所で。
事態は変わらない」

「…確かに、そうだ」
外見は銀髪巻き毛でアイスブルーの瞳、綺麗系で麗人風だが、実は気骨があって乱暴は厭わず。
取り巻き一の硬派、シャウネスが相づち打つ。

この中では、女顔でも気迫がある、明るい栗毛でブルーの瞳のテスアッソンが、そっ…とデルアンダーの表情を伺う。
「…ディングレーに、尋ねる訳には…?」

この中のリーダー格。
硬派ながらも柔軟性もあり、真っ直ぐめの濃い栗毛と緑の瞳の、粋で甘いマスクの美男、デルアンダーは、即答する。
「私以外で、誰か聞けるなら」

デルアンダーに皆、顔を見回され…が、誰もが目が合う前に目を伏せ、顔を下げて突然食べる事に、熱中するふりをする。

デルアンダーは、吐息混じりにつぶやく。
「迂闊に、聞けるか?
『ギュンターと、寝てるんですか?』なんて」

全員『確かに』と、顔を下げたまま、無言で揃って頷いた。


ばんっ!
ディングレーは扉を蹴立てて飛び込んで来るギュンターの、慌て具合に目を見開く。

ギュンターは息切れに息を詰まらせながら、切れ切れにしゃべった。
「悪…い!
アスランを、預けっぱなしだっ…たな………」
「座れ」

ディングレーに即座に言われ、ギュンターは横の椅子に、すとん。と尻を落とす。

「昨日、ローフィスがもう一人の一年、ハウリィを保護して、今三人で仲良く泊まってる。
グーデン一味は目を付けた三人共に手を出せず、奪還を狙ってるから、当分まとめてここで保護する。
会いたければ、お前がここに通って来い」

ギュンターは息を整えながらそれを聞くと、低い声でつぶやいた。
「ハウリィは嫌な目に、あったのか?」

ディングレーは肩を竦めた。
「保護したのは四年のローフィス。
お前ロクに面識無いだろうが。
彼は相手の心をほぐすのが上手い」

ギュンターは、ほっとしたように頷いた。
「一度、喋ったが…感じの良いヤツだったな。
アスランに、今、会えるか?」
「もう俺が、一年宿舎に送り届けた。
後は一年の大貴族らが護る」

ギュンターは立ち上がると、ディングレーに詰め寄る。
「何から何まで、ほんと悪いな…!」
ディングレーは一歩下がり、言って聞かせる。
「保護したのはお前だけじゃないから、恩に着なくていい」

ギュンターは頷き、手を差し出すから、ディングレーはその手を握ると、腕を大きく振って握手し、さっ…とギュンターは背を向ける。

扉に向かうその背に
「今日は目が、覚めてるんだな!」
と言ってやると、ギュンターは笑顔で振り向いた。
「だが、腹ペコだ!」

金の巻き毛を首に巻き付かせ、紫の瞳はきらり!と光り、そこらではお目にかかれない、優美な美貌に見えた。
が『セリフが興ざめだ…』
ディングレーは内心の感想をおくびにも出さず、さっさと出て行くギュンターを見送った。

ギュンターが、凄い勢いでまた、食卓の背後を駆け抜けて行き。
食事していた大貴族らは皆、一斉に食べ物を喉に詰まらせかけ、慌ててグラスに手を伸ばした。


 三年の午前の歴史の講義では、最初に数名の名が呼ばれ、呼ばれた順に、講義室を出て行く。
真っ先に呼ばれたのは、ディングレー。

威厳溢れる黒髪の男前が、さっと扉を開けて歩み去る。
鋭い青の瞳がきらりと光ると、同学年達ですら、その男らしさにぞくっとした。

次々に、ディングレー取り巻き大貴族らの名が呼ばれ、席を立つ。

「…?」
ギュンターは横のダベンデスタに顔を寄せると、ダベンデスタは直ぐ、説明してくれた。
「講師が、最初に言ってたろう?
名を呼ばれた三年監督生が、講義終了後、特別補習として一、二年の剣と乗馬を見る。
講義が終わった後、夕食前まで時間取られるから。
呼ばれない方が、楽でいい」

背後の席から、平貴族では一番堂とした体格でいい男の、デラロッサが声かける。
「もっと早くに申告してたら、お前も選ばれたかも。
ディングレーと別れ別れで、寂しいだろう?」

ギュンターは、振り向いて答えた。
「別に。
私室に出向けば、いつでも会えるから寂しくはない」

ダベンデスタはギュンターのその返答に、一気に引いた。

ギュンターはまた、背後に振り向きデラロッサを見つめ、尋ねる。
「あんたは選ばれないな?」

高い額の、彫りの深くしっかりした顎の、男らしい顔立ち。
跳ねた栗毛を後ろでいつも束ねてるし、長身で肩幅も広く、体格も良いので、群れていても一人だけやたら目立つ。
更に空色の瞳のいい男だったから、余計に。

ギュンターは、滅多に話しかけて来ないデラロッサに話しかけられ、ちょっと気を良くしていた。

尋ねられたデラロッサは、呻く。
「…確かに、記録に残り近衛に上がった時。
隊長候補者に名が上がりやすいし、選ぶ際“監督生"の肩書きがあると、他より優先される。
が、一年間も講義終了後、餓鬼(一・二年)のお守りだ。
たまったもんじゃない」

「…なるほど」

デラロッサはまた、口を開く。
「王族で学年筆頭のディングレーは、否応なしに選抜候補の一番手だ」

ギュンターは、また振り向く。
「…断れないのか?」
「余程のことが、無い限り。
お前、ディングレーとそういう話は、しないのか?」
「しない。
あまり言葉は交わさないな。
必要最小限な感じだ。
聞けば…答えてくれるだろうが」

「オーガスタスとも…親しいのか?」
「俺が不慣れなんで、色々教えてくれる」
「ディングレーは?」
「ああ彼も…かなり親切にしてくれるな」
「で、お前はどっちが好…」
「そこ!
私語がしたいなら、部屋から出て行け!」

講師に怒鳴られ、ギュンターは前を向く。

横を見ると、ダベンデスタは顔を深く自分から背けてるのを、ギュンターは疑問に思った。
が、昨日寝続けた祟りか。
講師が意図的に、ギュンターに立て続けに質問をぶつけ、ギュンターは立つと答えて座り。
また当てられて立ち上がる。
を、繰り返した。

「『影の民』とは?
ギュンター!」

ギュンターは『また俺か…』
と吐息交じりに立ち上がる。
「『光の国』で反乱を起こし、『光の国』から追放された者達。
ここ、アースルーリンドでは能力が使えないから。
だが力の源を、人を苦しめる事で得る方法を生み出し、能力の無い『光の民』から、邪悪な魔物へと変貌した。
過去の大戦で、「右の王家」の始祖と助っ人に降りて来た『光の民』ら、そして「左の王家」の族長の娘が光竜をその身に下ろし、力を合わせて『影の民』を別次元へと無事封印し、お陰で『影』の本体は今、アースルーリンドにはいない」

他の生徒らは、この講義ではギュンターのみ指名されると、安心してダレきった。


 ディングレーは一・二年が剣の合同授業してる、鍛錬場へと足を運ぶ。
背後に、デルアンダー始め取り巻きらも、遅れてやって来ていた。

扉を開けると講師が頷く。

一、二年らはやって来た三年監督生の前に、呼ばれて並び始めた。

ローランデは真っ先に名前を呼ばれ、ディングレーの列へ歩を運ぶ。
フィンスはデルアンダーの列で、ヤッケルはテスアッソン。

その次にグーデン配下の問題児、真っ直ぐの金髪の、美形だがやさぐれ者のローズベルタが。
オルスリードの列に並ばされた。

モーリアスの列には、やはりグーデン配下のモレッティ。

ラッセンスとシャウネスの列にも、グーデン配下の二年が呼ばれた。

そして皆が注目するシェイルは…監督生の中で唯一の平貴族、ミシュランの列に並ばされた。

その後も次々に名前が呼ばれ、列に並んでいく。

一年の順番が来て、アイリスはテスアッソンの列に。
そして他の大貴族ら。
フィフィルース、ディオネルデス、アッサリアまでがアイリスと同じ列に並ぶのを見て、スフォルツァは唇を噛んだ。

結局スフォルツァは、アスランと一緒にシェイルの居る列。
平貴族ミシュランが監督生の、列に並んだ。

講師は全員が列に並ぶと、叫び始める。
「今日の講義終了後から始める。
剣と乗馬の補習だ。
終了後に毎度、次はいつで、剣と乗馬のどちらかを発表するから、終わった後だとダレないで、ちゃんと聞いとけよ!
講師も付くが、分からない事は何でも監督生に聞け!
二年はグループ内の一年の、面倒を見ること。

ちなみに今日のメニューは、乗馬だ。
グループの顔合わせも兼ねるので、あまり遠出はしない」

その時、講義終了の鐘が高らかに鳴り、講師は三年監督生らに頷く。
彼らは揃って、先に出ていった。

講師は残った一・二年らに向かって、大声で叫ぶ。

「お前らはこの後の講義で、剣の合同授業をする!
休憩して良し!」

列に並んでた一・二年らはどっ!と列を崩す。

スフォルツァはアスランの元へ、マレーとハウリィが寄って来るのに気づく。

三人共がバラバラで、マレーはアイリスと同じグループ。
ハウリィはなんと、ディングレーのグループで。
集まった三人は一様いちように暗くなってた。

マレーは、アスランが凄くアイリスに憧れてることを知っていたから
「代わってあげられたらいいのに」
と俯き、アスランはちょっと苦手なスフォルツァと一緒。
と暗くなってたけど、マレーの表情を見て一生懸命明るく
「平気!」
と告げ、ハウリィは
「ディングレーはまだちょっと…怖いけど、ローランデが優しいから…」
と呟き、二人に
「良かったね!」
と笑顔で答えられてた。

スフォルツァはもう一度、アイリスと…彼を取り巻く、真っ直ぐの銀髪でグリンの瞳、童顔だが背の高いフィフィルース。
長身の穏やかな紳士風、濃い栗毛と茶の瞳の、ディオネルデス。
彼らの中では一番背が低く、明るい栗毛とブルーの瞳をした、優しい顔立ちのアッサリアを見つめる。

そしてがっくり首を落とし、深い、ため息を吐いた。
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