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ダベンデスタの葛藤と、シェイルの嫉妬を交わすローフィス

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 昼食の大食堂では四年は皆、昼食を皿に乗せて自室へと持ち帰るため、次々姿を消した。
ローフィスとオーガスタスが並んで出て行く姿をも、三年以降の下級生らは食事をしながら見送る中。
シェイルは突然立ち上がると、ローフィスの背を追って駆け出す。

銀の髪の可憐で愛らしいシェイルの姿は、いつも注目の的だったから。
新たな見物があるのかと、皆一斉に視線を注ぐ。

扉付近でローフィスを呼び止め、銀の髪を振りエメラルドの大きな瞳を向け、ローフィスと話す愛らしくも綺麗な美少年シェイルに、皆が一斉に見とれきる。

ギュンターは振り向くと、確かに『教練キャゼ』では軟弱そうには見えるが、さらりとした明るい栗毛と青い瞳の好青年のローフィスが、綺麗なシェイルに顔を下げて話してる様子を見て、思った。

「(…ローランデと、似合いのカップルだと思ったが。
こっちローフィスあの子シェイルの本命か…)」

二人が寄り添い話す姿は、親密、以上の雰囲気、ありまくりだった。

オーガスタスがローフィスに「先に行く」と告げてる様子で、開け放たれた扉からその迫力な体格の、姿を消して行く。

食堂内は一斉に
「結局、ディングレーとの対決は無かったな…」
「ギュンターを巡って、痴話げんかの口論くらいは、あると思ったのに…」
と、小声なぼやきで埋め尽くされた。

ダベンデスタはトレーを返しに行く際、近くで群れてた三年らの中、デラロッサが腕組みして壁にもたれかかりながらこっちを見、寄って来て
「新たな展開だ。
事情知ってるヤツが、オーガスタスはディングレーと二人で同時に、ギュンターを抱いてるらしい」
と耳打ちされ。
もう少しでトレーと、トレーに乗ってた空の汚れた皿を、取り落としそうになった。

ギュンターはトレーを置きに行ったのに。
トレーを持ったまま戻るダベンデスタを「?」と見る。

「…返しに行ったんじゃ無いのか?」

爽やかさすら感じさせる、微塵も曇り無い優美な美貌…。
ダベンデスタは幾らギュンターが美貌だろうが。
話して中身が普通だと分かった途端、偏見は手放した。

が、改めて見ると、艶やかな金の巻き毛も。
切れ長の長い睫に縁取られた紫の瞳も。
薄めだけどほんのり赤い唇も…。

やけに生々しく感じてしまい、思いっきり顔を背けた。
「(ダメだ俺は決めたんだ!
いっくらここが野郎だらけで。
綺麗な男が居たって!
女と恋愛すると!
いやギュンターは恋愛対象じゃない…)」
そう思った途端。
裸のなまめかしいギュンターを想像してしまい
「(ちがう!
寝る、対象でもない!)」

ギュンターは、トレー持ったまま顔を下げたきり、唇噛んだり眉しかめたりするダベンデスタを覗い、心配げに囁いた。

「食っ物に…アタった?
俺、滅多に腹壊さないからお前の気分は、分からないが」

ダベンデスタは真っ青な顔色で
「トレー…今度こそ返して来る」
とふらつきながらも背を向けるので、ギュンターは親切で言った。

「トレー置き場に行ったら!
トレーから手を離せよ!
両手!」

ダベンデスタは青い顔のまま振り向き、相変わらずの綺羅綺羅した美貌の男を見、また、ぼんっ!と裸の色っぽいギュンターの妄想が浮かびかけて
「(戦うんだ…!
俺は絶対、そっちに行くのは嫌だ!)」
と決死の表情で歩き出した。

 ローフィスは扉付近でシェイルに
「昨日どうして姿、見かけなかったの?」
と聞かれ、困ってた。

助っ人してくれそうなオーガスタスは、さっさと歩き去ってた。
仕方無く、口開く。
「…グーデン配下の二年に襲われかけた、一年の美少年、保護してた」
シェイルは心配げに、ローフィスを覗き込む。
「…そう…。
可哀想だった?」
「うんと」
「…その子…ローフィスの事…凄く好きになってる…よね?」
「助けたからな」

ローフィスが顔を下げたまま、毎度即答するので、シェイルも項垂れて囁く。
「…ローフィス…そういう子に、冷たく出来ないよね?」
「…まぁな」
「頼まれたら…寝る?」
「まだ、頼まれてない」
「もし…頼まれたら?」
「先のことは不明だ」

シェイルはローフィスが、いつもなら「先のことなんか、分かるか!」と言い捨てるのに。
胸が潰れそうな気分に成って、囁く。
「凄く…いい子で可愛かった?」
「まぁな」
「…いつも浮気してる金髪巨乳と…どっちが好き?」
「そういう話題は、ここでするのは不適切だし。
一年美少年も金髪巨乳も。
どっちも、比べられると不愉快だと思う」
「…はぐらかしてる?」

ローフィスは、ため息を吐いた。
「…言うと妬くと思って内緒にしてたが。
俺がしたのは、お前の大好物のジャシャンのクッキーを、その子に振舞った事だ」

シェイルは目をまん丸にして顔を上げ、ローフィスを見た。
「それ、抱くより悪い!」

叫ぶシェイルに、ローフィスは笑う。
ポケットを探り、ハンケチの包みを取り出すと、シェイルの手首を持ち上げ。
手の平開かせて包みを握らせ、囁き返す。

「今日はこれで我慢しろ。
また仕入れたら…今度は全部、お前にやるから」

シェイルは可愛いふくれっ面をし
「誤魔化し上手なんだから!」
と言った後、手の平の包みを見、そっとハンケチを開けた。

「…三つしかない…。
ヤッケルと僕…それにフィンスとローランデ…。
もう一個、無いの?」

「無い。
今ここで一個喰って、ローランデとフィンスには内緒にして。
後は同室のヤッケルと二人で、部屋で一個ずつ食え」

シェイルは可愛らしく口を尖らせ、すねて首を横に振る。
「ローランデだってフィンスだって、大好物なのに…!」

もう、ローフィスは彼を自分の物にしたくなって、腕を引いて抱き寄せたかった。
が、両手をポケットに入れたまま、シェイルの言葉を聞く。

「…でもまた、それで…グーデン一味に、睨まれてるよね?」

ローフィスは、素っ気無く言った。
「心配要らない」

シェイルはまだ、不安そうに俯く。
が、ローフィスの胸に手を乗せ、囁きかける。
「…絶対怪我をしない。
って約束したら、許してもいい」

ローフィスは胸に触れるシェイルの手が、微かに震えてるのに吐息吐く。
「もう、喰ったのか?
そろそろ時間切れになるぞ?」

シェイルははっ!として、背後に振り向く。
フィンスが二人分のトレーを、置き場に運んでくれていて。
目が合うと、にっこり笑ってくれた。

ローフィスに振り向くと、ローフィスは顔だけこっちに向け、背を向けて歩き出し
『またな』
と言う表情を残して前を見、歩き去って行った。

シェイルはローフィスの…抱きつきたい背中が遠ざかるのを切なげに見つめた後。
手の平の、三つのクッキーを見て、ため息を吐いた。

シェイルは別の扉から、食堂を先に出て行くローランデとフィンス、ヤッケルの背に叫ぶ。
「待って!」

三人は振り向き、シェイルは息を切らして追いつくと、ハンケチの包みを開けて二つあるクッキーを半分ずつに分け、フィンス、ローランデ、そしてヤッケルに手渡した。

「ローフィスが…次回仕入れたら全部僕にくれるって。
今回は…少ししか無くて」

ローランデが半分のクッキーを、切なげに見つめ囁く。
「いいの?君の、大好物なのに」
シェイルはローランデを、恐る恐る見上げる。
「…要らない?」
途端、フィンスが微笑う。
「君がいいなら、ローランデは喜んで食べるさ!
大公子息だろうが、滅多に食べられない美味しいクッキーだもの」

ローランデはフィンスのフォローに感謝の視線を送り、笑顔でシェイルに優しく告げる。
「…そんなに珍しいクッキーだし、これだけしか無いなら…。
貰って、いいのかなって思って」

シェイルはローランデを、必死に見上げる。
ヤッケルが横から会話を、かっさらった。
「…言葉が出ないようだが。
だからこそ、あんたに食べて貰いたいんだぜ。こいつは」
言って、クッキーを持ち上げ、さっさと口の中へ。

ローランデもフィンスも目をまん丸にして、とっくに頬張るヤッケルを同時に見た。

ヤッケルはお上品な二人に、言って退ける。
「もらった時点で、俺のもの。
食っちまえばシェイルが幾ら『返せ!』
と言っても、出来ない」
そして呆れてる三人を尻目に、ごっくん。と飲み干し
「美味かった」
と感想述べて、上品な二人の大貴族を見る。
二人はくすくす微笑い、ヤッケルに習って、半分のクッキーを口に放り込んだ。

ヤッケルはシェイルを見る。
「…さっさと食っちまわないと。
午後の講義に間に合わないぞ?」

シェイルは言ってさっさと先を歩く、ヤッケルの背を見てぼやく。
「…ああ言うトコ、ローフィスにそっくり」
ローランデとフィンスはますますくすくす微笑い、滅多に手に入らない極上のクッキーを飲み込んだ。

が、先頭歩くヤッケルが、反対側からやって来る三年らとすれ違い様
「マジか?
ディングレー、オーガスタスと一緒にギュンターを…って、本当に承諾したのか?」
と声が聞こえ、更に
「…なんでも、事情に詳しいヤツが、情報発信源はっしんげんだそうだ」
「…嘘だろう…。
俺秘かに、ディングレー尊敬してたのに」
「…見るからに“男の中の男”って感じだもんな」
と話してるのが聞こえ。

ヤッケルが立ち止まり、顔を下げてると横にフィンスがやって来て。
背の低いヤッケルに、長身の背を少し屈めて言った。

「…発信源、君だってディングレーにもし、バレたら…」

ヤッケルは即座にふんわりした栗毛を振って顔を上げ、フィンスに釘刺した。

「絶対!バラすな!」
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