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酒場に出向くオーガスタスと、講師が示すギュンターの実力

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 オーガスタスはローフィスの部屋を退出した後、横に並んで歩くギュンターをまじまじと見る。
気づいたギュンターはオーガスタスを見上げて言った。
「?
別に、あんたに迫る気は無いから、心配するな」

オーガスタスは顔を下げると、大きなため息を吐き出す。
「…迫らないなら、このあと風呂に行くのに付き合う」
「昨夜約束したんで、先に酒場に寄らないと」

オーガスタスは、思いっきり呆れた。
「…行って…またせがまれた女と、上に上がる気か?」
「…流石に今日は、汚れきってるから風呂に入らないと。
寝てくれる女に、失礼だ」

オーガスタスはその言葉に目を見開く。
「………上がらないのに、わざわざ酒場に断りに行くのか?」
ギュンターは真顔で頷く。
「…ともかく当分来られないと。
言っとかないと、待ってる相手が気の毒だろう?」

オーガスタスは、顔下げた。
「いいから、風呂に行け。
俺が酒場に出向いて、お前の伝言伝えてやるから。
で、誰に言う?」

ギュンターは暫く、オーガスタスを見上げた後、口開く。
「…あんたあそこで信頼されてるから…あんたが伝えたら、女達も文句は言えないな…。
俺が来るのを待ってる、女達全員に伝えてくれ。
“出来るだけ近々来る予定だが、いつとは約束出来ない”と」

「(…ある意味、約束は律儀に守るんだよな…)
伝えとく」

オーガスタスに頷いて言われ、ギュンターはオーガスタスの肩を叩く。
「昨夜に続いて、本当に悪いな!
困った時は、いつでも言ってくれ。
流石にケツは貸せない。
そこまで行くと俺は押し倒したくなって、多分抵抗するあんたと殴り合いの喧嘩になる。
だが口が良いなら…」

「もう分かったから、行け!!!」
オーガスタスに思いっきり背を押され、ギュンターは振り向くものの、歩を進めて四年宿舎から出て行った。

ギュンターの姿の消えた廊下で。
オーガスタスは肩を落とし、思いっきり大きなため息を吐き出した。

オーガスタスが酒場でギュンターを待つ女達に伝えた時。
彼女達の大ブーイングを浴びた。
「…そりゃ、貴方に文句は無いけど」
「どーーして他に人材がいないの?!
入ったばかりのギュンターに、監督生なんてさせるなんて!!!」
「そうよ、どうかしてるわ!!!」

オーガスタスは努めて落ち着いた態度で、説得にかかる。
「不祥事の後で、誰も引き受けたがらないから、何も知らないギュンターが生け贄になったんだ。
あいつがヘマしたらそりゃ、直ぐにでもここに来れる」

そう言った時、目前に群れる女達の目が輝くのを、オーガスタスは見た。
が、あえて言う。
「だが、そんな手抜きいい加減、無責任男であって欲しいと。
君達はギュンターに期待するのか?
あいつは真面目にやる気だからこそ
“いつ来ると約束出来ない”
と俺に言付けたんだ」

そう言われた途端、女達は不満そうだったけど。
口を噤んだ。

オーガスタスは畳みかける。
「ここにも、あいつ自身が訪れる気だった。
が、風呂にも入れないほど忙しい。
見かねて俺が、“言付ける”と買って出たんだ。
君らも察して、気遣ってやってくれ。
不慣れなのに、大役に挑もうとしてる」

女達は流石に『教練キャゼ』の大物、オーガスタスの言葉に説得され、全員俯き加減で頷いた。

その後、女達説得してる間知らんぷりだったリーラス始め、みそぎメンバーらはオーガスタスを取り囲む。
「流石だぜ!」
「“気遣ってやれ”にはほだされた!」
「リーラスじゃ、こうはいない」
「間違いなく、女達の大ブーイングは激しくなって、ヘタしたら突き倒されて大騒ぎ!」
「それも、楽しいがな!」
「まあ、飲んでくれ!」
「騒ごうぜ!」

オーガスタスはいつも変わらぬ陽気な面々に囲まれ、笑顔で杯をあおった。

 翌日の一限目。
ここのとこ忙しかったギュンターは、やっとマトモに鍛錬場に足を運ぶ。
剣の講義で、講師は場内に姿を見せるギュンターを、ギラリ…!と睨み唸る。

「やっと、来たか!」

皆、二人ずつ組んで打ち合おうと、広い場内へばらけ始めていた。
が、その声に気づき、一斉に振り向く。

ギュンターは講師に睨まれて、やっと思い出した。
「(…そういえばサボったのって、狙ったように剣の講義ばっかだっけ…)」

講師は皆に振り向き、叫ぶ。
「学年無差別剣の練習試合に出なかったギュンターを、監督生に選んだのが不満なようだが!」

講師がそう言った時、数名の男が目を輝かせたのを、ギュンターは見逃さなかった。
「奴が実力を見せてくれれば、皆、納得も行くな?!」

その言葉に、目を輝かせた男らは剣の柄を握り、迫り出そうとする。

講師はさっ!と手を振り払い
「中央を空けろ!!!
ギュンター!
対戦相手はディングレーだ!」

ディングレーは指名された途端、全員の視線を感じ、顔をギュンターに向ける。

ざわっ!

場内が一斉にざわつき、その視線は全てディングレーに注がれた。

“寝室で抱き合ってる相手にディングレーは、思い切り剣は振れないだろう”
そんな視線で…ディングレーは顔を下げる。

ギュンターだけが
「ディングレーに負ければ、監督生は降りるのか?」
と講師に聞いていて、講師は歯を剥いて怒鳴り返してた。
「ディングレーに勝てれば学年一だ!
…負けて当たり前!
お前に勝つ事なんて、誰も期待してない!
が、ディングレー相手にどれだけ戦えるかで、実力は示せる!」

けれど周囲はざわめき渡り、昨夜巷の噂を知ったディングレーは視線を浴び続け、思わず顔を下げた。

「(みんな俺が“惚れてるギュンター”相手に、手加減すると思ってんだな…)」

講師に頷かれ、ディングレーはしぶしぶ中央に歩を運ぶ。
正面に立つギュンターは、まだ端に引く、講師を睨み付けてる。

「…負けて当たり前?!」

ギュンターの、ぼそりとした不満げな言葉に、周囲に引けた生徒らはこそこそと
「そりゃ、勝てるよな…」
「寝室で思いっきり、サービスしてりゃな…」
と小声で囁き合う。

もう、今はその言葉がはっきり耳に飛び込み、意味の理解出来たディングレーは、剣の柄を握り込んだ。
この怒りを、ギュンターにブツけていいものかどうか。
躊躇うものの、立った腹は納まらない。

「始め!」

ディングレーは周囲で見物する誰もが。
愛人のギュンターと自分が、どんな戦い振りを見せるのか、興味津々で見てるのを、ひしひしと感じる。

「…思いきりやってくれ」

正面、ギュンターの声に、ディングレーは顔を上げる。
「そんな事言われたら、まるで加減が出来ないぞ?」
「…しなくて、いい」

そう言ったギュンターは、金の巻き毛の髪を振り、顔を上げてギラリ…!と紫の瞳を剥いた。

「…面白い」

ディングレーは言うと、さっ!と剣を後ろに振り下げ、身を僅かに屈める。

その、鋭い青の瞳は射抜くようで、デルアンダーは一瞬冷水浴びせられたように、身を震わせ囁く。
「ディングレー殿は本気だ…」

テスアッソンもオルスリードも、異論を唱えたかった。
が、彼らのリーダーの見識の高さを日頃思い知っていたので、デルアンダーの言葉を確かめるように、中央に視線を戻した。
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