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マレーの下す刑罰
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捕らえられた叔父の、横に居た隊服のアドラフレンの部下は、一見男に見えたが、よく見ると女。
その反対側に居たのも、やはり隊服着た、男装の女性だった。
アイリスは気づいて、目を見開く。
「………………」
部下に変装した伯母ニーシャは、止めるアイリスをマレーが激しく揺すり、襲いかかろうとする姿を見、思わず叫ぶ。
「本人がそこに居て、復讐したい気、満々なのに!!!」
反対側の…母エラインは、捕らえた叔父のズボンのベルトを取り外しながら、告げる。
「…そうよ。
罪状はハッキリしてるんだから。
この際、ここで…最初の罰を、下すべきでしょう?」
言いながら、一気にズボンを引き下げ、下半身を露出させた。
その場に居る、マレーを除く男達が一斉に目を見開くさ中。
叔父は羞恥に襲われ、股間を隠そうと前屈みになった際、足首に絡まったズボンでバランス崩し、前へとすっ転ぶ。
どっすん!
「…屈ませる、手間が省けたわね」
エラインが言うと、ニーシャが頷く。
「…いつも思うんだけど。
大人しそうな顔していざと言う時、私より大胆なんだから。
この場には、子供も居るのよ?」
ニーシャが幼子に首振って示す。
けれど子供の横に付いてる、良く出来たアドラフレンの部下は、さっ!と手で、小さな子供の目元を覆い隠してた。
エラインは、膝を床に付き前に屈み込む叔父の背に、どん!と靴底を押し当て、起き上がるのを防ぎながら、顔をさっ!と上げてニーシャに言い返す。
「…あら。
父親だろうが、悪さしたらおしおき喰らう事を、ちゃんと教えておかないと。
子供まで、悪党になっちゃうわよ!」
と、ぐいぐい靴底で背を押し、もっと前屈みにさせ、床に鼻が付かんばかりに叔父にひれ伏させる。
エラインはさっ!と顔を息子、アイリスに向けて言う。
「さあ!
どれだけでも仕返し放題!
彼の気の済むように、してあげるのよ!」
「………………………………」
「………………………………」
ディングレーとローフィスですら絶句する中、アドラフレンが額に手を当て、囁く。
「…約束しませんでしたっけ?
大人しく部下を演じ、出過ぎたマネは決してしないと」
エラインは横で腕組む姉のニーシャを見
「約束したのは姉様で、私はしてないわ」
と言い放ち、ニーシャはちょっと顔下げると
「私は意見を叫んだだけで、具体的な事はナニもせずに約束守ってるじゃない!
下半身剥いたのはエラインよ。
文句は妹に、言ってくれないかしら?!」
とふてくされる。
けれどその時、アイリスの腕の力が緩み、マレーがとうとう叔父に突進した。
同時にエラインが靴底を上げ、叔父が顔を上げかけた時。
マレーは拳を握り込んで、思いっきり振り回す。
左右の拳を使って、叔父の顔を右、左と交互に殴りつける。
がっ!がっ!がっっっ!
狂気のように…溜まっていた鬱憤を、一気に晴らすように…マレーは殴り続けた。
叔父の口も切れて、口の端に血が滴り始めていたけど。
殴るマレー拳から血が滲み、振り上げる度、拳から血が飛び散る。
「…っ!っ!っ!!!」
マレーは拳から血を飛び散らせながら…涙を頬に滴らせ、夢中で殴り続ける。
がっっっ!!!
ローフィスがアドラフレンを見、アドラフレンが頷くと、ローフィスは夢中で慣れない拳を、血をまき散らしながら振り続けてるマレーの背後から、胴に腕を回し抱き止めて、囁く。
「もう…いい。
君の拳を痛めるだけだ」
けれどマレーは聞こえてないように、歯を食い縛り、涙を溢れさせて拳を振り続ける。
ローフィスに、抱き止められた胴を後ろに引かれ、叔父の顔に拳が届かなくなっても。
まだそれでも夢中で、虚空に拳を振り続けた。
「…まあ…」
その声は、戸口から聞こえたけど、誰の耳にもはっきり響いた。
初老の…少し顔に、皺こそあったけれど、紫色のドレスを着た、とても上品で美しい貴婦人が、悼みに溢れた表情でマレーを見つめ…。
そっと近寄るとマレーの横に立ち、振り向くマレーをふいに…抱きしめる。
「酷い目に遭ったのね…。
辛かったわね」
その声は優しく、慈愛に満ちていて…マレーは自分を捨てた、懐かしい母の…愛情を受けていた頃を思い出し、うんと年上の、優しい貴婦人に縋り付き、声を上げて泣き始める。
「ぅ…ぅわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「…お母様…出番じゃないでしょう?」
エラインが言うと、アイリスの祖母は、しっ!と人差し指を口に当て
「泣かせてあげましょう」
と囁く。
アイリスはその時どうして、アドラフレンみたいな大物が自ら出向いたのか。
分かってアドラフレンを見る。
…つまり実家の三妖女が『謀をしたのは自分達なんだから』と、逮捕の一劇に、どうしても付いて来ると言い…。
無茶をし出したら、アドラフレンの部下では止める事が出来ないため、見張るために来ざるを得なかったのだと。
けれど…母親に去られ、女親の愛情に飢えていたマレーは、優しい祖母に抱きついたまま、子供のように声を上げて、泣き続ける。
「ぅわぁ!!!わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
ディングレーはもらい泣きしそうで、顔を俯けた。
アドラフレンはエルベスを見るが、エルベスは肩を竦め…そして、今まで堪えていた思いが吹き出すように泣き続ける、マレーを見て微笑む。
「わぁっ!!!
わぁぁぁぁっ!!!」
嗚咽を上げ…人形のように感情を殺していたマレーが、激しく肩を震わせ泣き続ける姿に、アイリスも思わず涙ぐんだ。
一人掛けソファに、虚ろに座っていた父親が、少しずつ顔を上げる…。
「…マ…レー?
泣いているの…は、マレー…か?」
父親の声がした途端、マレーはびっくん!!!と大きく肩を揺らす。
虚空に震える手を差し伸べ、空間に語りかける。
「…誰…か…どう…して泣いて…いるの…か………。
だ、誰か!!!
息子を助けてやって…くれ…!!!
わしは…わしは…動けん………。
どうしてだか…動けん!!!
頼む息子を…」
マレーが、顔を少しずつ…そう告げる、父親に向ける。
エラインがそっ、とマレーに寄ると囁く。
「…常習性のある薬を盛られたから、中毒症状だったの。
中和する薬に切り替えて、以前の薬が抜け始めたのはいいんだけど…。
まだ、時々以前の薬を欲しがって、錯乱状態になるから。
正常に戻るには、時間が必要なの」
マレーは涙を頬に滴らせ、ゆっくり…父親の側に寄る。
床に膝を付き、宙空に差し出された父の手を取り、そっ…と頬に当てて囁く。
「ここに…父様、マレーはここにいます…」
父は幻想を見ているのか。
マレーが分からず、喚き出す。
「あんた…!!!
あんた!
頼む…マレーを…あの子が、泣いてる…。
わしと同じように辛い気持ちで…。
母親…が居なくなったから…わし…が…抱きしめて慰めるべきなのに…。
酒…を飲み…過ぎて………。
いつも…いつ…も…。
だ…から…。
頼む!
わしに代わって、あの子を慰めてやっては、くれまいか?」
マレーは父親の手を握りしめて囁く。
「マレーはもう…泣いていません。
あの子は…大丈夫ですから!」
父親はその声が聞こえたように、虚空ににっこり、微笑みかける。
「そうか!
そうか…。
あの子は母に似て…とても利発で、自慢の息子だ。
わしと酒も飲める。
晩酌に…付き合ってくれる…。
ああでも深酒はしてはダメよと…ローザンナがいつも途中で酒を取り上げて………」
けれど突然、父親はぴたり。と止まる。
まるで息を、していないように。
「と…父様!
父様!!!」
マレーが叫ぶ。
父親は…息する事を忘れたように止まり…そして暫く後、ようやく顔を、マレーに向ける。
そして、泣き始めた。
「どうし………て………。
どうして出来る?
わしと…あれ程可愛がっていた息子のマレーを置いて…。
どうして、出て行ける!!!」
最期の言葉は絶叫だった。
父親は震え、がっくりと首を下げ…静かに、頬に涙を伝わせた。
マレーは返す言葉も無く、父親の大きな手を、握りしめて頬に当てる。
「…なぜ………」
父親はそうつぶやいた後、こくん。
と首を垂れ、意識を無くしたように虚ろな瞳を開けたまま、気絶した。
「…養生が…必要なの」
アイリスの祖母が優しくマレーに告げると、マレーはこくん。と頷き…。
改めて、貴婦人を見上げ、恥ずかしげに頬を染め、囁く。
「あの…すみません。
初対面なのに………」
アイリスの祖母は、マレーの頬に手を当て、マレーのヘイゼルの瞳を優しく見つめ、唇を開く。
「いいの。
泣きたい時は、思いっきり泣いて、いいのよ」
マレーはその言葉に、まだ瞳を潤ませたけど。
今度はしっかりと、頷いた。
その反対側に居たのも、やはり隊服着た、男装の女性だった。
アイリスは気づいて、目を見開く。
「………………」
部下に変装した伯母ニーシャは、止めるアイリスをマレーが激しく揺すり、襲いかかろうとする姿を見、思わず叫ぶ。
「本人がそこに居て、復讐したい気、満々なのに!!!」
反対側の…母エラインは、捕らえた叔父のズボンのベルトを取り外しながら、告げる。
「…そうよ。
罪状はハッキリしてるんだから。
この際、ここで…最初の罰を、下すべきでしょう?」
言いながら、一気にズボンを引き下げ、下半身を露出させた。
その場に居る、マレーを除く男達が一斉に目を見開くさ中。
叔父は羞恥に襲われ、股間を隠そうと前屈みになった際、足首に絡まったズボンでバランス崩し、前へとすっ転ぶ。
どっすん!
「…屈ませる、手間が省けたわね」
エラインが言うと、ニーシャが頷く。
「…いつも思うんだけど。
大人しそうな顔していざと言う時、私より大胆なんだから。
この場には、子供も居るのよ?」
ニーシャが幼子に首振って示す。
けれど子供の横に付いてる、良く出来たアドラフレンの部下は、さっ!と手で、小さな子供の目元を覆い隠してた。
エラインは、膝を床に付き前に屈み込む叔父の背に、どん!と靴底を押し当て、起き上がるのを防ぎながら、顔をさっ!と上げてニーシャに言い返す。
「…あら。
父親だろうが、悪さしたらおしおき喰らう事を、ちゃんと教えておかないと。
子供まで、悪党になっちゃうわよ!」
と、ぐいぐい靴底で背を押し、もっと前屈みにさせ、床に鼻が付かんばかりに叔父にひれ伏させる。
エラインはさっ!と顔を息子、アイリスに向けて言う。
「さあ!
どれだけでも仕返し放題!
彼の気の済むように、してあげるのよ!」
「………………………………」
「………………………………」
ディングレーとローフィスですら絶句する中、アドラフレンが額に手を当て、囁く。
「…約束しませんでしたっけ?
大人しく部下を演じ、出過ぎたマネは決してしないと」
エラインは横で腕組む姉のニーシャを見
「約束したのは姉様で、私はしてないわ」
と言い放ち、ニーシャはちょっと顔下げると
「私は意見を叫んだだけで、具体的な事はナニもせずに約束守ってるじゃない!
下半身剥いたのはエラインよ。
文句は妹に、言ってくれないかしら?!」
とふてくされる。
けれどその時、アイリスの腕の力が緩み、マレーがとうとう叔父に突進した。
同時にエラインが靴底を上げ、叔父が顔を上げかけた時。
マレーは拳を握り込んで、思いっきり振り回す。
左右の拳を使って、叔父の顔を右、左と交互に殴りつける。
がっ!がっ!がっっっ!
狂気のように…溜まっていた鬱憤を、一気に晴らすように…マレーは殴り続けた。
叔父の口も切れて、口の端に血が滴り始めていたけど。
殴るマレー拳から血が滲み、振り上げる度、拳から血が飛び散る。
「…っ!っ!っ!!!」
マレーは拳から血を飛び散らせながら…涙を頬に滴らせ、夢中で殴り続ける。
がっっっ!!!
ローフィスがアドラフレンを見、アドラフレンが頷くと、ローフィスは夢中で慣れない拳を、血をまき散らしながら振り続けてるマレーの背後から、胴に腕を回し抱き止めて、囁く。
「もう…いい。
君の拳を痛めるだけだ」
けれどマレーは聞こえてないように、歯を食い縛り、涙を溢れさせて拳を振り続ける。
ローフィスに、抱き止められた胴を後ろに引かれ、叔父の顔に拳が届かなくなっても。
まだそれでも夢中で、虚空に拳を振り続けた。
「…まあ…」
その声は、戸口から聞こえたけど、誰の耳にもはっきり響いた。
初老の…少し顔に、皺こそあったけれど、紫色のドレスを着た、とても上品で美しい貴婦人が、悼みに溢れた表情でマレーを見つめ…。
そっと近寄るとマレーの横に立ち、振り向くマレーをふいに…抱きしめる。
「酷い目に遭ったのね…。
辛かったわね」
その声は優しく、慈愛に満ちていて…マレーは自分を捨てた、懐かしい母の…愛情を受けていた頃を思い出し、うんと年上の、優しい貴婦人に縋り付き、声を上げて泣き始める。
「ぅ…ぅわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「…お母様…出番じゃないでしょう?」
エラインが言うと、アイリスの祖母は、しっ!と人差し指を口に当て
「泣かせてあげましょう」
と囁く。
アイリスはその時どうして、アドラフレンみたいな大物が自ら出向いたのか。
分かってアドラフレンを見る。
…つまり実家の三妖女が『謀をしたのは自分達なんだから』と、逮捕の一劇に、どうしても付いて来ると言い…。
無茶をし出したら、アドラフレンの部下では止める事が出来ないため、見張るために来ざるを得なかったのだと。
けれど…母親に去られ、女親の愛情に飢えていたマレーは、優しい祖母に抱きついたまま、子供のように声を上げて、泣き続ける。
「ぅわぁ!!!わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
ディングレーはもらい泣きしそうで、顔を俯けた。
アドラフレンはエルベスを見るが、エルベスは肩を竦め…そして、今まで堪えていた思いが吹き出すように泣き続ける、マレーを見て微笑む。
「わぁっ!!!
わぁぁぁぁっ!!!」
嗚咽を上げ…人形のように感情を殺していたマレーが、激しく肩を震わせ泣き続ける姿に、アイリスも思わず涙ぐんだ。
一人掛けソファに、虚ろに座っていた父親が、少しずつ顔を上げる…。
「…マ…レー?
泣いているの…は、マレー…か?」
父親の声がした途端、マレーはびっくん!!!と大きく肩を揺らす。
虚空に震える手を差し伸べ、空間に語りかける。
「…誰…か…どう…して泣いて…いるの…か………。
だ、誰か!!!
息子を助けてやって…くれ…!!!
わしは…わしは…動けん………。
どうしてだか…動けん!!!
頼む息子を…」
マレーが、顔を少しずつ…そう告げる、父親に向ける。
エラインがそっ、とマレーに寄ると囁く。
「…常習性のある薬を盛られたから、中毒症状だったの。
中和する薬に切り替えて、以前の薬が抜け始めたのはいいんだけど…。
まだ、時々以前の薬を欲しがって、錯乱状態になるから。
正常に戻るには、時間が必要なの」
マレーは涙を頬に滴らせ、ゆっくり…父親の側に寄る。
床に膝を付き、宙空に差し出された父の手を取り、そっ…と頬に当てて囁く。
「ここに…父様、マレーはここにいます…」
父は幻想を見ているのか。
マレーが分からず、喚き出す。
「あんた…!!!
あんた!
頼む…マレーを…あの子が、泣いてる…。
わしと同じように辛い気持ちで…。
母親…が居なくなったから…わし…が…抱きしめて慰めるべきなのに…。
酒…を飲み…過ぎて………。
いつも…いつ…も…。
だ…から…。
頼む!
わしに代わって、あの子を慰めてやっては、くれまいか?」
マレーは父親の手を握りしめて囁く。
「マレーはもう…泣いていません。
あの子は…大丈夫ですから!」
父親はその声が聞こえたように、虚空ににっこり、微笑みかける。
「そうか!
そうか…。
あの子は母に似て…とても利発で、自慢の息子だ。
わしと酒も飲める。
晩酌に…付き合ってくれる…。
ああでも深酒はしてはダメよと…ローザンナがいつも途中で酒を取り上げて………」
けれど突然、父親はぴたり。と止まる。
まるで息を、していないように。
「と…父様!
父様!!!」
マレーが叫ぶ。
父親は…息する事を忘れたように止まり…そして暫く後、ようやく顔を、マレーに向ける。
そして、泣き始めた。
「どうし………て………。
どうして出来る?
わしと…あれ程可愛がっていた息子のマレーを置いて…。
どうして、出て行ける!!!」
最期の言葉は絶叫だった。
父親は震え、がっくりと首を下げ…静かに、頬に涙を伝わせた。
マレーは返す言葉も無く、父親の大きな手を、握りしめて頬に当てる。
「…なぜ………」
父親はそうつぶやいた後、こくん。
と首を垂れ、意識を無くしたように虚ろな瞳を開けたまま、気絶した。
「…養生が…必要なの」
アイリスの祖母が優しくマレーに告げると、マレーはこくん。と頷き…。
改めて、貴婦人を見上げ、恥ずかしげに頬を染め、囁く。
「あの…すみません。
初対面なのに………」
アイリスの祖母は、マレーの頬に手を当て、マレーのヘイゼルの瞳を優しく見つめ、唇を開く。
「いいの。
泣きたい時は、思いっきり泣いて、いいのよ」
マレーはその言葉に、まだ瞳を潤ませたけど。
今度はしっかりと、頷いた。
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