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補習後のそれぞれ

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 皆、剣を剣立てに戻し、鍛錬場を後にする。
ギュンターとシュルツ、スフォルツァはアスランとレナルアンを周囲で囲み、グーデン配下の襲撃から身構えた。
結局二年宿舎にレナルアンを送り届けたが襲撃は訪れず、ギュンターはグーデン配下らの四年、三年らがまだ、戦闘不能なのだと理解した。

シェイルとシュルツは、ヤッケル、ローランデ、フィンス、それにラナーンらと共に、二年宿舎に戻って行った。

レナルアンは振り向いて、ギュンターに手を振ったけど。
ギュンターはその斜め前の、階段を上がっていくローランデを見つめていた。

シェイルを横に迎え、穏やかな微笑をたたえるローランデは、少しはにかんだ様子で、けれど色白の頬を薔薇色に染め。
全身から気品が雫のようにしたたりり落ち、きらめいてるようで、とても…美しく見えた。

ディングレーが寄って来て、アスランとスフォルツァを促す。
アスランはマレーとハウリィと合流し、嬉しそうに話し始めた。

ディングレーは三人を促し、スフォルツァに別れの会釈を向け、マレーは振り向いて少し離れた背後に立つ、アイリスと三人の一年大貴族らに手を振っていた。

ハウリィの背後から彼を守るデルアンダーが歩を進め、皆三年宿舎を目指し、移動し始める。

ギュンターは気づいて進もうとし、けれど歩を止め、もう一度振り向いてローランデに視線を送った。
もう扉の中へ、その姿を消しかけていた。
短いため息と共に、ギュンターは三年宿舎へと歩き始める一行の、後を追う。

けれど突然ラナーンが突進して来て、腰に抱きつき。
ギュンターは思い切り前後に身が揺れ、後ろ腰に抱きつくラナーンに振り向く。
直ぐ、レナルアンが飛んで来てラナーンを引き剥がそうとし、抗うラナーンと争い始め。
フィンスとヤッケル、それにローランデまでもが二年宿舎入り口扉から飛んで戻り、二人を取り囲んでなだめ始める。

先を歩くデルアンダーとディングレーもが振り向き、助っ人に入るかどうかを覗った。

ギュンターは衣服に指を食い込ませ、放すまいとするラナーンに叫ぶ。
「いい加減、自重しろ!
グーデン配下は、今は姿が見えないが!
いつ現れるか分からないんだぞ?!」

ラナーンの動きが、ピタリと止まる。

ギュンターはラナーンを見つめ、言い諭す。
「…いいから、一番安全な三年大貴族宿舎に移るまでは。
さっさと二年大貴族宿舎に入って、大人しくしてろ。
移れば俺だって近いから。
しょっ中、顔出してやれる」

ディングレーとデルアンダーは、内心
「(…さすが、垂らし)」
と呆れ混じりに感心した。

ラナーンは顔を上げてギュンターを見上げ
「…約束する?」
と聞くので、ギュンターは頷く。
けど横でレナルアンも怒鳴る。
「俺にもちゃんと、会いに来るよな?!」

ギュンターは躊躇った後、呟く。
「俺が来たらお前、呼ばなくても直ぐ、嗅ぎつけないか?」

ヤッケルがレナルアンの横で
「違いない」
と呟き、フィンスが囁く。
「…ともかく、動ける三年グーデン配下が、一・二年配下を扇動して襲いに来るかもしれない。
一年の美少年三人は本当にいつも、ビクビクしてた。
頼むから…護る我々のためにも。
一刻も早く、大貴族宿舎に戻って欲しい」

ラナーンとレナルアンは、大貴族の品格ありながらも丁重にそう告げるフィンスに見惚れ、頷いてギュンターから離れ…促すローランデの背後に続き、二年宿舎に入って行った。

ギュンターが、ため息交じりに進行方向に振り向くと。
ディングレーとデルアンダーが、目をまん丸にして見てるのに気づく。

「…?
俺、ナンか変?」

ギュンターの問いに、ディングレーは顔下げながら背を向け
「今更か…」
と呟き、デルアンダーもギュンターから顔を背けながら、ディングレーの言葉に、頷いていた。

ディングレーは大食堂の横、大貴族宿舎に続く階段を登りながら、付いて来ないギュンターを見下ろし、声かける。

「悪いが明日は、二年の愛玩達の移動に付き合ってくれ。
お前がいれば、ラナーンもレナルアンも素直に動く!」

ギュンターは階段上のディングレーを見上げ、頷きながら問う。

「いつ頃だ?!」

「昼食時を予定してる。
昼飯、奢るから」

ディングレーの返答に、ギュンターは満面の笑顔を浮かべた。

「楽しみにしてる!」

階下の大食堂にたむろっていた三年平貴族らは、それを聞いてざわざわ口々に話し始めた。
「俺、明日実家に帰るから、超下品な美形のレナルアン、ゆっくり拝めないな」
「…俺も週末は、婚約者に会わないと」
「女だろ?そっちのが、いいじゃないか」
「家が決めた縁談だぞ?」

平貴族らの半数は週末の予定が埋まっていて、半数は『教練キャゼ』に残って暇な週末の見物が出来て、盛り上がっていた。

「…二年のグーデン愛玩か!」
「三年は、セシャルは痛々しいし…シャクナッセルは別次元で同じ男とは思えないしで、ナンか近寄り難いけど。
二年なら…」
「レナルアンは気さくだぜ?」
「お前、金払ってシて貰う気か?」
「…グーデン一味が目、光らせてるのに出来るか?
…あ、まだオーガスタスに痛めつけられた傷が痛くて、大人しいかな?」
「今の内って?
…だが金払って頼めば、気軽にシてくれそうだよな?
レナルアンって」
「顔だけは毎度、見とれるぐらい綺麗なんだけどな」
「…顔・ダケはな…。
なんか…誰かを連想するよな…」

そこまで言うと、言ってる群れの皆が、全員こっそりギュンターを伺い見た。

ギュンターは自室へと戻りかけ…けれどきびすを返し、三年宿舎の出口に向かう。

「また、出かけるのか?!」

その声に振り向くと、叫んだダベンデスタの姿が、うんと奥に見えた。

「…ちょっと、オーガスタスの所へ!」

反射的にギュンターが叫び返すと、皆ため息交じりに顔を下げたり、横に振ったり。

ギュンターの姿が、扉の外へ消えると。
食堂内では、皆が小声で話し始める
「…お前、あいつがオーガスタスとシに行った。
とか納得しなかったか?」
一人が隣のヤツに聞くと、聞かれた方は
「…つい…今までの習慣で」
と項垂れて答える。

皆同感で、一斉にボヤいた。
「…ただ、連んでるって…どうしても思えない」
「だよな。
あいつ、なんか美貌に磨き、かかってナイか?」
「…中身分かってる俺ですら。
一瞬あまりのキラキラしさに、見惚れたぜ…」
「ああ…顔、ダケはとびきり綺麗だからな」

ギュンターは扉を閉めた後、扉に近いヤツのぼやいた
『顔ダケは綺麗』
が聞こえ
「(…言い方が、凄く侮辱的に聞こえるのは、気のせいか?)」
とふてくされた。

四年宿舎の大食堂の、直ぐ横の廊下に進む。
扉がずらりと並ぶ一つを覗くと、相変わらず少し開いていて、オーガスタスとローフィスがソファに腰かけてしゃべってた。

「…邪魔して、いいか?」
戸口でギュンターが聞くと、オーガスタスが顔上げる。

「…あんたら、令嬢の使いが来たら、さっさと逃げたのか?」
入りながらギュンターが聞くと、オーガスタスは顔下げ、ぼそりと呟く。
「…かなり、逃げ遅れたがな」
横でローフィスも項垂れるように顔を下げ
「…とっとと女が得意なお前辺りに押しつけ、とんづらしたかったぜ…」

ギュンターは呆れて、二人の向かいの椅子に座る。
「オーガスタスはともかく、ローフィスはああいう手合いは、得意だろう?」

聞かれたローフィスは、チラ…とオーガスタスと顔を見合わせあい、結局オーガスタスが説明する。
「…対応出来るだけで。
得意な訳じゃない」

ローフィスは頷く。
「出来る、ってダケで、いつも押しつけられるから…。
好むと好まざるを得ず、結局どんどん、あしらいは上手くなる」

ギュンターはローフィスを見て、問うた。
「…結局、苦手なのか?」

ローフィスは頷き、オーガスタスはぼやく。
「誰だって面倒事は嫌いだ。
だが状況を悪化させる者が対応するより。
状況を上手くまとめられる者が対応した方が、後々楽だ」

ローフィスは俯いて、頷く。
「…それで面倒な対応は俺。
乱暴事はオーガスタスに、良く振り分けられる」

ギュンターは呆れた。
「嫌だと…拒否れないのか?」

オーガスタスとローフィスは、また顔を見合わせた。
今度はローフィスが口開く。
「…講師が他に任せ、結局事態がよけい悪化し、収拾つかなくなった頃、呼ばれたから…。
つい、タンカ切った。
“酷くなって結局俺達、呼ぶくらいなら!
最初から、俺達に任せろ!"」

オーガスタスが顔下げ、首を横に振りながら呻く。
「コイツ…“俺達”って、言ったんだぜ?」

ギュンターが、じっ…と見てると、ローフィスはすまなそうな表情は浮かべたものの…。
「…だが盗賊退治に行った連中が、助けるはずの村人どころか、仲間まで怪我させたりするから。
…お前だって、同感だろう?」
と聞き、オーガスタスは凄く頷きたく無さそうだったけど、仕方無く頷いてた。

オーガスタスは突然すっ!と立ち上がる。
「さて!
風呂に行くかな!」
ローフィスも無言で頷き、ギュンターも立ち上がりながら、ぼやいた。

「…ディングレー、絶対こっちに、来たかったろうな…。
彼、あんたらと居ると、肩の力抜けて自然体に見える」

オーガスタスもローフィスも、タオル掴んで戸口へ歩きながら、ぼやく。
「…王族の家に生まれた、中身は俺らと変わらぬゴロツキだ」(オーガスタス)
「…あれで品良くするため、特上の苦労してる」(ローフィス)

ギュンターも戸棚に置かれたタオルを勝手に掴むと、二人の背を追った。

「…お前と出会って、庶民が楽だと思い知ったから。
ああなったんだろう?」
オーガスタスの言葉に、ローフィスはムキになって反論してた。
「元々上品身についてたら、俺と居ても上品は失われないはずだ!」

オーガスタスは、頷いた。
「お前と居て、下品が板に付き、気品溢れる王族に戻るのに苦労するのは、元来ディングレーが下品だから。
って言いたいんだな?」
ローフィスは言い切った。
「言いたいんじゃ無く、言ってる」

オーガスタスが、ぼやく。
「お前、結構面倒だよな?」
「お前が!
あいつ下品なの、俺のせいみたいに言うからだろう?!」

オーガスタスが肩すくめ、言い返す。
「…だってお前にさえ出会わなかったら。
あいつ、上品な王族、疑問も持たずにしてたと思うぞ?」
が、ローフィスは噛みつく。
「ふざけるな!
俺でナイ、面倒見のいい別の下品なヤツと、絶対連んでたさ!!!」

オーガスタスは顔を下げ
「賭けたくても、これは賭けにならないな…」
と呟くと、ローフィスは
「残念だったな」
と、イヤミに笑って言い返す。

ギュンターは年上二人の背後で、しょうもないあてこすり合いを聞き、思わず顔を下げ、ついて行った。
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