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新しい顔ぶれたち

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 校長の言葉は続いていたが、皆はその会話の内容を聞こえない端の者へ伝え。

皆が次々に、講師と二人が何を言ったのかを、伝い聞いた。

講師はディングレーに一つ頷くとその場を去り、ギュンターはディングレーの横に並ぶ。

隣の尊大な『王家の血』を引く同学年一の、実力者を見、小声でささやく。
ディングレーは聞き取ろうと、頭を下げて耳を寄せた。

「正直、俺は何も解らないが…。
みつぎ物とか、必要なのか?」

ディングレーは暫く、そのままで固まった。
そして顔をすっ。と上げると、返答を待つその美貌の男を真正面から見る。

ギュンターは真顔だった。

ディングレーは声をひそめる。
「それはどこの作法だ?」

ギュンターが肩を竦める。
「面倒を収めてもらう代わりに、何か差し出す。
普通、そうだろう?」

ギュンターがあんまり真面目にそう告げるので、ディングレーは少し俯いた。

そうか…。
確かに兄貴のグーデンなら、要求しそうだ。

だから努めて冷静に、兄とは違うという事を、その男に解らせようとした。

「俺には必要無い」
「面倒かけてもか?」
「好意で酒なら、おごられてやる」

ようやく、ギュンターが笑った。
「なんだ。それでいいのか」

がまた、真顔になる。

「で?俺が喧嘩したら、あんたに報告が必要か?
実を言うと学校なんて初めてで、まるで勝手が解らない」

ディングレーは自分が他人の面倒を見るのが、凄く不得手だと知っていた。
気が、回らないのだ。

それで奴にべったり引っ付いて面倒見る事は、避ける事にした。
奴の好き勝手にやらせよう。
そう考え、ぼそっ。とつぶやく。

「別に、喧嘩したけりゃしろ。
どうせ絡まれるだろうからな」

ギュンターは頷く。
「俺のつらが気に入らない。
と、突っかかる気なんだろう?」

そしてチラリ…と、四年の列に並ぶ猛者数人が、さっきからやる気満々の視線を向けているのに目線を送り、ディングレーに確認を取る。

「振りかかる火の粉は、払っていいんだな?」

ディングレーが、吐息混じりにささやく。
「助っ人が必要なら、事前に俺に言え。
後は授業に遅れないように出る。
それ以外は好きにしろ。
俺に遠慮は、必要無い」

ギュンターはまた、笑った。

「『王族』なんて初めて見たが、あんた話が解るな」

言葉のやり取りの苦手なディングレーでも。
自分がめられたのだと言う事は、解った。

その上『王族』だから。とやたら仰々ぎょうぎょうしい態度を取ったり。
言葉使いが馬鹿丁寧なやからより、うんと好感が持てた。

それで奴の耳元に顔を寄せ、小声で言ってやった。

「俺も丁寧語ていねいごは苦手だ」

ギュンターは頷き、顔を上げて笑顔を披露した。

やっぱりその美貌はきらめいて見えたが、ディングレーには奴の風体ふうていが、草原の爽やかな風のように瞳に、映った。


シェイルは呆れた。

中央の新入生を挟み、一番遠くの二年にまで。
彼らの会話の内容が、伝わって来たので。

皆が必死でその会話を次から次へと、隣の相手に伝言して行く。

「ディングレーが『迫って来る不届き者が居たら俺の名を出すか、後で俺に教えろ』
と言ったって。次は?」
「講師が、『口ではああ言ってるが頼りに成る』と…」
「…だって!」

つい、ローランデとフィンスと目が合う。
ヤッケルは隣のコの肩を掴み、聞き出す。

「それでお終いか?続きは?」

皆が皆、編入した顔の綺麗な猛者ギュンター学年一の実力者ディングレーの対決が、本当に無いのか。
…と、興味深々なのだ。

が、新入生がぞろぞろと壇の前に、並び始める。
全員が、顔を校庭の上級生達に向けて。

ヤッケルが途端、ひそひそ声でささやいた。
「去年も思ったが、まるでさらし者だ。
上級生らが、品定めしてる」

だがどうやら、編入生ほどのインパクトのある容姿の者は居ず、皆がその新しい顔ぶれを見つめた。

名が次々に呼ばれ、列に並び行く。
シェイルは去年を思い浮かべ、独り言のようにつぶやいた。
「後になるほど、身分が高かったっけ?」

ヤッケルは頷く。
「俺もお前も、さっさと呼ばれた。
最後に呼ばれたのは、ローランデだった」

…そして大抵最後に名を呼ばれる者が、その学年一の実力者となる場合が多い。
四年の、グーデンの時は違ったが。

誰もが王族のグーデンより、威風漂う赤毛の大男、平貴族のオーガスタスをボスだと認めたので。

「アイリス」



その名を呼ばれた艶やかな濃い栗毛の美少年は、利発そうで顔立ちも美しくそして…背も高かった。

皆が今度の一年のボスか。とその優雅でゆったりとした態度の美少年を見つめる。
シェイルは不思議に思った。
「彼も、凄く綺麗だ」

ヤッケルが、シェイルの疑問にささやく。
「上級が目を付け、学校中が注目するのはペットに出来る、身分が低くてどうにかしやすい、小柄な美少年だ。

間違っても大公を叔父に持つ大貴族の、長身で毛並みの良さそうな美少年じゃない」

シェイルの眉間が、一気に寄る。
「つまり去年の僕…って、どんぴしゃなの?」

途端、睨むシェイルにヤッケルは顔を背け、ローランデとフィンスはそれを見て、くすくす笑った。

フィンスがふて腐れてるシェイルに、そっとささやく。

「…けどディアヴォロスとローランデのお陰で、君ににちょっかいかける命知らずは、消えただろう?」

途端、ヤッケルが吐息混じりに唸る。

「今年はその、ディアヴォロスが居ない。
あの最悪に鼻持ちならない、威張りたがりの、能なしド変態グーデンが、大人しくしてると思うか?」



シェイルもそれを聞き、そっと俯く。

そして視線を、新入生に向けた。
少なくとも三人は…さっきヤッケルが言った条件に、当てはまりそうな美少年がいた。

黒髪で色白の華奢な少年は俯くと少女のようだったし、縦ロールの栗毛の少年は利発そうだった。
そして明るい栗毛の可愛らしい顔をした少年は、一番小柄だった。

三年、四年の猛者らが、ヨダレたらした好色な視線を、三人に送る。

同学年にも、グーデンに組し、ローランデに反発するはぐれ者はいる。
ローランデも事態に気づき、吐息を一つ、吐いた。

フィンスがそっと、隣のローランデに耳打ちする。
「ローズベルタに、今の内に釘刺すか?」
ローランデが、吐息混じりにささやく。
「無駄だ。
出来るだけ、彼らの安全に、気を配るしか無い」

フィンスは同意するように、頷いた。
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