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スフォルツァが一目惚れしたアイリスの事情

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 学友達は、しょっぱなから学年筆頭になる筈のアイリスの
『剣が、わりと苦手』
告白に、顔を下げてがっかりしていたけど。

スフォルツァは違った。

アイリスの告白に、まるで自分に護って貰いたがる女性を見るように、グリングレーの瞳を輝かせ、勢い込んで告げる。

「勿論…!
君が困ったらいつでも助けるよ」

アイリスは微笑みを消さなかったが、正直顔が、引きつった。
が、頑張って恥じらうように頬を染め、俯いてささやく。

「それ…凄く嬉しい。
だって…」

振り向き、さっき話しかけて来た一人を見つめる。
「彼も言っていたけど、上級って怖そうだ」

スフォルツァは眉間を寄せる。
「君は一学年で一番身分が高い。
連中だって迂闊な扱いは、自分の首を絞めるって。
ちゃんと、知ってるさ」

アイリスは不安そうにささやく。
「全員が、ちゃんとそう、思ってくれるかな?」

スフォルツァはその不安に首を竦め…
「そうだな。中には計算の出来ない馬鹿もいるかも…。
けど!」
語気強く、アイリスを見つめ告げる。

「もしそんな奴がいたら俺が必ず、何とかしてやるから!」

アイリスは本当は、すんごく、俯きたかった。

スフォルツァを垂らし込む気は毛頭無かったが、どうやら自分は…彼のド・ストライクな、タイプらしい。

必死で自分を抑え、微塵も心を覗かせない素晴らしい微笑でにっこりそう言ったスフォルツァに微笑む。
そして、嬉しそうにささやいた。

必死に、健気に見えるよう取り繕って。

「ありがとう…!
やっぱり君に声をかけて、良かった!」

そう言った時。
スフォルツァは照れたように…。

そしてそう、自分を真っ先に頼られて嬉しいように。
頬を、少し染めたりしたから…。

アイリスはつい、拳でそこら中の壁を、ぼこぼこに叩きたくなったが、耐えた。

『召使いに用を告げるのを忘れた』
と突如思い出したようにつぶやき、スフォルツァに頷いてその場を去る。

背を向け自室に戻るすがら、チラと背後に視線を振ると、最初自分を取り巻こうとしていた者達は全て、スフォルツァを取り巻き始めた。

目論みは成功を収めたものの、アイリスは自室の扉を閉めると、どっ。と疲れ、がっくり首を下げた。

けどこの先学年一の実力者。
と持ち上げられ、厄介事を全て引き受ける羽目になるのと比べたら、全然マシ。

と必死に自分に、言い聞かせる。

後はなるべく、素肌を見せないようにする。
ちょっと体が弱い事にして置きたいから、脱いで鍛え上げた体なんて見られたら、最悪。

父の取り巻きの一人、ローゼンデッサに貰った薬草は、確かに筋肉でごつかった体を、引き締まってる程度に見せる事に、成功はしていた。

が、それで病弱に見えるとは思えない。

…また脱いで確認したかった。
でもいつ誰が、訪問に来るとも限らない。

確か一昨日見た記憶では、いちおう少年らしい、無駄な肉の一切着いて無い、しなやかな体付きに見えた。

ともかく共同生活なんてすると、今までの習慣を全部変えなきゃならず、アイリスは衣服の下にいつも付けてるごっつい金属の腕輪や足輪。
胴輪を、どうしたものか。と思案した。

ぱっと見は宝石とかが埋め込まれ、洒落て見える。

が、筋肉を鍛える為の重しで、代々家に受け継がれた物。

父が全く使わず、長年勤めた執事が、自分が着ける。と言った時、涙を流し
「これで長年のお家の習慣が、絶たれずに済みます」
と言われてしまったので、付けてみて
『厄介で邪魔』
と思ったけどもう、後戻り出来ず…。

ともかく、近衛に上がるまではこれを衣服の下に、常に付けている。
と、約束してしまった。

けど流石、代々受け継がれてきただけあり、確かにこれを着けて動き回って以来、格段に筋肉の付きが違う。

全パーツを着けると殆ど、鎧を着てるみたいになって凄くごついので、普段出来るだけたっぷりと余裕のある服を着て、誤魔化していた。

がここで暮らすとなると、常に全部、付けてる訳にいかない。

ちょっとだけ胸元を開いて見てみた。

が、胸にも鎧のような金飾りと宝石のはめ込まれた胸輪が付いていて、慣れない頃は脱ぐとどっ。と筋肉疲労が押し寄せ、数日経つと筋肉痛で死にそうだった事を思い返し、すっかり慣れた今
『ごつく成る筈だ………』
と心の中で吐息を吐いた。

「いいかな?」
アイリスははっ!として振り返る。

いつの間に、開いたのか…。

半開きだった扉から、スフォルツァが少しだけ顔を覗かせ
『入っていい?』
とチャーミングで小憎らしいほど、引き締まって男っぽい表情を見せ、尋ね顔で見つめてる。

…自分もそうだが、興味を引かれた相手にはなるべく時間を置かず、自分をアピールして置くものだ。

スフォルツァも相手を落とす手管を、知り尽くしてるようだった。
しかも相手に魅力的に見えるよう、顔を少し傾けて見つめる。

…年上の女には、効果的だった。

アイリスは慌てて胸元を終い、スフォルツァに微笑む。

「もう荷物は片づいた?」
スフォルツァは苦笑した。
「ちょうどそれを君に、俺が聞こうと思ってた所だ」

そして、扉を軽く押し、室内へと歩を踏み入れる。
部屋を見回し
「凄く、趣味がいいね」
と、褒めながら。

大抵の相手ならこんな、素敵な青年に、褒められながら許可も取らず部屋に入られても。
決してとがめたりしない、どころか。

少女なら喜んで、彼の腕を引いて、招き入れたに違いない。

アイリスは自分が今まで、少女を垂らしてきた手管を、なぞるようなスフォルツァの挙動に。

『自分が、誰にでも好感持たれるいい男だと、彼自身熟知してる上。
実際、とても魅力的なヤツだから、なおさら。
…こいつはめちゃくちゃ、油断ならない』

と自分の事を棚に上げ、警戒を深めた。

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