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第3章
母に似たかったぼくの話③
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ディーの手がぼくの髪に触れた。
ぼくの髪をかき上げた。
髪飾りを付けてくれた。
髪を編んでくれた。
嬉しくて何度も思い返して、胸を焦がす。
「ディー……」
ディーからもらった物じゃないのに、ぼくの宝物になってしまった青紫の宝石がメインの蝶の髪飾り。
ぼくが好きな色だから手に取ったんだよね。……ディーの瞳の色だと、分かってつけてくれたのならもっと嬉しいんだけど。
ぼくは壊さないように、大切に宝石箱に入れて眠った。
*******
「おはようございます」
「おはよう、アリョ。髪飾り上手につけられたね」
「無理してつけることはないんだぞ?」
父様が外させたがるけど、ディーがつけてくれたこれは宝物になったので、毎日つけます。他の色はつけなくても良いけど。
「アリョ、きょうはあそべる?」
「もちろん遊べるよ。何しよっか? ジルは?」
「ジルは……、あかちゃんだから後で」
同じ家に住む従兄弟のジルはまだ2歳だから鬼ごっこの相手にはならない。兄様はいちいち家に帰る必要はない、って帰ってこないし、ぼくは……、足が遅い……。持久力もない。
「あ、今日はラニサヴさんが来るって言ってたよ」
「ラニーがくるの? やったぁ!!」
母様の言葉にルネがぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。ルネの遊び相手になってくれるし、優しいし、ぼくも嬉しい。
ラニサヴさんは母様の養い親で、遠い街のギルマスだったけど冒険者は引退している。今は王都に来て仲良くなった酒場のマスターと結婚して、臨時雇いの護衛をしている。
時間に融通がきくから、って割と遊びに来てくれる。
伴侶に叱られないのかと心配してたら、母様の近況を語ると店のお客さんが喜ぶから遊びに来るのは公認なんだって。
父様は自分が一緒に行けるときだけ里帰りみたいにそのお店に行く。酒場だから子供達はお留守番。だからどんなお店かは知らないけど母様が酔っ払ってにっこにこになるから、楽しいところなんだと思う。
大人になったら連れて行ってもらおう。
マスターは恐れ多い、ってうちに来てくれないから、早く会いに行きたいなぁ。
鬼ごっこはルネがぼくを捕まえると、必ずラニーがぼくに捕まってくれる。そして2人で追いかけっこをして少し経つと、ラニーがルネを捕まえてぼくが狙われる流れだ。
途中でジルが来て、ラニーがしゃがみ歩き鬼ごっこを提案した。
ジルに目線を合わせるためなのに、しゃがむラニーとルネの真似をしてジルもしゃがむから、その場から誰も動けなくなる。
結局、鬼ごっこは終了してルネとジルをラニーが抱えて走る遊びになった。
ラニーの体力がすごい。
「お昼だよー」
「「ごはーん!!」」
使用人ではなく、母様が呼びに来てくれた。養い親だけあってラニーと母様は仲が良い。
「ねぇ、ラニーってなんさい?」
「45歳だ」
「よんじゅうごさい……。おじいさん?」
「ルネっ! 誰がじーさんだ!!」
「きゃー!!」
「じぃじ?」
「ジルまでっ!?」
おじいさん扱いされてへこんでる。
父様の5歳上だったの!?
父様よりだいぶ歳上だと思ってたからずいぶん遅い結婚だな、って驚いたんだよね。
でも結婚したのは6年前だから、ギリギリ30代だったのか。
……母様は16歳で結婚してるから、やっぱり遅い? でも8歳差の父様は24歳だった。でも冒険者って結婚が遅い人が多いから普通かな。
……ぼくとディーは10歳差、かぁ。
この国は貴族でも政略結婚は少ない。
王妃様が自由すぎる方で、ベタ惚れの王様が王妃様に言われるがまま恋愛結婚を推奨しているから。自由すぎる割に政治には口を出さないから、大臣達も今のところ逆らう気はないようだ。
自分たちも好きな人と結婚したいからかも知れない。
ぼくが成人するとき、ディーは26歳。
待っててくれるかな?
その前に好きになってくれるかなぁ?
はぁ。
「お? アリョどうした? おとなびたか?」
「!! ウソ!? ぼく、大人っぽくなった!?」
「あー、いや、そうでもなかったか……?」
「……どっち?」
大人っぽくなって、でもかわいいまま、ディーに意識してもらいたかったのに。
「ふふふ、アリョだって恋してるんだから、大人っぽくなるよねぇ」
「かあさま、こいってなぁにー?」
もう!
母様ったら、恥ずかしいから言わないでよ!! ルネが言いふらすじゃないか!
ただの憧れだろ、なんてラニーのばかっ! いつまでも子供扱いしないでよ。……そりゃ、まだ……、子供だけど。
『せいつう』したらちゃんと大人っぽくなれるかな?
あっ! 母様は今でもかわいい!!
でもぼくは父様に似たから、大人っぽくなるよね? ディーはどっちが好きなんだろう?
「アリョ、おもしろいかおー」
「あはは、色々考えちゃうんだよねぇ」
うぐ……、百面相してたみたいでルネに笑われた。恥ずかしい。
ラニーはおやつを食べた後までニヤニヤしてて、機嫌よく帰って行った。むぅ。
*******
「イク、匿ってくれないか?」
「ディート様? どうしたんですか?」
「……母がとんでもないことを言い出して」
「とんでもないこと、って?」
「身体から入る恋もあるだろう、とか何とか……」
「おっ、親の言うことじゃなーい!!」
*******
先触れもなくディーが泊まりに来た。
2日続けて会えるなんて!!
何故だか珍しく母様が怒ってるけど、どうしたんだろう?
「王太子ともあろう者が、母が怖くて逃げ出すとはな」
「フォルク様! なんでそんなイジワル言うんですか!! 怖いんじゃなくて嫌なんです! 無理やりはダメです! なっ、流されるのも……、良くない、と思いますけど……」
母様真っ赤になってるけど、どうしたの?
無理やりってなに? 流されるって?
「ディー、王妃様にイジワルされたの?」
「まぁ、そんなところだ。バスの所に行こうとしたのだが、バスはともかく叔父上は母と似たような考えを持っている可能性があるから、やめた」
ディーが逃げ出すほど危険なイジワルなんて、ひどい!!
「うちにいて! ぼっ、ぼくが守ってあげる!!」
「ぼくも! ぼくもディーをまもるのー!!」
「ありがとう。2人が守ってくれるなら心強いよ」
ぼくとルネが気合を入れると、ディーが楽しげに笑う。笑顔がキラキラしてる。
「えへへー。そうだ! ディー、一緒にお風呂入ろう? ね、アリョ!」
「えっ!? そ、それは、その……」
「ダメだ! 学校に行く歳になったら一緒に風呂はダメだ!」
ルネはまだ良いけど、ぼくはもう無理。恥ずかしくて目が開けられなくて、転んじゃうから!!
父様が止めてくれて良かった。
ルネは不満そうだったけど、ディーに宥められて2人でお風呂に行った。
びっくりしたぁ。
ディーの後で、久しぶりに母様とお風呂に入って出たら……。
客間で3人一緒に寝るとルネが駄々をこねていた。だから恥ずかしいんだってば!!
「ぼくたちがディーを守るんだから、右と左に寝なくちゃダメでしょう? アリョも手伝って!!」
「で、でもね、大きくなったから、父様がね」
「もうっ! 父様までディーにイジワルするの!? ディーにやさしくしてよ! アリョ、ぼくたちががんばらないとだよ!」
ルネはやる気に満ちている。
ディーと2人で困っていたら、母様がぼくをつついて小声で言った。
「ディーはアリョのことも弟みたいに思ってるんだから、今夜は甘えちゃいなよ。本当は良くないけど、この家の人なら内緒にできるから。ね?」
確かに恥ずかしいけど、もう少し一緒にいたい。
学校へ戻ってまたしばらく会えなくなって、寂しくなった時に思い出せばがんばれるかも知れない。
しつこく悩んでいたらディーが申し訳なさそうに言った。
「ルネが寝つくまででいいから、一緒にいてくれないか?」
そうか! 一緒に寝たら寝言とか寝相とか、ヨダレとか寝癖とか心配しちゃうけど、ルネが寝るまでなら部屋に戻れるし、ディーともう少しおしゃべりできる!!
「ルネ、守ろうね!」
「うん!!」
まだ色々言ってた父様は、母様が小声で何か言うとにやっとして寝室に行った。何を言ったんだろう?
ぼくの髪をかき上げた。
髪飾りを付けてくれた。
髪を編んでくれた。
嬉しくて何度も思い返して、胸を焦がす。
「ディー……」
ディーからもらった物じゃないのに、ぼくの宝物になってしまった青紫の宝石がメインの蝶の髪飾り。
ぼくが好きな色だから手に取ったんだよね。……ディーの瞳の色だと、分かってつけてくれたのならもっと嬉しいんだけど。
ぼくは壊さないように、大切に宝石箱に入れて眠った。
*******
「おはようございます」
「おはよう、アリョ。髪飾り上手につけられたね」
「無理してつけることはないんだぞ?」
父様が外させたがるけど、ディーがつけてくれたこれは宝物になったので、毎日つけます。他の色はつけなくても良いけど。
「アリョ、きょうはあそべる?」
「もちろん遊べるよ。何しよっか? ジルは?」
「ジルは……、あかちゃんだから後で」
同じ家に住む従兄弟のジルはまだ2歳だから鬼ごっこの相手にはならない。兄様はいちいち家に帰る必要はない、って帰ってこないし、ぼくは……、足が遅い……。持久力もない。
「あ、今日はラニサヴさんが来るって言ってたよ」
「ラニーがくるの? やったぁ!!」
母様の言葉にルネがぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。ルネの遊び相手になってくれるし、優しいし、ぼくも嬉しい。
ラニサヴさんは母様の養い親で、遠い街のギルマスだったけど冒険者は引退している。今は王都に来て仲良くなった酒場のマスターと結婚して、臨時雇いの護衛をしている。
時間に融通がきくから、って割と遊びに来てくれる。
伴侶に叱られないのかと心配してたら、母様の近況を語ると店のお客さんが喜ぶから遊びに来るのは公認なんだって。
父様は自分が一緒に行けるときだけ里帰りみたいにそのお店に行く。酒場だから子供達はお留守番。だからどんなお店かは知らないけど母様が酔っ払ってにっこにこになるから、楽しいところなんだと思う。
大人になったら連れて行ってもらおう。
マスターは恐れ多い、ってうちに来てくれないから、早く会いに行きたいなぁ。
鬼ごっこはルネがぼくを捕まえると、必ずラニーがぼくに捕まってくれる。そして2人で追いかけっこをして少し経つと、ラニーがルネを捕まえてぼくが狙われる流れだ。
途中でジルが来て、ラニーがしゃがみ歩き鬼ごっこを提案した。
ジルに目線を合わせるためなのに、しゃがむラニーとルネの真似をしてジルもしゃがむから、その場から誰も動けなくなる。
結局、鬼ごっこは終了してルネとジルをラニーが抱えて走る遊びになった。
ラニーの体力がすごい。
「お昼だよー」
「「ごはーん!!」」
使用人ではなく、母様が呼びに来てくれた。養い親だけあってラニーと母様は仲が良い。
「ねぇ、ラニーってなんさい?」
「45歳だ」
「よんじゅうごさい……。おじいさん?」
「ルネっ! 誰がじーさんだ!!」
「きゃー!!」
「じぃじ?」
「ジルまでっ!?」
おじいさん扱いされてへこんでる。
父様の5歳上だったの!?
父様よりだいぶ歳上だと思ってたからずいぶん遅い結婚だな、って驚いたんだよね。
でも結婚したのは6年前だから、ギリギリ30代だったのか。
……母様は16歳で結婚してるから、やっぱり遅い? でも8歳差の父様は24歳だった。でも冒険者って結婚が遅い人が多いから普通かな。
……ぼくとディーは10歳差、かぁ。
この国は貴族でも政略結婚は少ない。
王妃様が自由すぎる方で、ベタ惚れの王様が王妃様に言われるがまま恋愛結婚を推奨しているから。自由すぎる割に政治には口を出さないから、大臣達も今のところ逆らう気はないようだ。
自分たちも好きな人と結婚したいからかも知れない。
ぼくが成人するとき、ディーは26歳。
待っててくれるかな?
その前に好きになってくれるかなぁ?
はぁ。
「お? アリョどうした? おとなびたか?」
「!! ウソ!? ぼく、大人っぽくなった!?」
「あー、いや、そうでもなかったか……?」
「……どっち?」
大人っぽくなって、でもかわいいまま、ディーに意識してもらいたかったのに。
「ふふふ、アリョだって恋してるんだから、大人っぽくなるよねぇ」
「かあさま、こいってなぁにー?」
もう!
母様ったら、恥ずかしいから言わないでよ!! ルネが言いふらすじゃないか!
ただの憧れだろ、なんてラニーのばかっ! いつまでも子供扱いしないでよ。……そりゃ、まだ……、子供だけど。
『せいつう』したらちゃんと大人っぽくなれるかな?
あっ! 母様は今でもかわいい!!
でもぼくは父様に似たから、大人っぽくなるよね? ディーはどっちが好きなんだろう?
「アリョ、おもしろいかおー」
「あはは、色々考えちゃうんだよねぇ」
うぐ……、百面相してたみたいでルネに笑われた。恥ずかしい。
ラニーはおやつを食べた後までニヤニヤしてて、機嫌よく帰って行った。むぅ。
*******
「イク、匿ってくれないか?」
「ディート様? どうしたんですか?」
「……母がとんでもないことを言い出して」
「とんでもないこと、って?」
「身体から入る恋もあるだろう、とか何とか……」
「おっ、親の言うことじゃなーい!!」
*******
先触れもなくディーが泊まりに来た。
2日続けて会えるなんて!!
何故だか珍しく母様が怒ってるけど、どうしたんだろう?
「王太子ともあろう者が、母が怖くて逃げ出すとはな」
「フォルク様! なんでそんなイジワル言うんですか!! 怖いんじゃなくて嫌なんです! 無理やりはダメです! なっ、流されるのも……、良くない、と思いますけど……」
母様真っ赤になってるけど、どうしたの?
無理やりってなに? 流されるって?
「ディー、王妃様にイジワルされたの?」
「まぁ、そんなところだ。バスの所に行こうとしたのだが、バスはともかく叔父上は母と似たような考えを持っている可能性があるから、やめた」
ディーが逃げ出すほど危険なイジワルなんて、ひどい!!
「うちにいて! ぼっ、ぼくが守ってあげる!!」
「ぼくも! ぼくもディーをまもるのー!!」
「ありがとう。2人が守ってくれるなら心強いよ」
ぼくとルネが気合を入れると、ディーが楽しげに笑う。笑顔がキラキラしてる。
「えへへー。そうだ! ディー、一緒にお風呂入ろう? ね、アリョ!」
「えっ!? そ、それは、その……」
「ダメだ! 学校に行く歳になったら一緒に風呂はダメだ!」
ルネはまだ良いけど、ぼくはもう無理。恥ずかしくて目が開けられなくて、転んじゃうから!!
父様が止めてくれて良かった。
ルネは不満そうだったけど、ディーに宥められて2人でお風呂に行った。
びっくりしたぁ。
ディーの後で、久しぶりに母様とお風呂に入って出たら……。
客間で3人一緒に寝るとルネが駄々をこねていた。だから恥ずかしいんだってば!!
「ぼくたちがディーを守るんだから、右と左に寝なくちゃダメでしょう? アリョも手伝って!!」
「で、でもね、大きくなったから、父様がね」
「もうっ! 父様までディーにイジワルするの!? ディーにやさしくしてよ! アリョ、ぼくたちががんばらないとだよ!」
ルネはやる気に満ちている。
ディーと2人で困っていたら、母様がぼくをつついて小声で言った。
「ディーはアリョのことも弟みたいに思ってるんだから、今夜は甘えちゃいなよ。本当は良くないけど、この家の人なら内緒にできるから。ね?」
確かに恥ずかしいけど、もう少し一緒にいたい。
学校へ戻ってまたしばらく会えなくなって、寂しくなった時に思い出せばがんばれるかも知れない。
しつこく悩んでいたらディーが申し訳なさそうに言った。
「ルネが寝つくまででいいから、一緒にいてくれないか?」
そうか! 一緒に寝たら寝言とか寝相とか、ヨダレとか寝癖とか心配しちゃうけど、ルネが寝るまでなら部屋に戻れるし、ディーともう少しおしゃべりできる!!
「ルネ、守ろうね!」
「うん!!」
まだ色々言ってた父様は、母様が小声で何か言うとにやっとして寝室に行った。何を言ったんだろう?
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