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ほんの番外編⑦

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ーー チサト side ーー

学院の人達に挨拶をして、ハルトごと抱き上げられて港へ。
……恥ずかしいけど仕方ない。
ハルトはまだ、おれのお腹の上ですやすや寝ている。

「昨日、ディトマールが運んでくれたと言ったな」

昨日、敢えてぼかしていた事実を改めて確認され、説明せざるを得なかった。疾しい事はないんだけど、心配かけちゃったから、つい。そして説明したら案の定、不機嫌になった。

「……こうやって腕を回していたのかと考えて少し妬けただけだ。気にしないでくれ」
「や、やきもち……!あっ、ごめん!ちょっと、すごく……嬉しい……」

心配してもらってるのに不謹慎だけどやきもち妬かれるの、嬉しい! ディトマールくんに理不尽に怒ったりしないのも嬉しい。手助けしたのに怒られたら他人に親切にする勇気がしぼんじゃうもんね。

頰が熱くなるのを感じながらフィールの首筋に顔を埋めた。



「おい!邪魔だから詰所の前でいちゃつくんじゃない」
「あぁ、ユリアヌス。私の伴侶のチサトと……」
「んぎゃぁーーーーーーーーー!!」
「……息子のハルトムートだ。チサトが怪我をしたのでお前の家を訪ねる事が出来ないと連絡がてら顔を出しに来た。仕事中にすまんが……」
「初めまして、チサトです!いきなりすみませんがおしめ替えさせてもらえますか?」
「おう。まず入ってくれ」

大声で泣くハルトが気になるようであちこちから視線を感じる。お仕事中なのに申し訳ないなぁ。

「改めて紹介する。チサト、私の友人でこの港の警備隊隊長のユリアヌスだ」
「初めまして、チサトです」
「……テオフィールが犯罪を!」
「チサトはもう18歳だ」

またこのやりとり……。
まだ未成年に見えるのかなぁ?こちらの家族には大人っぽくなったと言われたのに。

「こちらの家族には大人っぽくなったと言われたんですが……気を使われただけかなぁ?」
「せいぜい15だろう」
「あ、やっぱり大人っぽくなったって思って良いんだ!去年は12歳って言われたもんね」

えへへと笑うとユリアヌスさんが遠い目をした。


「あのう、自分はここの副隊長ですが、お子さんを抱っこさせてもらっても良いですか?」
「えぇ、良いですよ」
「いやぁ、懐かしい。うちの子はもう大きくなって抱かせてくれなくて」
「おいくつなんですか?」
「10歳です。子供のくせに子供扱いするなって怒るんですよ」

10歳になると抱っこさせてくれないの?
孤児院の子達は10歳でも抱っこして欲しがったけど、一般家庭ではそんな事ないのかな?
ハルトは副隊長さんのお髭掴んで引っ張ってる。副隊長さん、痛くないのかな?

「昨日ここで怪我したのなら救護所使うか?」
「学院のラウリ先生に処置してもらったので大丈夫です」
「あぁ、あのじーさんなら安心だな」

昨日の騒ぎの後始末がやっと一段落したところだったらしい。ユリアヌスさんにに明後日帰る事とちゃんと休憩を取るように言って帰路につく。

おれのせいで旧交を温める時間が取れなかったのかと思うと申し訳ない。

辻馬車を拾うつもりでいたら詰所の馬車で送ってもらえることになった。
護送用じゃなくて公用車的なやつ。

ハルトは副隊長さんに懐いて今度は肩に登ってうなじでまとめた髪の毛を掴んで引っ張って喜んでいる。副隊長さんも嬉しくて離れがたいから、と休憩をとって送ってくれた。ハルトって全然人見知りしないなー。

ギュンターさんちに戻るとアレクシスが帰っていて、ハルトと2人まとめて副隊長さんが遊んでくれた。

「あの人の子供好きは病気っすね」

馭者をしてくれた隊員さんが呆れながら言った。そして休憩は終わりだと副隊長さんを引きずって帰った。



「チサトにお見舞いだって」
「お見舞い?」

おれの知り合いなんていないのに、誰だろう?義兄の奥さんのエミールさんが伝えてくれてフィールが対応に出ると、直ぐにユリアヌスさんを連れて戻って来た。

「くつろいでいる時間にすまん。土産を渡せれば良かっただけなんだが……」
「こちらこそこんな格好ですみません」

お風呂も夕食も終わってソファに座ってハルトを寝かしつけたところだ。昼間、副隊長さんにたくさん遊んでもらって疲れたようだから、きっと朝までぐっすりだろう。

「昨日、ひっくり返りそうになった船の積荷でよく効く傷薬なんだ。外からの怪我にも内部の怪我にも効くので個人的に購入して詰所にも置いてあるんだが、昨日の騒ぎで使い切ってしまっていたんだ。だが先ほど新しい物が補充できたので持ってきた。使ってくれ」
「良いんですか?」
「あぁ。テオフィールには酒とツマミ、チビにはおしゃぶりだ」

おしゃぶり、って言ってるけど干した魚介だった。薄味だから日持ちがしないので少量だけど、って。1週間以内に食べきるよう念を押された。

「感謝する。早速試して良いか?」
「もちろん!」

フィールがおれの足の包帯を外して赤いジェル状の薬を優しく塗ってくれた。ジェルがとても綺麗で美味しそう……いや、食べちゃダメだけど!!

「チサト、どうだ?」
「ポカポカして気持ち良いし、痛みも引いたみたい」
「かなり腫れているな。明日の朝には少しなら歩けるようになると思うが無理をするなよ。……わざわざ言わなくてもテオフィールが歩かせないか」
「当然だ」
「あのテオフィールがねぇ。変われば変わるもんだ」

それから1時間くらいユリアヌスさんがどうにかフィールの感情を揺さぶろうとしたイタズラの数々を語ってくれて、おれを笑わせた。笑い転げてハルトが起きるんじゃないかと思った。

起きなかった。(笑)
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