いばら姫

伊崎夢玖

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強姦

第十一話

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目の前にずっと愛してくれている男がいると保は叫びたかった。
だが、桃が高校卒業するまでは言わないと自分で決めた。
「桜井の家なら婚約とかの話も来ているんじゃないか?」
「うん。高校入る時に父から聞かされた。婚約者いるって」
「その人にたくさん愛してもらえればいい」
「どこの誰かも分からない人に愛されたくない」
「すごくいい人かもしれないじゃないか」
「だって、あたしは家に売られるんだよ?家が業績不振なのくらい知ってる。あたしを売って融資してもらうことくらい分かってるよ」
「桜井の家としては、そうかもしれない。だけど、相手の人まで桜井を物として見るかなんて分からないじゃないか」
「相手の人、おじさんとかじゃないといいなぁ」
「おじさんは嫌なのか?」
「そりゃ嫌でしょ。おじさん独特の臭いあるし」
「そういうもんなのか…」
保は自分がおじさんの部類に入るのか不安になった。
自分が高校生くらいの時、今の自分の歳はおじさんに見えた。
「ちなみに桜井が思うおじさんって何歳からだ?」
「んー、十歳以上離れるとおじさんって感じするかな」
「そうなんだな」
保は愕然とした。
保と桃はちょうど十歳離れている。
ということは、保はおじさんに部類される。
あまりにもショックだった。
急に黙り込んだ保を桃が心配した。
「久世、大丈夫?」
「…大丈夫だ」
「…クシュン」
海風にあたって体が冷えたからか桃がくしゃみをした。
「すまん。体冷えたか?」
「んー、分かんない」
そっと桃の手に触れるとすごく冷たくなっていた。
「だいぶ冷たくなったな。車に戻るまでこれを着てろ」
保は自分のジャケットを桃の肩にかけた。
「ありがと。あったかい。これだと久世が体冷えない?」
「いいんだよ。女の子は体を冷やすもんじゃない」
「はぁーい」
「んじゃ、車に戻るか」
「はぁーい。ってかいつまで手繋いでるの?」
「冷えてるんだから温めてやるよ」
冷たくなってしまった桃の手を温めてやるというのは建前で、ただ手を繋ぎたかっただけであるが、このひとときが永遠になればいいのにと思う保だった。
「このまま真っ直ぐ帰るか?」
「嫌。まだ帰りたくない」
「そういうことむやみに男の前で言うなよ」
「そういうことって?」
「まだ帰りたくないとか…」
「言わないよ。言うわけないじゃん」
「それならいいんだが…どこか行きたいところあるか?」
「遊園地行きたい」
「遊園地?」
「ここの近くに最近できた遊園地があるんだって。行ってみたかったんだ」
「平日だし、空いてるかもな。行ってみるか」
「やったね。よろしくお願いします」
「こういう時だけ大人しくなりやがって」
「だって、こういうのって子供の特権でしょ?」
だいぶ気持ちが晴れてきたのか、桃に笑顔が戻ってきた。
今日は平日だし、学校からも離れた場所だ。
教師と生徒が一緒にいたところで誰に見つかることもないだろう。
そう思ったことが命取りとなったのだった。
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