いばら姫

伊崎夢玖

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結婚

第四十五話

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翌日、保と桃は二人で役所を訪れていた。
戸籍課へ行き、婚姻届をもらう。
二人で順番に記入し、提出する。
『ご結婚、おめでとうございます』
受理してくれた役所の人に言われ、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「帰り、どうする?」
「お昼ご飯?」
「そう。行きたい所ある?」
「んー、この間のイタリアンのお店がいいな」
「分かった」
「あと、本屋さんにも寄ってもらっていい?」
「何か買うのか?」
「うん。ちょっと買いたい本あって…」
「それなら、イタリアンの店に行く途中に確か本屋あったからそこでいいか?」
「うん。お願いします」
車を走らせてしばらくすると本屋が見えてきた。
駐車場に車を止める。
「すぐ終わるから車で待ってて」
「ついて行くぞ?」
「大丈夫。一冊しか買わないから」
「本当に大丈夫か?」
「うん。行ってきます」
(何買うんだろう?俺に言えない本か?)
保は桃に言われた通り車で待機した。
十分もしないうちに桃が帰ってきた。
「お待たせ」
「お目当ての本はあったのか?」
「うん」
「何の本買ったんだ?」
「うん………ちょっとね」
桃は買った本のことになると言葉を濁す。
保はそれ以上は聞かず、桃がリクエストしたイタリアンの店で遅めの昼食を取った。
「他の店でもよかったのに、何でここだったんだ?」
「前に先生に連れて来てもらった時、迷った料理を食べたくて…」
「どれ?」
「サーモンの冷製パスタと桜海老と菜の花のパスタ」
「あぁ…どっちも食えん…」
「先生、魚介苦手だっけ?」
「あぁ…どうにも生臭い感じがして食えないんだよな…」
「人生半分損してるね」
「損してても魚介は食いたくない」
「大きくなれないよ?」
「ここまで育ったからいいんですー」
そんな話をしていると料理が運ばれてきた。
二人で他愛もない会話をしながらの食事。
(きっと桃が一緒に笑っていてくれるからなんだろうな…)
保は誰かと会話しながらの食事がこんなにも楽しいと思ったことなかった。
会話しながらの食事はあっという間に終わり、会計をして、店を後にする。
「この後付き合ってもらいたい所あるんだけど、いいか?」
「うん」
中心街の方へ車を走らせ、裏路地に入ると古民家の隣の駐車場に車を入れた。
「どこ行くの?」
「行ってからのお楽しみだ」
保は桃を連れて、古民家へ入って行く。
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