いばら姫

伊崎夢玖

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結婚

第四十六話

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「おーい」
『今行きまぁーす』
古民家の奥から保と同じくらいの歳の青年が出てきた。
「昼に行くって連絡入れといただろ」
『もう昼過ぎてるからその約束は無効だね』
「うるせぇよ」
『それで今日は何?』
「オーダーメイドの指輪」
『了解』
桃は一人会話について行けず、ぽかんとしていた。
「先生、どういうこと?」
「ここ、こいつのハンドメイドの店なんだが、オーダーメイドも受け付けてるんだ」
『初めまして、お嬢さん。僕は田所奨。以後お見知りおきを』
「覚えてなくていいからな」
『失礼なっ!今後もご贔屓にしてくださいね』
「こちらこそよろしくお願いします」
『めっちゃいい子じゃんっ!保にはもったいないね』
「…うるせぇ」
「先生とはどういうご関係ですか?」
『所謂幼馴染ってやつだよ』
「…腐れ縁で幼稚部から高等部までずっと同じクラスだった」
『んで、話を元に戻すけど、どういう指輪?』
「結婚指輪」
『了解。この中から基本となる土台を決めて』
「桃はどれがいい?」
「えっと………このシンプルな細身のやつで」
『お二人さん、指輪のサイズ分かる?』
「買ったことねぇから分からん」
「分からないです…」
『んじゃぁ、これでサイズ測ってね』
奨はリングサイズゲージを持って来た。
保と桃はそれぞれ測り、奨に伝える。
『次は一番大事なデザインのことね。それぞれ個別に聞くから』
「何で個別に聞くんですか?」
『その方がサプライズでしょ?』
「あっ…なるほど…」
『まずは保からね』
「おう。店の中でも覗いて、ちょっと待ってろ」
「はぁーい」
保と奨が店の奥に行ってデザインの打ち合わせをしている間、桃は言われた通り店の中を見て回っていた。
(あっ、このピアスかわいいなぁ)
(このピンキーリング、欲しいなぁ)
(どれもこれもかわいくて素敵だなぁ)
あれこれ見ていると、打ち合わせが終わった保と奨が出てきた。
『次は桃ちゃんね』
「はい」
「変な事されそうになったら叫べよ?」
『しないよっ!』
桃も打ち合わせに奨と共に店の奥へ行った。
その間、保は店の中を見ていた。
(あっ、絶対このピアス欲しいと思ったはずだな)
(このピンキーリングもかわいいとか思ったに違いない)
(ちゃんとした合格祝い渡せてなかったしプレゼントするか…)
気付くと桃と奨が奥から出てくるところだった。
「おい、奨」
『何?』
「これとこれ、包んでくれ」
『毎度。プレゼントだろ?』
「もちろん」
『了解』
こそこそと話す二人をよそに桃は一人店の中を見て歩いていた。
気付くと二人の話が終わっていて、何やら保はラッピングされた物を受け取っていた。
(何だろう?)
桃は気になったが、敢えて聞かずに保と一緒に店を出た。
店を出る時、奨が桃を呼んだ。
「何かお話ですか?」
『うん。大事な話』
「なんでしょう?」
『保って結構気難しい所あって面倒くさい奴だけど、いい奴だから、飽きずに一緒にいてやって』
「はい。もちろんです」
『それだけ。また時間あったら寄ってね』
「また寄らせてもらいます」
「何話してたんだ?」
「内緒だよ?」
(奨の野郎…後で覚えとけよ…)
保は憎まれ口をたたく奨だが、世界的に有名なアクセサリーデザイナーであった。
二人それぞれのデザインした指輪は結婚式当日まで奨の手によって秘密にされる。
指輪を送られる側もデザインした側もである。
それは双方へのサプライズという奨からの粋な計らいであった。
奨の店を出た時、まだ帰るには少し早い時間であった。
「どこか寄るか?」
「んー、海」
「本当に海好きなんだな」
「見てるだけで落ち着くからね」
いつも二人で行く海に向かった。
まだ三月。
さすがに風が冷たかった。
「冷えるからちゃんと着込んどけよ」
「はぁーい」
重装備な防寒で砂浜に下りる。
「桃」
保は桃を呼び、徐に先程奨の店で買った物を取り出した。
「ちゃんとした合格祝いあげれてなかったから、これ…」
「そんな………ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん」
(さっき受け取ってたのはこれだったんだ)
桃は自分のために保が選んでくれたことが嬉しかった。
中から出てきたのは桃が一人で待ってた時に気になっていたピアスとピンキーリングだった。
「どうして欲しい物分かったの?」
「なんとなく。いつもそんな感じのアクセサリーしてるだろ?」
「そうだけど、いつもしてるヤツとちょっと系統違くない?」
「それでも、きっと桃はこれ好きだろうなぁって思ってな」
「先生、ありがとう」
桃は保に抱きついた。
「すごい嬉しい」
「それならプレゼントした甲斐があったってもんだ」
二人はまだ寒い砂浜で熱く抱き合った。
あんまり砂浜にいると体の芯から冷えてしまうので早々に切り上げ、保は桃を家に送り届けるために車を走らせた。
桃を家の前で降ろすと、桃が助手席の窓をノックしてきた。
保は窓を開け、助手席側へ身を乗り出す。
「どうした?」
「忘れ物」
桃からの触れるだけのキス。
「それじゃ、またね」
それだけ言うと真っ赤な顔の桃は門の向こうへ行ってしまった。
保は驚いて動けずにいたが、しばらく経った頃に後ろから来た車にクラクションを鳴らされ、ようやく我に返り、自宅へ向かい始めた。
自宅のドアを閉めたところで、保の顔が真っ赤になった。
思い出すだけでもドキドキする。
まさか桃からキスしてもらえると思わなかった。
不意打ちすぎて、動揺が隠せない。
(あいつのいる時じゃなくてよかった…)
大人の余裕の欠片もない保は寝るまでずっと思い出しては顔を真っ赤にするのであった。
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