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初仕事
しおりを挟む僕とミニーは予定通りに叙任式に参加して、ミニーは途中で列席者に並び式は滞りなく進んでいた。
「では、ニース殿前へ」
玉座に座っている王が病身であるにも関わらず気丈に振る舞い、大きくしっかりとした声で僕を呼ぶ。
すると、楽隊がズォーーーンとならし、声楽隊がおおおおおおお、あああああああと声を合わせて盛り上げる。
僕は事前に指示された通りに席から立ち上がり前に進んで王の前に跪いた。
「我、国王マール・デ・カルドハルトは!この日この時より……グフ、このニースを伯爵に封じ……更にその功績から……この者を軍師として任命するものとする」
王と王子が僕に歩み寄り、王子が宝剣のデヴァイアンスを王に手渡すとそれを持って僕の両肩に剣を置き、最後に宣言した。
「王国守護の任に着くことを命じる」
「はい喜んでお受け致します」
答えると王は剣をどけて王子に手渡す。
「立ち上がるが良い」
「はい」
僕が立ち上がると王子が僕の胸に、軍師を表すバッジを着けて言う。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
そこで盛大な拍手が巻き起こり式が幕を閉じるが、王は玉座に戻る体力がなく近衛に介護されて車椅子で謁見の間から退出していった。
「始まるぞ」
僕が小声で言うと王子が「え?」と訊き返したが直ぐに意味を理解して近衛に目配せする。
アサシンのフェラルドは厳重な警戒を突破して、死の影のように会場に潜入していたのだが、僕には判っていた。
ただ、王が叙任式を終わらせて安心してもらうという最大目標の為に敢えて自由にさせておいたのだ。
叙任式の真っ最中に特攻したりはしないはずだ……という読みは当たり、式が終わった直後に扇動を始めた。
パチパチパチパチ
叙任式が終わったあとに1人の男が拍手をして注目を浴びている。
「やぁやぁこれはこれは!ニース君、本日はおめでとう!私を覚えているだろうか?」
フェラルドは旧知の友人であるかのように振る舞い、大きな声で言いながら僕と王子の所に向かってくる。
「フェラルド卿、お久しぶりです」
僕は敢えて彼の演技に乗ってやった。
するとフェラルドは少し意外と言う顔になり、眉をひそめてから再度芝居を続ける。
「王子、お久しぶりです」
フェラルドはそういうと王子に深く会釈をして王子への接近の許可を求めた。
「良い、フェラルド久しいな」
王子とフェラルドは年齢が近く、それだけに以前から友人のように振舞っていたのだろう。
だが、僕が軍師になることが発覚してついに本国から暗殺指令がでた、という事が透けて見える。
「はは~、本日は誠に王国の明るい未来を示すかのような素晴らしい式典でありました!」
なんとも芝居がかっていたが、それは単なる時間稼ぎであることが僕には判っている。
そろそろ、城門を突破して侵入してきたフォルフェン伯の内乱部隊がこの宮廷に突撃してくるタイミングであった。
「3」
僕が言うと王子がニヤリとしてフェラルドがポカンとした。
「2」
「はは、それは何の事でしょう?」
「1」
ガチャン!僕のカウントダウンのタイミングで謁見の間の大きな扉が突然開き重武装した部隊が突撃してきた。
「きゃぁああ」
「なんだお前達は!」
「何事だ?」
すると入り口付近の貴族たちが叫びながら脇に逃げ、武装した兵士がまっすぐに王子の所に突撃してくる。
パチン!
「やれ」
王子が指を鳴らして命令すると周囲に居た近衛が一斉にファントムグラブから巨人の手を出し、突撃してきた兵士を殴りつける。
ドドン!バンバン!バシーン!
会場は混乱に陥ったがそれもあっという間に終わる。
数秒後には徹底的にぶちのめされた突撃兵数百人がフロアに倒れている。
「チィ!」
それを見たフェラルドは舌打ちをして、隠しもっていた小刀で王子に躍りかかった。
ヒュン、シュン……
王子はフェラルドの必殺の暗殺技を紙一重で何度もかわし続ける。
「なに!」
ドボ!
それでフェラルドが異常に気が付くが、今度は逆に王子に殴られて一撃で気絶してしまった。
真の最終防衛ラインは神威の衣を着こんだ王子自身であったのだ。
「お見事」
「ははは愉快愉快」
僕が褒めると、王子はその惨状に似つかわしくない笑顔で笑いながら言った。
それは、ほぼすべて僕が王子に予言した通りに事件が起こり、そして解決していた。
近衛がやってきてフェラルドを縛り上げて連行していく。
すると、遅れて会場に入って来た王都防衛隊が会場の惨状を見て王子を呼んでいたが、逆に王子に命令されて、そこに転がっている瀕死の反乱軍の兵を担いで会場を片付けた。
「はい、皆さんお静かに」
王子が大きな声で言うと、ざわついていた会場が静かになる。
「これは帝国によって懐柔されたフォルフェン伯とフェラルドによる騒動だ、だが私はこの通り無事であるぞ!」
そこで会場の貴族たちから一斉に拍手が巻き起こる。
王子が手を高く上げてその拍手を制止させる。
「そして、今回のこの騒動を予見し、無事に乗り越えられたのはこのニースのお陰であるのだ」
「おおおお」
「なんと」
「そんなまさか」
「素晴らしい」
王子の言葉に会場からどよめきと驚嘆の声が響く。
「私は、初仕事を成功させたニースに拍手と褒美を送るぞ」
パチパチパチパチ……
パチパチパチパチパチ!パチパチパチパチパチ!
パチパチパチパチパチ!パチパチパチパチパチ!
王子がそう言いながら拍手をすると、会場の貴族達も王子に続いて拍手をし、僕に賞賛の言葉を掛けた。
「流石軍師様」
「これで王国も安泰であるな!」
王子の賞賛により、僕は予定よりも多く持ち上げられてしまい、少し照れていた。
「ありがとう、ありがとう……」
そう言って周りに手を振って拍手と賞賛に応えた。
その中には美しく着飾ったミニーの姿もみえた。
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