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番外編
欲しくて食べたくて【転勤編】4
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「いらっしゃいませー」
無事にファミレスの面接に合格し、今日から勤務開始である。最初なのでおっかなびっくり働いていたけど、社員さんはもちろん、先輩パートさんもみんな優しくてとりあえずはホッとする。わからないことがあれば聞けば教えてくれるし、誰かしらフォローについてくれるのでありがたい。まぁこんなにつきっきりなのは初日くらいだろうけど。とはいえ、いきなり放置または実戦に単身で挑ませるようなことはなさそうで安心した。
「神野さん」
「はい」
「休憩、交代するから昼食とってきて」
「わかりました、ありがとうございます」
休憩室に入ってまかないランチを頼む。出てきたのは通常メニューとなんの遜色ないご飯だ。ファミレスを選んで良かったな、と思えるのはこれ、まかないがついてくることだ。弁当を作る手間も省けて格安で美味しいものが食べられる。カロリーなんか気にしたら負けだ。ということでまかないにありつく。
「神野さんって、フリーター?」
「あ、えっと、一応主婦やってます」
「へぇ!結婚してるんだ」
同じ休憩室に入って話しかけてくるのは、キッチン担当の間宮葉一くん。先程自己紹介されたのだが、彼はバンドマンをしてるフリーターらしい。
「いいね、人妻って」
「そうですか?」
「今いくつ?」
「28ですけど」
「うっわ、4つ上?見えない!」
褒められてるのか貶されてるのか。なんかグイグイくるタイプだなーと思いながらまかないを食べる。うん、やっぱり美味しい。今回はパスタにしたけど、今度はドリアにしよう。
「ねぇー、そうやって自分の世界入らないで聞いてくださーい」
「聞いてますよ」
「神野さんって結構対応塩?」
「そんなことないと思いますけど」
他に休憩の人がいないから、とりあえず食べ終わるまで彼の話を適当に聞き流して適当に相槌を打つことにした。
「旦那さん、どんな感じ?」
「どんな、って言われても普通のサラリーマンですよ」
(嘘。本当はとんでもないハイスペックイケメンです)
だが敢えてその辺はスルーする。
「何で働き始めたの?」
「家にいても一銭にもならないので」
「へぇ!結構シビアな感じなんだねー」
そこから間宮くんの元カノの話が延々と始まる。元カノがちゃんとバイト行けと煩いだの、ゲームの課金をするなだの、家いるなら片付けしろだの言ってきて煩いから新彼女に乗り換えた、とのことだが、私からしたら彼女は正論以外何も言ってないと思う。というか、結構なクズだな、間宮くん。
「お金折半ならわかるけど、彼女は多く出してたんでしょ?だったらその分間宮くんが家事しなきゃじゃない?」
「えー、女の子がやったほうが綺麗になるし、すぐ片付くじゃん!」
「いやいや、そもそも何事もやらなきゃ成長しないでしょ」
ちょっと説教じみてしまったかな、と思いつつもなんとなく真面目に答えてしまう。初対面でこんな話して大丈夫だろうか、と話しながら少々心配になってくる。
「ほら、バンドやってるんでしょ?バンドだって最初からいい音出ないじゃん。だからいっぱい練習していっぱい歌ったり書いたりしていい曲作るんでしょ?それにさ、曲作るなら何事も経験した方がいいよ!私の好きなバンドはトイレ掃除のつらさとか歌にしてたし」
「そのバンドってもしかして果汁99.9%の『トイレは座ってしやがれ』?」
「そうそれ!え、知ってるの?!」
「寧ろ神野さんが知ってることのが意外なんだけど!ウケるー!!マジか、あれ結構マイナーだよね?しかもめっちゃロックっていうかヘビメタだよね?」
まさか食いつかれると思わず、ちょっとびっくりする。バンドマンといえどもだいぶマイナーなバンドだから知ってるとは思わず、話題にしたはいいが想定外の反応で戸惑う。いや、マイナーとはいえCDは出してるんだからそういう動揺はファンとしてダメなのだろうが。
「楽曲全体的に面白いし、なんかメンバーの生き様が全部詰まってる感じが面白いよねー!」
「あ、わかる?そうなのよ!生き様が全部音楽に詰まってて、あのバンドはもっと評価されてもいいと思うんだよね」
「あーわかる!今まだ埋もれてるけど、世に出たら化けるパターンだと思うんだよ、俺」
「うんうん、そう、そうなの!知り合いにレーベルとか事務所とか勤務の人がいないのが残念なくらい!!」
初めて同志ができてつい興奮してしまう。分かり合えるってすごい!そしてこんなに身近に同志がいるなんて!!
「この前の公演行った?」
「行った行った!結構他のロックも聞くけど、果汁のだけは外さないようにしてる!とはいえ、こっちに越してからはどうなるかわからないけど」
「そうなん?元々こっちの人じゃないんだ」
「うん、旦那の転勤でこっちに来たばかりで」
「へぇ!そうなんだ」
それからも話は盛り上がり、休憩中ずっと果汁99.9%のことについて話し込んでいた。久々に気分が浮上し、心が軽い。間宮くんのおかげで、ここのところの嫌な気持ちを少し払拭できた気がした。
無事にファミレスの面接に合格し、今日から勤務開始である。最初なのでおっかなびっくり働いていたけど、社員さんはもちろん、先輩パートさんもみんな優しくてとりあえずはホッとする。わからないことがあれば聞けば教えてくれるし、誰かしらフォローについてくれるのでありがたい。まぁこんなにつきっきりなのは初日くらいだろうけど。とはいえ、いきなり放置または実戦に単身で挑ませるようなことはなさそうで安心した。
「神野さん」
「はい」
「休憩、交代するから昼食とってきて」
「わかりました、ありがとうございます」
休憩室に入ってまかないランチを頼む。出てきたのは通常メニューとなんの遜色ないご飯だ。ファミレスを選んで良かったな、と思えるのはこれ、まかないがついてくることだ。弁当を作る手間も省けて格安で美味しいものが食べられる。カロリーなんか気にしたら負けだ。ということでまかないにありつく。
「神野さんって、フリーター?」
「あ、えっと、一応主婦やってます」
「へぇ!結婚してるんだ」
同じ休憩室に入って話しかけてくるのは、キッチン担当の間宮葉一くん。先程自己紹介されたのだが、彼はバンドマンをしてるフリーターらしい。
「いいね、人妻って」
「そうですか?」
「今いくつ?」
「28ですけど」
「うっわ、4つ上?見えない!」
褒められてるのか貶されてるのか。なんかグイグイくるタイプだなーと思いながらまかないを食べる。うん、やっぱり美味しい。今回はパスタにしたけど、今度はドリアにしよう。
「ねぇー、そうやって自分の世界入らないで聞いてくださーい」
「聞いてますよ」
「神野さんって結構対応塩?」
「そんなことないと思いますけど」
他に休憩の人がいないから、とりあえず食べ終わるまで彼の話を適当に聞き流して適当に相槌を打つことにした。
「旦那さん、どんな感じ?」
「どんな、って言われても普通のサラリーマンですよ」
(嘘。本当はとんでもないハイスペックイケメンです)
だが敢えてその辺はスルーする。
「何で働き始めたの?」
「家にいても一銭にもならないので」
「へぇ!結構シビアな感じなんだねー」
そこから間宮くんの元カノの話が延々と始まる。元カノがちゃんとバイト行けと煩いだの、ゲームの課金をするなだの、家いるなら片付けしろだの言ってきて煩いから新彼女に乗り換えた、とのことだが、私からしたら彼女は正論以外何も言ってないと思う。というか、結構なクズだな、間宮くん。
「お金折半ならわかるけど、彼女は多く出してたんでしょ?だったらその分間宮くんが家事しなきゃじゃない?」
「えー、女の子がやったほうが綺麗になるし、すぐ片付くじゃん!」
「いやいや、そもそも何事もやらなきゃ成長しないでしょ」
ちょっと説教じみてしまったかな、と思いつつもなんとなく真面目に答えてしまう。初対面でこんな話して大丈夫だろうか、と話しながら少々心配になってくる。
「ほら、バンドやってるんでしょ?バンドだって最初からいい音出ないじゃん。だからいっぱい練習していっぱい歌ったり書いたりしていい曲作るんでしょ?それにさ、曲作るなら何事も経験した方がいいよ!私の好きなバンドはトイレ掃除のつらさとか歌にしてたし」
「そのバンドってもしかして果汁99.9%の『トイレは座ってしやがれ』?」
「そうそれ!え、知ってるの?!」
「寧ろ神野さんが知ってることのが意外なんだけど!ウケるー!!マジか、あれ結構マイナーだよね?しかもめっちゃロックっていうかヘビメタだよね?」
まさか食いつかれると思わず、ちょっとびっくりする。バンドマンといえどもだいぶマイナーなバンドだから知ってるとは思わず、話題にしたはいいが想定外の反応で戸惑う。いや、マイナーとはいえCDは出してるんだからそういう動揺はファンとしてダメなのだろうが。
「楽曲全体的に面白いし、なんかメンバーの生き様が全部詰まってる感じが面白いよねー!」
「あ、わかる?そうなのよ!生き様が全部音楽に詰まってて、あのバンドはもっと評価されてもいいと思うんだよね」
「あーわかる!今まだ埋もれてるけど、世に出たら化けるパターンだと思うんだよ、俺」
「うんうん、そう、そうなの!知り合いにレーベルとか事務所とか勤務の人がいないのが残念なくらい!!」
初めて同志ができてつい興奮してしまう。分かり合えるってすごい!そしてこんなに身近に同志がいるなんて!!
「この前の公演行った?」
「行った行った!結構他のロックも聞くけど、果汁のだけは外さないようにしてる!とはいえ、こっちに越してからはどうなるかわからないけど」
「そうなん?元々こっちの人じゃないんだ」
「うん、旦那の転勤でこっちに来たばかりで」
「へぇ!そうなんだ」
それからも話は盛り上がり、休憩中ずっと果汁99.9%のことについて話し込んでいた。久々に気分が浮上し、心が軽い。間宮くんのおかげで、ここのところの嫌な気持ちを少し払拭できた気がした。
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